第10話 真のエース

「ちッ、嫌なことを思い出させてくれるぜ………」


 神崎の最後のシュートは大きな意味を与える。


 それは城ヶ崎高校だけではない。


 斎賀高校にとっても同じだ。


「だが、個人の力が及ばないからといって『公式のゴミバスケ』みたいなことはしないけどな………」


 公式のゴミバスケとは、公式の選手が相手に勝てなくなるとトラベリングを無視して10歩も歩き出すこと、審判はそれを見て見ぬフリをする。


「その通りさ………だから、僕らは『クリスタルトロフィーを砕く』ことができたんだ。『本当のバスケ』をするために!!」


 上杉と桜井が覚悟を決めれば氷川が言う。


「『個人』で勝てなくても『チーム』で勝てばいい!!」


 最終クォーターは城ヶ崎高校から先攻となる。


 10分しかないため20点差を埋めるとなると1点も取られたくはない。


 早い段階で神崎の『シャムゴッド』を止めたい。


「俺にやらせてくれ………」


 上杉が名乗り出れば氷川が言う。


「神崎を止めたとしても更に上を行くかも知れない。だが、それでも戦うしか無い。頼んだぞ?」


 確かに『これ以上』のものを見せられてしまえば斎賀高校に次の手を打つ時間はない。


 だが、この作品は敵が覚醒していく。


 本当にこれ以上がないものなのだろうか点点点


「終わりだ………斎賀高校!!」


 神崎がボールを持てば上杉がマークしてくる。


 上杉は計算している。


 今の神崎の体力ならスピードは十二分に間に合う。


「来い………止めてやるよ………」


 桜井のバスケはパワープレイだけだった。


 しかし、その圧倒的なパワーは誰にも止められない。


 それが桜井の長所であり、短所でもある。


 だが、伝説の戦いでは、圧倒的な桜井のパワープレイを技術で止めたものが居る。


「な、何ということでしょう!? 上杉選手、神崎選手の『シャムゴッド』を止めてしまいました!!」


 神崎のシャムゴッドは『3方向』に『残像』が走ってくる。


 上杉は何も考えずに『左』に走る残像を追いかける。


 それが残像だと解れば流れに乗ったままくるりとターンして『右』に流れた残像の前に立ったのだ。


 『正面』を走ってくる残像は『無視』する。


 すると『本物』の神崎の『前』に立てるのだ。


「オフェンス!! チャージング!!」


 神崎は3つ目のファールを取られてしまう。


 ファールは個人で5回ファールしてしまうと退場となる。


「ナイスだ上杉!!」


 だが、城ヶ崎高校は慌てたりしない。


 なぜなら、城ヶ崎高校は20点も有利を取っている。


「俺が氷川を抑える!! 他の2人は任せたぞ!!」


 神崎が氷川をマークする。


 例えそうだとしてもここは氷川で攻める。


 それは神崎の体力を奪うためだ。


 神崎が居なくなれば第1クォーターで斎賀高校は城ヶ崎高校を無得点に抑えて4分で18点も奪ったチーム。


 氷川がスピードに任せてドライブインをする。


 必至に追いかけるが神崎の体が付いて来ない。


「くッ!!?」


 体力の限界だ。


 神崎の顔が青ざめてしまう。


 それは悪い意味ではない。


 城ヶ崎高校の選手が氷川を待ち伏せていたのだ。


『バーーン』


 弾かれるボールの音、それと同時に神崎の方にボールが飛ぶ。


「神崎さん!! お願いします!!」


 そう言われると神崎がボールを拾ってシュートを決める。


 22点差、チームとなって戦っているのは斎賀高校だけではない。


「ナイスカットだ!! このまま勝つぞ!!」


 あの異常な体力を持った氷川も神崎との攻防には『限界』が近いのだろう。


「最悪だな………」


 あの氷川が他の選手にやられた。


 神崎との攻防は予想以上に氷川の体力も削り取っている。


「『何』か『忘れてる』んじゃないのか、斎賀高校!!」


 そう、それは『人数不足』だ。


 斎賀高校は3人しか居ない。


 それに比べて、城ヶ崎高校は控え選手がいる。


 絶望、しかし、上杉の表情だけが違う表情をしていた。


 点差が広げられたというのに、そんな深刻そうな顔をしていない上杉に神崎は疑問に思う。


 そこらの選手ならなんのプレッシャーも無いだろう。


 だが、神崎という最強の選手が精神的にダメージを受け始める。


「何もなければいいのだが………いや、あの上杉のことだ………何かあるに違いない………」


 そう、上杉にはまだ『奥の手』が残されていた。


 点差は開いたがなんだかんだで氷川の驚異的体力が影響を与え始める。


「し、信じられません!! これが元最強のスタミナなのでしょうか!!? 息を乱していますがそのスピードは全く衰えません!!」


 それでも神崎の技術力には頭が下がる。


「それなのに一体なぜ神崎選手は氷川選手からボールを奪うことができるのか!!?」


 もうクリスタルレジェンズの中では一番遅い神崎だが、そんな状態でも氷川を何度か止めてくる。


 その上にボールを持てば必ず点を奪い取ってくるのだ。


「クッ!!? 桜井!!」


 氷川が桜井にパスをする。


 桜井はそれを受け取るもその場から動こうとしない。


 いや、動けないのだ。


 無理もない。


 3対5のバスケをフルクォーター出ているのだ。


 疲れないわけがない。


「桜井!! 適当に投げろ!! 『8秒バイオレーション』を取られるぞ!!」


 8秒バイオレーションとは、先手側がボールをもってハーフラインを8秒以内に超えなければならない。


 桜井がボールを投げれば落下地点には氷川と神崎がいる。


 ポジション争いをしているが体力を失った神崎が氷川に力勝負で敵うはずがない。


 しかし、神崎は最強のレジェンズ、相手の力をまるで自分のもののようにして操り、氷川からポジションを奪う。


「体力がないのになんてやつだ!!」


 だが、ボールをキャッチしようとはしなかった。


 城ヶ崎高校の『人数』は斎賀高校よりも多い。


 神崎は氷川を抑えたまま動かない。


 城ヶ崎高校の選手が取ってくれるのを待つだけ、そして神崎がパスを貰う。


 氷川が慌てて神崎を追いかけると神崎はここでまさかのパスをする。


 意外なパスに氷川の反応が遅れる。


 これにより城ヶ崎高校はフリーの選手がシュートを打てる。


 入っても入らなくてもいい。


 時間を稼げればそれでいい。


 だが、神崎がボールを任せる選手だ。


 下手な訳がない。


「ここで3Pシュートが決まった~~~!! 強いぞ城ヶ崎高校!!」


 桜井の足が止まる。


 それと同時に、とうとう神崎の足も止まってしまった。


 こうなってしまうと氷川が止まらない。


「なんてことだ!! ここに来て神崎選手の体力切れ!! 25点差がみるみるうちに縮まっていきます!!」


 それでも神崎はチームを信じてパスを出す。


 得点を少しでも伸ばすようにと、だが、この斎賀高校がそれをずっと許すはずがない。


 上杉がパスコースを狙っている。


 誰にも悟られないように………


 上杉に取っては『最後の秘策』だろう。


 ここでパスを奪い取れば斎賀高校の勝ち。


 時間も残り4分6点差、上杉の計算ではここのパスカットで点を奪い返し4分4点差というシナリオがあったのだ。


 だが、『真のエース』とはチームが勝つために戦う。


 神崎が何かを感じ取っていたのは技術だけの選手ではないからだ。


「もらった~~~!!」


 上杉が神崎のパスをカットする。


 しかし、神崎はパスをしていない。


 ドライブで氷川を抜き去ったのだ。


 それだけではない。


 ドライブのスピードもここに来て本物だ。


 神崎は最後の力を振り絞る。


「なんと!!? 神崎選手、上杉選手のパスカットを読んでいた!! そのままゴール!! 残り時間は4分を切って3分8点差!! 勝負は決まったでしょう!!」


 斎賀高校に取っては絶望のゴールだ。


 4分で8点を返すことなど奇跡でも怒らない限り不可能だ。


 だが、斎賀高校がハーフラインを超えてパス回しをした時、最後の力を振り絞って神崎がボールを奪い取ったのだ。


「こ、これが『城ヶ崎高校のエース』だ!! ここでボールを奪い取る。それは詰まり、城ヶ崎高校の勝利というわけです!! やりきりました!! 神崎選手はやはり最強です!!」


 残り時間3分で8点差、そして、ボールが奪われる。


 24秒をキープするだけで城ヶ崎高校の勝ちは確定してしまった。


 斎賀高校の勝機は完全に絶たれてしまう。

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