やさしさ

他人の言葉を借りて話せば、ちょっと偉くなった気分になる。

 他人の言葉を借りて話すと、自分がどこか遠い場所にいるかのよう


 偉い人の言葉を借りれば私は人より強くなれる


 顔に張り付いた他人の皮が剥がせなくて、いつの間にか私になっていた


 私がいつの間にか私では無くなっていた


 言葉が口から出る程に私の心の中にある言葉は海の中へと沈んでいく


 沈み、沈み、しずみ


 どんどん見えなくなっていく


 「あの人はこう言っていた」としか言えなくなった。


 私は言葉を失った


 見失ってしまった


 探せど探せど暗すぎて見えない


 触ることすらも敵わない


 「お前はどう感じてんだ」の言葉に思わず戸惑う


 私?


 わたしは……


 探す


 私は私を探す


 ちょこん、と指先に何かが触れる


 けど、形も分からないし何も見えない


 これは一体なんだろう……?


 触れようと試みる


 指先から手の平へ


 四角の形をしている


 それ以外は分からない


 え?

 温度?


 うーん

 少し温かいかもしれない


 暗闇だった物が少しずつ輪郭を帯びてくる


 ふわふわしていて


 暖かくて


 丸くて


 柔らかい


 あと、しろい


 うさぎのしっぽみたいなかんじ


 あ、そっか


 これが優しさというものなのか


 これが私の「優しさ」の形、暖かさ、柔らかさ


 これが私の「優しさ」

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道草みたいな日常を車窓から眺めるような 阿賀沢 隼尾 @okhamu

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