眠れない夜

 ベッドの中で重たくなる気配の無い目を開け、枕元のスマホを見る。時計の針は午前1時半を少し回ったところだった。明日も6時起きだと言うのに一向に寝られる気がせず、寝返りを繰り返していたのだが、いっその事寝ることを諦めてやろうかという気分になってきた。寝れないことにストレスを感じるよりも、むしろ夜更かしをしてでも気分転換を図った方が良いと何かの記事で見たことがある。

 布団から這い出し、タンブラーに水道水を注いで飲み干す。2時間ぶりの水分が口腔内を潤し、食道に充足感を与えた。生ぬるいカルキの匂いを味わいつつ、ベランダにタバコを持って出た。スリッパ履の素足に11月の冷たさを感じる。ラッキーストライクに火をつけ、空を見上げた。田舎の冬空は星がよく見えるが、あいにくの曇り空でろくに星座も分からない。昔は星が好きだった。望遠鏡を持っている程では無かったが、天体についての本を親にせがんで買ってもらったこともあるし、夜空を見上げて星座を探す事も好きな子どもだった。

 いつからだろうか、目に映るものに興味を持たなくなったのは。好奇心を旺盛に持ち、様々な情報にかぶりつくように脳みその飢えを満たしていた幼少期が確かに自分にもあった。暗くなるまで友人と自転車で学区外まで走り、見たことの無い景色を見ることや後部座席でしか見た事のない場所まで行くことが好きだった頃が確かにあったのだ。今となっては好きだったはずの夜空に、自分の吐いた煙で霞をかけている。と、言うかそもそも夜空を見上げた事すら久方ぶりな気がしていた。美しいものや、不思議なものに目を向けることをやめ、小さな自分の部屋に閉じこもり既に見飽きた景色しか網膜に映さなくなってしまっていたのだ。

 タバコの灰を落とし、また煙を口に含む。まだまだ眠る気にはならない。夜の冷気にあてられ、身が締まる。ふと思い立ち、タバコを消して部屋に戻り、上着を羽織る。酒を飲まなくてよかった。車の鍵を取り、玄関を出る。車に乗り、エンジンをかける。タバコに火をつけ、走り出した。行く宛ては決めていないし、帰る時間も決めていない。なんとなく外との繋がりも断ちたいという思いから、手に取りかけたスマホも置いてきた。暗い田舎道を走り、少年の頃のような高揚感を覚える。こんな夜も悪くない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る