第25話「会った人達を、おさらいします」です
ミモザさんを扉の外に押し退けて、一先ずとして必要なものは揃った。
後は隙を見て、この部屋から抜け出すだけだ。
「このサイズなら、ポシェットに全部入るかな?」
一本の蝋燭と取手のついた燭台、そしてマッチ箱が一つ。
ポシェットを開くと、中からは司祭様のカツラの一部が見える。
いっそどこかに置いておいてしまおうか。
「いやいや、さすがにそれはマズイよね」
カツラなんて高価なもの、捨てる訳にもいかない。やはり司祭様に返すべきだと思いを改める。
ポシェットの中に入ったカツラの上から蝋燭グッズを押し込んで、何とか口を閉める。
「よし、とりあえずしばらく待機していよう」
すぐに部屋を出ると、ミモザさんに出会してしまう可能性がある。
出来るだけ無駄な接触を断つために、夜が更けるのを待つ事にしよう。
魔法のランプにゆっくり触れると、あっという間に部屋の中は真っ暗になった。
暗い部屋をフラつきながら歩いて、ベッドへと倒れ込む。
「うー、疲れた」
それでも眠れる訳はない。状況的にではなく、気持ち的にだ。
身体や脳は興奮しきっていて、頬だって熱いままな気配さえする。
あんな魔法を私が――。
いけない。そんな事を考えてしまうと、思考を正常に保てなくなってしまう。
こんな時には、そうだ。
「会った人達を、おさらいします」
〜〜
その一、ソレイユ様。聖女候補生兼、王宮騎士団長って言ったっけ。
緋色の髪色で、肩ぐらいまである髪の片方を結った髪型。
くっきりとした目で、王妃様も言うとおり愛らしい顔をしている。
年は私と同じくらいかな。
身長は私より少し低め。言葉遣いがちょっと乱暴で、性格も乱暴そう。
でもきっと、優しい方何だと思う。素直じゃないだけで。
橙色の暖かい魔法で、身体の能力を高めたりする魔法を使っていた。
その二、ヴィオラ様。聖女候補生兼、王宮医師って言ってたっけ。
菫色の髪を後に束ねていて、医師らしく白衣みたいな格好をされていた。
年齢は私より上だと思うけど、口調程に年齢を重ねている訳ではないはず。
肌も綺麗でまつ毛もすらっと伸びていて、身長もそこそこにあって、女性が憧れる容姿を持ち合わせている。
揺れるようなウェーブがかった髪も、大人っぽさを醸し出す。
研究熱心で色々な事に興味津々なお方何だと思う。
少し怖さも感じたけど、お医者様に悪い人は居ないからきっと良い人。
聖女候補生ということは魔法を使えるのだと思うけど、まだその魔法は見ておらず。
その三、シルヴァディア=アルクアンシエル様。このシルヴァディア王国の王妃様であり、大聖女様。
修道女のケープとドレスを組み合わせたようなお召し物を羽織われていて、いつもレースで目線を隠すフードをすっぽりと被っているものだから、お顔は拝見出来ていない。
妖艶な唇で飄々と言葉を並べられると、そのまま王妃様のペースにされてしまう。
まぁ相手は王妃様だから当たり前なのだけれど。
私やソレイユ様を試すような口振りをしたり、急に褒めてみたり、得体が知れないお方。
そして私の魔法の詠唱を聞いた事がある唯一の人。このまま弱味を握られて、私はどうなってしまうのでしょうか。
その四、ミモザさん。よく分からない給仕長さん。
品のある茶色のワンピースの色と落ち着いた口調、それに対して丁寧に編み込まれた金色の髪を装飾するリボン、エプロンの可愛らしいフリルが対照的で、独特な雰囲気を醸し出している。
給仕係にあるまじき言動を何度か聞いた気がするけれど、仕事は早い。早すぎる。
その理由は、時間を操作する魔法によるもの。
もっとも、本人は魔法を使っていると認めはしなかったけど。
でも舌打ちする人は総じて怖いです。
その五、王様。
茶色の髪と髭、私の想像の上の王様そのものというお方だった。
私の名前も、魔法も、可笑しいと笑った。
まぁ、当たり前か。それが一般的な反応だと思う。
私の名前や魔法を聞いて笑わない人なんて――。
いけない、最後に王様を思い出したのは失敗だった。
このままでは『恥ずかし殺し』を発動してしまうことになる。
まだミモザさんが外に待機している可能性があるので、変な声は出さないようにしよう。
えっと、その六、クロ――じゃなくて、オリーブ、くん。
結果として私をこんな状況に追い込んだ黒幕――じゃなくて、黒猫。性別は不明。
緑色のスカーフを首に巻いている王妃様の飼い猫。
私達のピンチを王妃様に伝えに行くだとか、どうやら頭が良いらしい。
クロみたいに肉球をふにふにさせてくれる子だったら、今度お願いしてみよう。
今日を振り返ることで時間が経つのを待ちながら、私はクロの事を思い返していた。
ところが、ベッドの沈み心地が良くて。相性ばっちりで。
私は微睡む。少しだけ寝てしまおうかなと、欠伸をした。
どうせ、夜は、長いのだから。
少しくらい、ね。
誰かの事を、忘れている気がしたけれど、まぁいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます