第143話 ギルマスからの依頼
「さて、済まなかったね。本来ならちゃんとした手順でこちらに来てもらう予定だったんだが……」
「本当ですよ、ギルドマスター。ちゃんと手順を踏んでもらわないと、下の者も迷惑を被るんですから」
「うん、ホント済まないイーリアくん」
ギルドマスターの部屋で、豪華な机に案内された僕とルヴィアはギルド職員が用意したお茶を飲みながら、ギルドマスターであるクライスの話を待つことになった。
そして、クライスはイーリアを連れて僕らの前に座る。
そういえばレイドイベントの時のインフォメーションでサブギルドマスター補佐とか言ってたような気がする。
補佐とはいえ、サブギルドマスターだとするとギルドの中でもそれなりに偉い立場となるのだろうか。
どうやら、今回はそのサブギルドマスター補佐という立場に関わる話みたいだ。
「それで、僕らに依頼があるっていう話でしたけど……」
「あぁ、そうだな。私からの依頼というのは、リーシャ村に関する話だ」
ここで先日の邪竜討伐の舞台となったリーシャ村の話が出てくる。確か砦の影響で冒険者ギルドが街の開発を請け負っているっていう話だったような気がする。
「リーシャ村にギルド出張所を建てる話は既に知っているだろう?」
「えぇ。あの時、職員さんが言ってましたからね」
「そのギルド出張所の職員は基本的に近隣のギルドから派遣することになっているのだが、今回はそれに加えて村の開発も引き受けることになっていて、そうなるとこのギルドだけでは人数が足りなくてな。本来ならすぐにでもセカンダの街から応援を呼ぶ必要があるのだが、君にはこのイーリアを連れてセカンダの街に向かってもらいたいんだ」
その依頼は、イーリアを連れてセカンダの街に向かうというものであった。さっきは君付けで読んでいたイーリアを公式な場ではちゃんと呼び捨てで言う辺り、しっかりした代表のようだ。
どうやら僕がログインできなかった間に街道の方は通れるようになったらしいが、その際のゴタゴタで向こうの冒険者ギルドとの連絡がうまく行かなくなってしまい、その為直接話をしに向かわなければならないという事態になったらしい。
ギルド職員が死んだ目をしてたのは出張所のために人員を向こうへと送ったからだったらしい。心中お察しします……。
「えぇっと……それ、僕以外にも頼める人とか居たんじゃないですか? それこそギルド職員とか……」
「流石に今のファスタのギルドに伝令に行かせられる余裕の職員は居なくてな。それに職員の要請にはサブギルドマスター以上の権限を持ってないと受け付けてくれないんだ」
どうやらギルドにも色々と複雑な決まりがあるようで、自由に動き回れるのは限られた職員しか居ないらしい。
一応、ちゃんと休みは取ってもらっているとクライスは言っていが、果たしてそれが正しいのかは……この状況を見ると疑問である。
「私は受付嬢ではあるけど、一応サブギルドマスター補佐としての権限を持つから頼まれたという訳よ」
「それに先日の貢献者たちの多くは、どうやら既にこの街から出ているようでね……。そんな中、特に優秀な貢献者であるリュート君が今日来てくれたのは、本当に奇跡としか言いようがないよ」
やや虚ろになった目で僕を見つめてくるクライス。本当に切羽詰まった状況だったようだ。
しかしその話だと、ウルカやセインたちはセカンダの街に向かって旅立ったということでもうこの街に居ないということか。
ギルドも直接本人に会いに行って頼めるならそうするのだろうが、流石に向かうにも人手が居ない上に、ちゃんと依頼という形にするにはギルドで手続きする必要があるらしく、こうして対象者が来るのを待つしか無かったようだ。
「君にはここからセカンダの街、そしてリーシャ村に向かうまでのイーリアと職員の護衛をお願いしたい。報酬は少ないが10000ドラドと、ギルドが前回の邪竜討伐の目録として用意していた希少なアビリティスクロールの中から1つ選んで貰って渡すという形でお願いしたい」
「アビリティスクロール……!」
アビリティスクロールというのは、使用することでそのアイテムで指定されているアビリティをアビリティポイントの消費なしで習得することが出来るアイテムとなる。
本来アビリティを習得するには、特定のイベントが起きていたり、条件を満たしている必要があるのだが、このアイテムの場合はそのような条件を無視して習得可能となる。
ステータス的に習得できなかったアビリティなども見つけさえすればこれで習得可能になるというわけだ。
掲示板の情報によれば普通のアビリティスクロールは特定のNPCのショップで売られているらしいが、結構高価な上に肝心のアビリティがあまり実用性のないものが多いらしい。
実用性のあるアビリティのほとんどは『希少なアビリティスクロール』という名前のアビリティスクロールにのみ記されているようで、それらはランダム出現のダンジョンの踏破報酬などでたまに入手可能なのだとか。
確か今回の目録の中にも、そんな希少なタイプのアビリティスクロールが含まれてはいるが、確か松竹梅の中では松だけが選択可能となっている。
戦闘技能、生産技能、特殊技能のどれにするかを選んだ上で、予め開示されている物の中からランダムで提起となっているようだ。
そう考えると、普通に選べるというだけでかなり破格な報酬なのではないだろうか。
「それで、受けてくれるかい?」
改めて問いかけてくるクライス。これは受けないという選択肢はほぼ無いと言っても過言ではない。
セカンダの街にはいずれ向かわなくてはならないと思っていたところに、護衛という条件はついてくるもののそこに向かうだけで実質目録が1つ追加で貰えるというのはかなりの儲けものだ。
一応、第2の街に向かうまでの制限時間はゲーム内で夜になるまでということなので、そう考えるとすぐにでも街を出て向かった方が良さそうだ。
ただ、護衛依頼ではあるので最低限パーティーを組んでないと大変そうだ。
「分かりました。それって、パーティーでも大丈夫なんですか?」
「それは可能だが、今回の報酬は君にしか渡せない。なので、パーティーメンバーに対してどのようにするのかは君に任せたいと思う」
「成る程……。了解です。じゃあ、依頼を受けさせてもらいます」
確かにいつもの依頼でもパーティーを組む前に受けていた依頼は、パーティーを組んでも報酬の対象外になってたから仕方ないか。
まぁその点はお金や他のアイテムを渡すか、別の機会に問題ない
「ありがとう。それじゃあ、準備の時間も必要だろうから、こちらで依頼の方は手続きさせてもらおう。……さて、イーリアくん、例のものを」
そう言って肩の力を抜いたクライスは、イーリアを呼んで何かを持ってこさせる。
そしてイーリアが持ってきたのは見覚えのあるサイズの召喚石に1枚の紙、そして大きな真紅の宝石だ。
そうだった。そもそもこれを受け取りに来てたんだっけ。
「こっちが全体貢献者の報酬だ。受け取りたまえ」
「あ、ありがとうございます」
先程の騒動で受け取れなかった全体MVPの報酬を受け取る。
召喚石に関しては、チュートリアルで選んだ未知の召喚石と対して変わらない。あれと比べるとSランク以上が確約されているからか、輝きがより豪華になっているような印象だ。……気のせいかもしれないが。
紙についてはこれを商人ギルドに持っていくとギルドが斡旋した土地から1つ選んで建設ができるようになるらしい。
そして宝石についてはドラゴンに装備するとHPやMPなどを除いたステータス値全てが+30となる『絆の竜涙晶』という装備だ。
どうやらドラゴンの装備は基本的に結晶系のものが多いらしく、採掘で得られたものを『加工』や『細工』などで作るのが普通なのだとか。オキナの作ったものは珍しい例になるんだろう。
しかしこうして見るとオキナの作ったエプロンは1箇所だけとはいえ、ステータス値を100も底上げしているのだから、やはりかなりの性能だったんだなと改めて実感する。
装備はすぐルヴィアに装備することにした。
「さて、その召喚石で早速戦力を増強してくるといい。イーリアくんは南門の近くに待機させておくよ」
「はい。……あまり遅くならないようにお願いね」
「分かりました」
そして、僕らは前に騒ぎになった時と同じく、ギルドの裏口の方から退出させてもらう事になった。
今回は単純にそっちのほうがギルドマスターの部屋から外に出るのに近かったというだけの話である。
「……そうだ、冒険者リュート」
「なんです、ギルドマスター?」
「君とルヴィアくんが至った龍覚醒は偶発的なものだと理解しているとは思うが、もしその力の一端でもモノにしたいと思うのでれば、セカンダの街で『竜道場』へと向かうといい。そこでなら、本当の使い方を教えてくれるはずだ。私の名を伝えれば、試験無しで通うことが出来るだろう」
そう言って、僕らに背を向けてギルドの中へと戻っていくギルドマスター・クライス。
彼が言うようにあのイベント後、ルヴィアの龍覚醒は再び未開放に戻ってしまっていた。元々、ドラマティック・アウェイクニングが特定のイベント限定だという事もあって、ちゃんとした龍覚醒に関しては未だに発動方法は分からないといった状態にある。
それを普通の戦闘でも使えるようにするには、どうやらその『竜道場』という場所に向かう必要があるらしい。
そういえば掲示板の方で竜覚醒――これはSSランクよりも下のランクのドラゴンの覚醒となる――についてのイベントがどうこうとかいう書き込みを見かけたような気がする。
忙しくてちゃんと確認してなかったけど。
「成る程、竜道場……か!」
「主殿、少し元気になったみたいだの?」
ルヴィアにそう告げられて、コクリと頷く。
……これはセカンダの街に向かうのが楽しみになってきたな!
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