第144話 2体目のドラゴン
ギルドを離れた後にふと通知が鳴ったと思ったら、オキナからメールが送られていた。
「なになに? 『スライムポーションの在庫が無いなった。へるぷ』……って、そりゃそうか。10個ずつしか卸してなかったしな」
聞けばあの後、僕がイベントに使ったシーンを切り抜いて宣伝したらしいが、当然の如くすぐに無くなったらしい。
しかも僕に追加の分を貰おうと思ってもその間全くログインしてなかったので補充しようがなく、大々的に宣伝した割に物が無いという本末転倒な事態になってしまったらしい。
とはいえ、元々防具を販売する店なのでそこまで問題はないらしいが。
そもそものスライムポーションについても、ある程度防具等を購入したプレイヤーにのみ売っていたらしい。
結果として、イベントで使わなかったスライムポーションの残りやその材料に関してはそれなりに残っているので、これからセカンダの街に向かうとして残したい量を除いてもそれなりの数を卸せるだろう。
「取り敢えず、オキナには聖竜神殿に行ってから向かうって返事しておくか」
「む、聖竜神殿に向かうのか?」
「あぁ。さっき、イベント報酬の召喚石を手に入れたからね。ギルドマスターに戦力の補強を示唆されたし、契約しておくに越したことは無いからな」
ついさっき入手した召喚石を使うためには聖竜神殿で召喚と契約を行う必要がある。尤も、施設の利用にはお布施という形でお金を支払う必要があるが、今の僕には今までのお金にイベントの報酬があるので全く問題ない。
因みに基本の召喚では5000ドラドが必要となるらしい。高いのか安いのかよく分からないが、初期資金の半分と思うとそれなりなのかもしれない。
そもそも召喚石自体がそんなに手に入れられるものでもないので、縁がないプレイヤーには関係のない話なのかもしれないが。
「むぅ……妾以外の竜を仲間にするのか?」
「え? あ、うん……」
すると何だか気に食わなさそうな様子でそう告げるルヴィア。もしかして他のドラゴンが仲間になるのが嫌なのだろうか?
「あ、別にルヴィアが弱いとかどうとか考えてるわけじゃないからね!?」
「うむ? そんな事は分かっておるぞ。とはいえ、確かに妾だけだと主殿を守り切れるか分からぬからな。戦力の補強だと思えば妥当だの」
そう言って腕を組むルヴィア。取り敢えず不機嫌ということでは無さそうだ。
そんなこんなで僕らは聖竜神殿へと辿り着く。
「ようこそ、聖竜神殿へ……っと、おや? 君は……」
聖竜神殿の入口に進むと、門の近くで掃除を行っていた神官が僕らの姿を見て話しかけてくる。確かこの人は、この世界で最初に出会うことになったNPCであるダブリスだった。
「お久しぶりです。……と言っても先日の邪竜討伐の時ぶりですけどね」
「いや、あれから10日以上経つのだから久しぶりというのは間違いではないだろう。それより、今日は何用かな?」
そう言ってダブリスは僕の方に近付いてくる。それと同時に側に立っていたルヴィアに対して礼をする。龍神の姿に似ているルヴィアは彼ら竜神官にとっては敬愛すべき相手であるようだ。
「今回は契約召喚をお願いしようかと思って」
「ほう。ということは召喚石を手に入れたのかな?」
神殿の中を案内されながら僕はダブリスに今回の来訪の目的を説明していく。
そこで今回のイベントで手に入れた召喚石を見せると、ダブリスは「これは……」と呟いてからううむと唸る。
「いや失礼。かなり上等な召喚石だったのでね。冒険者ギルドは仕事柄、召喚石を確保することが多いとは聞いていたが、ここまでのものを報酬として渡すとなると私も冒険者になってみてもいい気がするが……いや、どの道召喚したところで私では契約ができぬか」
そう言って笑いながらダブリスは見ていた召喚石を返してくる。この世界ではコントラクターでなければ召喚したところで契約することが出来ない。
そして、その契約の力は現地人には殆ど備わって居ないらしい。故にダブリスは召喚したところでそのドラゴンとは契約を結ぶことは出来ない……らしい。
「まぁ、これならばかなり上位のランクのドラゴンを呼び出すことも叶うであろう。……私としては、また龍姫様と同じような龍を呼び出すことを期待しているぞ」
「ハハハ……。流石に2度目は無いとは思いますけどね」
2人してハハハと笑いながら、召喚の間へと向かっていく。……何だろう。なんか、変なフラグが立ったような気がするんだけど。
そして小さな入口の儀式をあげる為の神殿のような部屋に辿り着く。
その後、最初の時と同じように祭壇の中央の窪んだ場所に召喚石を置く。
「それでは召喚を行おう」
そして、あの時と変わらないよく分からない詠唱をダブリスが始めると、また身体の中から何かが抜け出ていくような感覚が襲う。
それから召喚石を中心に魔法陣のような物が展開され、そこから光の柱が立ち上がる。
金色の光が周囲を明るく照らし出していたと思うと、その輝きは虹色へと変化していく。まるでゲームのガチャの確変みたいな演出が発生した。
「おお! またSSランク以上の龍が召喚できそうだぞ!!」
ダブリスのテンションがまたおかしなことになっている。まぁ仕方ないか。
しかし、そこからまたおかしな演述が発生していく。
まるでルヴィアのときの再演と言わんばかりに光の柱は虹色の輝きに追加する形で、白黒の雷鳴が迸るようになってきた。
僕もダブリスも、またかと言わんばかりに顔を見合わせてしまう。唯一、ルヴィアだけは何が起きてるのかよく分かっていない様子でその神秘的な光景を目の当たりにしていた。
「うぅ~ん……。誰ですかぁ、私を呼んだマスターはぁ……」
やがて光の奔流が収まっていくと、儀式が始まる前に召喚石が置いてあった場所には1人の少女が立っている。前にも見たなこの光景。
その少女は背の高さ的にルヴィアよりも背が高く、それに伴って僕よりも背が高い。
因みに余談だが、僕は男性としては結構背の低い方であり、中学生のランスよりは高いものの、同い年のオキナや歳が近いであろうカイトに比べたら結構低かったりする。
多分、ルヴィアは女性としては普通より少し高めで、眼の前の少女に関してはおそらくかなり高い方となるのだろう。
彼女が纏うルヴィアに似た形の絢爛豪華なドレスアーマーの色は黒と青と紫の色を用いたものになっており、そのデザインもルヴィアのものに比べると些か落ち着いているように思える。
その両手はルヴィアとは対象的に真っ青な鱗に包まれており、爪はそこまで伸びていない。
顔はルヴィアよろしく、かなり可愛らしい容貌をしているが若干タレ目のようになっており、表情が暗いためかやや幸薄そうな印象を感じさせる。しかし、その金色に光り輝く眼は僕の方をしっかりと睨みつけていた。
深い海のように光を吸い込みそうな群青の髪はルヴィア程ではないもののそれなりの毛量を有している。背中の中間くらいまではありそうだ。
「あら。貴方が私のマスターかしらぁ? ふぅん。結構いい匂いするのね……」
その少女は僕の姿を品定めするかのように近付いてから見つめた後に、ニヤリと笑みを浮かべてそう言い放つ。
というか、匂い……? えっ、匂うのか僕……?
「むぅ? 何やら懐かしい匂いがすると思えば、もしかするとこやつ、同種か?」
「あらぁ? なんか不愉快な匂いがすると思ったら、同種と既に契約済みなのねぇ……気に食わないわぁ」
その後、僕とその少女との間にルヴィアが割り込むが、その2人の間は険悪となっている。
「……な、なんだって言うんだ」
何が何だかよく分からないままではあるが、取り敢えず召喚することができたドラゴンのステータスを確認することにした。
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