第142話 報酬の受け取り
「……よし、何とかログインできたな」
帰宅して諸々の家事を済ませた後。リアルで21時、ゲーム時間では朝の7時となるタイミングで僕はドラクルにログインし、ログインポイントである噴水に降り立つ。その隣にはちゃんとルヴィアの姿があった。
「久々だの、主殿――って、何だか疲れておらんか?」
久しぶりに見るルヴィアの姿は今までと何も変わらない。最初、怒っているのかもしれないと身構えていたのが、僕の様子を見て逆に不安そうな顔でこちらを見てきた。
はて。そんなに疲れてるように見えるのだろうか? 確かに色々あったから大変だったのは確かだけど。
取り敢えず、ルヴィアがそこまで不機嫌そうじゃなくて良かった……。
「うん、色々と忙しくてね……。しばらくログインできなくてごめんよ?」
「まぁ、それは別に良いのだが……ホントに大丈夫か、主殿?」
「まぁ、大丈夫。別に寝不足ってわけじゃないしね。それにいい加減、ギルドに召喚石とか貰いに行かないといけないし、目録で引き換えるものもちゃんと考えたいしね」
イベントの報酬は、お金に邪竜の素材、それに報酬目録というカタログのようなものの中から1つ欲しいものを選んで手に入れることができるアイテムとなっている。
その目録は既にインフォメーションが流れた時点で入手しており、後はギルドで交換するだけだ。
とはいえ別にすぐに期限が切れるとかはなく、少なくともリアルで5月末までは引き換えることが出来る。なのでこっちは他のプレイヤーの情報を調べてから選ぶつもりだ。
ただ、召喚石とプレイヤーホームの建設権に関してはギルドで貰い受ける必要がある。こちらは期限自体は指定されてないが、何にするか迷うものでもないので早めに受け取っておかないとうっかり忘れてしまいそうだ。
まぁ、ギルドは頻繁に来るような場所だから忘れる事はないだろうけど。
そして、そのまま僕らはそのままギルドへと直行することにしたのだった。
――冒険者ギルド
相変わらず依頼を探したり酒場で雑談したりするプレイヤーやNPCの冒険者が屯しているギルドの中に入ると、その瞬間にプレイヤーたちの視線がこっちに集中している事を感じる。
「なんか見られてる気がするのだが、主殿」
「うーん、やっぱりこの前の邪竜討伐のせいだよなぁこれ」
先日の邪竜討伐のレイドイベントは公式からワールドイベントの1つとして、結果の公表とダイジェスト動画の配信が行われていた。
公式ではたまにプレイヤーの戦闘シーンや日常生活を外部ユーザーやゲーム内の他のプレイヤーに紹介する形で動画を公開する時がある。
将来的にゲーム内での動画配信やアーカイブの外部配信を検討しているようで、それの準備として行っているらしい。
一応、設定で撮影の対象にならないようにオフに出来るのだが、初期設定ではオンになっている状態だ。それに、あの結果だとどの道オフにしていても、直接運営から動画を上げていいかの交渉が来てたかもしれない。
しかし、動画配信か……。時間加速してるからリアルタイムで配信できないのが懸念点ではあるが、プレイヤー同士には一定の需要はありそうだ。
まぁ、今回のように更に時間加速している状態だと配信は厳しいが。
「あの、もしかしてMVPの……」
「ひょっとして、竜覚醒した人型ドラゴンって……」
すると、結果や動画を見たであろう、イベントに参加してなさそうなプレイヤーたちが僕らの方に向かってぞろぞろと近付いてくる。
ギルドの受付に向かいたかったのだが、その道が完全に塞がれてしまった。
とはいえ、無理やり前に進むのもいざこざが起きそうなので出来無さそうで、どうすればいいんだろう?
「おい、お前達! 何をしているんだ!!」
すると、そんな僕の様子を見てか、ギルドの受付の奥から1人の男性が声を上げる。この声は確か……。
「えっ、ギルドマスター!?」
受付から出て僕の近くまで歩み寄ってきたのは、冒険者ギルドのギルド長、ギルドマスターであるクライスであった。
その姿を見たのは邪竜討伐のイベントの前後だったが、その風格は確かにギルドを治める者として十分な威厳を発しており、そんな彼が若干怒り気味で近付いてきたのだから、僕の近くに寄っていたプレイヤーたちはかなりビクビクしている。
「ここは冒険者ギルド。冒険者同士、交流を深める場でもあるが、だといって1人を囲うような場ではないぞ? それにあまり他の者に迷惑になるようなことは控えた方がいい。冒険者の質が疑われてしまうからな?」
「は、はい! すいませんでした!」
まさかNPCから迷惑行為に関して指摘されるとは思ってなかったようで、僕の周りに近づいてきたプレイヤーはそそくさと離れていく。
「さて、すまないな冒険者リュート。本来なら私が出る必要はなかったんだが……」
その後、僕の方を振り向いて話し出すギルドマスター。
「今回の成績を踏まえて、君に頼みたい事があってね? 済まないが、私の部屋まで付いてきてくれないだろうか?」
まさか報酬を受け取りに来た筈だったのが、何故かギルドマスターの部屋に呼び出されることになるとは……これはやはり無理して来ないほうが良かったのだろうか……?
そんなこんなで、僕とルヴィアはギルドマスターの部屋へと案内されていく。
まぁこんなギルドの裏側なんてそうそう来ることも無いだろうし、裏側見学みたいな感じで楽しむことにするか。
「…………」
「………………」
しかし、裏にいる職員たちがやたら死んだような目をしているような気がするのは、あまり気にしないほうが良いのだろうか……。
……うん、見なかったことにしよう。
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