第6章 第2の街へ

第141話 レイドが終わって

 ――レイドイベント終了からリアルで3日が経った。


 翌日の入学式の時は先日の説明会の時に仲良くなった幸村たちと色々話をしたり、わざわざ保護者参列で来ていた母親と数日ぶりに会ったり、夜は潤花や父親、そして瑠衣も含めて久々の家族で食事を取ることになり、その日は流石にゲームへログインすることはできなかった(まぁ、潤花は深夜にログインしてたみたいだけど)。


 そしてその翌日、オリエンテーションということで大学全体や学部のガイダンスを受けてどっと疲れた上、次の日にある必修科目に関連する教科の実力テストの準備で流石にゲームをする余裕は無かった。残念。


 そんな次の日の実力テストだが、ひとまずは無難に終わったかなと自負しながら一段落したところで、談話室で気が抜けている幸村とそれを見て何やら喋っている恋華と晶を発見する。


「おっ、琉斗おつ〜。テストどうだった?」


「まぁ、それなりには取れたんじゃないかな?」


「まじかよー。俺、割と駄目だったわ。こりゃ必修は別かもしれねぇ……」


 それは災難だなと思う。ただ、それ以外の履修教科に関しては彼らの先輩である吉田先輩におすすめの講義を教えてもらったらしく、僕もそれを参考に同じ授業を受けることにしたので、比較的一緒のコマは多いはずだ。


 それに幾つかは鈴葉先輩からの受け売りのものや自分で受けたいと思ったものも選ぶ予定なので、完全に一緒になることは無い。


「そういえばドラクル、アップデート来るんだってね?」


「え、そうなの?」


「……なんで現行プレイヤーが疑問形なの?」


 恋華から飛び出てきたアップデートの情報に驚いていると、晶から呆れたようにジト目で睨まれながらそう告げられる。


「いや、ほらテスト前であんまりゲームするのは流石に……ねぇ?」


「あー、確かにな。でも、琢磨たくまの奴は普通に夜中までプレイしてたって言ってたな……」


「まぁ、あれは色々切り捨ててるから仕方ないよ」


 どうやら彼らの知り合いは実力テスト前日なのにドラクルにログインした猛者が居るようだ。


 そういえば吉田先輩が入学前オリエンテーションに来てない後輩がいるって言ってたけど、それがそうらしい。成る程……。


 一応、高校のクラスは違うが知り合いではあらしく、名前は海東琢磨かいとうたくまというらしい。


 かいとう……かいと……いや、まさかね?


「それで、そのアップデートってどんな感じなの?」


「おう。なんか、召喚制限とか経験値とかの変更らしいけど……まぁ、俺らセカンドロットだからどう変更されるのか全然分かんねぇんだよな」


「まぁ、それはそうだよね」


 取り敢えず、この中で現状の環境をまともに知っているのは僕だけなので、3人に簡単に説明するため公式の方でアップデートの情報を確認する。


 ……どうやら要望の多かったドラゴンの召喚制限や召喚形態の変更、そして経験値入手量の緩和などの調整が近日中に行われるようだ。


「へぇ、よりドラゴンと一緒に居られるように色々変更するんだね」


 まず召喚制限や召喚形態の変更だが、現在常時召喚系のアビリティを持たないドラゴンに対して、通常状態は『小型化』することで常時召喚することが可能となった。


 要するに、シルクのパートナーであるニョロのように姿を肩に乗れるサイズまで小型化することで、常時召喚できるようになるという事らしい。ただし、既に常時召喚系のアビリティを持つ場合は変更無しとなるので、ルヴィアやアテナはそのままとなる。


 その際、小型化した姿から元のサイズに戻る際には『巨大化』のスキルを使う必要があり、対象のドラゴンと契約していれば自動的に習得する形となる。


 『巨大化』はニョロと同じように、通常の召喚と同じ量のMPを消費する形になり、召喚可能時間がこのスキルの持続時間となる。


 ほぼ全てのドラゴンが常時召喚になることで、竜覚醒の条件であろう好感度の方もおそらくは上がりやすくなるので、それも見越しての変更なのではないかと思う。


「今までは召喚しないとドラゴンは出てこなかったから、あんまりドラゴンと一緒にいるって感じではなかったんだよね」


「成る程ね。でも、小型化してずっといるって事はどのドラゴンと契約してるかバレバレなんじゃないの?」


 恋華が質問してきたが、その場合は『送還』しておくことで今まで通り召喚していない状態にすれば良いようだ。その場合、従来通りに『召喚』することで呼び出すことが可能となる。召喚時間や召喚コストは今までと変わらないようだ。


 因みにこの変更が加わっても、戦闘中に『巨大化』『召喚』出来るドラゴンは今まで通り1体までとなる。


 ただし、召喚士のジョブ効果に触れたときにもあったが、召喚士系なジョブ効果や【常在戦場】のようにスキルを使用しない常時召喚系アビリティ持ちのドラゴンの場合は追加で『召喚』することが可能となり、その場合は2体以上戦闘フィールドに存在することが出来る。


 ただその場合、召喚士系のジョブ効果以外の状況だと、現時点でも同時召喚のデメリットが発生する仕様になっているようだ。


 特に僕は、今回イベント報酬で新たに2体目のドラゴンと契約できるので、その扱いには気をつけないといけないだろう。


「経験値に関しては、ドラゴンを呼び出していても一律で経験値を貰えるようになったみたい。今まではドラゴンに結構経験値取られてたからね」


「それはちょっとキツイね。でも、僕らが始める時は問題無さそうだね」


 プレイヤーが戦闘中で得られる経験値量は、ドラゴンを呼び出していたり元の姿に戻していても、戦闘終了時にプレイヤーもドラゴンも一定量の経験値を得られるようになるようだ。


 少なくとも、僕に関しては今まで雀の涙程度の経験値量だったのが、ようやくまともな量になりそうだ。


 因みにドラゴンを召喚しなかったり、『巨大化』させずに戦闘を終了した場合、ボーナスとしてプレイヤーの経験値が1.2倍になるという仕様に変更するらしい。


 この仕様変更に関しては、現状だとプレイヤーのレベルがある程度上がるまではドラゴンの方が経験値を多く取ってしまうという形になっており、その結果として基本的にドラゴンを使わないというスタイルのプレイヤーが多くなってしまったという点から改善されることになったようだ。


 まぁ、折角の従竜育成RPGだというのにほとんどのプレイヤーがドラゴンを使わないというのは本末転倒となってしまうだろう。


「その他は色々な調整って感じかな。……あ、『経験の竜玉』も公表されてる」


「これってドラゴンの経験値獲得アイテム? へぇ、そういうのもあるんだぁ」


 その発表と同時に、僕が製作に成功した『経験の竜玉』についてはその存在が明らかとなり、魔核に関連する育成アイテムだというヒントが明かされる事となった。


 掲示板の感じだと、既に作成に成功した生産職プレイヤーは多そうだ。まぁ、これが普及すればよりドラゴンを使うプレイヤーも増えるだろう。


「でも、外部の掲示板だと結構ドラゴンを使ってるってプレイヤーは多くなったらしいよ。なんかレイドバトルとかの影響とかだってさ。竜覚醒ってギミックも開放されたんだって」


「あぁ……そうなんだ……」


 どうやら、この前の邪竜討伐におけるドラゴンの活躍や、今回明らかにされた竜覚醒の情報も相まって、アップデート前にも関わらずドラゴンのレベル上げや好感度稼ぎのために、多くのプレイヤーが積極的にドラゴンを使うようになったらしい。


 お陰でそれまであまり情報が無かったドラゴンのデータが集まっていったらしく、結構な種類のドラゴンが存在していることが明らかとなったようだ。


 ……どうやら、僕がログインしなかった2日程度でも、だいぶ環境は変わってきたようだ。


 他にも幾つかのアビリティやジョブの習得条件を見直したり、スキルやアーツ、装備品などの効果を修正したりするらしい。基本的には今回のドラゴンの召喚に関する変更による調整となる。


「あっ! 私、ネットの情報を見て聖少女になろうかなって思ってたけど、仕様変更で何かイベント後にしかなれなくなったんだって。残念〜」


 聖少女に関してはネットで話題になったせいか、アップデート後は特定のイベントを受けた後でのみジョブチェンジ可能と変更になっていた。現状ついている場合は問題なく、今後つく場合に適応されるとのこと。


 まぁこればかりは仕方ないだろう。回復性能もかなり高く、その上デメリット有りとはいえ蘇生が割と初期から使えるのは、パーティーでの戦闘では破格の性能となる。


 まぁ、現行のプレイヤーたちの中ではミネルヴァくらいしかついてないので、現行プレイヤーからの批判的な声は特には無さそうではあるが、セカンドロットからは結構文句言われてそうだ。


 同じような理由で、話題にはなってないエクストラジョブの条件も修正されていそうだ。まぁ、僕らにはそれを知る由もないのだが。


「…………げっ」


「どうした琉斗?」


「え? あ、いや。なんでも無いよ……うん」


 確認している中で【常在戦場】に変更がある事に気づいたのだが、どうやら『プレイヤー経験値の20%を自身の獲得経験値として換算する。プレイヤー経験値は20%減少する』という効果が追加されるらしい。……どうあがいても僕の経験値はルヴィアに奪われる定めとなるようだ。


 そんな色々な要素が追加されるアップデートは今週末の日曜日に実装が予定されている。意外と早かった。


 その為、その準備として土曜日の18時から翌日曜の6時まではメンテナンス期間としてログインすることが出来ない。その間に期限が来る依頼やクエストに関してはメンテナンス期間と同じ時間だけアップデート後に延長されるようだ。


 因みに噂のクラン制度もその際に実装されるらしく、新たに第2の街に『クランカウンター』という施設が出来るようだ。元々空き家だった施設で、意味深に大きな建物だったことから何が出来るのか推測していたプレイヤーも多かったらしい。


 クランの結成には色々と条件があるらしく、それらをクリアした場合に結成可能となる。詳細はアップデート後に明らかになるようだ。


 他にも色々NPC関連の施設や機能が追加されるらしく、それらはアップデート後のお楽しみということらしい。


「セカンドロットの開始日もアップデートの翌週に早まったらしいから、結構直ぐに遊べそうだぜ」


「じゃあ、そのタイミングで色々サポートできるようにしておくよ」


「サンキュー! じゃあ、頼むぜ!」


「宜しくね、琉斗くん」


「僕も。宜しく」


 そしてそんな3人と別れ、その場を後にする。 


 大学開始3日目。テストの次の日は健康診断があるのであまり遅くまでゲームをするわけにはいかないのだが、流石に3日連続でログインできないのは色々まずい気がする。ルヴィア的に。


 まぁ取り敢えず、ゲーム内の日中程度なら大丈夫だろうということで、久々にドラクルへとログインすることにした。


 さて、どうなってるだろうかな?

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