第139話 結果発表
――リーシャ村
「アハハ! あんだけボコスカ殴ってたら誰がラストアタックか分からないよな!」
「あー! 楽しかった! あの瞬間だけで今回参加して良かったって思えるわ」
「ほんと、第1フェーズの最初の殺伐とした感じに比べたら……ね」
イヴェルスーン・アライズが討伐され、その消滅演出が再生された後に周囲が光り輝いたかと思うと、いつの間にか僕たちはリーシャ村の中に立っていた。
その際にあちらこちらから戦い終わっての感想が飛び交っていく。
みんな、どうやらさっきのラストアタック競争が思いの外楽しかったようで、誰がラストアタックを取ったのかを特に気にすることもなく、嬉しそうにパーティーメンバーや知り合い、そして今回初めて共闘して息のあったプレイヤーたちと談笑している様子だった。
バインドウィップなどによって身動きが取れなくなった巨大な的に攻撃するのだから、誰かの邪魔になるなんてことは早々無さそうだし、特にフレンドリーファイアも気にすること無くそれぞれ攻撃できたというのも大きいのだろうと思う。
第1フェーズの時の殺伐さは一部のプレイヤーが初っ端から「俺が獲ってやる」みたいな勢いでガツガツ行ってた事が、多分悪かったのだろうと思う。
とはいえ、結局本質的にはどちらも変わらないので、結局はその時の雰囲気次第なんだろうなと思う次第。まぁ、楽しんだもの勝ちになるのは仕方ないだろう。
一方、最後まで活躍していたドラゴンたちは常時召喚系を除いて戦闘終了でプレイヤーたちがリーシャ村に転送された時に送還されており、巨大化してたニョロは元のサイズになっていた。
そして龍覚醒していたルヴィアもまた普段の姿に戻っており、ステータスの方も以前のままだ。まぁ、レベルアップしているようなので多少数値は変わってそうだが。
ドラゴンブレスも攻撃技に戻っているようだった。ダブル支援だと流石に今後まともに戦えそうにないので、これは元に戻ってよかったと思う。
まぁ、次にあの姿になれるのはいつになるのか分からないけれど。
僕らが降り立ったリーシャ村にイベント中作られたあの厳重な滅龍要塞な砦は当然ながらそのままであり、そのせいで中にある村の建物が若干ミスマッチに見えてしまう。
これは今後の開拓がどうなるのか見ものだろう。
「……冒険者の皆様、ご苦労様でした。無事、邪竜イヴェルスーンの再封印に成功しました」
すると僕らの前に冒険者ギルドの職員が立ち並んでいく。その中にはイーリアの姿もあった。喋っているのはギルド長ではなく、まだ若い女性職員のようだ。
「今回の件を踏まえ、この邪竜の封印核に関してはギルドで責任を取って管理することに決まりました。……皆さんの頑張りのお陰でこのリーシャ村がファスタの街に近い、というよりもそれ以上の防衛機能を持つこととなったので、この地にギルド出張所を建設し、そこで管理する予定です」
どうやら僕らが頑張りすぎた結果、ファスタの街の外壁より強固な防衛能力をリーシャ村は手に入れてしまったらしい。
あの村で静かに暮らしていた村人たちには何だか悪いことをしてしまったような気がするが、ギルド出張所を始めとした開発にはファスタの街やこの国そのものが助成を出すらしく、この村の住人は追い出されるなんてことは無いらしい。
勿論、国がコントラクターである僕ら来訪者の機嫌を損ねてしまう事を恐れているというのもあるのだろう。ギルドマスターが物凄くこちらのご機嫌を伺っているように見ているのがはっきりと見えてしまった。
「次に今回の邪竜討伐の依頼を受けてくださった皆さんには報奨を与えたいと思います。今から目録をお渡ししますので、後日ギルドの受付で受け取りをお願いします」
――――――――――――――――――
〈INFO〉
・レイドイベント『邪竜討伐』を達成しました。
イベントクリア報酬として100,000ドラド、『邪竜素材・各種』、『報酬目録:梅』を入手しました。
全フェーズ生存したので生存報酬として『報酬目録:松』×2、『報酬目録:竹』×2、『報酬目録:梅』を入手しました。
・邪竜素材を入手したことで、『加工』の生産可能アイテムが追加されました。
――――――――――――――――――
ギルド職員の説明とほぼ同タイミングで全員にインフォメーションが送られてくる。どうやら参加したプレイヤー全員に与えられる報酬のようだ。
結構な額のドラドと幾つかの邪竜素材を入手したが、これはフェーズのクリア数によって決まるらしく、グループで変動する第3フェーズ以外は全部成功しているため殆どのプレイヤーで大差ないらしい。
因みに邪竜素材は邪竜の名前を冠した素材アイテムが一通り揃ってる形となっている。これは武器や防具などの材料になるようで、僕の場合は『加工』で作れるアイテムが増えたらしい。とはいえ、手持ちのキットのランク的にまだ扱えなさそうな気はするが。
そして、目録には梅と記載されているが、
死に戻りした回数で決まる報酬であろう『生存報酬』が、僕の場合だと全部生存したことになっているようで、そこで貰える目録が『松』と『竹』が2つづつと『梅』が1つという形になっているからだ。
その後、他のプレイヤーの呟きをこっそり聞いた感じだと、1回死に戻りしたら『松』と『梅』が1つづつに『竹』が2つ、2回だと『松』『竹』『梅』が1つずつ、そして3回だと『竹』と『梅』が1つずつとなるようだ。
今回は最終フェーズがほぼ全員が生き残る形になっているため、4回死に戻ったプレイヤーがどんなものを貰えるかは不明だが、おそらく梅が1つ貰えるという感じになるのだろう。
流石に途中で居なくなったプレイヤーに対してはそもそも報酬が貰えるのかどうかは分からない。まぁ、貰えなさそうな気はする。
その目録の中身については他のプレイヤーが確認したりしている声は聞こえるが、僕は後で確認することにしよう。どうせ交換できるのはギルドの窓口だけだし。
まぁ、松ならきっといいものと交換できたりするのだろう。きっと。
「最後に、今回の邪竜討伐において優秀な貢献をしてくださった冒険者を発表したいと思います」
そうギルド職員が告げると、報酬の件ででざわついていたプレイヤーたちの声がハタリと鳴り止む。皆、その結果を待っていたと言わんばかりの食いつきぶりだ。
優秀な貢献、ということはおそらくはMVPのようなものだろう。
MVPに選ばれれば追加で報酬が貰えたりするんだろうか? その点は特に確認してなかったが、周りの様子を見る限りだとその認識で間違いなさそうだ。
「まず、最初の撃退戦に関してですが、こちらに関しては最もダメージを与えたウルカさんに『邪竜の撃退者』の称号を差し上げます。そしてウルカさんに加えて、貢献度の点でドラゴンの力を借りて多くの方を護ったランスさんとアイギスさん、そして身を挺して犠牲となったセインさんにSランク以上が確約された召喚石を差し上げます」
どうやら第1フェーズではダメージ量の点でウルカが、そして貢献度の点ではランスとアイギス、そしてセインが選ばれたようだ。
ランスはまさか自分が選ばれると思ってなかったようで自分の顔を指さして辺りをキョロキョロと見回していた。
そんなランスの様子を見て「おめでとう」と拍手を送るミリィ。そんな様子が伝播してか、周囲のプレイヤーも同じように拍手しだし、やがて選ばれた者以外のプレイヤーたちが彼らに惜しみない拍手を送っていく。
「続いて防衛戦ですが、こちらは邪竜の進行を遅らせた功績を称えてフレイさんに、そして砦の建造に大きく貢献したとしてナカバヤシさんに、それぞれ『邪竜からの守護者』の称号とSランク以上が確約された召喚石を差し上げます」
第2フェーズの防衛戦ではフレイとナカバヤシさんがMVPに選ばれる。まぁ、第2フェーズはフレイのバインドウィップが活躍したと聞くし、ナカバヤシさんの実力は僕も目の当たりにしているので納得の結果だ。
「そしてランダムパーティーバトルですが、こちらは最速で攻略に成功した冒険者の中で最も攻略に貢献したミネルヴァさんに『邪竜への抵抗者』の称号とSランク以上が確約された召喚石を差し上げます」
第3フェーズでは最速で攻略できたグループの中で聖少女として攻略に貢献したミネルヴァがMVPに選ばれた。まぁ、これは妥当の結果だろう。
ミネルヴァは姉に次いで選ばれた事で周囲にペコペコと頭を下げていた。
「最後の討伐戦ですが、最後のトドメを指したルシエラさんに『邪竜の討伐者』の称号とSランク以上が確約された召喚石を差し上げます」
最終フェーズのMVPはイヴェルスーンにトドメを指したプレイヤーである、女性プレイヤーが選ばれる。流石に知らないプレイヤーだ。
彼女はおっかなびっくりといった様子であたふたしていたが、パーティーメンバーであろう他の女性プレイヤーたちがその事を喜んでいたのを見て、咄嗟にその喜びの輪に加わっていた。
こうして全フェーズでのMVPが発表された中、何故か多くのプレイヤーの視線が僕の方に向かっていく。
「……なぁ、何であの人が選ばれてないんだ……?」
「……えっ、めっちゃ貢献してたよね? 支援スキルとかずっとかけてくれたし……」
「……最終フェーズとか、ルヴィアたんが居なかったらクリアできてなかったのに……」
どうやら僕がMVPに選ばれていないことに疑問を抱いているプレイヤーが多いらしい。そんな声が聞こえてくる。ルヴィアに至っては、その声が聞こえてきただけでも主が褒められたと思ったようで鼻高々となっている。
「そ、それでは! 最後に、最終的な成績を踏まえて、全体貢献者の方を発表させていただきますっ!!」
するとそんな空気を察してか、慌ててこのレイドイベント全体でのMVPを発表すると告げるギルド職員の女性。
「ぜ、全体MVPは、多種多様な支援スキルにより多くのプレイヤーを援護し、また討伐戦において劇的な龍覚醒を果たして勝利に貢献した、リュートさん、そしてルヴィアさんとなります!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
ギルド職員が投げやり気味に僕とルヴィアの名前を叫ぶと、それに応えるかのように多くのプレイヤーたちが叫び出す。流石にその勢いにはびっくりしてしまう。
流石に何で選ばれたんだろうとかは言わないようにした。周りの反応を見れば、何故選ばれたのかはだいたい察することが出来る。
しかしまぁ、これで少しでも支援職に対して良い印象を持つ人や支援職を目指すようなプレイヤーが出てきてくれれば嬉しいものだ。仲間が増える。
「やっぱりな! こいむがならなきゃ誰もMVPにふさわしくないだろ!」
「流石です! リュートさん!!」
「……すごい、リュートお兄さん」
「というか、ちゃっかりルヴィアも呼ばれてたわよね。ドラゴンなのに……」
「やっぱり龍姫様は最高ですぅぅぅぅ!!」
スズ先輩、ランス、ミリィ、アイギス、ミネルヴァからの声援が響く。ウルカはただ微笑んでいるだけだった。
「リュートさんには『邪竜討伐の貢献者』の称号と、Sランク以上が確約された召喚石、そしてギルドが斡旋する家の建設権を差し上げます。また、ルヴィアさんにはドラゴン用の特別な装備を差し上げます。おめでとうございます!!」
そして最後に僕の方のMVP報酬だが、称号と召喚石は今までのMVPと同じような感じだったのだが、そこに追加してプレイヤーホームの建設権とルヴィアの装備が与えられる事となった。
建設権だが、これはどうやらプレイヤールームの一つである『ハウス』を建設する際に、ギルドが用意した土地を選んで利用できるという権利のようで、本来必要となる土地の購入費がかからない上に建設費も幾らか割り引かれるというものになるようだ。
因みにハウスはその大きさによって複数の部屋を作ることができ、それぞれに自分だけでなくパーティーメンバーやフレンドのプレイヤールームを設定することが可能である。また、オキナの店のように店舗として利用することも可能となる。
普通なら既に出来ている家を借りるか買うかするのだが、今回は建てることが出来るので内装のレイアウトや部屋の構成など自由に決めることが出来るようだ。
今までの中では格別な報酬となったが、やはりそれは全体MVPだからなのだろうか。
その後、MVPに選ばれたプレイヤーは前に出るようにとギルドマスターが告げたため、周りのプレイヤーたちの拍手で見送られながらウルカたちと共に壇上へと上がっていく。
「……邪竜討伐の成功に大きく貢献したプレイヤーに大きな拍手を! そして、全ての冒険者に惜しみない祝福を!!」
――ドン! パパン!!
勢いよく放たれた花火によって暗い夜空に色とりどりの花が咲き誇る。
それによりプレイヤーやギルド職員、そしていつの間にか外に出てきていた村人の一部により大きな拍手が送られる。
こうして、ドラクルの正式サービス開始から初となる大型ゲーム内イベントは幕を閉じる事となった。
その後、プレイヤーたちはギルドが用意した転移術により最初の噴水の広場へと戻っていく。
リーシャ村はしばらくは開発のために入れなくなるようだが、その前後の道は通れるようになり、また封鎖されていた街道も邪竜討伐の知らせを受けて近日中には通れるようになるようだ。
これで気兼ねなく第2の街である『セカンダ』へと向かうことが出来るだろう。
プレイヤーの多くは報酬を確認しに行ったり、イベントの達成を祝うために酒場などに向かって祝杯を上げたりするようだ。
「まぁ僕の場合、明日が入学式だからもうやめるけどね」
「まぁ、仕方ないわよね。私もそうだし」
ウルカと共に散り散りになっていくプレイヤーたちの様子を見ていたが、そろそろログアウトして明日の用意をしないといけない。
明日はスーツを着ないといけないし、ネクタイの結び方はちゃんと確認しておかないといけない。こういう時、高校時代が学ランでなくてブレザーだったらなぁと思うのだが、その場合はワンタッチ式の物が多いとか聞いたことがある。
流石に大学の入学式にそれはダメなので、今からしっかりと復習しておかないと。
「そういえば、ようやく私の知り合いの1人がログインするみたいなのよね。風邪引いてたみたいで止められてたらしいの。もしログインしてたら紹介するわね」
「あぁ。分かったよ。僕の方の知り合いはセカンドロットからだから、もう少し先になるかな。あと、瑞穂もその時に始めるんだってね?」
「あら、すいちゃんから聞いてたのね。その時はもうクラン制度が開放されてるだろうから、クランを組んだらこっちに引き入れるつもりよ」
クラン制度――複数人の同士によって結成されるグループのようなもので、パーティーの垣根を超えて大人数の集団を作ることの出来る機能だ。
まだ、実装はされていないがウルカたちベータテスターはセカンドロットの導入までには実装されるだろうと予想しているらしい。
そして、どうやら瑞穂の方は既にウルカが予約済みのようだ。
因みに潤花は瑞穂の事を『すいちゃん』と呼んでいるが、それは瑞穂の『瑞』が『すい』とも呼べるからである。幼い頃の読み間違いがそのまま定着した形なんだとか。
「ふーん、クランねぇ……」
「リュートはクランは作る予定?」
「うーんどうだろう? 流れのままランスやミリィ、アイギスやスズ先輩とパーティーを組んでたけど、それとクランを作るかどうかはまた別の話だしね」
とはいえ、今のところは知らない誰かが作ったクランに入るくらいなら、特に気にせず自由気ままにプレイしたいという思いはある。
「多分、リュートの場合は色んなところから声がかかるかもしれないし、そういうのが嫌なら早々に自分でクランを立ち上げたほうがいいかもね」
まぁ、まだ実装が何時になるのか分からないんだけどね――とウルカは告げて、ログアウトする。
「……さて。僕もそろそろログアウトするかな」
「うむ、お疲れ様であるぞ。主殿」
「ルヴィアもね。お疲れ様。明日は忙しいから遅くにしか来れないかもしれないけど……おやすみ」
「うむ! おやすみである!」
そしてルヴィアと挨拶をした後に、僕はゲームからログアウトする。
そして、翌日の準備を進めながら晩飯の時間になった時、炊飯器のスイッチを入れ忘れていたことに気付いて静かに涙したのだった。
そりゃないよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます