第138話 邪竜、討伐
「待たせたな、冒険者諸君!! ここからは我々冒険者ギルドも援護に加わらせてもらう!!」
すぐ近くの砦から聞こえてきたであろう、冒険者ギルドのギルドマスターであるクライスの声。
その声と先んじて砦から放たれた矢の雨により、動き出そうととしていたイヴェルスーンの動きが妨害される。
その矢に関しては、プレイヤーには当たらない仕様になっているようで、慌てて避けようとしていたプレイヤーたちは当たらないことを確認すると「すげー!!」といった声を上げていた。
「さぁ、皆の者! 妾の加護を受けるがいい!! 『ドラゴンブレス』、『龍帝凱歌』!!」
次に僕の目の前で2つのスキルの発動を宣言するルヴィア。
すると、周囲に居るプレイヤーたちにキラキラと光る粒子が舞い降り、同時に赤いオーラのようなものが一瞬湧き上がる。
これでこの場にいるプレイヤーたちに『祝福』の効果と、ドラゴンの召喚に関する制限開放が発動したはずだ。
ドラゴンのHPが少なくなったランス、そして既に召喚しているウルカやアイギス以外のプレイヤーたちは召喚コストが無くなった事に驚きの声を上げる。
「よし、どうせ最後だ! 折角だし、俺はドラゴンを召喚するぜ! 出てこい、セキリュー!」
「あ、俺も! 出てこい、ウィンディアー!」
「私も! 行きなさい、アイスワイバーン!!」
「いっけぇ! 俺のファイドラン!」
「頼んだよ、アスドラーン!!」
その後、次々とドラゴンを召喚していくプレイヤーたち。そのレベルはまちまちであり、しっかりと育てているプレイヤーもいれば、ほぼほぼ育てておらずレベルも一桁前半しかないプレイヤーもいる。
それでも、ルヴィアのアビリティである【ドラゴンロード】の効果により、その性能はかなり上がっている。
特にランクが低いドラゴンの場合だとその上がり幅が結構大きいようで、BランクやCランクドラゴンと契約していたプレイヤーたちは、自身のドラゴンがそれまで見たことのないステータス値になっている事に驚いているようだ。
周りを見ると、ユートピアたちのパーティーやセインたちのパーティーもドラゴンを召喚している。
戦闘に特化していないドラゴンを持つミリィもファムを召喚している程だ。
「……よし、みんな準備は出来たわね? リュートやルヴィア、そしてみんなが紡いでくれたこのラストチャンス、今度こそ絶対に勝つわよ!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
ウルカによる再三の宣言により、雄叫びをあげるプレイヤーたち。
そして一直線にイヴェルスーンに向かって攻撃を仕掛けていく。
『祝福』の効果により被ダメージ量が大きく減ったこともあり、ダメージをものともせず挑んでいくプレイヤーとそのパートナードラゴンたち。
「おらぁ! 『ダブルスラッシュ』!」
「それいけ! 『シューティングスター』!」
「いけ! ライコー! 『ダッシュアタック』!」
「グオオオオオオン!!」
プレイヤーとドラゴン、それぞれのアーツやスキルを含めたありとあらゆる攻撃が次々と繰り出されていく中、さっきの蹂躙ぶりが嘘だったかのように劣勢へと追い込まれていくイヴェルスーン。
たまに反撃と言わんばかりに、ルヴィアの『祝福』を受けていても大ダメージを受けるような範囲攻撃を繰り出して来るものの、その時はカイトを始めとする神官プレイヤーたちが回復スキルを発動させていく。
「おらぁ! お前ら! もっと気合い入れろぉ!! そら、『ライトヒール』!!」
「ヒィィ! この人、人使いが荒いでござる!」
「ひぇん! やはり聖少女殿についておくべきでしたぞぉぉぉ!!」
所々で回復スキルが発動する光に合わせて、神官プレイヤーたちの悲鳴に似た叫び声が響く。彼らのMPが無くなりそうになったら、現地でマナポーションを生産する調合師や錬金術師などの生産職プレイヤーたちができたてほやほやのマナポーションを投げつける。
……こうして見てると、『投擲』持ちが味方に回復アイテムを投げつけると、飲まなくても回復できる仕様はこういう場では便利である。
そんな中、イヴェルスーンが再びドラゴンブレスを放つ体制を取り始めると、先程の惨劇を思い出したのか周囲がざわめき出すが、今度は全体を守れるようにと盾役プレイヤーたちがしっかり全体の前に出てきて、盾を構える。
「絶対に守りきってやるぞ!」
「おっしゃあ! さっきのを参考に……『メタルボディ』だ!」
「俺も! 『メタルボディ』!!」
「俺は『ガードオーラ』を使うぜ!」
それぞれが盾術や護衛術、そして個別で入手できるアビリティのスキルやアーツを使っていき、ドラゴンブレスから絶対に守り切るという気合を見せていく。
「みんながやる気なら、私達も後押しをするわ! アテナ、『守護者の祈り』!!」
『任せなー』
その後、アイギスの指示の元でアテナが何らかのスキルを発動する。どうやら盾を構えているプレイヤーのVITとMINを上昇させる効果を持つらしい。これも【ドラゴンロード】の効果でいつもより効果が上がっているようだ。
「「「「ぬおおおおおおお!!!!」」」」
ルヴィアの『祝福』の効果込みでイヴェルスーンのドラゴンブレスを受けた盾職たちは、見事その猛撃を耐え抜く事に成功する。
とはいえ受けたダメージは相当であり、そんな状態をイヴェルスーンは見逃さないと言わんばかりに尻尾による追撃を与えようとする。
しかし、盾職プレイヤーたちは直ぐ様その攻撃を受け止めることに成功する。
「ふぅ。今度はちゃんと間に合いましたよ!」
僕の横でふぅと息を漏らし、汗をかくミネルヴァ。
彼女が準備していた『聖女の祈り』により『根性』を与えられたプレイヤーたち。その後、攻撃を受けた瞬間にまた別のスキルを彼女は発動させていた。
「神聖魔術の『エリアフルヒール』――フィールド上の全プレイヤーのHPを全回復するスキルです。まぁ私の全MPを消費するんで、すけど……ね……」
全員を回復させたミネルヴァはMPを使い果たし、魔力欠乏状態に至ってフラフラになってしまうミネルヴァであったが、そんな彼女を受け止めたのはルヴィアであった。
「よくやったの、聖少女ミネルヴァ。あとは皆に任せておくがよい」
「は、はいぃぃぃ……。ありがとうございましゅ、龍姫
にへらと顔面を崩しながら気を失うミネルヴァ。魔力欠乏となった彼女はMPが自然回復するまでは動けなくなるが、ひとまずここに居れば安心だろう。いざという時は僕やルヴィアが前に出れば【不死のベール】の効果で即死級ダメージは肩代わりできる筈だ。
「……さて。そろそろトドメ、行こうか? ディスト、『シャドウバインド』!」
コトノハの命令を受けて、彼女のドラゴンであるシャドウウォーカーのディストがイヴェルスーンの体を拘束していく。【ドラゴンロード】のお陰か結構頑丈そうだ。
「さてと。おじさんもここまできたら出し惜しみはするつもりは無いからね。残りのバインドウィップ、喰らっちゃいなさいよ!」
そう告げたフレイは手持ちのバインドウィップを次々と使っていく。既に耐性がついているのであまり拘束時間は長くないものの、それを次々と使い捨てるような勢いで使っていくためほとんど動く間もなく拘束されていくイヴェルスーン。
「よっしゃあ! トドメは俺が貰うぜぇぇ!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよエクセル! ラストアタックは私が貰うわ!」
「お前ら、ちょっと落ち着けって……あ、待って俺も出る!!」
エクセル、リリッカ、セインの3人がラストアタックを手に入れるために飛び出す。
それに追従するように他のプレイヤーたちも前に飛び出す。
「行くでござるよ、カゲロウ! 『スナイプスロー』からの『三式曲射・弧月』でござる!!」
「クェェェェン!」
「アタシも行くー! 『ダブルスタンプ』!! ニョロもよろしくね!」
「シュラァァァ!!」
スミレとシルクの2人はパートナードラゴンと共に前に飛び出ていき、攻撃を放つ。
シルクはカゲロウに乗りながら、投擲からの弓術の繋げ技を決めていき、シルクは2連撃の槌術アーツを放ちながらニョロも石礫を放っていく。
「よし、私たちも出るぞ! 『ファーストスラッシュ』!!」
「負けねぇぞ! 『衝撃拳』!!」
「私だって! 『二式剛射・烈火』!!」
前衛のユートピアやナインスか一文字に斬りつけたり衝撃の走る拳で殴りつけたりする中、後衛だったメイヴィも合わせて飛び出ていき、弓術アーツの強撃技――通常よりもダメージを与えやすくなるアーツの一種――を放っていく。烈火と名がついているが特に火属性のダメージがついているわけではない。
「ハハハ! 行くぞ、『ダインスラッシュ』!!」
「滅龍破斬――『ドラグブレイズ』!」
「うおおお! 『二連突』!!」
「……『アイシクルランス』!」
そしてスズ先輩とアーサー、ランスとミリィも前に出ていき、攻撃を繰り出していく。
その間、イヴェルスーンは攻撃をしようとしたものの、動きを封じられているためか何もすることも出来ずにただ攻撃を受けていくだけとなる。
その様子を見て若干可哀想に思えてきたが、半分時にアイツがしてきたことを思うと仕方ないと思う。
「さて、私も! 行くわよ、センディア! ――『ドラグ・ノヴァ』!!」
「グオオオオオオン!!」
上空に浮かぶセンディアの口から巨大な光の奔流が放たれる。その光はイヴェルスーンに見事命中――まぁ動けないので避けられる訳がないのだが――し、大きく体力を削っていく。
「あちゃー。トドメとはいかなかったわね」
しかし、それでもイヴェルスーンのHPを削り切ることは出来ず、結果としてラストアタックを争奪するプレイヤーたちの猛攻は止まらなかった。
そして、最終的に誰がラストアタックを取ったのか分からないまま、イヴェルスーンのHPが0となり、何とか邪竜の討伐に成功するのであった。
その瞬間、その場に居た多くのプレイヤーたちが歓喜に叫ぶ。勿論、僕も例外ではなかった。
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