第137話 『リ・ライブ』

 僕が戦闘不能になって、死に戻りしてから数刻。 どうやら、その間に事態は大きく変化していたようだ。


「……じど……ある……――リュート!」


 ふと、聞き覚えのある誰かの声が聞こえたので、ゆっくりと目を開ける。するとそこにはウルカやランス、ミリィたちの姿があった。


 ということはここが死に戻りしたプレイヤーたちの待機場所なのか――と思って周りを見回すと、直ぐ側にイヴェルスーンの姿が。


「うぇっ!? 死に戻りしたのになんでイヴェルスーンが!?」


「リュート、ここはバトルフィールドよ。それに今は動きを止めてるから大丈夫」


 そういうウルカの声を聞いて、よく見るとイヴェルスーンはバインドウィップによって縛り付けられている状態であった。そこには先程死に戻りしたはずのプレイヤーたちの姿もあった。


「ついでに言うと、俺たちはまだ生きてます!」


「……うん。ルヴィアさんのお陰」


 ランスとミリィがそう告げる。生きているってことは死に戻りしてないってことか? というか、ルヴィアのお陰ってどういうことだ……?


「いやー、あそこで大々的に戦闘不能になったのに帰って来るの凄く恥ずかしいね、おねーちゃん。でも、それも龍姫様のお陰なので全然問題ないです!!」


「アンタはほんとブレないわね……」


 先んじてアイギスを蘇生させて戦闘不能になっていたミネルヴァや眼の前で消えたアイギスの姿もそこにはあった。


 その時、ふと背後から視線を感じたのでゆっくりと振り返ると、そこには血のように赤く燃え上がるような紅蓮の翼を纏ったルヴィアらしき姿をした何かが宙に浮かんでいた。


 背丈と真っ赤な髪は変わらないものの、身につけていたドレスのような衣装は金の意匠が更に加わることで大きく変わっていた。


 彼女は、僕の姿を確認すると微笑みを浮かべてゆっくりと降下していく。


「ルヴィア……なのか?」


「うむ。そうだぞ、主殿。……いや、今はリュートと呼んでも良いのか」


 ――ルヴィアが僕の名を呼んだ。


 確か契約の時、ルヴィア程の力を持つドラゴンの場合、契約主の名前を呼ぶと力が暴走するとかどうとかで呼べないと説明してくれていた筈。


 それが呼べるようになったということは、その枷から外れた状態だという事。


 そして、『エクスプロージョン』の衝撃で意識を手放す前、何かアナウンスが聞こえたような気がする。確か、龍覚醒がどうとか……。


「これが、君の龍覚醒した状態なんだね?」


「うむ! これが、妾の現時点での本領発揮の姿である!」


 そう告げるルヴィアの姿は覚醒前と比べると少しだけ大人びたような雰囲気があるが、その笑顔に関してはいつものルヴィアそのままであった。


 しかし、ベータテストでも解禁されなかった龍覚醒が何でこんなタイミングで覚醒したのだろう……。


 僕はルヴィアのステータスを確認する。すると、その殆どの情報が完全に書き換わっていた。 そしてその中身を見て驚愕する。


 ――――――――――――――――――


 【覚醒龍妃】ルヴィア=ブラドフェニックス レベル:3


 種族:ブラッド・ドラグーン、フェニックス・ドラゴンロード

 ランク:SSSS +

 属性:火・光


 HP:450 / 450

 MP:400 / 400

 SP:400 / 400


 STR:250

 ATK:250

 VIT:250

 INT:250

 MIN:250

 RES:250

 AGI:250

 DEX:250

 LUK:250


 ALL STATUS:3500


〈アビリティ〉

【血統因子】【覚醒龍姫】【威圧】【常在戦場】【不死のベール】【護り神】【ドラゴンロード】


〈スキル〉

『ドラゴンブレス』『龍帝凱歌』


〈アーツ〉

『フェニックスオーラ』


〈装備〉

・スロット1:生産助手のエプロン(機能制限)

・スロット2:なし

・スロット3:なし


〈龍覚醒〉 ※限定解除中(DAドラマティック・アウェイクニング

【エンシェントコード『リ・ライブ』】:特別な龍覚醒。始祖『フェニックス・ドラゴンロード』の血の力を呼び覚ました姿。本覚醒時、以下の効果を発動する。

・契約者が戦闘不能時に周囲全体に『強制蘇生』の効果を発動する。この効果発動時点で同一フィールド上の契約者を含めた蘇生待ち状態のプレイヤー、また特定イベントにおいては蘇生待ち状態が終了し既に死に戻りが確定したプレイヤーも、再度全快状態で蘇生する。この効果は龍覚醒状態になった時、一度だけ自動で発動し、以降は同一戦闘中では発動しない。

・『ドラゴンブレス』『龍帝凱歌』の効果発動中、このドラゴンは攻撃動作を行えず、相手にダメージを与えることが出来ない。

※ドラマティック・アウェイクニング:特定ランク以上のドラゴンで開放。この効果は特定イベントでのみ発動し、イベント終了後に再封印される。以降、発動可能なイベントでのみ、再度条件を満たすことで発動可能となる。


【???】:未開放


 ――――――――――――――――――


 うん。控えめに言っても、これが頭おかしい状態だっていうのは僕でも分かる。……いや、なんだコレ。


 まずステータス値。通常時から100近く引き上がっているのだが、それが全体的に上がっているのだからステータスの総合値がおかしな値になってしまっている。まぁ、元のルヴィアのステータスもレベルが上がればいつかはああなるのかもしれないけど。


 おまけに通常時ではアビリティに阻害されて上がらなかったMPが普通に上がっている。


 アビリティに関しても結構色んな部分が変わっており、デメリット系のアビリティもほぼ消えて、新たなアビリティが追加されている。


 中でも【不死のベール】はルヴィアやその契約者が受ける即死級ダメージ(最大HP以上の威力の事を指すようだ)を無効化するというものであり、また【ドラゴンロード】の効果には召喚されている自身よりランクが低いドラゴンに対してステータス値の大幅上昇効果を与えるという効果になっている。


 現在のルヴィアはSSSSから頭ひとつ抜けて『SSSS +』という形になっており、どうやらアーサーも【ドラゴンロード】の効果対象になってるらしい。……ホントに頭痛くなってきたかもしれない。


 そしてスキルだが、『ドラゴンブレス』は攻撃スキルではなくなってしまったようで、効果を見る限りでは『息吹』の方ではなく、『祝福』を意味する方のブレスになっているようだ。分かりづらいな。


 その効果は発動時、効果対象範囲内の味方に対して『祝福』の状態を与えるというもの。その『祝福』については敵から受ける被ダメージ量を大きく減らし、またクリティカルダメージが出やすくなるというものだ。


 因みにこの効果は支援スキルではなく状態付与となっている為、支援スキルなどと同時に発動する。


 そして『龍帝凱歌』だが、この効果を発動すると発動中においてフィールド上の全プレイヤーのドラゴンの召喚制限が撤廃され、召喚コストが無くなり、また送還時間もこのスキル効果の続くまでは無制限となる。ただし、経験値の割合に関しては通常時と変わらないらしい。


 尤も、それらの効果を発動中は凄まじい勢いでMPが減るらしいので、何かしらで回復手段を考えないといけない。


 幸いにもライトイエローマナポーションにはあまり手を付けてなかったので、在庫は残っている。


 なので発動中は僕が『魔力供与』し続ければ問題はないだろう。


 そして、何より一番気にしなくてはいけないのはルヴィアが手に入れた『龍覚醒』の効果である。


 これは、僕が戦闘不能になる事で発動する効果であり、それまでの戦闘で戦闘不能になって蘇生待ち状態になっていたプレイヤーを蘇生させるというものだ。


 しかも、今回のような特別なイベントにおいては既に蘇生待ち状態が終わって死に戻りしてしまったプレイヤーたちも蘇生の対象とする。


 取り敢えず、周りにいるプレイヤーたちはこの効果によって復活したプレイヤーたちという事になるようだ。


 勿論、今回のようなイベントでなければ僕とほぼ同じタイミングで戦闘不能になったプレイヤーしか復活できないので、殆どの場合は僕一人が復活して終わりになる可能性もあるだろう。


 そもそもこの龍覚醒、ドラマティック・アウェイクニングという形のものになっているらしく、特定のイベントでのみ開放できるらしい。おそらくはルヴィアがSSSSランクドラゴンだから開放されたものなのだろう。


 だから、普通の戦闘中ではこの龍覚醒はどうあがいても発動しないらしい。おそらく協力戦みたいなもの限定なのではないだろうか?


 あと、『ドラゴンブレス』と『龍帝凱歌』の発動中はルヴィアは攻撃動作を取ることが出来ない仕様になっているようだ。


 ……まさかルヴィアまでサポート特化型になるとは思わなかったが、効果を発動しなければかなり高火力の攻撃が可能となるはずだ。


 まぁ、ルヴィアの中でも高火力であった『ドラゴンブレス』が攻撃技ではなくなってしまったので、ここぞという時の攻撃枠としては当てに出来なくなったのだが。


 そもそも、ステータスの表記によればこの龍覚醒状態は限定解除中であるようで、これ以降も同じように龍覚醒を開放する事ができるのかは分からない。


 もしかしたらもう二度と使えない、なんて可能性も無いわけではない。


「うーん。取り敢えず、みんなに共有するか……これ」


 その後、側に居たウルカたちにこのルヴィアの状態を共有する。……まぁ当然ながら、二度見三度見状態で驚かれてしまったが。


「成る程、これがSSSSランクの龍覚醒……。それで私達が生き返ったってわけね」


「いや、流石にこのステータスはヤバすぎでしょ。でも、これらのスキル使用中はルヴィアも攻撃できないのね。それならアリか……? いや、スキル効果的にそれでもナシだわ……」


「なんか普通に聖少女の私より聖女っぽくないですこれ? 全体蘇生って……。あ、いや! 龍姫様が素敵なら、それで最高なんですけどね!!」


 ウルカ、アイギス、ミネルヴァの三者三様の返答が続く。ミネルヴァは相変わらずといった様子だ。


「そういえばセンディアやアテナは龍覚醒ってできるの?」


「センディアの龍覚醒はまだ未開放ね。どうも一概に好感度が最大っていうわけじゃなさそうなのよね」


「アテナも同じくね。あとこれは持論だけど、覚醒にはある一定以上のドラゴンとプレイヤーとの絆以外にも『条件』が必要だと思うのよね。例えば、ルヴィアの場合は発動条件のように、契約主であるリュートくんが庇って戦闘不能になる、とかかしら? ……まぁ結局何が言いたいかって言うと、2人は最高のパートナーだったって事かしらね?」


 そうウインクしながらアイギスが言ってくるので、少し恥ずかしくなった僕はルヴィアから視線を反らしてしまう。


 そんな僕の姿を見て、クスクスと笑みを浮かべるランスとミリィ。


 スズ先輩やコトノハたちも気付けば側に集まっている。スズ先輩に至っては確か僕が戦闘不能になる前までに死に戻りしていたところを見てないので、多分素で生き残っていると思う。


 とはいえ、まだ全てが終わったわけではない。


「……リュート、妾は『ドラゴンブレス』と『龍帝凱歌』を発動する。支援の支援を頼むぞ?」


「あぁ。任せてくれ。……みんなは、その間に最後の戦いを――」


「「「任せて頂戴!(ください!)(くれ!)」」」


 ルヴィアからの指示の元、ウルカたちの返事を聞いて僕らは最後の戦いを再開する。バインドウィップの効果は既にその多くが切れており、イヴェルスーンは再び動き出そうとしている。


 そして時を同じくして、遠方から風を切るような音が聞こえてきた。

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