第135話 壊滅

「……そろそろ、半分行くぞ」


 回復役のプレイヤーたちをまとめていたカイトがふとこっちに向かい、そう告げる。


 現在はバインドウィップによって足止めされたイヴェルスーンがセインたちのグループによって攻撃を受けている状態だ。


 うまく行けば、この攻撃タイミングでイヴェルスーン・アライズのHPは半分を切る形になる。


 先程の第3フェーズでもあったが、半分時には行動変化の可能性もある為、油断はできない。


 そんな中、特に何もすることが無くて少しだけつまらなさそうに頬を膨らませるルヴィア。


「しかし、なんというか拍子抜けだの」


「まぁ、仕方ないよ。だって、特に大きな攻撃も放たれてないからね」


 現在、イヴェルスーンが行った行動といえば、噛みつきや尻尾を使った薙ぎ払い、そして足踏みといった感じで、対策を取ってしまえばそこまで脅威となるレベルの攻撃ではない。


 厄介なものといえば、後衛に向けて火球をたまに飛ばすくらいで、それらは中距離で盾を構えるプレイヤー等によって遮られ、こちらまで飛んでくることはほぼ無かった。


 それといった大ダメージを受けることもないため、カイトやミネルヴァたち回復役のプレイヤーたちもそこまで動くことはなく、故に油断のような空気がその場に流れていたのだと思う。


「半分行くぞ――って、これは!」


 前衛で攻撃をしていたとあるプレイヤーが敵のダメージ量が半分に行ったことを確認し、声を上げるとその瞬間にイヴェルスーンの動きに変化が生じる。


 首を持ち上げ天を睨みつけるかのように上空を見つめるイヴェルスーン・アライズ。


 そして、そのまま口の周囲に何やら熱波のような物が溢れていく。


「ヤバい! これは――『ドラゴンブレス』よ!!」


 ウルカの叫び声が響く。第1フェーズとは違った動作ではあるが、あの口から溢れるような演出はドラゴンブレスの動作で間違いないだろう。


 後衛の魔法職らがその口に向かって魔術スキルを放っていくが、特に動作を中断する様子はない。


 おそらくは半分時の確定動作ということなのだろう。


「ルヴィア! 止められるかわからないけど、頼む――『魔力供与』!」


「うむ、任せよ主殿! 滅龍吐息――『ドラゴンブレス』!!」


 僕はルヴィアに対し、『魔力供与』でMPを分け与え、そのMPを使ってルヴィアは相手に先んじて『ドラゴンブレス』を放つ。


 これで怯みでもすれば動作が中断できるかもしれない――そう思って放ったルヴィアの『ドラゴンブレス』であったが、その炎がイヴェルスーン・アライズの頭部を撃ち抜いたとしても微動だにもせず、相も変わらず敵のドラゴンブレスのチャージは続いていく。


「アテナ。『イージスオーラ』の準備をして頂戴」


『あいよ〜。とはいえ、僕だけで防げるとは思えないけどね』


「そこは……私達がどうにかしてみせるわ。それに、この子だけは絶対に落とさせるわけには行かないから」


 そう言ってミネルヴァを一瞥し、彼女の前に立ち盾を構えるアイギス。仮に第1フェーズのように全プレイヤーが巻き込まれるレベルのドラゴンブレスが放たれたとして、ミネルヴァだけでも守り切るつもりのようだ。


 そんな中、イヴェルスーンの近くでランスのパートナードラゴンであるメタルオーが召喚される。どうやら第1フェーズの時のように『ミラーシールド』でドラゴンブレスを拡散させるつもりのようだ。


「主殿!」


「分かってる! メタルオーとアテナに『ドラゴンエンハンス・ディフェンス』!! そして、全体に『マインドアシスト』!!」


 2体のドラゴンにそれぞれかけた『ドラゴンエンハンス・ディフェンス』はドラゴンのVITを引き上げるスキルとなる。……どう見てもあのドラゴンブレスが物理攻撃とは思えないものの、ドラゴンエンハンス系でMINを上げるものをまだ覚えていないため、取り敢えずで発動する。


 フェーズの途中でランスに聞いた話によれば、物理以外の攻撃を跳ね返す『ミラーシールド』は発動中も一定のダメージを受ける事になるが、その際に耐えられるダメージ量はドラゴンのVITの値で変わるらしい。


 故にメタルオーに関してはこれである程度耐えられるダメージ量は増えるはずだ。


 そして『マインドアシスト』に関してはMINの数値を上げるスキルになる。これで多少なりにも受けるダメージ量が減ればいいのだが……。


 盾役のプレイヤーは前後に分かれて、前衛と後衛のプレイヤーたちを庇う形で盾を構える。


 そしてやがて力を溜め終わったのか、イヴェルスーンはゆっくりと前方を睨みつけるように首を下ろす。


 そして、その口から炎が溢れていく。


「来るぞ、主殿! ブラッドシェルを使うのだ!」


「分かった! 『ブラッドシェル』!!」


 僕が『ブラッドシェル』を使った時、前方でメタルオーが『ミラーシールド』を発動し、イヴェルスーンから放たれたドラゴンブレスを拡散する。


 以前は収束させてドラゴンブレスを相手に跳ね返していたが、それは一箇所に集中してダメージを受けることになり、それにより耐えられるダメージ量を超えてしまいメタルオーは耐えられなかったが、今回はそれを拡散する形で分散した事で、前回よりも長くドラゴンブレスを耐える事に成功する。


 しかし、それによりあらゆる場所にドラゴンブレスのエネルギーが散らばってしまい、それにより前衛や後衛関係なくダメージを受けていくプレイヤーが増えていく。


 ウルカが乗るセンディアも上空に分散されたドラゴンブレスを避けるのに必死で、ドラゴンブレスを中断させられるようなプレイヤーは存在しない。


 その間、ミネルヴァは祈るように手を合わせ、何かのスキルの発動の準備を進めていく。カイトやその他の神官プレイヤーを始めとする回復役のプレイヤーたちはダメージを負っていくプレイヤーたちに対して回復スキルを使っていく。


「くっ! メタルオー!!」


 しかし、ついにメタルオーの限界が来てしまい、炎のようなドラゴンブレスがプレイヤーたちへ向けて向かっていく。


「アテナ! 『イージスオーラ』よ!」


『この威力……完全に無効化出来るか分からないけど、やってみるさ』


 その炎に対してアテナの『イージスオーラ』で防いでいくアイギス。しかし、その威力は第1フェーズの比ではないようで、あの時は完全に無効化出来ていたのに対して、次第にオーラを上回る勢いで炎が溢れ出そうとしている。


「ミネルヴァ、スキルは――!?」


「ごめん、おねーちゃん。……間に合わない」


 今にも破られそうというタイミングで振り返るアイギスだったが、ミネルヴァはそう告げる。


 その後、アイギスが慌ててミネルヴァの盾になるよう覆いかぶさると、イージスオーラが破られて炎にアテナが飲み込まれる。


 そして、僕の眼の前のフィールドは炎に包まれた。

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