第134話 違和感(※セイン視点)

 ――セインSIDE――


 ウルカのグループによる揺動、そしてフレイのグループによる拘束。


 それによって動きを牽制された邪竜に対して一気にダメージを与える役目は俺たちのグループとなる。


 故にこちらには、リュートくんのパーティーメンバーで、彼と同じく人型ドラゴン――SSSSクアッドエスランクのドラゴンと契約したスズというプレイヤー、そしてそのSSSSランクドラゴンであるアーサー・ドラグオンがグループメンバーに加わっている。


 彼女は通常攻撃でかなりのダメージを与えており、アーツも大技で扱いの難しい必殺系アーツである『ダインスラッシュ』をよく扱う為、単純にダメージ量がかなり多い。


 まぁ、彼女の持っている『覇竜の大剣』や『勇気の鎧』を見て納得してしまったが。


 これらはベータテストで知り合いが使っていたので知っていたが、当時のユニーク装備は軒並み難易度の高いダンジョンや極稀にフィールド上に出現する虹色の鍵付き宝箱を開けないと手に入らないという情報が出回っていたので、こんなすぐに再びお目にかかる事ができるとは思っていなかった。


 因みに彼女はファーストプレイヤーらしい。……だとすると、虹色の鍵付き宝箱での入手だろうか? まぁ、その場合も虹の鍵を手に入れないと超低確率でしか開けられないらしいが。


 その鍵の入手方法もまた、ダンジョン報酬だったり、フィールド上の宝箱だったりするので、俺も当時のユニーク装備を再入手するのは諦めていたりする。


 まぁ、僕らのように形だけが同じだけの普通の装備という可能性もあるのだが。


 それはさておき、彼女のパートナードラゴンであるアーサー……彼もまたかなりのダメージを与えるダメージディーラーだった。


 正直、僕らプレイヤーなんか目じゃないレベルでダメージを与えていく。その手に持つ武器ドラグカリバーから放たれる剣撃は……正直、かなり参考になった。


 まさに剣士のお手本という感じの剣撃であり、その種族名であるブレイブキングドラゴンの名に恥じない実力の持ち主であった。


 そんな両名に負けてたまるかと、俺を初めとしたプレイヤーたちもまた自らの限界を超えた動きでイヴェルスーンに挑みかかっていく。


 当然ながらバインドウィップで動かないという状況が前提であるというのはあるのだが、やはりベータテスターも驚かせるレベルのファーストプレイヤーや、お手本にしたい腕前の人型ドラゴンの動きを見たことで自ずと自分たちの腕も磨かれているようで、いつもよりも調子よく戦うことが出来た。


 ……無論、その大きな要因としてリュートくんがかけてくれた支援スキルの効果があるのだが。


 最初にウルカたちが攻撃を仕掛け、フレイたちがバインドウィップを使って邪竜の動きを止め、そして俺たちが猛攻撃を仕掛ける――その連鎖が始まってもうしばらく経つが、その間ずっとリュートくんの支援スキルは切れないようにかけられ続けている。


 最初に神官プレイヤーたちがかけてくれたRES強化のスキルは早々に切れてしまい、効果範囲の関係から再度かけられることは無かったが、リュートくんの場合は切れそうになると、気付いたら再度かかっていた状態となっている。


 幾らアビリティ効果で低燃費で全体に効果をかけられるとはいえ、ここまで連続で発動しているということは、それだけ彼のMP量が多いということなのだろう。


 騎士である俺からすればそこまでMPが高くなくても良いのだが、やはりステータス値に強みがあるプレイヤーは上の方に進みやすい。


 確実にリュートくんは、このゲームにおける最強クラスの実力の持ち主であることは間違いないだろう。


 確か、ベータテストの時はプレイヤー同士、もしくはパーティー同士でのプレイヤーマッチが幾度か開催されていたが、それが本サービスで開催されたとき――果たして俺たちはリュートくんやそのパーティーに勝てるだろうか?


「……うん、無理だな」


 そもそもリュートくんには、ルヴィアというもう1体のSSSSランクドラゴンが居るのだから、無理ゲーにも程があるというものだ。


「うん、やはり今回のイベントでいいランクの召喚石を手に入れないとな」


 最初の契約時、ベータテストでSランクドラゴンを召喚できたからと自信満々で未知の召喚石を選んだが、結果はBランクドラゴンというオチ。


 正直、低ランクと一蹴するには些か上の方のランクではあるので、何とも言えない結果ではあるのだが、BランクとAランクとの間でもそれなりに性能の差は存在する。


 それを考慮しても、SSSSランクドラゴンの実力というものが果たしてどのくらいなのかは図りかねるものであった。


「そもそも、アーサーもルヴィアも本気を出してないからなぁ……」


「そうだな。嬢ちゃんに至っては今のところはリュートの側に居るだけだしな」


 俺の発言に側に近付いてきていたエクセルが応える。今はバインドウィップを用意しているプレイたちのグループに向けてウルカたちが揺動をしている真っ最中であり、俺たちはしばしの休息を取っている。


 ルヴィアに関しては第2フェーズ同様にリュートくんの側から離れずに行動している。第3フェーズの時にリュートくんと離れて行動したこともあってか、今回は離れたがらなかったようだ。


「まぁ、彼女の場合は強力な『ドラゴンブレス』を持ってるからね。いざという時は後衛から攻撃してくれるだろうさ」


 そう告げたとき、ふと俺の脳裏に何やら違和感のようなものが通り過ぎた気がした。


 何か、大事なことを忘れているかのような、そんな違和感。


「…………おい、セイン? どうかしたか?」


「ん? あぁ、いや。大丈夫」


 ふと気がつくと、エクセルが心配したような顔でこちらを睨みつけている。あまりに顔が近すぎて、唾がかかりそうだった。


「取り敢えず、もうすぐ俺たちの出番だぜ。……そろそろ半分行きそうだからな。ガツンとのしてやろうな!」


「あ、あぁ……」


 気付けば敵のHPバーも半分に行こうとしている。今までの状況から考えると妥当……いや、少し早すぎるような気もする。


 そんな中、どうしても思い出せない違和感の正体について考えていたが、フレイがバインドウィップを取り出し、邪竜がそれを受けてそのまま体が痺れたかのように震えて動きを止めたのを見て、一旦頭の隅に放り込む。


 今は、俺たちは俺たちの仕事を全うしなくては。


 そう思い、俺は邪竜の方へと向かっていく。


 ――相変わらず、アーサーが一番乗りなのはやはりSSSSランクドラゴン、というべきなのだろうか。

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