第133話 邪竜との接敵(※ウルカ視点)

 ――ウルカSIDE――


 咆哮の対策は第1フェーズ同様のパターンで何とかなった。流石に何人かは気絶スタンを喰らったようだが、その点は咄嗟にリュートが治してくれたので問題はなかった。


「さぁ、行くわよ!! 中央は私についてきなさい!!」


 そして、私はセンディアに跨った状態で、先導に立って前衛のうちの約1/3のプレイヤーを引き連れて真っ直ぐ邪竜に向かって進んでいく。


 流石に真っ直ぐ進んでくるプレイヤーに対しては警戒しているようで、ジロリと邪竜は私達の姿を見つめている。


 とはいえ、第1フェーズ同様に特に向こうからいきなり攻撃を仕掛けてくる様子はない。それはまだ相手の攻撃範囲に私達が居ないからなのか、それとも攻撃をするまでも無い相手だと思われているのか……。


「どちらだとしても、攻撃を仕掛けるには今しかないわね」


 右と左とでそれそれ1/3ずつ前衛メンバーを引き連れていったセイン、そして第2フェーズで助けてくれたフレイというプレイヤー。


 フレイの指揮するグループには牽制を担当してもらう。その為にバインドウィップを持ったフレイをリーダーにさせたのだ。しっかりと働いてもらわないと困る。


 そしてセインの指揮するグループには牽制してもらった状態での削りを優先してもらう。その為、彼らはフレイがバインドウィップで動きを止めるまではあまり近付かないようにお願いしている。


 そして私達のグループ。フレイがバインドウィップを使用してその動きを牽制する為に、邪竜の進行や攻撃を誘導する。それがこのグループの役割となる。


 いわば、この中では一番敵の攻撃を受けることになるであろうグループだ。故にこの中には盾使いや騎士などの盾役プレイヤーが他より多めに配置されている。


 それでもかなりの損害が発生するかもしれない。


「……だとしても、よね」


 誰かがやらねば動きを止めるのも一苦労することになる。これだけの巨大だ。ある程度動きを引き付けておかないと、簡単にバインドウィップも跳ね除けられてしまうかもしれない。


「ウルカ、大丈夫かい? 何だか根詰めてないかい?」


「……先輩」


 ふと気付くといつの間にかコトノハ先輩がセンディアの背に乗っていて、私に話しかけてくる。……いつの間に乗ったのだろう。全然気付かなかった。


 後ろを見ると、唖然とした表情で私達の方を見ているプレイヤーがちらほら見えるので、おそらく跳び乗ってのだろうなと推測する。……ホント、先輩って時々常識外れな行動をするのよね。


「私は大丈夫よ。たとえ、これで死に戻りしても、後に残せる何かは掴んでみせるわ……ってアイタッ!?」


 そう私が目を閉じながら告げると、突然私のおでこに痛みが走る。思わず目を開くとコトノハ先輩は私の眼前に手を翳していた。どうやらでこピンされたらしい。……えっ、先輩……?


「気負い過ぎ。眉間にシワ寄っちゃってるよ? そもそも、ウルカがそこまで根詰めてたらみんなに影響しちゃうでしょ?」


「あ……」


 そう言われて思わず声を漏らしてしまう。ハッとさせられた。


 そういえば最終フェーズが始まって、私が矢面に立ってからずっと私が頑張らなきゃと気を張り詰めて続けていたような気がする。


「その点だと、今は弟くんのほうが生き生きしてるかな? これはゲームなんだから、もっと楽しまないと」


「ゲーム……だから……」


 気づけば、楽しむということを忘れてしまっていたのかも知れない。第3フェーズも私達が一番乗りでクリアできると自負していて、結局時間ギリギリでようやくクリアできたという状態だったので、焦っていたのかもしれない。


「まぁ、ここで大ダメージ受けても、死に戻りするよりも先にあの聖少女ちゃんや弟くんに回復されるだろうしね」


 そう言って後ろを振り向く先輩。私達の動きに合わせて少しずつ前に出ていく盾役のプレイヤーと、その後ろで同じように動く後衛のプレイヤーたち。


 その後衛のプレイヤーの中にはさっき会ったばかりの聖少女ミネルヴァがいて、そしてその近くにリュートの姿があった。


 回復役で現状最高クラスの実力を持つ聖少女と、全体指定の回復が可能となるリュートが合わされば、確かに問題はないかもしれない。


「……分かったわ、先輩。とにかく、当たって砕けろ――じゃなくて、そのまま押し通す感じね」


「そうそう。別に私達が倒しちゃっても良いんだからね?」


 そう告げるコトノハ先輩。いや、それは死亡フラグというやつでは……?


 そう思った私だったけど、特に何も言うつもりは無く、ただ苦笑いを浮かべることしか出来なかった。


 しかし、こうして笑みを浮かべたことで少しだけ気が楽になったのか、強張っていた体が少しだけ柔らかくなった――そんな気がしていた。


 そして、私達はイヴェルスーンの眼の前まで近付く事になる。未だにイヴェルスーンは攻撃してくる様子はない。


「それじゃあセンディア、頼むわよ!」


 そのままコトノハ先輩を乗せたままセンディアはイヴェルスーンの眼前まで飛び上がる。


「行くわよ! ファーストアタックは頂くわ! 『トライスラッシュ』!!」


 そして、私はセンディアの上で剣を構えて3連続の剣撃を放つ。それにより、私達を敵とみなした邪竜が行動を開始する。


 咄嗟に高度を下げた私の頭上で、後衛のプレイヤーたちが放った魔術スキルが炸裂し、その間を抜けて矢がまばらに降り注ぐ。


 それにより、何かしらの行動を取ろうとしていた邪竜の動きは妨げられ、怯んだように仰け反る。


 その状況をチャンスと見て、私のグループのプレイヤーたちがフレイたちが準備している場所に誘導するために攻撃を開始する。


「さぁ、行くよ! 『クロススラッシュ』!」


 いつの間にかセンディアから降りていたコトノハ先輩の『クロススラッシュ』を初めとして、多種多様なアーツが繰り広げられていく。


 時々、尻尾や足を使ってプレイヤーたちに攻撃していく邪竜だったが、その進行方向は確実に目的地であるフレイのグループの方へと近づいていっていた。

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