第130話 聖少女、暴走?
「えっと、改めて自己紹介を……! 私、ミネルヴァと言います! ジョブは聖少女です! この4月から高校生3年生になります! 戦闘面ではてんで役に立ちませんが、龍姫様の為に命を燃やしたいと思いますので、どうかよろしくお願いします!!」
一周回ってうるさいレベルに元気な挨拶を繰り出してきたのは、例の聖少女ことミネルヴァという女性プレイヤー。
聞いてもいないのに学年まで答えていたが、どうやら従妹の瑞希と同い年のようだ。てっきり中学生くらいかと思っていたが……。
言動を見るからに、彼女が率先して姫プレイしているなんて事はなく、どうにも周りが神輿をかついでワッショイやってるだけのように見える。
現に睨みつけていた神官プレイヤーたち、「えっ、あの美少女ドラゴンのマスター?」とか呟いてからスススと視線を逸らし始めている。……オイ。
「あぁ、よろしく。僕はリュート。こっちはルヴィア」
「うむ。我こそが【龍閃姫】ルヴィ――」
「うわぁぁぁぁ!! 本物の龍姫様だぁぁぁぁぁ!! 可愛いいいいいい!!」
「のわぁぁぁぁ!? 何をするのだァァァァ!?」
――シュッ、ガシッ、シュワワワワワッッ!
僕に次いでノリノリの自己紹介をしようとしていたルヴィアだったが、その姿を認識したミネルヴァの手により凄まじい勢いで確保され……そのままの勢いでナデナデされていた。
それはあまりに一瞬の出来事で、あのルヴィアが避けきれなかったという事で僕だけでなく周囲のプレイヤー全員が度肝を抜かれていた。
「え? あの、ミネルヴァ……さん?」
「ヨシヨシヨシヨシ〜〜……はっ!? す、すいません! 憧れの龍姫様に会えたのが嬉しすぎてつい!」
「つい、でずっと撫で回すやつがおるか――ってムギュっ!?」
狂気が垣間見えるようなレベルでルヴィアの頭を撫で続けていたミネルヴァは、僕の声を聞いてようやく何をしているのか理解した様子で、顔を真赤にして両手で覆っていた。
それをきっかけに摩擦熱で煙が出そうなレベルだったルヴィアは、ミネルヴァから脱出しようとして――また捕まっていた。
どうやらかなりのルヴィアのファンみたいだな……。まさか暴走するレベルとは思わなかったが。
しかし、何をそこまで彼女を駆り立てたのか。
どうも、最初はネットで話題になってる人型ドラゴンを一目見ようとして、ネットの情報から僕らの動向をチェックしてたらしいのだが、そこで見たルヴィアの姿に一目惚れしてしまったようで、それからすっかりファンとなってしまったらしい。
どうも、ネットでは遠めからこっそり撮られたスクショなどが掲示されていたりしているらしく、どうやらルヴィアを愛でる専用のスレまで存在しているらしい。そこにルヴィアに対する愛を語っているのだとか。……うーん、そこはかとない狂気。
確か、スクショや動画撮影に関しては、許可なしでは映り込まないようにする設定があったはずだが、僕はそこまで気にすることもないかと思って特に設定してなかったような気がする。……まさか、パートナードラゴンがその餌食に遭うなんて思わなかったよ。
知らぬ間に晒し者にされている事実に苦笑いを浮かべるしかなかったものの、取り敢えずルヴィアに対するイメージが好感なもので良かったとは思う。
……まぁ、それはそれとして、イベント後にはスクショの設定は許可制の原則禁止に変えておかないと。
「ここしばらくは龍姫様を影から
「いや、自我を失うほどなど、十分に怖いのだが……」
そんな暴走機関車よろしく止まらない勢いであったのなら、今回のレイドイベントでもすぐにでも会いに来そうなものなのに――と思ったのが、そもそも僕らがこのイベントに参加するかどうかも知らなかったらしい。
そこまでガッツリ見張ってるわけではなく、見かけたら見守る程度という自白が正しければまぁ仕方ないだろうとは思う。 イベント発生者とかの名前が出るわけでもない訳だし。
そもそも彼女自身はレイドイベント自体よく分かっておらず、何だか大変そうなクエストだから回復役でなにか出来ないものかと参加したらしい。幸いにも、レベルの方は問題なかったようだ。
その後、イベント開始後に僕らを見かけたらしいのだが、第1フェーズの時は例の騒ぎのせいで妙に此方側に加わりにくくなってしまい、なにより最初のドラゴンブレスの際に死に戻りしてしまっていたらしい。
いくら強力な回復スキル持ちであっても、使う暇もなくやられてしまっては、どうしようもないみたいだ。
次の第2フェーズでは僕が砦に残ることを予想し、自身の持つ生産スキルを活かして生産チームとして砦側に残ろうとしていたらしい。
まぁ、当然ながらその回復性能から前線メンバーの回復役としてカイトに連れていかれてしまい、残念ながら砦に残った僕やルヴィアとは別行動となっていた。
そして第3フェーズでは当たり前のように別グループになる、といった感じで今まで完全に話す機会を失ってしまっていたようだ。
最後である最終フェーズでは必ず話をしなくては――と、ミネルヴァは周囲にいた神官プレイヤーたちの話もろくに聞かずにチラチラ周囲を見ていたようで、その結果僕の姿を見て駆け寄ってきたというのが、ここまでの一連の流れのようだ。
因みにその神官プレイヤーたちだが、さっきまでそっぽを向いてたのに気付けばルヴィアとミネルヴァの戯れをニヤニヤした顔で見ていた。
流石に視線が嫌らしすぎるので僕が睨みつけると、流石に気まずかったか「自分たちはお邪魔ですかねぇ……デュフ」などと呟いてから明後日の方向を見ながら別の女性プレイヤーの元に向かっていき、そしてその娘を先程までのミネルヴァのように煽て始めていた。
「良い装備ですな!」
「弓使いですかな?」
「フードが可愛いですな!」
「…………?」
いやお前ら、女性なら誰でもいいのかよ! とツッコミたくなったが流石にやめておいた。その女性プレイヤーは完全に話を理解してなかったし、それに……。
「……おい、お前達。俺のパーティーメンバーに何か用か?」
「「「ひぃっ!? 何でもありませぬぅぅぅ」」」
――ドタタタタタタ、ベシャ、ズタタタタ……。
「…………? 何だったんだ、フィオ?」
「知らなーい」
その女性プレイヤーであるフィオの知り合いかと思って善意――そう、あくまでも善意で話しかけてきたゼットの
慌てて呼ぼうと思ったが、その様子をしっかり見ていたミネルヴァによると、どうやら彼らは全く別のパーティーで、先程の第3フェーズでたまたま一緒になった神官系プレイヤーのパーティーらしい。
結果として姫プレイをされていたミネルヴァだったわけだが、攻撃出来ないのにソロ参加とは中々肝が太いというかなんというか。
まぁ、その点は気にしないことにしよう。
「しっかし、ルヴィアのファンなんて居たのね」
「酷い言い草だの、主殿の姉君!? ……まぁ、確かに? 妾程の美しきドラゴンであれば、目に留まるのも致し方あるまいよなぁ!」
「はい! 龍姫様はさいっこうに可愛らしいですからね!!」
「うむ。そうであろう、そうであろう。…………ん? かわい……?」
ウルカの呟きにナデナデされながらツッコミを入れるルヴィア。
まぁ、ルヴィアが可愛らしいってところは僕にも否定はできないかな、と惚気そうになったがルヴィアが恨めしそうな目でこっちを見てくるので流石に口にするのはやめておこう。
「……………………」
そんな中、側にいたメンツの中でハタリと喋らなくなったのはアイギスである。
先程まで要らないことまでベラベラと喋っていた筈の彼女だったが、今となっては全くといっていいほど話し出す気配がない。
因みにランスとミリィはスズ先輩たちと一緒にユートピアらのパーティーと再会して何か喋っているようだが、少し離れているのとルヴィアたちが騒がしいので、どのようなことを話しているのかは分からなかった。
しかしアイギスがこうまで話さないというのはあまりにも不自然だと思って彼女の方を見ると、何故かさっきまで非表示設定にしていた頭部の鎧を表示する設定に戻していた。いや何故……?
するとそんなアイギスの様子に気付いたのか、不意にミネルヴァが彼女の方を見て笑い出す。
「アハハ! 何でいきなり顔隠してるの、おねーちゃん? 今更隠しても一緒に行動してたのずっっっと見てたよぉ?」
「「「え? おねーちゃん……?」」」
ミネルヴァはまっすぐとアイギスの方を見ながらそう呟き、それを聞いていた僕を含めたアイギスを知るプレイヤーたちが揃って復唱する。
そう言われてみると、身長や体格の差はあるものの、その顔立ちはよく似ている……ような気がする。アニメーション補正のせいで断言はできないが。
それに、ミネルヴァの日本人離れしたような肌の色や容姿もアイギスと同じくハーフというのなら簡単に理解できる。
そういえばミネルヴァといったら、ローマ神話におけるアテナに相当する神の名前で、その名前を自身のドラゴンに付けて、なおかつ自身はその神が持つという盾の名前にしているのだから、よくもまぁ姉妹揃って関した
「さ、さてぇ? な、何のことかしら……?」
「……おねーちゃん。しらを切るつもりならそれでもいいけど、それならおねーちゃんの私生活のこと皆さんに言うよ? 部屋の中のゴ――」
「ちょっと! リアルの情報を人質に取るのは御法度、反則よ!? ……わ、分かったわ! 私はあなたのリアルお姉ちゃんですよ! 認めますぅぅぅ!!」
当初はしらを切っていたアイギスだったが、ミネルヴァからの反撃により心折れたことで、ミネルヴァが妹であることをあっさりと認めるのであった。
どうやらアイギス自身は僕と同じで一人暮らしらしく、実家住まいの筈の妹がこのゲームをプレイしていることは知らなかった様子だ。
なので、勢いよく近付いてきているプレイヤーが妹の顔だったことから、何故ここに居るのかと内心ビビっていたらしく、隠す必要もないのに他人のフリをしてしまったらしい。
まぁ、確かに僕も妹の瑠衣とゲーム中で知らずにバッタリ出くわしたら隠すまではないにしろ、驚いてしまうのは間違いないだろう。
一応、VRマシン自体は教育等の観点から小学生になる瑠衣も入学さえすれば使用可能だったりするのだが、ゲームのほうの年齢制限は最低でも12歳以上となっているので、残念ながらもう数年は一緒にプレイできない(まぁ、それまでサービスが続いているか、僕が続けているかは全く持って不明だが)。
これは、年齢的に精神が未発達の子供の場合、仮想世界から受ける影響が大きく、仮に描写やシステムなどに様々な制限を設けたとしても、社会が許さなかったというやつだ。
いわゆる、仮想空間を仮想空間と認識できない年頃の子供に与える、この手のゲームの悪影響を懸念した政府機関等からのストップで、当然ながらこのゲームだけでなくほぼ全てのフルダイブVR――そしてMMOやそれに準ずるコミュニケーション機能を用いたゲームが、だいたいこのくらいの年齢を制限年齢としている。
昔はそれこそ成人していないとVRマシンすら使っちゃダメ、なんて時代もあったのでそれに比べれば遥かにマシになっているだろう。
なお年齢の対象外は前述の通り、教育で用いられる仮想教室などの簡易的なものに限られている。流石にあのあからさまにポリゴンで作ってますよという空間までも規制する気はないようだ。
そもそも、12歳程度で影響がどうにかなるものなのかどうかは微妙なところではあるが、一応の判断基準としてそこがラインになったらしい。
因みに12歳以上なので、当然ながらその年齢に達している『小学生』でもプレイ可能になる。これを中学生以上としなかったのは、ゲーム会社からの猛反発があったからだ。業界からの圧は時に凄まじいのである。
なお、掲示板で書き込んであった情報が正しければ、現時点で既に数人の小学生プレイヤーがこのゲームに存在するらしいが……まぁ、その手の話は長くなりそうだし自分もそこまで詳しくはないから、もういいだろう。
「それにしても、なんでプレイしてるって教えてくれなかったのよ?」
「いやだっておねーちゃんに言ったら、アドバイスとか言って色々と茶々入れてきそうだったから……」
そうミネルヴァが呟いたのと同時にウルカやエクセルがうんうんと頷いていた。
まぁ、結構世話好きみたいな印象は強かったからなぁ。思えば、妹のような年下の家族が居たからだと考えると納得の理由ではある。
……しかし再三だが、このゲーム姉妹兄弟でプレイしてるプレイヤー多くないか? ファーストロットは入手困難だったんだよな……?
「ねぇ、ちょっと待って。私って、どう思われてるのよ?」
「そりゃあ……なぁ?」
「自分の胸に聞いたほうが早いと思うわよ」
そんなアイギスの問いかけに、遠くを見つめるようにして呟くエクセルとウルカ。これは色々と諦めを感じている目だ。
「も~! 何なのよぉ!」
そしてひとり、よく分かっていないと言わんばかりに叫ぶアイギス。多分、そういうとこもあるのだと思うぞ。
「……さて、しょうもない雑談はそこまでとして。最終フェーズでは期待してもいいのよね、聖少女さん?」
パンパンと手を叩き、話をレイドイベントへと戻すウルカ。相変わらずこういう空気の持って行き方はうまいのが我が姉である。
「はい! 任せてください! 攻撃は全くできませんが、回復に関してはここにいる誰にも負けるつもりはありませんので! 必ず、龍姫様のお役に立ってみせますね!!」
そう告げつつルヴィアの方を向いて眩しいばかりの笑みを浮かべるミネルヴァ。その笑い方は確かに姉妹だと思わせるほどアイギスによく似ていた。
いつの間にか僕の側に来ていたルヴィアは、その笑顔を見てブルっと震えながら、僕を隠れ蓑にするように後ろに隠れた。なにこれ超可愛いんですけど……。
「フッ、期待してるわよ」
「せいぜい私達の足を引っ張らないようにしなさいよ!」
ウルカの微笑みに、ついでにといった形で声を上げるアイギスであったが、その声はきれいにスルーされており、その様子を気に入らずにまた憤慨していたが、周りはそんな彼女を見て微笑ましいものを見るかのようにニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「……因みにだけど、ミネルヴァはどのように聖少女になったの?」
「え? 公式の情報サイトに書いてませんでしたっけ? あのままですよ!」
「へ? ……ってことは、あの情報はミネルヴァの実体験……?」
「はい! 因みに掲示板とかも、結構書き込んでるんですよ!」
ルヴィアにそっぽを向かれてメソメソ顔のミネルヴァに、どうやって聖少女というジョブについたのかを聞いてみたところ、案の定その情報源がミネルヴァ本人であったことが判明した。そうじゃないかとは薄々思っていたけど、まさか本当にそうだとはね……。
しかし、たしか
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