第129話 最終フェーズ
僕とルヴィア、そして遅れてランスとミリィの2人が転移したことで僕らのパーティーが全員最終フェーズのフィールドへと降り立つ。
……ランスとミリィが手を繋いでいて、なおかつランスの顔が真っ赤になってる状況を見て、少しだけ2人の仲も進展したのかなと僕は感心して眺めていた。
「仲良しよな〜」とのほほんと眺めていたルヴィアはともかく、スズ先輩も感心したように2人の様子を見ていたが、むしろそれは尊敬の眼差しのような気がしたが、僕の見間違いだろうか?
そういえば先輩って在学中とか結構モテてた気がするけど、誰かと付き合ってたとかいう話は特に聞いた気がなかったような気がする……。
まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。レイドイベント中だし。
「キャー!! ふたりしてお手々繋いで仲良しさんね!」
そんな2人の様子を見守ろうとしていたが、先に転移していてこちらを探していたアイギスが面白半分に指摘したことにより慌ててランスはその手を離す。
「…………」
「…………」
「え? 私、何かやっちゃいました……?」
どうやらアイギスは状況をよく分かってなかったようで、もれなくルヴィアやスズ先輩からジト目で見られる羽目になってしまったが、あれは仕方ないと思う。僕だって同じ目で見てたし。
さて、それはさておき。
既に多くのプレイヤーが降り立っていた最終フェーズのフィールドは、第1フェーズの時と似たような場所になるのかと思えば、すぐ後ろに滅龍要塞があった事から第2フェーズの舞台にも似ていることが分かった。
しかし、これは第2フェーズの舞台であるリーシャ村とは厳密には違う場所となっているらしい。村を守る砦ではなく、本当に竜を討伐するための要塞として、ただそこにある施設となっているようだ。
何故分かったのかというと、気になって向かっていたらしいプレイヤーが、さっきはあった村の形が何もなかったと言っていたのが聞こえてきたからだ。
ジト目に耐えきれず、誰にも頼まれずとも考察を喋りだしたアイギスによれば、この最終フェーズではおそらく敵も巨大になるので、要所要所でこの砦のギミックを使う必要があるのだろうとのことだった。
……相変わらずだが、アイギスはベータテストの暴竜討伐に参加してないのに情報量が凄いのだが、よほど参加できなかったのが悔しかったのだろうか? まぁ、今回の場合は空気を変えたかったというのもあるんだろうけど。
「そっちも無事にクリアできたみたいね、リュート」
すると、僕らのもとにウルカたちが現れる。その背後には先に転移していたセインたち3人も一緒だった。
「そっちも、ってことはウルカたちもクリアできた感じなんだね」
「えぇ。まぁこっちは制限時間ギリギリだったのだけどね……」
そう聞いて驚きの表情を見せるアイギスたち。もれなく僕も同じような顔をしているだろう。
だって、てっきり一番乗りはウルカたちのパーティーがいるグループだと思っていたからだ。
聞けばどうやら近接攻撃系のジョブが多めのグループに当たってしまったらしく、そのせいで半分まで行くのに結構時間がかかったのだとか。
確かに半分までは弱点が物理と魔術と交互に入れ替わる形だったから、偏っていればその時点で苦戦するだろう。
ウルカのパーティーだと、魔術系のスキルが使えるのはナカバヤシさんくらいか。それなら仕方ないか。
「まぁ、半分以下のスキル封印状態がぶっちゃけそこまで影響なかったのが不幸中の幸いといったところかしら。幸い、神官職も何人か居てくれたしね
「あー。まぁ確かに物理攻撃も、全く効かないってわけじゃないみたいだったしね」
半分を切ってスキル封印状態にしてきた邪竜の影は物理攻撃によるダメージをかなり減少してきたものの、それでも全くダメージを与えられないという訳では無かったらしい。
そうで無ければ、僕らがスキル封印状態を解除したからといってあんなすぐに倒せている訳がなく、それまでにルヴィアやスズ先輩を始めとした物理系のダメージディーラーたちによる猛攻撃があったからこそ、という事になる。
「因みにイチ抜けのグループはエクストラジョブの『聖少女』が居たから、あそこまで早かったみたいよ」
「せ、聖少女? なんか凄い名前だね?」
「――フフフ、説明してあげるわ! ベータテストでも最強ジョブとネタジョブの両方で話題になったのがその『聖少女』なのよ!」
僕とウルカの話に割り込んでくるかのように話に入り込んでくるアイギス。その勢いに呆気にとられたのか、説明に関してはアイギスに任せると告げるウルカ。
聖少女とは、神官系に分類されるジョブの一つであり、攻撃が一切出来なくなる――というよりはあらゆる動作にダメージ判定が働かなくなるという条件付きではあるが、他の神官系ジョブよりも強力な回復スキルや支援スキルなどを習得しやすくなるというジョブになる。
その覚えるスキルというのが、クラス1ジョブの段階で覚えるものとしてはまさしく格が違うという感じらしく、かなり破格の性能をしているのでベータテストでは最強ジョブの一つとして数えられていた。
しかし、その割についているプレイヤーの数は少ない。何故ならエクストラジョブ故に特殊な条件が必要となるジョブであるからだ。
しかし、その条件は本サービス開始から2日目には判明しており、しかもその条件はとある掲示板に記載されていたという。
その条件は、ジョブ『聖職者』の条件を満たしており、なおかつ『清らかな女子であること』という一見すると意味の分からない条件が記載されていたのだという。……どうやら、この条件こそがこの聖少女をネタジョブと言わしめる所以となったらしい。
「いや、清らかな女子って……」
「まぁ、聖少女って名前で流石に男性プレイヤーにはつかせないわよね」
「いや、そっちじゃなくて……」
その『清らかな女子』というのは、決して純潔とかそういうものではなく、どうやらゲーム開始時点からそのジョブの習得条件を満たすまでに一度も戦闘を行わなかった女性プレイヤーのことを指すらしい。
やましいことは何もなかったが、そこには一度でも戦闘をしてしまうともうこのジョブにはつけなくなってしまうという罠が存在していた。
なお、聖職者の条件は神官系によくあるステータス値の条件の他に、回復系のスキルが使えるようになる特定の技能アビリティのアビリティレベルが一定値以上である必要があるので、仮に運良くステータス値が最初から満たしていたとしても、ゲーム開始時点では絶対につくことが出来ないジョブとなる(因みにそのような条件付きのジョブはそれなりに存在しているらしい)。
なので、アビリティレベル上げにはスキルの行使が必要となるのだが……。
「その間、一切戦闘に関わることもなく、回復スキルのアビリティのレベルを上げるのってかなり面倒なのよねぇ」
「えぇ。戦闘に同行しているのも戦闘に参加してる扱いになっててダメだから、それこそ流れのヒーラーをするか、自傷して回復するとかしないといけないから凄まじく効率が悪いのよ」
アイギスとウルカがその大変さを語り合う。確かに戦闘に参加できないとレベルも上げにくい上に、肝心の回復対象が見当たらないとスキル上げも困難となるのだから、当然だろう。
因みにその情報提供者は生産職だが不器用(おそらくDEXが若干低めだったのだろう)なためによく怪我をしていたらしく、その怪我を癒やすために回復スキルを使い続けていたら、いつの間にか聖少女のジョブ条件を満たしていたらしい。
なお、その提供者が聖少女についたかどうかは不明となる。
因みに最初のジョブ案内所以降で新しくジョブの条件を満たすと通知が入る仕様となっているが、その通知は後でステータスを確認すると表示されるタイプなので、戦闘終了時にはアナウンスされない。
因みにこれまで触れてなかったが、僕も『炸裂魔術士』を始めとした新規につくことができるようになったジョブが幾つかあったものの、現状の『ブラッドサポーター』を中途半端で捨てるわけにもいかないので普通にスルーしている状態にある。
「……ただ最初にも説明したけど、このジョブだと自分からは攻撃が一切できなくなるってのが一番のネックなのよね。だから、望んでつくかどうかはその人と周り次第ってところかしら」
「まぁ、それはそうだね。僕も似たようなものだし」
すべての攻撃でダメージ判定が発生しないというのは、もはやソロでは戦闘不可レベルに致命的な弱点となる。通常攻撃のみの僕でさえ攻撃に苦労しているのだから、それが全てとなるともうどうしょうもないだろう。
勿論、ドラゴンによる攻撃は対象外であり、一部のアイテムによる攻撃は行えるらしいが、だとしてもだ。
「まぁ、性能的にはホントに最強ジョブと言っても過言ではないのよ? それこそ、回復系に関しては他のクラス1ジョブの追随を許さないから」
「下手するとクラス2ジョブに片足突っ込んでるのよね。……それこそ、そこの『竜騎士』様と同じレベルでね」
最強ジョブの名は伊達じゃないということか。そして、それはウルカのついている『竜騎士』にも言えることらしい。クラス1の時点でクラス2レベルとか、飛び抜けているにも程がある。
聖少女は現時点でつくことができる神官系のジョブの中では最も高い回復補正を持っているようで、それこそベータテスト時代にはパーティー全滅寸前の状況から一気に全快まで回復させることもあったという噂もある程だ。
その中で、特定のジョブレベルで覚えるスキルである『破邪の結界』には、呪い系統の効果を一定範囲のフィールドから消し去る効果を持つらしい。
成る程、それであの黒いモヤの効果を消して倒しきったという訳か。
「因みに女性限定、男性限定のジョブは他にも色々あるわよ。例えば神官系ジョブの『破戒僧』は男性限定になるわ。また、似たような例だと『メイド』と『バトラー』も女性と男性とで別れる形になるわね」
「……? 誰に向かって言ってるの、アイギスお姉さん?」
アイギスの唐突な謎の説明に疑問を抱くミリィ。
それはさておき、その肝心の聖少女が誰なのかが気になるところだ。そう思ってたところでウルカがとあるグループの方へ指を向ける。
「……因みにその『聖少女』はあの子みたいよ。第2フェーズまで特に目立った動きをしてなかったから私はそうだと気付かなかったけど、今見たらまさしく聖女ですって格好をしてたわね」
ウルカがそう言って指さした方には数人の神官らしき風貌のプレイヤーに囲まれてチヤホヤされてる高校生……いや、中学生程度に見える少女が立っていた。
ウルカの言う通り、見るからに聖女ですと言わんばかりの純白の修道服にはレースがあしらわれており、かなり白い肌に腰まで伸びている金髪と後ろ姿ではあるが日本人離れしている容姿をしているように見える。
周囲にいる神官プレイヤーたちの様子も相まって、まるでお姫様のような状態となっている。
「あー、姫プねぇ。あれ」
「……姫プ?」
「うん、ミリィちゃんは知らなくていい言葉よ」
「……わかった。アイギスお姉さん」
「というかあの後ろ姿、どっかで見たことある気がするのだけど…………いや、まさかね」
そんな聖少女の姿を遠くから見ていた僕たちだったが、ふとその視線に気付いたのか、その聖少女がずんずんとこっちに近付いてきた。……結構足が速いな!?
「――あの、もしかしなくても龍姫様の契約者様ですよね!?」
そう言ってガシッと僕の両手を掴んでくる聖少女。
そんな彼女の言動を見て聞いて、彼女の後ろから慌てて追いかけてきていた神官プレイヤーたちの目が僕に突き刺さってきたのは……言うまでもないか。
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