第128話 決着、邪竜の影(※ランス視点)
――ランスSIDE――
それは一瞬の出来事だった。
突然霧が晴れたかのように辺りが鮮明に見えるようになり、その次の瞬間には全身がまるで七色に光ったかのようにスキルエフェクトが発動していく。
「これは……!」
「どうやら、やってくれたようだね。リュートくんたちは!」
エクセルさんとセインさんがこの状況をいち早く理解し、眼の前で突然黒いモヤが消えてしまって狼狽えている邪竜の影を睨みつける。
どうやらリュートさんたちは無事にスキル無効化状態を解除することに成功したみたいだ。
支援スキルによって重かった身体も一気に機敏になり、ギリギリだったHPも一気に回復する。
「よぉし、一気に行くわよ――って危なっ!?」
攻勢に転じようとし、前に出ようとしていたアイギスさんたちだったが、その背後から勢いよく火の玉が吹き飛んでいき、そのまま邪竜の影へと命中する。
弾道を遡ると、そこには闘志で燃えている――ように見えるミリィの姿があった。
「……ゼットさんの
そして、今までの鬱憤を晴らすかのようにミリィやカイトさんたちの怒涛の攻撃が放たれ始め、辺りは魔術による攻撃が繰り広げられることとなる。そこにリリッカさんたちも加わり、あっという間に邪竜の影はその魔術の嵐に飲み込まれてしまった。
呆気にとられていた俺たちだったが、そのまま
そうしていると、あっという間にゲージは削れていくので俺も慌てて戦いに参戦する。
「フハハハ! 行くぞ、アーサー!」
「言われるまでもない!」
そんな中、リュートさんの先輩のスズさんがパートナードラゴンのアーサーと共に前に出て、スズさんが『ダインスラッシュ』を放ち、アーサーが『ドラグブレイズ』を放つ。必殺系なだけあってかなり派手で、そしてかなり威力も高い。
まぁ、物理攻撃に耐性があるからそこまでのダメージではなさそうだったが、それでも足止めには十分だった。
……うーん、俺も早く槍術の必殺系アーツ覚えたいなぁ。
「お膳立てはしたぞ、リュート! よく知らんが鬱憤を晴らしてこい!」
「……! ありがとうございます、スズ先輩! よし、行くぞルヴィア!」
「うむ! ゆくぞ主殿!」
その後、スズさんに促される形で前に出るリュートさん。確か、リュートさんの使える攻撃って……。
「わわわ! 皆さん、下がってください!!」
俺は慌てて前に出ていたセインさんたちを下がらせる。流石にあの炸裂魔術に巻き込まれたら、フレンドリーファイアが無くても精神的にただじゃ済まない。
そして、最後はリュートさんの『エクスプロージョン』とルヴィアさんの『ドラゴンブレス』に呑まれる形で、邪竜の影は今度こそ散り散りとなって消えていった。
ぶっちゃけ、それまでの苦戦は何だったのかというレベルの呆気なさで、抵抗する間もなくなす術もなく攻撃をくらっていく邪竜の影の姿を見ると、逆に可哀想に思えてくる程であった。
その後、また何かしらの形態変化が起きるのかと皆武器を持ったままだったのだが、その直後に戦闘終了のアナウンスが流れたことで全員の緊張の糸が切れることとなった。
その後、先に死に戻っていたゼットさんたちが再びこのフィールド上に現れる。どうやら死に戻りしたプレイヤーは邪竜の影を討伐することが出来ると、また元のフィールドに戻ることができるらしい。ただ、プレイヤー自身の死に戻りのカウントはそのままとなっているようで、死に戻りはちゃんとしていることになっているらしい。
因みにカイトさんが自慢げに説明していたが、ここで死に戻りしたプレイヤーの数は邪竜の影の討伐失敗時に最終フェーズの敵が強化される数値となるらしいが、邪竜の影を討伐してしまえばそれまで何人倒れていてもカウントはゼロになるらしい。
ただし、あくまで討伐に成功した場合はということになるので、失敗すればその人数分強化されることとなる。流石はベータテスターだけあって詳しいなぁ。
因みに別働隊だったリュートさんたちはここで死に戻りしたプレイヤーが戻ってくるまで気付かなかったみたいだが、実は途中で邪竜の影の猛攻によりリッキーさんやユキチさんも死に戻りしていて、ゼットと共に申し訳無さそうに現れることとなり、リュートさんを驚かせてた。
「しかし、スキル封印とかこれ対策出来てなかったら一気に崩れるだろ……」
「そうね。今回は封印下でも使えるスキルがあったからまだマシだったけど……」
エクセルさんとアイギスさんが今回の第3フェーズを振り返って「はぁ……」と溜め息をつく。
2人が何を気にしていたのかよく分からなかったのでリュートさんに聞いてみた。
「そうだね。このスキル封印というギミックは、正直言うと、パーティーの振り分けによっては普通に詰みかねないからね。魔術士多めの編成だと攻撃自体が出来ない可能性も高いし、スキル封印後の邪竜の影の猛攻を回避しながら鱗を壊す必要があるんだ」
また、近接攻撃系のジョブだらけだとスキル封印後にまともにダメージを与えることが出来ないので、時間切れになる可能性が高いらしい。
「まぁ、今回の編成を見る限りはその点はうまい具合に振り分けられてたんじゃないかな」
カイトさんがフッと不気味な笑みを浮かべながらそう呟く。
もし、これがどちらかに偏っていたら……下手すると半分も削りきれなかった可能性が高いらしい。
そうなると、他のグループもうまくいっていればいいんだけどなぁ……。
「しかし、今回は反省点が多かったな。……振り返ってみると、今回はスキル使えないという事で途端にやれることが無くなってしまったことやそのせいでやや空回ってしまったこと……と、色々と拙い点が幾つかあったな」
反省、という雰囲気でリュートさんがウムムと呟く。それでもちゃんと討伐成功できたのだから万々歳と言う感じなんだけど、リュートさんはそこで終わらせないみたいだ。流石だなぁ。
「ハハハ。弟くんは、ゲームを初めてからまだ数日しか経ってないんだろう? それでここまで立ち回れてるなら十分でしょ。おじさんなんて他のゲームやってるからなんとかやれてるからねぇ」
フレイさんが笑いながらリュートさんの肩を叩いて激励する。そういえばリュートさんは普段からほとんどゲームをやらないって前に聞いた気がする。
俺も普通にVRのアクションゲームとかをよくやるからなんとかこういう操作に慣れてるけど、それもまともにやったことないのにここまで立ち回れるのはやっぱり凄いな、リュートさんは!
「それでも、やっぱりモヤモヤした感じの戦いだったかな」
「うむ。妾も最後しかまともに活躍できなかったぞ。途中、主殿にも見てもらえなかったしな」
「そういえば今回はほとんど別行動だったもんな。……次はしっかり一緒に戦えるといいな」
「うむ!」
そう言ってルヴィアさんと共に歩いていくリュートさん。うーん、いいなぁああいう感じのパートナー感。僕もメタルオーとあんな感じになれるかな?
……まぁ、その前に意思疎通が難しそうか。
その後、他のグループの様子が確認できるとカイトさんたちに呼ばれたので、俺もミリィと一緒にフィールドの中央にある光の玉――戦闘終了後に邪竜の影がいた場所にいつの間にか浮かんでいた――の下へと歩いていく。
「……取り敢えず、今のところうちを含めて2つが討伐達成してるみたいだな」
カイトさんがその光の玉に表示されている他のフィールドの情報を解説していく。
100人中の20人なので全部で5つのグループが存在するが、そのうち討伐に成功しているのは僕らのグループともう一つ。
誰が参加しているのかは分からないものの、おそらくはウルカさんのパーティーがいるグループではないかと思う。
他の3つのグループのうち、完全に全滅しているのは1つ。他はまだ戦闘中となっているが、制限時間がもう来るのでおそらくは討伐失敗となるだろう。
開始前の説明が正しければ、討伐失敗となっても死に戻りしたプレイヤーが少なければ、次のフェーズの敵が強くなる比率は低くなる筈だ。
「まぁ、見た感じだと死に戻りしたプレイヤーは少なさそうだから特に問題はなさそうだね」
その2つのグループで死に戻りしたプレイヤーの数は確認した限りではうちと同じくらいであり、セインさんによればそこまで影響は無いようだ。
むしろ問題となるのは全滅したグループの方らしい。
「あちゃー。やっぱり全滅したグループはいるわよね」
「全滅ってことは敵のランクがグンと上がるくらいは覚悟したほうが良さそうだな……」
アイギスさんとエクセルさんがその結果を見て呟く。
ベータテストの際の暴竜討伐では全てのグループで討伐成功となったが、今回は全滅が1つ、失敗が2つとなるため、かなり敵が強化するだろうというのがアイギスさんたちの考えだったらしい。
よく分からないけど、まぁ次の戦いも大変みたいだっていうのはよく分かった。
「……何はともあれ、討伐に成功して良かったな。まぁ、俺は死に戻りしてしまったが」
その結果を見て、ゼットさんは強面の顔を緩めてクツクツと笑みを浮かべる。そんなゼットさんの方に俺は歩いていく。
突然近付いてきたからか、ゼットさんは少しだけ身構えていた。
「……ゼットさん。貴方が庇ってくれたお陰でミリィが痛い思いをしなくてすみました。ありがとうございます!」
同じグループで戦うメンバーとはいえ、パーティーも違うさっき知り合ったばかりのプレイヤーを庇うなんてことは、普通なら率先してやらないだろう。それをすんなりとやってのけたのだから、この人は本当にいい人なんだろうなと思っていた。
その後、リュートさんが俺の方に駆け寄って来て、一緒に頭を下げる。
「ゼット。僕からもありがとう。そして、助けられなくてすまない」
「……私からも、ありがとう。ゼットさん」
気付けばミリィも一緒に感謝の意をあらわにしていた。
「あー……。気にするな、と言っても気にするか。俺も君らと一緒に戦えて楽しかったんだ。こんな顔だから中々仲間内以外で頼られたことが無かったんだ。……まぁ、助けられて何よりだよ」
感謝され慣れていなのか、ゼットさんは若干顔を赤らめてからそう呟いていた。
「まぁ、すっかり人気者ですね」
「あぁ。あのゼットが珍しく照れてる」
「……普段からあぁならもっといいのにね」
そんな様子をみてゼットさんのパーティーメンバーたちが暖かい眼差しでゼットの様子を見守っており、次の瞬間にはそんな彼らへゼットさんの怒号が飛ぶこととなった。
〈第3フェーズの制限時間となりました。これより、最終フェーズのフィールドへと移動します〉
その時、第3フェーズの終わりを告げるアナウンスが鳴り響く。結果としてギリギリ間に合ったのか、戦闘中であった2つのグループのうちの1つが討伐に成功しており、最終的には3/5が討伐成功、2つが失敗してうち1つが全滅という結果に終わった。
全て討伐成功したベータテストの時と比べると微妙な結果だが、このイベントの難易度やプレイヤー全体の練度の事を考えるとかなり善戦している方だろう。そう思わないとやってられない。
その後、最後の戦いへと向かうためにパーティー毎で転移が開始される。
「まずは俺たちだな。それじゃあみんな、最終フェーズは共に頑張ろう!」
「また一緒に戦えるといいな!」
「それじゃあお先にね!」
まずセインさんたちの臨時パーティーが転移し、その後カイトさんたちのパーティー、ゼットさんたちのパーティーと転移し、最後にこっちの番となった。
「いよいよラストバトルね。みんな頑張りましょうね!」
アイギスさんの声に全員で「おー!」と声を上げ、そのままアイギスさんは先に転移する。
「最後のボスはどんだけ強いんだろうな!」
「……全く能天気だな、お前は」
「ハハハ。スズ先輩はすっかりバトルジャンキーになりましたね」
「そういう主殿も結構楽しんでおったろ?」
「ちょっ、ルヴィア!」
そんな風に話しながらスズさんとリュートさんもパートナーのドラゴンと共に転移していく。残されたのは俺とミリィだけだ。そんなミリィに手を差し伸べる。
「最後か……よぉし! 頑張ろうな、ミリィ!」
「……うん、頑張る」
そしてミリィは僕の手を取り、そのまま最後の戦いの舞台へと向かうこととなった。
あれ、勢い余って普通に手を繋いでるけど……えっ、あれ……?
「……どうしたの、ランス? 顔背けて?」
「な、何でもない!」
何故か、その時の顔は見せちゃいけないような気がして俺はミリィの顔を見ることが出来ず、そのまま転移することとなった。
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