第127話 犠牲の先に
「ゼット!?」
ミリィとゼットの2人が鱗を壊しに向かってから全く戻ってくる様子が無いので、不安に思って後ろの方へと向かうと、そこには負傷したゼットの姿があった。
その側には涙目でゼットの様子を見つめるミリィの姿と、回復しようとしていたカイトとリリッカの姿があった。
しかしその傷は深く、なおかつ時間経過でHPが減少していく状態異常『腐食』が発生しているらしく、ゼットのHPはみるみる無くなっていく。
状態異常回復スキルを幾つか試してみて、カイトは首を横に振っていた。
その後、ミリィが僕が作ったポーションを使おうとして「無駄になる」とリリッカに止められていた。
そんな様子を確認しながら到着した僕を見るやいなや、カイトは僕の胸倉を掴みかかり怒りを顕にする。
「お前、何してたんだよ? 一緒に居たんじゃなかったのか!?」
一緒に行動していた筈なのにこのような自体になったことに対し、カイトは怒鳴りつけてくる。その声に思わず背中が強張る。
おそらく、カイトはこのフェーズを最善の状態でクリアしたかったのだろう。だからこそ、耐久が怪しかったゼットたちをわざわざ後ろに下がらせたのだから。
その結果がこれでは確かに怒りを顕にするのも仕方ないだろう。
「ちょっと、カイト! 流石にそれは言いすぎよ!」
それに対し、止めようとするリリッカ。その言葉を聞いて、自分が何を言っているのか気付いたのか、ハッとした様子で胸倉を掴む手を緩めるカイト。
「……すまない。ついカッとなってしまった」
「いや、僕の方もすまない。状況がわからないのに2人を別行動させてしまった。そのせいでこんな事に……」
本来ならこんなモヤがかかって見晴らしも良くない状況で、1人や2人で行動するのは危険だというのは分かっていたはずだった。
ただ、順調に鱗を壊していたこと、そしてアイギスたちが邪竜の影を引き付けてくれているだろうという慢心が、この状況を引き起こしてしまったのだろうと思う。
今まで順調に行き過ぎてたからと油断してなければ……もう少し気を引き締めていれば、こんな……!
「…………あまり、リュートを責めないでくれ。本当ならすぐに合流するはずだったんだ」
そんな中、辛そうにしていたゼットは僕を庇うように声を上げる。特に死にそうな感じという様子ではない。まぁ、ゲームなので痛みはある程度緩和されている筈だから、当然といえば当然だ。
カイトによれば、『腐食』の状態異常を回復させるのは現時点の状態異常回復スキルでは不可能ということで、もう1分近くでゼットは死に戻るのだという。
ずっとHPを回復させれば延命は出来るものの、流石に現実的ではないだろう。
「すまないゼット。僕は……」
「ハハハ。気にするな。俺は仲間を庇わなければと思って咄嗟に動いただけだ。それは……誰だって同じだろう?」
そして、最後に「しかし、ちゃんとプレイすれば楽しいもんだな、レイド――」と告げると、ゼットのHPがゼロになり、その体はその場から消える。
その後、何とも言えない空気が辺りを包み込むが、そんな中でカイトが僕の頭にスタッフを軽く叩きつける。
痛みは少なかったが、いきなり叩かれたので流石に驚く。
「……リュート、取り敢えずまだ鱗が残ってるんだろ? 壊しに向かうぞ。リリッカは向こうに合流して回復してくれ」
カイトはそう告げると、スタッフを掲げて歩き出す。
「分かったわ。……えっと、ルヴィアちゃんは呼ばなくていいの?」
リリッカは現在もスズ先輩のアーサーと共に邪竜の影と戦っているであろうルヴィアを呼び戻さなくてもいいのかと、カイトと僕に問いかけてくる。
「うーん。ダメージソースが居なくなるのはぶっちゃけ困るんだが……まぁ、リュートが必要っていうなら、連れてきてもいいんじゃないか? リュートのドラゴンだしな」
そう言ってカイトは僕の方を向く。……ここでルヴィアを僕の方に向かわせれば、それこそこのフェーズの勝利が遠のいてしまうだろう。
「いや、ルヴィアは邪竜の影に専念させる。そうしないと勝てないだろう? それに、鱗も残り少ない筈だ。……よろしく頼む、カイト」
「あぁ、任せろ。……ミリィも同行は問題ないか?」
僕が了承した後にミリィにも同行するか問いかけるが、ミリィは力強く頷いていた。
「……ゼットさんの犠牲を無駄にしない」
こうして僕とミリィはカイトと共に再び邪竜の影が飛ばした鱗を破壊するために、フィールドをかけることになった。
「オーケー。それじゃあ、さっさとこのクソみてぇなフェーズを終わらせるぞ」
カイトはそう告げると、ニヤリと笑みを浮かべる。
……さっきからカイトの口が大分悪くなってきたような気がするのだが、僕の気の所為だろうか……?
ふとリリッカに目線を向けると、「それがコイツの素よ」と告げていた。な、成る程……。
――その後、僕とカイトとミリィは再び鱗の破壊を再開し、その途中で反対側から回ってきたセーメーたちと合流し、最後の鱗を破壊しに向かう。
ザガンとリィルもゼットの死に戻りに関してはインフォメーションで知っていたようだが、最後までやり抜くと告げていた。
「まぁ、ちゃんとやりきらないと、先に待ってるゼットのやつが文句言うだろうからな」
「そうですね」
その後、僕らは最後だと思われる鱗を破壊すると、その瞬間にそれまで辺りを覆い尽くしていた黒いモヤが緩やかに晴れていった。
離れた場所でアイギスやランスたちが邪竜の影と戦っている姿が見えた。
「よしっ! これで、スキルが使えるはずだ!」
カイトがそう叫ぶのと同時に僕は支援スキルを発動していく。……うん、問題無さそうだ。
次々と発動していく支援スキルにアイギスたちの動きも機敏になっていく。
「……さぁ、今までの鬱憤を晴らさせてもらうよ」
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