第126話 不運な事故(※複数視点)

「よし、鱗を見つけた! ……ゼット、頼む」


「任せろ。――ハァッ!」


 発見した鱗をゼットに頼んで破壊してもらう。僕の場合、通常攻撃がジョブ特性でダメージ無しになっているので攻撃したところで壊せないし、ミリィにも厳しいだろう。それ故にゼットにはこっちについてきてもらった。


 ルヴィアを呼べれば、向こうのグループに行ってもらっても良かったのだが、流石に邪竜の影と直接戦っているメンバーの中のダメージソースを持っていけば、更にクリアが遠のいてしまうだろう。


 しかし、既に10枚近くは壊しているが、周囲のモヤは少し薄くなったような感じがする程度しか変化がない。


 これだけ壊して、まだ少し薄くなったくらいなのだから、どれ程の量を飛ばしたのだろうか。


 もしくは鱗から発生するモヤを止めても発生しているモヤは消滅しないということなのだろうか。


 何にせよ、少し薄くなったということは少なからず壊している意味があるということなので、他の鱗を探さなくてはならない。


「……あと、15分か」


 インフォメーションで告げられていた、ギルドによる救出まで残り15分を切ろうとしていた。


 当然ながらそれまでにあの邪竜の影を討伐できなければ、僕らのグループは『失敗』ということになる。


 始める時にはセイン達も失敗してもいいとは言ったものの、やはりやるのならばしっかり成功させたいと思うのは人の性だと思う。


「……リュートお兄さん、向こうにも鱗あった」


 その時、僕の側にミリィがふらっと現れる。2人で手分けして探している為、報告に来たようだ。


 とはいえ僕の場合、通常攻撃では鱗を壊せないので破壊はゼットに任せるしかない。


「分かったよ、ミリィ。……ゼット、ミリィが案内するから鱗を壊してくれ」


「任せろ。……しかし、どれだけ壊せば落ち着くんだろうな」


「流石に分からないね。……とはいえ、そこまで遠くには飛んでない事は確認できてるし、既に邪竜の影の真横辺りまでは探し終えたから、多分半分は切ったと思う」


 既に邪竜の影が咆哮を上げた場所の真横まで到達しているが、既に邪竜の影はセイン達に向かって進んだためその場には居ない。


 何故咆哮を上げた場所が分かるのかと言うと、どう見ても衝撃波が起きたであろう中心地が薄らモヤの向こうに見えたからだ。


「……そうか。それなら、あと少しというところか」


「あぁ。僕は先の方を確認しておくから、破壊したらミリィと一緒に合流して欲しい」


「任せろ」


「……じゃあ、こっち」


 ゼットはミリィに付き添う形で彼女が見つけた鱗の場所へと向かう。さて、僕は先の方を探すことにしよう。


 しかし、気の所為だろうか。ミリィたちを見送った時、一瞬だがモヤが濃くなったような気がしたんだが……。


 何だろう。凄く嫌な気がする。


 そう思って2人の方を振り向いたが、その姿は既に僕の見える場所には居なかった。




 ――ミリィSIDE――


 リュートお兄さんと別れた私は、目付きの悪いゼットさんというプレイヤーと一緒に鱗の場所へと向かった。


 この人、目付きは悪いけど全然悪そうな人ではなさそうで、むしろ歩きながら私のことを気遣ってくれるいい人だった。


 向かう途中、ゼットさんは思わず転びそうになった私を咄嗟に支えてくれたりしてくれた。何故そこまで優しいんだろうと思って聞いてみると、実は私と同じくらいの歳の妹さんが居るらしく、その子の姿をふと思い出してしまうらしい。


「妹は不器用でな。いつも、何もないところで転んだりして危なっかしいんだ。だから、そんな妹と同じくらいの君を見ていると心配になってしまってな」


「……成る程。ありがとうございます」


 因みにその妹さんは小学6年生らしいのだけど、もしかして私って小学生くらいに見られているの?


 一応、その妹さんが大人っぽい人なんだろうと思っておこう。まぁ、実際のところ私もまだ中学生なんだし、そう見られてもおかしくはないだろう。


 その後、私が見つけた鱗をゼットさんに破壊してもらい、そこからリュートお兄さんの元へと合流しようとする。


 しかし、何だか様子が変だ。


「おかしい。さっきから方向感覚が狂っているような気がするんだが……」


「……確かに」


 ふと周りを見ると、リュートお兄さんに報告しに行った場所からは大分離れてしまっていた。どうやらあの鱗を壊してから、方向が狂ってしまっていたらしい。


 そういえば、さっきまでよりも周囲のモヤが濃くなったような気がする。気の所為……ではなさそうだ。


 どうやらその影響で方向感覚が狂ってしまったらしい。じゃあ、ここは何処なんだろう?


「――ミリィ、危ない!!」


 ふと、周囲を探ろうと思って立ち止まった瞬間、遠くの方から聞き覚えのある声が響いてきた。


 あれ、この声は……ランス?


 そう思った瞬間、私の目の前に突如として黒い塊のような何かが、濃くなったモヤから飛び出してくる。


 これは、邪竜の影……!?


 ランスからはこっちの様子が見えたのだろう。邪竜の影が、濃くなったモヤで位置が分からなくなって不用意に近付いてきていた私に向かって飛びかかるのを見て、咄嗟に声を上げたのだろう。


「――っ!?」


 私は咄嗟に杖を構えたがその瞬間、今はスキルが使えないということを思い出す。


 ……どうしよう。このままだと、避けきれない。


「ミリィ!!」


 ランスの声がすぐ近くから聞こえてくる。おそらく私を助けようとして、急いで来ているのだろう。


「た、助け――」


 私がそう呟いた瞬間、目の前に飛び出てきた邪竜の影に重なるようにまたもう1つの影が飛び出してきた。




 ――ランスSIDE――


 俺が声を上げた事でアイギスさんたちもミリィが邪竜の影に狙われたことを知り、咄嗟に邪竜の影へと攻撃を仕掛けてヘイトを稼ごうとしていたが、邪竜の影はその攻撃には目もくれず、ミリィに狙いを定めて飛びかかろうとしていた。


「くそっ、やらせるかよぉ!!」


 ジョブアーツの1つである『ダッシュ』を発動した俺は、咄嗟に駆け出して邪竜の影に向かおうとするが、それでも間に合わない。


「ミリィ!!」


「た、助け――」


 声と共にミリィの姿がモヤの中から浮かび上がるが、その瞬間に邪竜の影が彼女へと覆いかぶさろうとする。


 だが、その攻撃はミリィに当たる前に何者かによって食い止められていた。


「…………大、丈夫か、ミリィ」


 そこには邪竜の影に肩から噛みつかれているゼットさんの姿があった。確か、ゼットさんはリュートさんとミリィと一緒に行動していた筈だけど……。


「このっ、離れなさい!!」


 その時、アイギスさんが盾を叩きつけて邪竜の影をゼットから弾き飛ばす。


 その後、セインさんとエクセルさんの2人がゼットさんから邪竜の影を遠ざけるよう、攻撃を与えながら離れていく。


 その先にはスズさんやアーサーさん、ルヴィアさんの姿が居た。ルヴィアさんが邪竜の影をギンと睨むと、まるで誘導されるかのように邪竜の影は真っ直ぐ進んでいく。多分、【威嚇】の効果なのだろう。


「――ランス! お前は影の方を追え! こっちは俺とリリッカに任せろ!!」


 ふと後ろからカイトさんの声が響く。ゼットさんやミリィのことが心配ではあるが、2人に対して俺がやれることは殆どない。回復スキルなんて持ち合わせてないし、あったとしても現状じゃ使えない。


 それならまだ物理攻撃を与えて早急に邪竜の影のHPを削るのが先決だろう。


 俺はカイトさんに2人を任せて、アイギスさんたちが相手をしている邪竜の影の方へと向かった。

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