第121話 楽しむということ

 そんなどんちゃん騒ぎのセインらのパーティーの話を聞いていると、2つ目のパーティーの中から初老の男性プレイヤーが、手を振りながら前に出て来た。


「……ほぉ。聞いてれば、君はあの竜騎姫ちゃんの弟なのかい! 僕はフレイと言うよ。おじさんだけどよろしくね。しかし、面白そうなグループに入れたようだねぇ! なぁ、カイトくん!」


「あ、あぁ……そうだな。俺はカイトだ。神官をしている」


 フレイと名乗った初期装備によく似た装備を纏った初老の男性プレイヤーは、後ろに控えていた僕と同世代に見える白い修道服を着た神官らしい男性プレイヤーの方を振り返りながら呟く。カイトと呼ばれたそのプレイヤーは困惑しながらも自己紹介をしていた。


 彼らのパーティーは、他には3人の高校生くらいの歳に見えるプレイヤーを含めて構成されているようだ。


 この中でベータテスターなのはどうやらカイトだけらしく、他のプレイヤーは全員ファーストプレイヤーらしい。


 しかし、フレイからはどう見ても歴戦の猛者みたいな雰囲気が漂っているのだが、どうやら別のMMO作品を渡り歩いて来たらしく、そういった意味ではベテランというべきなのかもしれない。


 因みに残りの高校生くらいの歳に見えるメンバーは、全員掲示板で知り合ったプレイヤーのようだ。


「僕はゼーレンだ。盾使いをしてるよ。よろしく!」


 まず、軽めの鎧を身に纏い上半身ほどの大きさの赤い盾を持った、短い赤髪の男性プレイヤーのゼーレン。彼は盾使いのジョブについているらしい。


 タンク役といえば、このゲームだと騎士か盾使いの2択のようなものらしいので、自ずと似た役割をしようとするとジョブは被るようだ。


「俺はユキチ。見ての通りの剣士だぜ。よろしく頼む」


 次に初期装備より少しだけ装飾が派手になった革鎧を身に纏い、両手剣を腰に携えた跳ね上がった金髪の男性プレイヤーのユキチ。彼は剣士のジョブについているらしい。


 剣士は人気のジョブなので当然ながら人口も多い。剣士と戦士のどちらかは、偏ったパーティー編成でもなければパーティーに1人は居るだろうというレベルで多い。


「アタシはセーメーだ。こんな成りだけど、一応召喚士をしているぜ。よろしくな!」


 そして平安貴族の衣装によく似た和装を着崩して纏った、黒い長髪の女性プレイヤーのセーメー。彼女は召喚士というジョブについているらしい。


 このジョブは確か特殊ジョブになっていた筈だ。ベータテストの時のまとめでは、それなりについている人は居たような気はするが、人気だったかどうかは流石に分からない。


 なお、この中で以前からパーティーを組んでいるのはフレイとカイトの2人だけのようで、この2人が残りの3人を掲示板で募集した形になるらしい。


 因みにフレイとカイトの2人は、どうやら攻略勢としてはかなり最前線を進んでいるパーティーに所属しているようで、どうやら最速でセカンダの街まで到達したパーティーのメンバーだったようだ。


 本来なら元のパーティーメンバーで参加するつもりだったらしいが、そのメンバーらの都合がつかずに2人だけになったらしい。そこからメンバー募集に繋がるようだ。


 エクセルらによれば、先程の防衛戦で壊滅のピンチに至った際にフレイが『バインドウィップ』というアイテムを使って窮地を救ったということらしい。その後も直接協力はしなかったものの、攻撃はしていたらしく、イヴェルスーンの足止めにはちゃんと関与していたらしい。


 その様子を見ていたエクセルによれば、かなりの実力の持ち主であることは間違いないようだ。


「しかし、結構な腕前だと思ってたが、まさかファーストプレイヤーでもう第2の街まで到着してるなんてな! 俺等、ベータテスターだけどまだ辿り着けてなかったからなぁ!」


「……まぁ、俺たちの場合は北門の先をメインに討伐依頼をこなしてたからね」


 セイン達はこの邪竜討伐が発生するまでは北門以降のエリアの攻略を進めていたらしい。確か、土砂崩れか落石で道が塞がってて先には進めなくなっている筈だが、それの撤去作業にエクセルが手を貸したりしていたようだ。


「いやいや、オジサンみたいなのが辿り着けたのは、カイトくんを始めとした優秀なベータテスターに出会えたからだよぉ〜」


 エクセルの尊敬の眼差しを、やや謙遜気味に受け取るフレイだったが、当のカイトからはジト目で見られている。どうやら身内からは相当な腕前として見られているみたいだなこの人。


「……ん? カイト? 確か、カイトってベータテストの頃にウルカちゃんたちと組んでたプレイヤーじゃないかしら? なんで、別のプレイヤーと組んでいるのかしら?」


 すると、そんな話の中にふとアイギスが割り込んでくる。……ん? このカイトってプレイヤーが、前はウルカと組んでいたのか?


「ゲッ、鉄仮面……!? お前も居たのか!? つか、誰と組もうが俺の勝手だろ!」


 そんなアイギスの発言を聞いて、びっくりしたのかカイトが驚いていたが、アイギスのことを『鉄仮面』と読んでいた。なんだそれ?


「相変わらず、その変な渾名で呼ぶの続けてるのね……しかし残念ながら、私はもうフルフェイス装備じゃないから当てはまらないわよ! 残念だったわね!」


 エリアボスの討伐報酬でアイギスが手に入れた鎧は頭部以外の全身を覆うタイプだったので、普通に顔が出ている。


 因みに兜やお面を被っていても、設定から非表示にすることで一時的に外すことは可能だ。最初に会った時のアイギスもそのようにして挨拶をしてきた。


 ただし、あくまで一時的な非表示設定なので、戦闘になると元に戻るらしい。


「なん…………だと……? って、そんなのは見ればわかる! お前は面の皮が厚そうだから――」


「そういうところよ。君の悪いところ」


 とうやらカイトというプレイヤーは、知り合いのプレイヤーのことを変な渾名――本人曰く、どうやら二つ名のつもりらしい――で呼ぶのが趣味なようで、ウルカの事もどこからか竜騎士であることを聞きつけて『竜騎姫』と呼んでいたらしい。なんかルヴィアと被るな。


 結構カッコいいのだが、それをうっかり本人の前で言ってしまったフレイによれば、ウルカはそこまで喜んでなかったらしいし、カイトを見つけた時は凄く睨んでいたらしい。


 何となくだが、彼がウルカから嫌われていることはよく分かった。


「……な、なぁ? お前、ウルカの弟なんだろ? 何とか仲裁とか出来ないかな? ついでに鉄仮め――アイギスとも」


「いや、僕に言われてもなぁ……」


 カイトからウルカやアイギスとの仲裁を頼まれたが、ウルカはともかく、アイギスはどうしようもないと思うんだが。


 取り敢えず、普通に呼べば良いのではないかと思うのだが、それで解決するとは思えなかったのでその場はなあなあのまま流すことにした。


 先程の防衛戦ではあまり協力しなかった彼らだが、取り敢えずウルカが居ないので協力するのは問題ないらしい。いや、協力しなかったのはウルカが居たせいなのか!?


「ま、よろしく頼むぞ。出来次第ではちゃんとお前たちの二つ名も考えとくからな」


「ハハハ……。あんまり期待しないでおくよ」


 その後、僕らのパーティーメンバーの自己紹介を一通り終える。流石に第3フェーズとなると、SSSSランクドラゴンの存在に一々驚いてはいられないだろう。それでもフレイ辺りのこちらと無関係の行動をしていたプレイヤーは驚いていたが。


 そして、残る3つ目のパーティーの順番となったが、彼らは少々罰の悪そうな感じでこちらを見ている。というかリーダー格であろうプレイヤーがじっと睨みつけてきているのが凄く怖いんだが。


 何故だろうと思っていたら、アイギスが耳打ちをしてくる。どうやら彼らはさっきの第2フェーズで特に戦闘に関わることもなく、砦に籠もっていたプレイヤーだったらしい。


 更に言うと、第1フェーズで例のプレイヤーがウルカに啖呵を切った事で離れていった複数のパーティーの1つで、おそらく最初のドラゴンブレスに巻き込まれて死に戻ったプレイヤーだろう。


 そんな事もあって、色々後ろめたい気持ちもあったのだろう。中々話しかけるのに時間を要しそうだった。


 やがて、気持ちの整理がついたのかリーダー格であろう金髪を刺々しく立たせたややパンク風な風貌の装備に身に纏ったプレイヤーが口を開く。


「……俺はゼットだ。戦士をしている。こんな顔付きのせいで怖がられがちだが、よろしく頼む」


 ゼットと名乗ったプレイヤーは、アバターを作成する際に色々手を加えたらかなり見た目がダーティー風なキャラになってしまったらしい。別に怒ってないのに怒っている風に見られてしまって大変だと語っていた。苦労してそうだ……。


 そして彼を皮切りに他のパーティーメンバーも次々と名を名乗っていく。


「俺は盾使いのザガンだ」


「私は魔術師のリィルです」


「……弓使いのフィオよ」


 ゼットとザガンが男性、リィルとフィオが女性という形になる。4人とも僕とは同世代に見えるが、大学生かそれくらいの年代だろうか?


 このパーティーの特徴として、全員目付きが悪い。ゼットはともかく、ザガンは設定で総白目にしているので普通に怖い。リィルはおそらくリアルの時点で三白眼なのだろう。フィオは眉間に皺がよっていてかなり睨んでいる感がある。


「……最初に言っておくが、俺たちはあんたらの足を引っ張るかもしれない。すまん」


 最初に謝るゼット。どうやら、彼らはとにかく参加条件であるプレイヤーレベルを優先的に上げたことで、ジョブレベルやアビリティレベルがそれに見合わない形になっているらしく、戦力的にはあまり良いとは言えない状態らしい。


 ステータスの方もそれぞれついているジョブに合わせたプリセット設定のものを選んでおり、よく言えば安定しており、悪くいえば個性がないという感じだ。


 他のパーティーメンバーも申し訳無さそうな表情を浮かべている。成る程、実際に敵を前にして腕に自身が無かったから逃げるような立ち振る舞いをしていたのか。


「なんだ。改まって言うからどんなものかと思っていたが……そういうのは気にしなくていいんだよ」


 ハハハと笑いながら、セインが口を開く。


「だって、これはゲームなんだからね。勿論、ウルカが言うようにイベントをしっかり成功するというのも大事だけど、他のプレイヤーはそうとは限らない。迷惑をかけるのは勿論ダメだけど、そうじゃなかったら自分が出来る範囲でやれることをやればいいのさ。それで駄目なら仕方ないと割り切るのが大事だよ」


「そうよ。こういうのはね、楽しんだもの勝ちなのよ。それで敵わなかったら『残念だったね』で終わればいいのよ。何もやらないよりはそっちのほうが絶対楽しいわ」


「うんうん。オジサンなんて自分が楽しいと思うことしかやってないからね」


「……いや、アンタは少しは自重してくれよ」


 セイン、そしてアイギスが微笑みながらそう告げていく。そして、フレイもそれに乗っかって話をするが、その態度に同じパーティーのカイトが頭を抱えていた。


 確かに勝利に拘ると、どうしても不確定要素というのは取り除きたくなるが、それ以前にこのイベントに参加している全てのプレイヤーにはこのイベントを楽しむ権利がある。


 その結果、残念なものになっても何もしなかったことを後悔するよりはマシなのかもしれない。


 それにウルカが言っていたが、たとえ死に戻っても、少しでも貢献すればちゃんと報酬は貰えるらしい。それなら積極的にイベントに参加するというのが正しいあり方なんだろうな。


「そ、それにステータス値のプリセット機能なら僕らも使ってるしね」


「…………(コクリ)」


 クリスとリッキーもどうやらステータス値のプリセット機能を使っているようだ。まぁ、僕みたいに極端に尖った性能もそれはそれでやり辛くなる原因になりかねないので、無難なところに落ち着くというのも悪くはないだろう。


 因みに他にはゼーレンとユキチもプリセット機能を使用したらしい。どうやら、精神データのステータス値だといったい何が出来るのか分からなかったので、基本的なものを利用したとのことだった。


 そういうのを模索するのも楽しいのに、と言うのはアイギスの談である。


「それに、今回はこの支援職の弟くんが居るから大丈夫だろよ! 頑張ろうぜ!」


 そう言って士気を上げていくエクセル。不安に覆われていたゼットらの顔も少しだけ明るくなったように見えた。


 この様子なら今回も大丈夫そうだな。最初はどうなることかと思ったけど……。

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