第120話 第3フェーズ

 周囲の光景がはっきりと見えるようになったのは、それから少し経ってからのことだった。


 そこは鬱蒼とした森の中の広場で、最初に転移させられてきた広場よりはかなり狭い印象があるが、ある程度バラけて戦えそうな広さはあった。


「ここは……邪鬼の棲森の中か? それにしてはやけに暗いな……」


 その空間は邪鬼の棲森の中にしてはやけに暗く、色彩も白黒に近いものになっているように見える。はっきり言ってかなり気味が悪い。


「どうやら、第3フェーズの『ランダムパーティーバトル』のフィールドに入ったようね。おそらく、元の森とは違う空間よ」


 アイギスがその空間を見て、邪鬼の棲森とはまた違う異空間であると示唆する。


 僕の周囲には同じパーティーメンバーであるランス、ミリィ、アイギス、スズ先輩、そしてルヴィアとアーサーが立っている。


 その他にはおそらく3つ程のパーティーが居るのだろう。14人のプレイヤーがそれぞれ5人、5人、4人に分かれて立っていた。


 どうやらこのフェーズだとだいたい20人ずつで分けられるようだ。ということは討伐対象の相手は5体居るということになる。


 そうなると1人足りないが、途中で離脱したプレイヤーなどが居るとどうしても端数が生じてしまう為、仕方ないだろう。


 そこでフェーズ開始までのカウントダウンが始まるが、見た感じでは今までよりも少しだけ長いようだ。更にインフォメーションでこのフェーズの説明が行われる。


 ――――――――――――――――――


〈INFO〉


・ランダムパーティーバトルの開始


 サブギルドマスター補佐のイーリアです。


 まずは砦防衛戦の成功、おめでとうございます。皆さんの活躍により再封印の為の準備は完了しました。


 しかし、邪竜は自らの影を切り離し、皆さんを異空間へと連れ去って行きました。おそらく、そこで皆さんの力を奪って自らの力を得ようとしていると思われます。


 その影は5つに分かれており、それぞれ異なる異空間に通じているようです。


 その空間に現れるであろう邪竜の影を冒険者によって討伐すれば、邪竜本体の力も大きく削ぐことが出来るでしょう。しかし、その異空間に皆さんが囚われている事が邪竜に力を与えているのは確かなので、空間は我々が総力を上げて破壊します。


 皆さんは我々が空間を破壊し救助するまでの間に可能な限り邪竜の影の弱体化、もしくは討伐をお願いします。救助には推定ですが、45分はかかると思います。その間、出来る限り生き延びてください。


 なお測定の結果、実際にその空間に影が出現するまでは今しばらく時間があるようなので、その間に同じ空間にいる冒険者の間で交流することをオススメします。……あまり、同じ冒険者同士で仲違いしてはダメですよ?


 ……皆さんが無事にこちらの空間へ戻ってこられることを願っております。


 ※影の出現まで、アビリティ編成を変更可能です。影の出現後は変更できなくなるので注意してください。

 

 ――――――――――――――――――


 今回はイーリアによるメッセージだった。サブギルドマスター補佐って結構偉いような気がするが……。まぁ一先ずそれは置いておこう。


 どうやら出現までの時間で他のプレイヤーと、この第3フェーズどのように立ち回るのかを話し合えという事らしい。今回は本格的に協力して討伐するか、もしくは自分たちがどれだけ生き延びれるかが重要になってくるらしい。


 それなら最初から競わせずに協力するよう言ってくれると助かったんだがな……。まぁ、第1フェーズと第2フェーズの惨状を見て、AIが追加したのかもしれないけど。


 取り敢えず、他のパーティーが合流するために動き出したので僕らも彼らの元へと向かうことにした。


 その前に、アビリティは第2フェーズで生産編成にしてたので、プリセットで支援スキル向け編成に戻す。


「……ん? あんた、あのドラゴンブレスでやられた人か?」


「アハハ……変な覚えられ方されちゃったな」


 先んじて向かっていたスズ先輩が声をかけていたのは、先程の第1フェーズのラストにイヴェルスーンの放った2発目のドラゴンブレスの的となって散ったあのセインであった。どうやら彼らのパーティーはこのエリアに充てがわれたようだ。


「おぉ! 例のメチャスゴ支援職の弟くんが同じ組か! こりゃあ、今回も楽勝だな!」


「ちょっとエクセル。そうやって油断してるから死に戻るのよ。もうちょっと気を引き締めなさいよ」


「ちょっ、それは言わない約束だろ、リリッカ! セイン、お前からもなんとか言ってくれよ!」


「……うーん、俺が言えた事じゃないからなぁ」


 セインの後ろには、第1フェーズの時にウルカに親しげに話しかけてきたエクセルとリリッカの2名が居た。そういえばこの3人は同じパーティーだった。


 確か、この2人はさっきの砦防衛戦ではウルカと共に前線でイヴェルスーンの足止めを行ったようだが、どうやらエクセルはその時に何かしらをやらかして死に戻ってしまったらしい。


 後でウルカから教えてもらった死に戻りしたプレイヤーの1人だったのか。


「や、やぁ……。砦の強化ぶりだね」


「…………」


「あ……。ぼ、僕はクリスだよ。こっちの無口のがリッキーさ。よ、よろしく頼むよ」


 セイン達のパーティーには他にもプレイヤーが2人居たが、確かどちらも生産スキル持ちということで砦の強化に当たっていたプレイヤーだ。


 オドオドと話しかけてきたのは、弓を掲げた鳥の羽が付いた帽子を被った男性プレイヤーで、名前はクリスというらしい。なんというか、しっかりと僕は顔を覚えられていた。


 そして外套を纏い、マフラーらしき布で口を覆い隠した男性プレイヤーは名前はリッキーというらしいが、全く喋らないのでクリスが代わりに名前を教えてくれた。


 年齢はおそらく2人とも僕よりは少し上だろうと思う。社会人かな?


 どうやらこの2人はファーストプレイヤーで、ゲーム開始時からたまたま出会った仲ではあったが、それぞれソロで参加していたらしい。


 今回のランダムパーティーバトルで、たまたま3人パーティーだったセイン達のパーティーに割り振られた形になるらしい。まさかソロで参加した知り合いが同じパーティーになるとは思わなかったらしい。


「まぁ、そういう事もあるだろ! ……あるかな?」


「ちょっと、私に聞かないでよ!」


 そんな奇遇をガハハと笑い飛ばすエクセルだったが、本当にあるのか疑問に思ったのか隣のリリッカに尋ねていた。まぁ、結果として杖でパシンと腕を叩かれていたが。

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