第119話 防衛戦の顛末
ウルカに連れ出された僕とルヴィアは、どうやらイヴェルスーンの足止めをしていたプレイヤーたちの元へと向かうらしい。
既にイヴェルスーンはかなりのダメージを追っている。
それこそ、既に足止めをしてくれていたプレイヤーや、それに合わせて攻撃を仕掛けたプレイヤーによってある程度ダメージを与えていてくれたということもあったが、それ以上にあの滅龍砲という装置によるダメージが大きかった。
ぶっちゃけ、あれだけでどうにかなるんじゃないかと思えるレベルだ。まぁ、そうなると弾の数が全然足りないので無理な話だし、そもそも砦の強化が間に合わない。
しかし、今回は僕を始めとして数多くの生産スキル持ちのプレイヤーが居たからここまで砦を強化することに成功したが、もし誰も生産スキルを持っていなかったら、それこそさっきの強襲で村は壊滅していただろう。
そう考えると、今回の邪竜討伐のゲーム難易度的にはかなり高めだったというのが推測できる。やはり、今起きるべきイベントじゃないだろこれ……。
参加条件のレベルが現状最高の推奨レベル帯の1つ下程度であったことからして、現時点での最高レベルに合わせて難易度とかは減らされているとは思う。
おそらくイヴェルスーンのステータスなどは、それに合わせて下げられているのだろうけど、それ以外の条件が中々にハードな気がする。
というか砦防衛戦をさせるのなら、どうすれば高スコアになるのかとか、もうちょっとちゃんと情報を出してほしいところだ。
幾ら、ベータテストの頃のプレイヤーが居るとはいえ、正規サービスだとまた勝手も違うだろう。
そもそも、このレイドイベントが全4フェーズあることは、公式からは一切触れられていない。既にベータテスターらが掲示板などで言いふらしているから大体知ってはいるだろうけど、そこは流石に事前情報として公開すべきじゃないかと思う。
まぁ、あまり愚痴ばっかり言っても始まらないか。
「――主殿? おい、主殿!」
「えっ、あっ! 何だ、ルヴィア?」
色々考えていると、ルヴィアに呼ばれていた。しまった。色々考えていたらすっかり意識がそっちの方に行ってしまった。
「上の空だったな。あまり良くないぞ? ……そろそろ攻撃を仕掛けると言っておったぞ。だから、魔力供与を頼む」
「あぁ、分かった。不要かもしれないけど、与えるのは少し多めにしておくぞ。――『魔力供与』」
どうやら先に攻撃を仕掛けに行くつもりのようだ。【魔力喰らい】で余計にMPを消費するから多めに与えておく。
流石に自動回復分だと心許ないので、僕はライトイエローマナポーションを使う。よし。
そのままルヴィアは「行ってくるぞ、主殿!」とニコニコ笑顔で呟いてから勢いよくセンディアから飛び降りる。ちょうど、砦側と反対側の攻撃が当たらなさそうな位置にポジショニングするつもりのようだ。
あ、落ちながらドラゴンブレスを使ってるな。
「……さて、ここら辺なら問題ないかしら。リュート、支援スキルをお願いするわ。できるだけ多くのプレイヤーを認識してね」
「成る程、俺を連れてきたのはこの為か」
てっきり、ずっと攻撃を仕掛けていたプレイヤーたちに止めのための支援をするために呼び出したのかと思っていたが、どうやらウルカは全体を俯瞰して全てのプレイヤーたちの姿を僕に認識させて、全体に支援スキルをかけさせるためにここに呼び出したようだ。
あの砦、全体を見下ろす時は砦側のプレイヤーが僕の後ろになってしまうし、逆に砦側のプレイヤーに向けて使おうとすると、下にいるプレイヤーが見えないから対象から外れてしまう。
だから、センディアを上空まで飛ばして全体を対象として見えるようにした、という事のようだ。
因みに【後方支援】の認識は僕が前にいると思えば対象らしいので、少なくとも対象ではあるだろう。後ろには誰も居ないからな。
「よし、じゃあ支援スキルを発動するぞ」
そして僕は第1フェーズの時と同じように支援スキルを重ねがけしていく。それと同時に『ライフリカバー』も発動する。これで多少ダメージを受けても何とかなる……かもしれない。
この支援スキルの発動で更に力が湧いたと認識したプレイヤーたちはこれで最後だと言わんばかりにイヴェルスーンに猛攻撃を仕掛けていく。
ウルカ曰く、ブレスを吐かない邪竜は弱いとのこと。まぁ、それでもあの尻尾の薙ぎ払いとかかなりのダメージになりそうだが。
……結果、イヴェルスーンのHPはあっという間に削れ、防衛戦のラストである30分を切ってから僅か数分でその決着は着くこととなった。
様々なアーツやスキルが飛び交う中、とあるプレイヤーがおそらく疲れのあまりに力が抜けたのか、その手に持っていた片手剣が勢いよくすっぽ抜ける。その瞬間、周囲のプレイヤーたちの視線はその剣に集まったらしい。
かくいう僕もその瞬間ははっきりと目にしていた。
そして、その剣がイヴェルスーンに突き刺さった瞬間、第1フェーズの時のように最後の咆哮を上げたイヴェルスーンは、姿を消すことなくその場に倒れこんだ。つまり、これがこの第2フェーズの結末となったわけである。
その光景を見たプレイヤーたちはそれに至った経緯から何とも言えない雰囲気となる。トドメをさしたプレイヤーはその周りからジロッと睨まれはしたものの、邪竜があまりに間抜けな最後だったことから、一気に笑いが広がっていった。
そしてその笑いはやがて歓声へと変わっていき、第2フェーズの決着を多くのプレイヤーが喜んでいた。
ウルカの話では今回の第2フェーズでは、イヴェルスーンの足止めをしていたプレイヤーの一部がその攻撃に巻き込まれて死に戻りした程度で、そこまでプレイヤーの数は減らなかったらしい。
その死に戻りしたプレイヤーの数もこちらが確認する限りでは10人程度だったようだ。尤も、別行動を取っていたプレイヤーたちの安否までは流石に分からない。
因みに、中には砦に籠もって何もしなかったプレイヤーも居るらしいのだが、おそらくそういったプレイヤーは報酬がかなり少なくなるのではないか、とウルカは言っていた。
「あくまでレイドイベントなんだから、ちゃんと参加しないと何も貰えないわよ。……それこそ全部死に戻ったとしても、果敢に挑みさえすればしっかり報酬は貰えるし。それに、仲間を庇ったりした形とかだと追加でボーナスが貰えるらしいわ」
まぁ、ベータテストの時の話だけどね――と最後に苦笑いを浮かべながら付け加えるウルカ。それが本当なら、第1フェーズで他のプレイヤーを巻き込まないように1人でドラゴンブレスを浴びて死に戻りしたセインも報われるだろう。
「けど、それを運営側が把握するのも大変だよね」
「そうね。基本的にこの手の判断はNPCにも使われているAIを利用しているんですって。ベータテストの時の暴竜討伐の時は確かそのAIが最後に顔を出していたわね。確か、女神だったかしら? 普通のNPCよりは偉そうな感じだったわ」
「ふーん、女神か」
どうやらこのゲームだと、運営側にもAIが居て、基本的に彼らが違反などを判断しているらしい。
この世界のNPCも、ここ近年でAI技術がかなり進歩しているのもあってか、普通に現実世界にいる人と同じように考え、行動する。まるで本当に生きているみたいに。おそらく、それと同じようなものなのだろう。
そもそも、今回のようなイベントだと更に時間加速しているのだから、監視のためにつきっきりで見るというのも大変だ。そう考えると、AI頼りになるのは当然だし、仕方ないのだろう。
「それこそ、前にリュートが掲示板で叩かれてたやつもAIによる対応になるんじゃないかしら?」
「あー、例のチーター騒ぎか」
確かに、以前のチーター騒ぎの時は運営の動きが早かった。あれは、実際に書き込みされてからゲーム内時間で1時間も経ってなかったから、外からではなく内からAIが動いたのだろう。
因みにあの時、僕に直接泥を投げつけたプレイヤーは結局3日間のアクセス禁止になっていたらしく、また嘘の情報を書き込んだプレイヤーは影響が大きいことから掲示板へのアクセス禁止とアカウント停止処分が下されたことが、数日前に運営からの謝罪と共にメールで届いていた。
まぁ、事が事だから仕方ないだろうと受け入れて、そのまま流し見してたので今の今まですっかり忘れていたが。
「ふーん、実行犯がその程度のペナルティって結構軽いのね」
「まぁ、反省してたみたいだし、僕もゲーム禁止までは求めてないよ」
ウルカが「そんなんだから泥投げられるのよ」と笑いながら告げる。しかし、もしかしたらこの手の監視しているAIっていうのは対象の感情なんかを読み取って判断しているのかもしれないな。じゃないと、実行犯はもっと重い罰を受けててもおかしくはなかった。
まぁ、精神データを数値化して、本当にやりたいことに合わせてパラメーターを決めるようなシステムを組み込む運営だから、それくらいはやっていそうだ。
それを聞いて、もしかしたらプライバシーの侵害じゃないかと言う人もいるかもしれないが、そもそも精神をデータ化して共通サーバーに繋がるこんなゲームをしている時点でお察しの状態だ。その利用に関しても、規約にそれらのデータの扱いについては確か載っていた筈だから問題はないだろう。
因みにベータテストの頃には実際にプレイヤーとしてテストプレイをしていた運営の人も居たらしく、おそらく本サービスでも数人は混じっているのではないか――というのがウルカの勘である。
まぁ、会ったとしてもただのプレイヤーである僕が気付くことは無いだろうし、そこまで気にする必要はないだろう。
その後、歓喜の渦が止まない地上に僕とウルカは降り立ち、その歓喜の渦の近くに向かう。
その頃には、砦にいたプレイヤーや、最後まで追いつけなかったプレイヤーたちもこの場に揃いつつあるようだ。
そして、追いつけなかったプレイヤーたちはいつの間にか大きくなっていたリーシャ村の砦に驚きを隠せてはいなかった。まぁ、仕方ないだろう。
僕らもまさかここまで大きくなるなんて思ってもいなかったんだ……。
「しかし、かなりデカい砦になったよな。村も何故か広くなってるし……」
「ねぇ、これって終わったら元に戻るのかしら?」
「いや、そのままなんじゃないか? 説明にも書いてあったし……」
歓喜の声の中で、追いついたプレイヤーが砦を見上げながらそう呟く。
そういえば、今回の砦の損壊や強化はそのまま反映されると説明されていたような気がするけど、やはりこの砦もそのまま残る形になるのだろうか?
そうなると、ここまで立派になった砦がある村を、果たして村と言っていいのだろうか……。もしかすると僕らは気付かない内に新しい『街』を作り出してしまったのかもしれない……。
――うん。このことは深く考えないでおくことにしよう。
しかし、そろそろ第2フェーズ終了のアナウンスでも流れてもいい気がするのだが、未だに何も変化はない。ここまでだんまりだと、まだ終わってないんじゃないかと少し怖くなる。
どうやらそれはウルカたちも同じだったようで、周囲がバンザイし合っている中、依然として進まないイベント進行に警戒を解かなかった。
こうなってくると、また形態変化とか行動変化とかしてきそうだ。もうHPのゲージは無くなってるけど。
「……ねぇ、あれは何かしら!?」
そんな中、ふと1人の女性プレイヤーが倒れたイヴェルスーンの姿を見て叫ぶ。そこにはイヴェルスーンの体から黒いモヤのようなものが湧き上がっている不気味な光景であった。
「これは――」
そう僕が呟いた瞬間、勢いよくそのモヤはその空間全てを包み込むかのように爆発的に広がりだす。
慌てて逃げ出すプレイヤーたちだったが、その勢いはおそらくこの中で最も早いであろうコトノハでも逃げ切るのは無理だろうと思える程のものだった。
当然、僕もそのモヤに包まれてしまい眼の前が真っ黒に染まってしまった。まさか、これで死に戻り? ここに来て失敗なのか?
〈第2フェーズが終了しました。これより、第3フェーズへと移行します〉
その時、アナウンスが鳴り響き、僕の視界に再び光が現れることとなる。
成る程。どうやら、フェーズ移行の演出だったようだ。……うん、紛らわしい!
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