第118話 滅龍要塞(※ウルカ視点)

 ――ウルカSIDE――


「あぁ、もう! 時間経過で強制移動なんて聞いてないわよ!!」


 私達の眼の前で砦に向けて悠々と滑空していく邪竜の姿を見て思わず愚痴を漏らしてしまう。


 それこそ、かなりいいところまで邪竜を削ることに成功した私達は、このままここでゲージを削りきってしまおうと大技を使う準備をしていたのだが、そのタイミングで急に邪竜は動きを変えて、空へと羽ばたいてしまった。


 思わず時間を確認したら、防衛戦が開始してから1時間半が経過していた。どうやら残り30分になると強制的に砦に向けて強襲を行うようになっているらしい。


 お陰で発動しようと思っていた大技はMPやSPの無駄遣いになってしまったし、移動する邪竜に対して他のプレイヤーから遅れを取ってしまった。


 とはいえ、砦の方には私達に協力してくれたプレイヤーたちが残ってくれているので一撃は問題ないだろう。


 ただ、ここからだと少し離れててうまく確認できなかったが、砦の方は大丈夫だろうか? あのままだと尻尾の一薙ぎですら壊滅的な被害になりそうな気がするけど……。


 そんな中、私はセンディアに乗っていることもあって他のメンバーの足並みに合わせず先に戻ることにした。これは先に皆には説明していたので特に問題はなかった。


「ウルカ、砦の方はどうなってる!?」


「まだ分からないわ! さっき聞いた時、順調に強化してるとは言ってたけど――」


 早く走れるからと一緒に戻ってきているコトノハ先輩は、邪竜が飛んでいったことで発生した小さな砂嵐の中、私に向こうの様子を問いかけてくるが、私も中々に目を開けられない。


 たしか、位置的にここにはファスタからセカンダへと向かう街道がある筈なのだか、イベントでの特殊仕様になってあるのか、草が生えてない平野から砂漠のような地帯とが入り混じっているような場所となっている。


 だから、こんな砂嵐が発生していた。


 しかし、邪竜が飛び出す前にアイギスから砦の強化は順調とは聞いていたけど、具体的にどれくらい上がったのかは聞いてなかったのよね……。


 もし、そこまで強化されてなかったら大変だわ……。


 そんな中、ようやく砂が落ち着いたのか、私の視界にリーシャ村の姿が飛び込んでくるが、その様相は私の記憶の中にあった、みすぼらしい村の簡易防壁みたいな姿とは大きく異なっていた。


「ちょっ、何なのよあれ!? ここまで強化してるなんて私聞いてないわよ、アイギス!?」


「うわぁ……。よくあそこまで強化したなぁ……。ベータテストの滅龍要塞と同じ規模じゃないか。いや、それ以上?」


 そこにあったのは強化レンガによって構成されていた強固な防壁で、竜を追い返す為の鋭い棘の返しがついており、その上には何門かの砲台がついている。


 どうやら、生産スキル持ちによる砦の強化は私達が想像していた以上に捗ったらしく、私達がベータテストで見た要塞と同じかそれ以上の状態となっていた。


 因みにその要塞は対竜専用に作られた要塞であり、またの名を『滅龍要塞』という。それと同レベルのものをどうやら彼らはあの簡易防壁から作り出してしまったようだ。


 流石に要塞の下には盾役のプレイヤーが居たが何も出来ていない。おそらく最初は彼らも戦おうとしていたのだろうが、頭上で放たれた砲撃がその全てを持っていってしまったらしい。


 その砦から放たれる大砲の攻撃により邪竜のHPがみるみる削られていく。まぁ、それでもまだピンピンしている辺り、レイドボスっていう感じだけども。


「ていうか、なんであんな大砲が私達の大技より相手のHPを削ってるのよ……」


「いやだってあれ、『滅龍砲』じゃないか……。私達が苦労して砦を強化してようやく一門作り出せたやつ。それが何門あるんだこれ……?」


 そういえば、滅龍要塞にあった砲台がそんな名前だった気がする。結構、火力が高いかったと聞いた記憶がある。


 私はその時も生産スキルは持ってなかったので特に砦の強化には関与してなかったが、当時はコトノハ先輩が生産スキルを覚えていたから砦の強化に回ってたんだっけ。


 先輩が言うには、あれでドラゴンに対してかなりのダメージを与えられるというらしい。ただ、大砲の弾はレベルに応じて弾数が決められている為、ベータのときはたった数発しか使えなかったとのこと。


 ただ眼前の様子を見る限り、複数個砲門があるし、かなりの弾数撃ってるわよね? いや、どれだけレベルを上げたのよ……。


 まぁ、どうせリュートの仕業なんでしょうけど。


「ということは、これ……もしかして私達戻ってくる必要はなかった?」


 大砲による攻撃に巻き込まれないよう、先輩を乗せてからふわりと砦の上へと降り立つと、そこで指揮を取っているアイギスに向けて話しかける。


 彼女は盾役のプレイヤーとは別に大砲の方で指揮をしている様子だった。砲門を動かしているのも盾役のプレイヤーだったので、おそらく半分に分かれてこっちに来たのだろう。


「いえ、そんなことはないわよウルカ。作れたと言っても滅龍弾はそんなに数はないから、ここからはプレイヤーによる総攻撃が必要よ。そもそも、前線のプレイヤーがしっかり押し留めておいてくれたお陰でここまで強化できたんだから、折角なら美味しいところも貰ってほしいわね」


 成る程、まだ私達の出番はあるということね。


 それなら、砦にいるプレイヤーと後続で追いかけてきているプレイヤーとで迎撃ができそうだ。


「そう。それなら、リュートを貸して頂戴。私は後続の方に戻るから、そこで支援スキルを使ってもらうわ」


 そう私言うと、アイギスの目が少し細くなる。


「リュートくんはこっちで安全に支援してもらおうかと思ってたけど、ウルカ的には弟くんと一緒に居たいのかしら?」


「違うわよ! ……いや、違わなくはないけど」


 ん? 何だ? 何を言ってるんだ私は?


 そんな私の呟きを聞いてか、何かアイギスがニマニマ笑ってるのがすごく気に食わないから2、3発だけ腹にパンチを入れた。


 まぁ全然力入れてなかったし、向こうのVIT的にこんなの蚊が止まった程度の痛みしかないだろう。そもそも、戦闘じゃないからダメージ判定も無かっただろうけど。


 相変わらず笑みは止めないのね。


「……いや、さっきから聞いててアレだけど2人ともなんで僕をそんな物みたいな扱いをするのさ」


 アイギスとリュートの扱いについて話していると、ちょうどその場にリュートとルヴィアがふらっと現れる。若干、自分の扱いについて不服そうな顔をしているが、そんなのは気にしない。


 というか、さっきの呟き聞かれてないわよね?


「……さっ、リュート! 行くわよ! 私に付いてきなさい!!」


「ちょっ、いきなりどうしたんだよウルカ……!? い、行くよルヴィア!」


「うむ? 分かったぞ、主殿」


 そして私はリュートを無理やりセンディアに乗せ、それからルヴィアをちゃんと乗せて、そして最後に私が飛び乗ってから後続の仲間たちの元へと戻っていく。


 既に彼らも砦の前に戻ってきている。やはりというか、なんというか……彼らもこの砦の変貌っぷりには驚いているようね。


 まぁ、それはさておき。


「……さぁ、第2フェーズの仕上げと行きましょう!!」

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