第104話 頼み事
その後、他にもアイテムが作れないかと色々試し、手を付けなかった毒劇物系も触れてみたところ、モウドク茸とモンスターの体液で『毒薬』、シビレ茸とモンスターの体液で『痺れ薬』を作ることができた。これらはスミレの投げナイフに組み合わせたり出来そうだな。
因みに幾つかの素材に関しては、アイテムのランク的に現状のアビリティレベルやDEXでは扱えなさそうだと悟ったため、扱うこと自体をやめることにした。暁の花とかはやはりもう少しレベルが上がらないと難しそうだ。
取り敢えず、オキナに部屋を借りての調合は一通り終わったのだが、結局アビリティレベルが1つだけ上がっただけだった。まぁ、そのお陰で『簡易合成』のスキルを覚えることができた。
しかし、予想以上にアイテムボックスが埋まってしまったな。素材系は幾つか使いはしたがまだ結構枠を占めている。これはやはりエクステンドサービスの加入を本格的に検討する必要がありそうだな……。
僕はオキナに素材などを預けられる場所がないか聞いてみると、「それなら、生産者ギルドの受付に言えば預かってくれるはずやで。ただ、引き取るのに金かかるけどな」と答えてくれた。
成る程。それなら後で粗悪品の処理ついでに預けてみるか。まぁ、今回は時間がないからイベント後になるだろうけど。
しかし、素材を預けたり、産業廃棄物の処理をしたりとやたらお金がかかるな、生産者ギルド……。まぁ、生産品を買い取ってばかりだと運営も成り立たないということなのだろうか?
「……因みにこのポーション、オキナが買い取るなら幾らくらいになる?」
「せやなー。低品質の中級ポーションが向こうで割高の2500ドラドやから、原価やこっちでの販売価格も見積もると、良品でだいたい1500ドラドくらいっちゅうところやな。――ってか、売ってくれるんか?」
これまでこまめに依頼を受けたりしているので、お金自体は実は1万ドラド近くは貯まってはいるのだが、それでも今後、店を立ち上げたりしようと思うと元手が全然少ない。
そもそも、商品の管理やら適正価格やらを考えるのが大変なので、正直なところ自分の店を持つというのは少し面倒ではあったのだ。
昨日はすっかり周囲にノセられて、それこそ自分の店を持つのもいいかもしれないと思ったが、ぶっちゃけ今回のような手当たり次第の調合をしてるほうが余程楽しいし、正直店を持つとなると管理が大変そうだ。
そもそも、自分が作りたいものを作りたい訳で。
そうなると、生産者ギルドに売りつけるくらいしか無いのだが、あそこは品質が良くないとあまり高くは買い取ってくれないし、そもそもの買取価格も安めな傾向にある。
僕の知り合いの中ではこのスライム混合ポーションに対して、まともな扱いをしてくれるのはオキナくらいしかいない。というか、他の生産職に知り合いがいない。
ならばオキナの店に置いてもらうという形で任せたほうが良さそうな気がする。
僕の店を楽しみにしてくれていたアイギスやウルカには悪いが、やはり店舗や従業員、そして資金の問題が解決するまでは手を出すのはやめておくことにした。
それこそ、防具の強化やその他のアイテムの購入でもお金は使うだろうし、まだその時ではないのだ。多分。
「今のところ、自分で店を持つのも大変だろうから、委託販売って形でお願いしたいかな。初級ポーションや竜玉も一緒に」
「それを自分の店を持っとるやつの前で言うか? ……まぁ、これに初級ポーションに竜玉も合わせて委託させてくれるっちゅうなら、こっちとしても特に問題はあらへん。ま、リュートはんが店を持てるっちゅう思った時まで間借りさせたるわ」
何とか委託販売の方は了承してくれたようだ。
取り敢えず、僕はオキナに各種スライム混合ポーションを10個ずつと、精巧品の初級ポーションを20個ずつ、そして経験の竜玉・小を30個、販売用として渡すことにした。
どれも数自体はもっと作っているのでより多く渡すことはできたが、レイドイベントで必要となるので渡せなかったし、あまり多く渡しても在庫になる可能性があるので、一先ずは様子見という事でこの数となった。
そもそも繁盛しているとはいえ、開店したばかりの店の店主にそんなにお金が残っているのかというとそうでもないのだろう。
因みに初級ポーションは精巧品ということで1100ドラド、経験の竜玉・小は効果も含めて5000ドラドでも売れると判断したらしく2500ドラドで買い取ってくれた。合わせて186000ドラドになった。これでも生産者ギルドで売るよりはおそらく高いはずだ。
まぁ、向こうの方なら貢献ポイントとかが溜まってギルドランクも上がるかもしれないが。
「……というか、店を購入したばかりなのにそんなに出して大丈夫か?」
想定していたよりも結構高額となったので、オキナの懐具合を心配したが、本人は特に問題ない様子だった。
「かまへんかまへん。どうせそれだけの元は取れとるし、リュートはんのアイテムは間違いなく売れるからな。せやから、店の方の踏ん切りついたら俺に相談したってな? ギルドには今回の件でかなり融通してもらえるようになったから、手助けしたるわ」
そう言ってニンマリと笑みを浮かべるオキナ。それならもう少し買い取ってもらおうか――と思ったがそこは流石に遠慮する感じだった。ちぇっ。
因みにこの店は一等地である事もあってか、購入には100万ドラドも使ったらしい。
本来、オキナの考えではもう少し小さめの家屋にする予定だったらしいのだが、出資金を出したナギがここにしようと譲らなかったらしい。大は小を兼ねると言っていたらしいが、大きすぎると維持とか大変そうだ。
まぁ、そのお陰で商人ギルドの対応がかなり良くなったらしいが。
そもそもNPC含めて人通りも多く、商品もそれなりの価格がするのに売れているので、金銭的には問題はないようだ。
「まぁ、その時はその時かな?」
「せやな。……さて、そろそろ時間やろ? きばりや! 」
オキナに指摘されて確認すると、結構集合時間ギリギリになっていた。おっと、危ない危ない。
このままだと不参加になってしまうところだった。
「ありがとうオキナ! ……じゃあ行こうか、ルヴィア」
「うむ!」
そして僕とルヴィアはオキナと店から出てきたナギに見送られて、聖竜神殿へと向かうことになった。
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