第105話 集うプレイヤーたち
僕らが聖竜神殿の前に辿り着くと、そこには同じように緊急依頼に参加するのであろうプレイヤーたちが集まりつつあった。
確か、緊急依頼の仕様だとパーティーを組んでいないプレイヤーは第2フェーズの防衛戦や第3フェーズのランダムパーティーバトルの際に、空いてる場所に割り振られる形になるという話だ。
なので見知ったプレイヤーと一緒に行動したい場合は開始前にそのプレイヤーたちとパーティーを組んでおく必要がある。
なので僕は出来ることなら知り合いとパーティーを組んでおきたいのだが……。
「あ、リュートさーん! こっちですよー!」
すると、大きな声で僕の名を呼ぶプレイヤーがいた。まぁ、分かるだろうがランスである。
その隣にはミリィとアイギス、そしてスズ先輩の姿があった。ランスたちとアイギスはともかく、スズ先輩も一緒だとは思わなかったな。
「遅いぞリュート! 待ちくたびれて、ソロで行こうかと思っていたぞ!」
「いや、それは別に構わないんですが……」
僕がそんなことをいうものなら、先輩からキッと睨まれてしまう。どうやら今回は僕らと一緒に組んで挑むことにしたらしい。
尤も、当初は前述通りソロでやるつもりだったらしいのだが、どうやらアイギスがそれを引き止めたようだ。
「今回、こうしてフルパーティーを組んでおけば、ランダムパーティーバトルで知らないメンバーがパーティーに入ってくるのを防ぐことができるのよ」
どうやら第3フェーズでのランダムパーティーバトルの際は必ずパーティーが組まれる仕様になっているようで、空いてる枠があるとそこにソロや少数パーティーのメンバーが組み込まれるようだ。
こういうときの連携をしっかり取るために、少なくともパーティー内は見知った者で固めたいということから、知り合いだけでフルパーティーを組めるのならそれに越したことはないらしい。
まぁ、ベータテストの時はパーティーが4組か5組くらいに分けられたらしいので、どのみち見知らぬプレイヤーとは共闘しないといけないらしいが。
取り敢えず、僕もランスたちとパーティーを組むことになった。その流れで何故かリーダーは僕になったのだが、全員から異論がなかったので押し付けられた形になる。
「ウルカのパーティーとユートピアのパーティーは4人ずつだったよね? そっちはもう1人入れる覚悟でやる感じなのかな?」
「ウルカはベータテストの時の知り合いを入れているらしいわ。ユートピアは私の掲示板での知り合いを臨時で入れてもらったわ。一応、ユートピアも掲示板で話したことがあったから意気投合したみたいよ」
成る程、そっちは取り敢えず問題なさそうってことか。既に色々段取りとかしてそうだから話をしに行く暇はそんなになさそうかな。
それなら仕方ないので、例のスライム混合ポーションはこのメンバーに渡しておくことにするか。
「みんな。さっき、作った回復アイテムなんだけど、渡しておくよ」
「あら、いつも悪いわね」
「ありがとうございます、リュートさん!」
「……ありがとう、リュートお兄さん」
「おー! 助かるぞ! 回復アイテムを切らせてて困ってたんだ!」
4者4様の反応を浮かべながら、3種のスライム混合ポーションと精巧品の初級ポーション各種を渡していく。
すると、その効果を見てまずアイギスの表情が変化した。
「ちょっと待って、リュートくん。これは一体何かしら……?」
「あぁ、さっきオキナのところで試しに作ったポーションだよ。多分、アイギスのHPでも十分回復できるんじゃないかな?」
どれくらいあるのかは知らないけど100程度しかないなんてことは恐らくはないはずだ。
「いや、十分ってレベルじゃないわよ!? 私、苦労して中級ポーション集めたのに、それと全く同じ回復量って……。しかも作ったってことはこの辺りで集められる素材よね? ってことはかなり安いんじゃないの……!?」
そして「私の10万ドラドがぁぁ」と叫ぶアイギス。どうやら、かなりのぼったくり価格で中級ポーションを買い集めたようだ。
とはいえ、回復手段が多いに越したことは無いだろう。アイギスには悪いが、反面教師にさせてもらうことにしよう。
「って、リュートくん! これ、わざわざ私達に渡したってことは、ウルカたちの分も用意しているんでしょう? それなら、今すぐウルカとユートピアさんのところに持っていくわよ!」
「えっ、いや今からだと邪魔になるんじゃ……」
「邪魔より準備が大事! ちゃんと渡しておけば、みんなの生存確率が上がるんだから、巡り巡ってこの依頼達成に繋がるのよ! ――さぁ、早く!」
「ちょちょ、待ってって!」
そう言われて僕はアイギスに引きずられる形でウルカとユートピアのパーティーの元へと向かうこととなった。そんな僕らを笑顔で見送るランスとミリィ。頼むから笑ってないで止めてくれよ!
そして、まずはユートピアのパーティーがいる場所へとたどり着く。ここはいつものメンバーに追加して、若い男性のプレイヤーが加わっていた。
「やぁやぁ! 初めましてだね! 俺はジラートっていうんだ! よろしくな、リュート!」
そのプレイヤーはジラートと言い、魔術士に就いているプレイヤーだった。どうやら僕のことも知っているようで、アイギスとは掲示板での知り合いだったらしい。
そして彼らにもそのポーションを渡すと、この中で1番驚いていたのはやはりジラートであった。流石に騒ぎすぎたのでナインスから「うるせぇ」とどつかれてしまっていたが、まぁ仲は悪くはなさそうだし連携の面は問題なさそうだな。
適当に挨拶をしてから彼らの元を離れると、次はウルカのパーティーの方へと向かう。そこには大きな杖を持った女性プレイヤーがいたが、どう見てもかなりのご高齢に見える。
「……ウルカ、その人は?」
「あらリュート。この人はナカバヤシさんよ。こう見えてもベータテスターなのよ」
ナカバヤシと呼ばれたその女性はコクリとお辞儀をするので、僕もつられてお辞儀をしていた。
本当はノーマルプレイヤーであるお孫さんと一緒に参加する予定だったらしいのだが、当のお孫さんのレベリングが間に合わなかったようで、1人で参加することになったところをウルカが誘った形のようだ。
因みにジョブは錬金術師のようだ。錬金術師は戦闘もできるものの、基本的には生産職扱いとなるのでこういうイベントに居るのは少し不思議だったがお孫さんと参加すると言っていたから、きっとそのお孫さんが乗り気だったんだろう。
ドラクルのベータテスト自体も、そのお孫さんが当選確率を上げるためにナカバヤシさんのアカウントも使ったらしいが、当選したのはナカバヤシさんだったというオチで、当然ながら紐づけされている人しかプレイできないので、孫から勧められて仕方なくプレイすることになったという事らしい。
それからゲームにドハマリしたらしく、こないだは高齢ネットゲーマーとしてどこかのネットニュースにも取り上げられたことがあるらしい。ちょっとした有名人とのことだ。
「こんにちは。ウルカちゃんとご
「こんにちは、ナカバヤシさん。今日はよろしくお願いします」
ナカバヤシさんと挨拶を済ませたあと、ここでもウルカたちのパーティーにスライム複合ポーションを渡していく。
すぐにウルカとコトノハから追求されたが、ナカバヤシさんが間に入ってくれた事で穏便に済んだ。とはいえ、ナカバヤシさんも興味津々といった様子なので、後で色々尋ねられるかもしれないな。
取り敢えず、これで知り合いにはスライム混合ポーションを渡し切る事ができたので、後はイベントが開始されるのを待つだけだ。
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