第106話 緊急依頼の始まり
そして緊急依頼開始時間になった。
ざわつくプレイヤーたちをかき分けて、冒険者ギルドの制服を着た受付の人たちが聖竜神殿から現れる。その中にはイーリスとセリスの姿もあった。
もしかしたら冒険者ギルドの人員全員居るのかもしれないな。そうなると今、冒険者ギルドは封鎖されているのだろうか? まぁ、後で分かることだろう。
その中にいる少しだけ衣装の違う初老の男性がその場にいる依頼を受ける来訪者にクラスカードを掲げるよう告げる。多分、ギルドの偉い人なのだろう。雰囲気が違う。
その指示に従ってクラスカードを掲げると、依頼を受けたプレイヤーのクラスカードが仄かに光り出す。どういう仕組みになっているのだろうか?
それらの数を把握した後、イーリスがその初老の男性に人数を教える。結構偉そうな人に話しかけているが、実はイーリスも偉い人だったのだろうか? それにしては普通に受付をしていたが……。
「…………あー、あー。聞こえてるかな?」
すると、1人の初老の男性が受付の人たちの横から現れると、マイクのような物を手に持って何かを話し出す。どうやらマイク型の拡声器のようだ。
「私の名前はクライス。このファスタの冒険者ギルドのギルドマスターだ。まずもって、君たちが冒険者ギルドの緊急依頼に、参加を表明してくれたことを感謝したい。今回はとある有力な情報のお陰で正確な復活日時を把握できたお陰で、総勢100名の参加を確認できた」
どうやら誰1人として欠ける事なく緊急依頼を迎えられたらしい。ベータテストの時を知るであろうプレイヤーたちからは感心の声が上がっている。
当時の参加率はどうだったのかは僕は知らないが、確か正確な日時が分からなくて急に呼び出しがかかって当時ログインできていたプレイヤーしか参加できなかったという話だと聞いている。
今回はルヴィアが正確なタイミングを指摘してくれたお陰でこの日のこの時間だということが明らかとなっていた為、参加表明したプレイヤーはしっかりその日に向けて準備を整えて、勢ぞろいすることが出来たようだ。
しかし、ここまで期間が空いてしまうと緊急依頼と言うにはのんびりし過ぎてる気もしなくないが、その点はあまり指摘しないほうが良さそうだ。
「今回、君たちに与える依頼内容はこれから復活するであろう『【邪竜】イヴェルスーン』の討伐となる。現在、我々冒険者ギルドの持つ特殊結界の中で留めているので、その結界があるうちに討伐をお願いしたい」
ここで新たな情報として邪竜の名前が『イヴェルスーン』という事が明らかとなる。
そしてその後は特殊結界の中ではドラゴンのオーラの影響で時間の経過が異なること、また結界を張れる時間が決まっていること等が説明され、邪竜の復活の影響で戦闘形式が大きく切り替わっていくといった、既に明らかとなっている情報が説明されていく。
結界が張れるのはゲーム内の時間で1時間となり、その中は8時間の時間経過となるため、少なくとも8時間以内に倒し切る必要があるようだ。
「今回、君たちが無事に邪竜を討伐することが出来れば、我々冒険者ギルドからは盛大な報酬を与える事を約束しよう」
そうクライスが言うと、あちこちから「うおおお!」と歓声が上がる。まだ討伐が始まってもいないのに勝った気でいるプレイヤーが居るのが気がかりではあるが、はやる気持ちも分からなくはない。
確か、ベータテストでは高ランクの召喚石を入手できたという事だったので、これで未知の召喚石で低ランクドラゴンを召喚してしまったプレイヤーは更なる戦力強化を図ろうという算段なのだろう。
「しかし、今回の相手は1人ではどうすることもできない。君たちの協力こそが、討伐に必要なものとなる。是非とも力を合わせて討伐を果たしてもらいたい。私からの話は以上だ。健闘を祈る」
そしてクライスは受付の人たちに指示をして、僕らを聖竜神殿へと促していく。
どうやら今回の依頼では現地まで自力で移動するということはしないらしい。
この聖竜神殿で竜神官たちの協力の下、『転移術』という技能を使ってプレイヤーたちを、邪竜がいる邪鬼の棲森へと転移させるようだ。
パーティーずつ呼ばれていき、僕らよりも先にウルカのパーティーやユートピアのパーティーが向かっていく。
そして僕らの番になったが、そこは僕らがこの世界に降り立った礼拝堂のような場所となる。
「おや。君はあの時の」
そこで転移術を行っていたダブリスと目が合うと向こうから話しかけてくる。
「お久しぶりです、ダブリスさん。今日はよろしくお願いします」
「任せなさい。龍姫様共々、安全にお運びしましょう」
そう言うと、にこやかな笑みを浮かべて転移術の術式を詠唱し始める。どうやらそろそろ転移するようだ
「……さて。いよいよ、緊急依頼の始まりだ」
「うむ。血が湧いてきたぞ!」
相変わらず物騒な発言をするルヴィア。まぁ、ブラッド・ドラグーンだから仕方ないね。
「うぅっ、緊張してきたぁ!」
「……大丈夫、ランス? ほら、深呼吸」
緊張し始めるランスとそれを冷静に対処するミリィ。この2人は相変わらずだな。
「前は参加できなかったレイドバトル……今回は絶対に勝ち残ってやるわ!」
アイギスは前回参加できなかったという積年の思いがある為か、いつも以上にやる気を出している。
「ふふふ、邪竜かぁ……どんな相手だろうな! 楽しみだぞ! なぁ、アーサー!」
「フン。どんな相手だろうと俺とお前、そしてニンゲン共の力があれば問題ないだろう」
スズ先輩とアーサーもまだ見ぬ強敵との戦いに心躍らせているようだ。
僕もまた、かなり気分が高揚しているのがはっきりと分かる。
そして竜神官たちによる詠唱が終わると、僕らを光の帯が取り囲んでいく。どうやらいよいよ転移のようだ。
「それでは、君らに龍神の加護があらんことを――」
そうダブリスが呟いた瞬間、僕らの周囲の景色は光が失われ、暗闇へと切り替わるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます