第115話 最前線(※ウルカ視点)

 ――ウルカSIDE――


「さぁ、敵のお出ましよ! なるべくここで削っておくわよ!!」


 私がセンディアに跨り、そう鼓舞すると周囲のプレイヤーたちが雄叫びを上げる。気付けば、私を神輿に多くの仲間が集まったものだ。


 勿論、私の指揮には従えないというプレイヤーも居た。そういったプレイヤーたちは、別方向から邪竜に挑みかかるか、砦に残るかのどちらかを取っているだろう。まぁ、さっきのこともあって邪魔さえしなければ気にしないことにした。


 本音を言えば、やはり全員で協力し合って戦えばもっと簡単に行けるのだろうが、中々それも難しいというのは先程身を持って感じた所だ。


 まぁ、私みたいな若い女に指揮されるのが気に食わないみたいな人が出てくるのは仕方ないだろう。私もチャラついたファーストプレイヤーが「俺の指揮に従え!」なんて言ってきたら殴り飛ばしてたと思う。


 結局はそういうところなんだろう。


 まぁ、結果としてこれだけのプレイヤーが私に力を貸してくれたのだ。それなら、その期待に応えられるよう頑張ってみるしかないだろう。


 そして、ついてこなかったプレイヤーたちに「一緒についていけば良かった!」と思わせて、ギャフンと言わせたい。……いや、それは流石にやり過ぎか。


「よし。まず、死なない程度に攻撃を与えていくわよ! 勿論、『死なない』のは私達の方だから、危険な時はすぐに離脱すること! 今回は盾役はあまり居ないから、カバーも厳しいわ!」


 今回は防衛戦となるため、とにかく制限時間まで留める事が重要となる。なので、こちらもちゃんと生き残って引き止めなくてはならない。


 勿論、時間内に邪竜を私達の手で倒してしまう分にはボーナスもあって問題ないだろうし、実際不可能ではないだろう。


 ただ、今後のことも考えると、それこそやれそうなら狙うという感じで行かないと、深追いすればこちらの傷も浅くなくなってしまう。


 そもそも、防衛の要となるリーシャ村の簡易防壁が破られてしまったら、このフェーズの成功はほぼ不可能となってしまうが、まずもって砦があのままではそれすらも難しい。


 せめて砦の方が万全になるまでは、私達の方である程度食い止めなくてはいけないわね。


「まずは俺達が行こう。先程は失態を見せてしまったからな。汚名返上させてもらうぞ」


 先程、最後の最後でドラゴンブレスにロックオンされてしまったプレイヤー……ええっと、確かセインっていう名前だったかしら? そんな彼を筆頭としたパーティーが先んじて邪竜へと突撃することを名乗り出る。


 エクセルとリリッカも居るようね。


 まぁ、そのトップバッターがどうこうは別に私は気にしていないので、他のプレイヤーが良いと言うなら別にいいのだけど……。


 取り敢えず、反対する意見は無さそうだから問題ないわね。


「それじゃあ、さきがけの方は任せたわ」


「ほぅ、中々難しい言葉覚えてるね。それじゃあ、大将には殿しんがりの方を任せようかな?」


「何言ってるの。殿は向こうの簡易城壁の方にいるわよ」


 そう言って私は向こうにあるリーシャ村の方向を見つめる。そこにはリュートがいるし、ルヴィアも控えている。万が一、こちらがやられても……いえ、そういうことは考える必要はないわね。


 そうこうしている内に邪竜の姿は近くまで来ている。第1フェーズよりも若干大きくなっているような気がするが、おそらくは気の所為ではないのだろう。


「こいつ……デカくなってやがる!」


「これって、もう一つ力が開放されたってこと!?」


「くそっ、それでもやってやるさ!」


 そう言いながら、セインたちのパーティーは邪竜に向かって攻撃を放つ。しかし、それらの攻撃に全く気付いていないのか、邪竜の進行は止まらない。


 どうやら相当大きな攻撃を与えないと動きを止めることは出来ないようだ。


 それにここまで無視するなら大技を当てる余裕は大いにありそうだ。


「そうくるなら、全員で総攻撃よ! 敵はこっちに気付いてないから、なるべくダメージの与えられそうなものを選んで!」


 そう言って私はセンディアに乗ったまま邪竜へと接近していく。


「「「うおおおおおお!!!!」」」


 他のプレイヤーたちも私の声を聞いて一斉に攻撃しに近づいていき、それぞれアーツやスキルを発動して行く。


 そして私も右手に構えた剣に力を込める。


「くらいなさい! 『トライスラッシュ』!!」


 私がアーツの『トライスラッシュ』を発動し、邪竜に向けて三連撃を与える。他のプレイヤーたちの攻撃も当たり始めると、ようやく邪竜は足元で攻撃している私達の姿に気付いたようだ。


「GRUUUU……」


 先程の第1フェーズではかん高かった声もかなり潰れており、短く鳴きながらその大きな尻尾を振り回し始める。


「尻尾の薙ぎ払いが来るわ! 総員、回避か防御!」


 そうまで言って、これが防御ができる規模の攻撃なのか不安になったが、どうやら尻尾の薙ぎ払いではなく、即座に地面に叩きつけて相手に衝撃を与える効果のものだったらしい。


 飛んでいる私はともかく、他のプレイヤーたちはその衝撃で地面が揺れ、一部は行動不能になっている様子だ。


 これは状態異常じゃないから、RESではどうしようもない。非常に面倒だ。もし、そのまま薙ぎ払いが来ればそれこそ全滅しかねない。


 そんな時、私達とは別行動していた他のプレイヤーたちの内、無精髭を生やした初老の男性プレイヤーがこちらに近付いてくると、咄嗟に何かしらのアイテムを使用する。


 そのアイテムから放たれた光の蔦のようなものが、一瞬にして邪竜の尾を掴んだかと思うとその瞬間に邪竜の動きが停止してしまう。


 その間に、行動不能になっていたプレイヤーたちは耐えきった他のプレイヤーに助けられながら、攻撃範囲内から離脱していく。


 それにしても、この効果は確か……。


「――バインドウィップね!」


「おっ、なんだぁ。嬢ちゃん、やっぱコレ知ってたのね」


 ちょうどそのバインドウィップを使用した男性プレイヤーが話しかけてきた。私達とは別行動をしていたが、別に私のことを嫌っているわけではないらしい。


「勿論。一定時間、モンスターの動きを止める事ができる消費アイテムよね。確か、入手手段がセカンダ付近のエリアに出現するドナートレンドからのレアドロだった筈……。ってことは、少なくともセカンダには到達してるのね」


「おぉ……そこまで知ってるとは、流石はベータの舞姫さんだなぁ。……いや、今は『竜騎姫りゅうきひめ』さんだったかねぇ?」


「なに、その二つ名みたいなの? 私知らないんだけど……」


「おっと、なんか怒らせちゃった? よく分かんないけど、ごめんねぇ……?」


 というか、向こうばかり私のことを知っていて私がこの男の事が分からないというのが気になって仕方ないのだけど?


 その事を邪竜の攻撃を回避しながら問い詰めると、その男は「フレイ」という名前のファーストプレイヤーだった。雰囲気的にベータテスターなのかと思っていたけど、違うみたいね。まぁ、結構強そうなのは雰囲気的に分かるけど。


 なんでも、この人、セカンダの街に最初に到達したパーティーの1人だったらしく、その道中で入手したのがこのバインドウィップだったらしい。


 私のことは同行していたベータテスターの知り合いから聞いたことがあるらしい。見知らぬプレイヤーにまで話が広まるって、私そんなに目立ってたかしら……?


 てっきり、今回の邪竜討伐の報告者がベータの時の暴竜討伐と同じ人程度だと思ってたけど、二つ名の方は……これが終わったら広めたやつをとっちめないといけないわね。


 まぁ、大方広めたのはアイツでしょうけど……。


「でも、バインドウィップってレアドロでしょ? いいのかしら、こんなところで使っちゃって」


 二つ名のことでイラッとしてたからか、ついつい煽るような感じで話しかけてしまったが、対するフレイはそんな私を見てニヤッと笑みを浮かべる。


「ホホホ。オジサンだって、ホントは戦力の少なくなる第3フェーズまではあまり使うつもりは無かったんだけどねぇ。ここでお嬢ちゃんたちが総倒れされると、今回は勝ち目がないかもと思ってねぇ。まぁ、オジサンからの『貸しひとつ』ってことで覚えていてくれよ」


「あら、それなら貸しついでに今後も協力してくれると助かるのだけど?」


「いやぁ、それもアリだと思うんだけどねぇ! さっきから、仲間にダメだと止められてしまってねぇ……。申し訳ないけど、オジサンたちはまた離れてから戦わせてもらうよ。……まぁ、お嬢ちゃんたちの邪魔はするつもりはないから、お互い頑張ろうねぇ〜」


 そう言って私達とは別の方向に離脱し、他のパーティーメンバーであろうプレイヤーたちと合流する。


 その中に見たことがある顔の、白い修道服の男が居たのだが、私のことを見るやいなやその男はそそくさと真反対の方向を向いて逃げていった。……成る程、変な二つ名を広めた奴を探す手間が省けたわ。


 ――後でとっちめてやる。


「……おーい、ウルカ! このあとはどうするんだい!」


 ふと、真下から先輩の声が聞こえてきた。一応、全滅の危機は回避できたし、あのバインドウィップのお陰であまり邪竜の足を進めさせることは無かった。


 この様子なら、もしかするとかなりの時間、足止めすることは出来るかもしれない。それこそ、制限時間いっぱいまで引き付けるのも可能だろう。


 私とセンディアはそんな希望を抱きつつ、コトノハ先輩たちの方へと向かっていった。


 さて、次の作戦はどうしようかしら……?

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