第114話 君のやれること

 防衛戦において重要なのはどれだけ敵を砦に近づけさせないか。


 そう語るのは他でもないウルカである。


「まず、盾役は防衛ラインの要として砦の前で敵の攻撃を受け止めてもらうわ。強力なブレスがなくても範囲攻撃とかは来るでしょうし、なるべく砦の耐久値を減らさないようにしましょう」


「そうだな。砦が崩壊したらその時点で失敗だしな」


 ウルカの指示に身の丈以上の大盾を持ったプレイヤーが賛同すると、他のプレイヤーたちもコクコクと頷く。


 先程は他のプレイヤーを守るための盾役ではあったが、今回は当然ながら達成条件の一つである砦の守護に当たってもらうことになる。


「そして、近接戦闘職は迎撃の為に前線に出てもらうわ。ただし、さっきまでと違って盾役は居ないから自分の身は自分で守ること。あと、AGIやVIT、MINが低めのプレイヤーは名乗り出て頂戴。その人は、防衛ラインで待機してもらうことにするわ」


「そいつらは盾役と一緒に防衛ラインの死守ってことか」


「そういうことになるわね。これもかなり重要だから、もし少なそうなら前線組から何名か割くと思うわ」


 近接戦闘職はAGIが高く攻撃を避けられるプレイヤー、もしくはVITやMINが高く素である程度の攻撃が耐えられるプレイヤーがまずもって前線で戦い、イヴェルスーンの進行を食い止めるようだ。


 盾役のいる防衛ラインにも近接戦闘職を控えさせるのは、その前線が何らかの理由で壊滅したり、敵が急速に動いたりした際に、咄嗟に対応するためなのだとか。


 遠距離戦闘職に関しても一部は射程の関係上、前線の方でないと攻撃が当たらないということもあって連れ立って向かうことになるが、大多数は砦の上から援護攻撃を行う事になるらしい。


 僕はどうすればいいのだろう? 砦で支援するのがいいのか、前線で食い止めるメンバーの支援をするのか。


「リュートは生産スキル持ちでしょ? 後で仕事があるから残ってもらえると助かるわ。……あと、この中で【鷹の目】持ちのプレイヤーは居るかしら?」


 そしてウルカが【鷹の目】持ちのプレイヤーが居るかどうか問うと、数名のプレイヤーが手を上げる。勿論、僕の隣にいたランスも手を上げている。そのランスが手を上げているのに気付いたウルカは、ランスの方を向いて話し始める。


「あら、リュートのパーティーに居たのね。ちょうどいいわ。それじゃあ、君に前線の様子を見ておく仕事を任せるわ。可能な範囲で前線の様子をリュートや防衛ラインの方に伝えて頂戴。途中で何があるか分からないから、これはかなり重要な役割よ」


「は、はい!」


 ランスは思っても無かった大役を任されたことで緊張してしまっているが、まぁ大丈夫だろう。


 僕は生産スキル持ちのプレイヤーとして砦に残ることになった。なんでも生産スキルが後から必要になるからということらしいが、詳しいことは特に話されなかった。まだ未確定な点があるからかもしれない。


 まぁ、基本的にここにいるメンバーで生産スキルを持っているのは後衛の魔法職や斥候系、そして純粋な生産職プレイヤーだったので、戦力的には問題はないだろう。


 勿論、パーティーメンバーのほとんどがイヴェルスーンの抑えの方に向かうので、それについていくという生産スキル持ちのプレイヤーも少なからず居たがのだが、そのへんを強制するつもりはウルカには無いらしい。


「また、押しつけだって言われたくないもの」


「ハハハ! もう、そんな事言うやつはここにはいねーよ嬢ちゃん」


 少しだけ頬を赤らませてから呟くウルカに対して、エクセルがガハハと笑い飛ばす。それにより周囲もクスクスと笑いだし、自ずと周囲の空気が少しだけ和らいだような気がした。


 その後、それぞれがそれぞれのポジションに向かう中、ウルカが僕とランスの方に近付いてくると、何やら宝石のようなものが付いた首飾りを僕にトレードを使って手渡す。


「これ。一応、使えるとは思うけど『思念伝達のペンダント』よ。5個セットになってて、前線の私とコトノハ先輩、それと防衛ラインのアイギスにはもう渡してるから、伝令とかを伝えるときにはこれを使って」


 どうやらアクセサリーの一種で【思念伝達】というアビリティを持ったもののようだ。同じセットの物であればイメージすることで会話が可能となるアイテムのようだ。


 どうやら、冒険者ギルドでウルカがギルドポイントを使って、レンタルしたアイテムとなるらしい。


 ギルドショップのレンタルアイテムなんて知らないと思ってたが、どうやらある程度依頼をこなしたことでギルドランクが上がり、ギルドポイントを使ったアイテムのレンタル機能が開放されたとのことらしい。


 僕も一応空いた時間で幾つか依頼をこなしているがまだランクが上がる気配はないので、彼女がかなりこのゲームをやり込んでいるのが理解できる。


 しかし、レンタル品なのに勝手に渡していいのかと思ったが、どうやら期限が過ぎると自動で返却――つまりアイテムボックスから無くなる――という仕様になっているらしく、その間売却は出来ないがトレードは自由にできるらしい。


「……こういうのがあるなら早く渡して欲しかったな」


 これがあればわざわざスミレに頼んで伝えに行ってもらう事も無かっただろう。不満を顕にすると、痛いところを突かれたと言わんばかりにウルカは苦い顔をする。


「そ、それは……まだ本番でちゃんと使えるかどうか分からなかったし、あの時はリュートの持ってきたアイテムで頭がいっぱいだったのよ」


 僕が持ってきたアイテム……あぁ、スライム混合ポーションのことか。確かにあれを渡されたらこのアイテムのことなんて忘れてしまう……のか?


「取り敢えず、今のうちなら装備変更できるみたいだから装備よろしくね。……それと、当然ランス君にも渡しておくから、リュートが居ない時は連絡をお願いするわ。あと、砦の進捗なんかも教えてくれると助かるわ」


「わ、分かりました。……わわ、落としそ――セーフ……」


 そして残り1つであろう思念伝達のペンダントをランスに渡す。その際に落としそうになって慌ただしく受け取るランスだったが、何とか落とさずに受け取ることが出来たようだ。


 装備変更して思念伝達のペンダントを装備し、試しにアイギスの方に【思念伝達】を使ってみる。使い方としては普通にフレンドチャットみたいな感じで喋るだけだが、その際は話したい相手をイメージする必要があるらしい。複数人に話しかけたい場合はそれぞれイメージすればいいらしい。


 取り敢えずアイギスに話しかけようとペンダントの宝石を持ってそう思うと、ほのかにその宝石が白く光り出す。連絡可能な感じだろうか?


「もしもし? アイギス、聞こえる?」


 僕がそう呟くと一旦光が止み、それから少しだけ経ってから再び宝石に光が宿る。その際の光は黄色だった。


『――はーい、リュートくん。聞こえてるわよ。ウルカから受け取ったのね? また後で連絡するからその時はよろしくね』


 アイギスがそう告げ終わると宝石から再び光が失われる。特にそれ以降は光ることは無かったので、終了のようだ。まぁ、話し終わったからそれも当然か。


 どうやら、向こうからの声は頭の中に直接響いてくる感じになるらしい。成る程、だから【思念伝達】って名前なんだな。


 基本的に話しかけられるのはそのプレイヤーが発言しておらず、また他のプレイヤーがそのプレイヤーに話しかけていないタイミングとなるらしいので、これは電話をかけるような感じに捉えると良さそうだ。通信できない場合は最初の光がそもそも光らないらしい。


 しかし、本来ならパーティーメニューでの通信機能があるので、ぶっちゃけこのレイドイベント以外に使う場所があるかどうかは不明だ。もしかしたら似たようなメニューでの通信禁止というイベントがあるのかもしれない。だからこそ、パーティーメンバーの数に合わせた5個セットなのかもしれないな。


 その後、再度アイギスに向けて連絡をする。


「一応、ランスもこれを持ってるから、もし僕に通じなかったりしたときはランスに伝えるよう頼むよ」


『ランスくんね。分かったわ。彼も色々責任感じてるかもしれないけど、君のやれることを一生懸命やるようにって伝えておいてね』


「それは自分で伝えても良いんじゃないかな? まぁ、分かったよ」


 僕らが話し終わった時点で、ウルカはセンディアに跨って前線に向かって飛んでいくところだった。一応、さっきまでと同じでウルカは最前線で指揮を取るようだ。


「けど、俺なんかが両方の様子の伝令だなんて出来るんですかねぇ……」


「大丈夫だよ、ランスなら! 僕やアイギスだって居るんだし、もしかしたら案外前線でウルカたちが食い止めてしまってこっちの役目も無かったりするかもしれないからね」


 ブレスが使えないらしいので、それなら変な行動をしない限りはもしかしたらウルカたちで何とかなるかもしれない。そう告げると、ランスも少しだけ安心した様子だった。


「アイギスが言ってたけど、君のやれることを一生懸命やるように、だってさ。まぁ、頑張れば報われるよ。さっきのメタルオーみたいにね」


「……はい!」


 力強く返事をするランス。頼もしい限りだ。アイギスからは後で役割があると言われたが、それまではランスと共にこっちで前線組の様子を見ることにしよう。まぁ、【鷹の目】がないからあまりはっきりとは見えないようだけど。


 そして、カウントダウンが残り僅かといった段階で遠くにうすぼんやりと竜のシルエットが見えるようになる。結構遠くに出現するんだな。まぁ、いきなり目の前に現れても、すぐに砦が破壊されそうだから助かるけど。


 いよいよ第2フェーズが始まるようだ。気を引き締めよう。

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