第113話 第2フェーズ
第1フェーズの終了と共に転移した僕らは、パーティーメンバー揃って第2フェーズの舞台となるエリアへと出現することとなる。
その舞台だが、どうやら僕にとっては見覚えのあるエリアだったようだ。
「……ここって、もしかしてリーシャ村かしら? それにしても異様な光景になってるわね」
アイギスが指摘するが、確かにこの光景は数日前に見たリーシャ村と同じ光景で、複数の家屋が並んでいる。
「ふーん、ここがリーシャ村かぁ。村人は流石に居ないみたいだな!」
「まぁ、居ても邪魔になるだけだからねぇ」
スズ先輩が辺りを見回しながらそう呟くと、アイギスが笑いながらそう告げるが、確か村に邪竜の話をした時には残る村人は何人か居るという話だった。そう考えると、おそらくは処理軽減の為に村人が描写されていないだけという可能性もありえる。
村の様子として、あの時と何か違う点があるかと言えば、村の外にあった外壁の向こうが変化している点だろうか。
今回の為にわざわざ作られたのか、外壁から先には簡単ではあるが大人3人分程度の高さの塀が建てられており、そこに付随して物見櫓みたいな塔や弓を隠れて打てるような小窓が設置されており、まるで簡易的な要塞と化していた。
村としての中身は同じだが、外に向けては完全に防衛戦をするための構造となっているようだ。
ただし、それらは現状だと取ってつけたように取り付けてある形なので、あのイヴェルスーンの猛攻では、すぐにでも壊れてしまいそうだ。
「それと、さっき死に戻りしたプレイヤーも居るみたいね。流石に例のプレイヤーはいないみたいだけど」
アイギスがそう言うので、ふと横を見れば先程イヴェルスーンにロックオンされたプレイヤーを押さえつけて死に戻ったユートピアがメイヴィたちと合流していた。
第1フェーズで死に戻ったのはだいたい30名程度だろうか。あの大混乱の中、これだけしか犠牲を出さなかったというのはメタルオーたちの尽力の賜物だろう。
因みに先程のフェーズで死に戻りしていたプレイヤーたちは先にこの村へと転移していたようで、先程の戦いの結末は空間に映し出された映像でしっかりと見ていたらしい。
ただ、アイギスの言う通り、最初にドラゴンブレスに狙われたプレイヤーは見当たらなかった。
さっき死に戻りした時にログアウトしたのだろうかと思ったが、アイギスの見立てではおそらく擬似的なモンスタートレインを行ったと運営に判断されて強制ログアウト処分になったのではないかという話だった。
このゲームでは、戦闘から逃げ出すとモンスターが消える仕様なので、本来ならモンスタートレインなどは起こり得ないのだが、それはあくまで普通の戦闘の場合に限る。
今回のような複数プレイヤー同時で戦うレイドボスの場合、その行動を利用して他の参加者に危害を加えようとすることは先程のように可能となる。
まぁ、どこまでを悪意ある行為として判断するのかは運営によるのだろうが、今回は悪意あるものとして判断されたということなのだろう。
そもそも、死に戻りしてから次のフェーズ開始までは、メニューが制限されるらしいのでログアウトできない仕様らしく、そうなるとアイギスの言ったことが正しいのだろう。
あれだけ迷惑をかけたのだから、しっかり反省してもらいたいものだ。
尤も、次があればの話にはなるが、流石に一回の暴走でアカウント停止にまではならないと思う。まぁ、僕は運営じゃないから基準とかは全く分からないけども。
「取り敢えず、僕らはウルカたちの元に向かうことにしよう。他のプレイヤーも既に集まってきているようだしね」
「分かりました!」
「……分かりました」
取り敢えず、ここに居ても何も分からないので、情報収集も兼ねて僕らもウルカたちの元へと向かうことにする。ランスとミリィが返事をしてくれた。
ウルカの周囲には先程賛同したベータテスターたちだけでなく、第1フェーズの途中から協力してくれたプレイヤーや、そのパーティーメンバーらが集まっており、かなりの数が揃っている。
どうやらウルカの指揮や行動に感化され、多くのプレイヤーがやはり協力が必要だと判断したようで、おおよそ7割ほどのメンバーがそこに集結しているようだった。
先程最初に賛同してウルカの指揮に加わったのが合わせて30人近くだったので、ちょうど真逆になった形となる。
逆に言うと、残りの30人近くは先程の戦いを経ても協力よりも自分たちだけで戦うことを選択したということとなり、これがこの第2フェーズにおいてどう影響をもたらすのかは定かではない。
最初にウルカを拒絶したプレイヤーたちは意地を張って加わることをしなかったし、それ以外にもウルカの指揮に加わること無く自分達だけで戦いたいというプレイヤーも別行動を取っている。
まぁ、先程の事を考えればどうにかなるんじゃないかと思ってしまうが、気を付けるに越したことはないだろう。
――ポーン。
ちょうどウルカたちの元に辿り着いた時、ふと何かしらの情報が開示されたであろう通知音が鳴り響き、周囲のプレイヤーたちが一斉にメニューのインフォメーションを開き始める。
「私達も確認しましょう」
アイギスがそう言うので、僕もメニューを開く。
――――――――――――――――――
〈INFO〉
・砦防衛戦の開始
受付嬢のシェリンです。皆さんの活躍により邪竜イヴェルスーンは復活地点から離れていきました。これより私達は再封印のための準備を行います。
しかし、邪竜イヴェルスーンは再び復活地点に戻ろうとしております。もし、戻れば再封印は不可能となる恐れがあります。
なので皆さんにはその進行を食い止めるため、この臨時砦において防衛戦を行っていただきたいと思います。
邪竜イヴェルスーンは、先程の戦いの負傷により強力なブレス攻撃などの広範囲攻撃はあまり使えない状態となっていると思われますが、十分に気をつけてください。
再封印に必要となる設備の準備完了に120分を要する予定です。もし、その時間内までに砦を防衛しきれずに、その向こうにある再封印場所へと移動を許してしまった場合、即座に次の作戦へと切り替わる事になるのでご注意してください。
勿論、先程のように撃退していただければ、より有利に進めることができるので、積極的に攻撃していただけると幸いです。その場合、追加報酬を用意するとギルドマスターは仰っております。
それでは皆さんのご武運をお祈りしております。
〈補足説明〉
※本フェーズでの特別仕様として、直接戦闘してない場合にのみ、メニューよりアビリティの編成や装備の変更が可能となります。ただし、新規習得は不可となります。また、一部のスキルの効果・仕様が本イベント用に変更されています。
※本フェーズによって発生した村の強化・損傷は本イベント終了後もそのまま反映されます。防衛に失敗した場合、リーシャ村は消滅する事となるので気をつけましょう。
――――――――――――――――――
そこにはこの第2フェーズである『砦防衛戦』についての情報が記載されていた。
成る程、このリーシャ村を守りながら邪竜を引き付けておく必要があるのか。そして余力があれば撃退すると追加報酬と。おそらく、さっきの第1フェーズと同じようにゲージを削り切れば撃退扱いになるのだろう。
ここで厄介となるのが、防衛戦ということで砦となるこのリーシャ村を守りながら戦う必要があるという点だろう。
おそらく、イヴェルスーンは邪鬼の棲森とは真逆の方向から出現するはずなので、そこから邪鬼の棲森を向かうのであれば間違いなくこの村は接近することになる。
前線で倒せればそれに越したことはないが、まぁそれはないだろう。
先程のドラゴンブレスのような広範囲高威力攻撃があまり使われないという点はありがたいものの、それでも普通に戦っていても損傷は免れないだろう。そもそも、その情報もどこまで鵜呑みにできるか分からないし。
「フッ、失敗するとこの村が無くなるって、中々厳しい条件付けてくるじゃない……!」
ウルカが苦々しそうに呟くが、ベータテストでの防衛戦は要塞を舞台としていた上にベータテスト終盤ということもあって、ある程度の損傷も特に問題ない状況だったのだが、今回は舞台が普通の村となっている為に、あまり酷い損傷を残すわけにはいかない。
「まぁ、私達はやれることをやるだけさ。それに、さっきよりは協力してくれるプレイヤーも多いみたいだからね」
コトノハが周囲のプレイヤーを見渡しながらそう呟く。そう言うと、周囲のプレイヤーたちもコクリと頷いていた。確かに人が多いとやれることも多いだろうからな。
そして第1フェーズと同じように視界に時間表示が表れ、この村にイヴェルスーンが現れるまで残り数分であることを示していた。
さて、ウルカはどうするのだろうか?
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