第112話 反撃の時間

 メタルオー、そしてアイギスのドラゴンによって作られたチャンス。これをウルカが無駄にするわけがなかった。


「さぁ、ここからは反撃の時間よ!! みんな、私に着いてきなさい!!」


「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」


 ウルカの掛け声によって士気が高まったプレイヤーたちにより、メタルオーによって付けられた傷がある場所を中心に攻撃が仕掛けられていく。僕は遠くに離れていた為、他の遠距離戦闘職のプレイヤーたちと急いでかけていく。


 ここからはスキルやアーツのオンパレードだ。各々がそれぞれの得意技を放っていく。


「オラァ! 『スラッシュエッジ』!」


「『シールドバッシュ』!」


「『ブレイクスラッシュ』じゃい!!」


「ハハハ! 『ダインスラッシュ』!!」


「『ハンマースパイク』っ!」


「『ネックスラッシュ』!」


「――『二連突』!」


「『乱剛打』だァ!!」


「アハハ!! 『ダブルスラッシュ』!!」


 僕からは声しか聞こえず、誰が何をしているのかは定かではないのだが、何名かははっきりと分かってしまう……。


 そして、聞き覚えのない声も混じっていたのだが、どうやらその攻撃の中にはウルカの指示に従うのを断ったプレイヤーたちの物も一部あったようだ。


 途中、うっかり邪魔をしてしまったプレイヤーも流石に協力しないといけないと思ってくれたのか、その後は僕らの邪魔をすることなく、それぞれ別の場所を攻撃し始める。


 その間に僕もようやく支援スキルを使える位置――正確にはイヴェルスーンと戦っているプレイヤー全員を視認できる位置まで戻ってくることができた。


 さっきのいざこざで効果が切れる前にかける筈だった支援スキルが使えなかったので、既に全プレイヤーが効果切れになっている。早いところかけ直さないと!


「……みんな、おまたせ! 今から支援スキルを発動するよ!!」


「「「よし、待ってたわ(ぞ)!!」」」


 僕はそのまま各種支援スキルを使い、その場に残っている全プレイヤーに対して支援効果を与える。これで時間までに、間に合えばいいが……。


 そして他の遠距離戦闘職のプレイヤーたちも攻撃を開始していた。こちらにもウルカの指揮に加わっていなかった他のパーティーの魔法職らが集まってきている。皆、考えることは同じらしい。


 既に僕の後ろには他のプレイヤーは居ないし、一番後ろにいることを笑うものも居ない。


「……『ファイヤーボール』!」


「『ウィンドカッター』!!」


「『ベノムショット』よ!!」


「『三式曲射・弧月』!!」


「『アイテムスロー』です!」


 そのまま近接戦闘職や遠距離戦闘職のプレイヤーたちは攻撃を続け、時に攻撃が放たれるときには盾役のプレイヤーたちがその攻撃を受ける。


「よし、みんな! あともう少し――って、何かまた口開いてるわよ!? まさか、またドラゴンブレス!?」


「すまない! 今度は俺が狙われたみたいだ!!」


「「「えぇぇぇぇ〜〜!?」」」


 ドラゴンブレス自体はどうやら1箇所を連続で攻撃し続けると発生する仕様だったらしく、ある程度バラけて攻撃していた為にあの後は放たれる様子が無かったのだが、最後の最後で共に戦っていたベータテスターの1人が狙われてしまう。


 その狙われたプレイヤーは、金髪のショートヘアー、戦士風の革鎧を着た片手剣と盾を使ったオーソドックスな、いかにも戦士然とした様子の人だった。確か、最初に話しかけてくれたエクセルとかいうプレイヤーの側にこんな人が居たような気がする。


 どうやら、調子に乗って同じ場所を連続攻撃してしまったらしい。それでロックオンされてしまったと……。


「マジかよ!? 流石にあれをもう一度は耐えられねぇぞ!?」


「いや、さっきみたいに軽減すれば――」


 誰かがそう叫ぶ。僕らの受けているダメージ自体は僕が【全体支援】で回復スキルを全体に反映させて随時回復させているのだが、あのドラゴンブレスを流石にまた素で耐えるのは不可能だろう。


 そして、メタルオーは流石にHPが限界で召喚できないらしく、ランスは他のプレイヤーからの視線を受けて手でバツ印を作っていた。


「――アイギスさん、さっきのってもう使えませんか!?」


 ランスは咄嗟に隣で縦を構えていたアイギスに聞いていたが、当のアイギスは苦笑いを浮かべている。


「流石にアレそのものは威力が高すぎて無理よ! さっきも、君のドラゴンがある程度威力を弱めてくれたお陰で、なんとか防げたんだから!」


『そうそう。流石にあの威力のままだと、まともに受けきれないかなぁ〜。それに、スキルのクールタイムもまだ終わってないからねぇ』


 先程、アイギスのドラゴンが使ったスキルはクールタイムが長すぎて使えない上に、ドラゴンブレスそのものを防げるほど耐久性があるわけではないらしい。


 というか、さっきも気になっていたがアイギスのドラゴンって喋れるんだな?


 しかし、ここに来て万事休す……と全員が思っている状況で、その狙われたベータテスターはにこやかな笑顔を浮かべて前に出て、右手でサムズアップのポーズを取る。


「流石に他の人を道連れには出来ないからな……。俺が1人で皆に影響の出ないところで受ける! だから……またな!!」


「「「セインー!!!」」」


 パーティーメンバーであるエクセルやリリッカらからセインと呼ばれたそのベータテスターは、僕らを巻き込まないようにと他のプレイヤーがいる場所とは真逆の方向に向かって走っていく。


 そして、それから少し経ってから放たれたドラゴンブレスの光線に飲み込まれ、セインと呼ばれたプレイヤーは一瞬にして消滅した。


 お陰で他のプレイヤーはドラゴンブレスの影響を受けることはなかったが、あまりにも凄まじい最後だった。……いや、まだ討伐自体は終わってないけどね?


 パーティーメンバーがずっとその名を叫んでおり、ウルカたちはその勇気に黙祷を捧げていた。


 減衰していないドラゴンブレスの威力を見たアイギスは、あれを耐えるには盾術のアビリティレベルを更に上げて新たなスキルやアーツを習得していないと無理だと言っていた。もしくは派生アビリティの習得など、ステータスを強化する必要があるみたいだ。


 少なくともこれから先にも不可能ということではないが、現状では無理という判断らしい。


 そして、イヴェルスーンはドラゴンブレスを使ったことで再び疲弊し、おそらく迎撃扱いになるまでの残り時間的に、最後の攻撃のチャンスが舞い降りてくる。


「よしっ、みんな! 彼の意思を受け継いで最後の猛攻よ!」


「「「おおぉぉぉぉ!!」」」


 おそらくはこのフェーズで1番プレイヤーたちの息があった瞬間だったと思う。ウルカの掛け声により最後の攻撃が開始される。


 僕らも何かしらの攻撃をしないといけないな。


「ルヴィア、『魔力供与』だ! デカいのを頼むぞ!」


 僕はMPをルヴィアに渡す。これで一気に削ってくれとルヴィアに託す。


「うむ、任せよ! 滅龍吐息――『ドラゴンブレス』!!」


「ルヴィア! 私たちも合わせるわ! 行くわよ、センディア――『ドラグ・ノヴァ』!!」


 そしてウルカの大技、センディアと共に放つ『ドラグ・ノヴァ』とルヴィアの『ドラゴンブレス』とが重なり、イヴェルスーンのゲージが大きく減少する。


 そこに数人のプレイヤーによるアーツがヒットし、なんとか撃退扱いになる時間の3分前にイヴェルスーンのゲージを削り切ることに成功したようだ。


「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?!?」


 その一撃を受けた邪竜の苦しみの咆哮が轟いたと思えば、その時点で第1フェーズが終了し、邪竜の姿が消滅する。


 一応、これで戦闘終了扱いになったらしく、各種経験値は得られたようだ。ただし、その反映は全フェーズ終了後、つまりはこの邪竜討伐が終わった際に行われるらしく、レベルアップしたであろうジョブやアビリティには変化が起きなかった。


 まぁ、これはレイドイベント中にレベルアップを果たして想定外のスキルやアーツを覚えられないようにするための対策なのだろう。


 一応、見かけ上ではこれ以上溜まらないようにも見えるがインフォメーションで注釈がされており、経験値の加算自体はちゃんとされるらしい。それならば問題ないだろう。


 また、流石に現時点でMVPとかが分かる仕様ではなかったらしい。まぁここで判明したらまた色々と揉めることになりそうだ。


〈第1フェーズが終了しました。これより、第2フェーズへと移行します〉


 そして、第1フェーズの終了を知らせるアナウンスと共に、僕らもまた次のフェーズの舞台となるエリアへと転移することとなった。


 もう少し勝利の余韻に浸りたかったが残念だ。まぁ、これもまだこのイベントの前哨戦に過ぎないのだろうから仕方ない、か……。

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