第109話 復活の咆哮

 そして、着実に準備が進んでいく中、邪竜復活までのカウントダウンは進んでいく。


 ウルカを筆頭とするベータテスターを中心としたプレイヤーの組は、ウルカを筆頭とした盾役のプレイヤーを最前として、その後ろに近接戦闘職、更にその後ろに遠距離戦闘職が並び、そして一番うしろに僕がいるという形になっている。


 傍から見れば僕が指揮官のように見えるかもしれないが、最前でドラゴンセンディアに乗っているウルカこそが本当の指揮官であり、今はそんなウルカを中心として皆が「えいえい」「おう」と鬨を合わせていることで士気を高めている。


 対して、ウルカの指揮を聞かないと決めた他のプレイヤーたちも、邪竜の復活を今か今かと待ち構えている。


 そんな彼らと僕らの違いは、復活した際の咆哮対策をしているかどうかという点だろうか。今は盾を構えていることでその影響を減らし、更に僕が『レジストアシスト』と『メンタルケア』を使ったことでほぼ全プレイヤーが200近くまで上昇している。


 そして例外は僕になるのだが、一応気絶対策にとウルカから耳栓を渡されている。どうやらNPCショップで購入していたようで、元はこれを使う予定だったようだ。


 これは、一度限りだが敵の咆哮を大きく軽減する効果があるらしい。因みに外部の音を消すわけではなく、それによる状態異常を1度だけ無効化するという効果なので、別に外の音が全く聞こえなくなるというわけではないらしい。


 早速つけているが、周囲の音は問題なく聞こえている。


「さぁ、そろそろ時間よ! みんな、気を引き締めなさい! 盾役は盾を構えて、他のプレイヤーと重なるように前に並ぶこと!」


「「了承!」」


 ウルカの指示により、僕らの集団は縦にプレイヤーが並ぶように整列する。こうすることで1人の盾役プレイヤーで多くのプレイヤーが咆哮の影響を受けないようにするようだ。


 僕は一応隊列の一番後ろに居たが、念の為に『ブラッドシェル』を使えるように構えを取る。


 そして、時間が経過していきやがて残り数十秒という状態になった時、目の前にあった巨大な黒い塊からミシミシと何かが軋み、砕けるような音が響くように発生する。


「10……9……8……」


 その音にこの場にいたプレイヤーたちの緊張感が一気に高まり、空気が瞬時に張り詰めたものとなる。


「6……5……4……」


 やがてその音が大きくなっていき、黒い塊にもヒビのようなものが走っていき、やがてパラパラと卵の殻のように砕け落ちていく。


「3……2……1…………0」


 そしてカウントダウンが0になった瞬間、爆発的な衝撃と共に黒い塊は砕け散り、その中から今回の討伐対象となる敵の姿が露わとなる。


 その姿は漆黒のオーラを纏う西洋竜といったものであり、全身が黒い鱗に包まれている中で蛍光ピンクのように光る発光体のラインが全身を走っている。


 そのラインは胸の辺りにある蛍光ピンクの球体のようなコアから四肢に向かって走っており、まるで脈打つ鼓動のように、おどろおどろしい光が走っていく。


 おそらく体長よりも長い尻尾と、広げると体長と同じくらいになっている翼を持ち、その目は正気を失ったかのようにコアと同じ蛍光ピンクの光が溢れていた。


 やがて、邪竜『イヴェルスーン』はその牙だらけの口を開くと、勢いよく息を吸う。


 その動作を見た瞬間、盾役のプレイヤーは目の前に盾を構え、防御用のスキルやアーツを発動していく。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』


 耳栓をしていてもはっきりと鼓膜を痺れさせるような勢いで咆哮を上げるイヴェルスーン。


 咆哮が終わったタイミングで僕がつけていた耳栓は役目を終えて消滅した。お疲れさま。


「うっせぇ! ……って、気絶スタンしてねぇ!?」


「スゲーな! 気絶スタンほぼ確レベルの咆哮だったのに、煩いだけなんて……」


 ウルカ率いるプレイヤー勢は慌てて耳を塞ごうとするも、特段煩いだけで自身に何の影響も起きてないことに驚きの顔を浮かべている。


 凄まじい咆哮は耳栓をしている僕ですら痺れるレベルだったので、当然ながら何の対処もしていなかったであろうプレイヤーの大半が完全に気絶状態で項垂れている。


 何名かは運良く気絶せずに耐えきっていたが、どうやら混乱状態にでも陥っているのか、前後不覚状態でふらついている様子だ。咆哮の追加効果か何かだろうか。RESを上げておいて、ホント良かった。


 最前で挑みかかろうとしていたプレイヤーに至っては咆哮によってダメージを受けた上で、その衝撃によってかなり後方まで吹き飛ばされて、そこで気絶していた。


 そんなプレイヤーたちに対してウルカたちはというと、その咆哮による影響を全く受けておらず、しっかりと盾を構えたままイヴェルスーンの姿を睨みつける。


 この後、どのような攻撃をイヴェルスーンが放ってくるのかをしっかり見定める為に今は動かない。これは作戦通りだ。


 それに対し、混乱にも運良く陥らなかった他のプレイヤーの1人が、我先にとイヴェルスーンに向かって攻撃を開始する。


「ハハハ! 1番槍は俺様が頂いたぜぇ――って、なんだぁぁぁ!?」


 颯爽と槍を構えて飛び出したはいいものの、その動きをはっきりと見られていた為に尻尾による薙ぎ払いによって吹き飛ばされる。


 更にその尻尾はかなりの長さを誇っていたため、その攻撃はそのプレイヤー以前に、前で気絶や混乱に至っていたプレイヤーや、僕らの集団の盾役プレイヤーをも巻き込んで薙ぎ払っていく。


 当然ながら、気絶や混乱していたプレイヤーたちは何も対処することができずに、1番槍のプレイヤーもろともに後方へと吹き飛ばされたが、こちらの盾役プレイヤーはしっかりと防御することに成功する。


「うおっ!? すげぇ! 攻撃がめちゃくちゃ軽い!」


「流石はリュートくんの支援スキルね! 普通なら受け止めきれないわよ、こんなの!」


 アイギスを始めとする盾役のプレイヤーたちは薙ぎ払いに対して軽々と受け止めている。自己強化セルフエンハンスも加わって、VITがかなり高くなっている彼らにとっては、何ともない攻撃だったようだ。


「――今よ! 近接戦闘職は前へ! 盾役は尻尾による薙ぎ払いの対象を! 遠距離戦闘職は相手が攻撃できないよう威嚇攻撃よ! リュートは攻撃範囲外で支援効果が切れないようスキルを回して頂戴!」


 ウルカの指示の下、ベータテスターを中心とした僕らの集団は一斉に前に出る。そして、邪竜に対して攻撃を開始する。


「おりゃあ! って、めっちゃ斬れる!? これ、ただの鉄の剣だぞ!?」


「そんだけ、火力が上がってるってことさ! さぁ、続くよ!!」


 自身の攻撃が思った以上に相手に効いてることに驚くベータテスターの1人に対し、ニヤリと笑みを浮かべながら2つに分離した剣を両手に持って切り付けていくコトノハ。まるで踊っているかのような太刀筋だ。さぞ気持ちいいことだろう。


 イヴェルスーンもこちらの攻撃に対して尻尾で薙ぎ払おうとするものの、それは盾役のプレイヤーが庇いに入り、更に今度はダメージ軽減のアーツを使用したのか、その盾役のプレイヤーがたった1人で薙ぎ払いを完全に受け止めていた。


 当の本人は驚いてしばらく呆けていたみたいだが、ウルカの掛け声で何とか追撃を免れていた。あまりに支援スキルが効きすぎても、少し問題があるのかもしれないな……。


 その間に別行動をしているプレイヤーを始めとする近接戦闘職はイヴェルスーンの足元から攻撃を放っていくが、僕が支援スキルをかけていないプレイヤーの攻撃は一部の強力なアーツ持ち以外だと、強固な鱗に阻まれてしまって、特にダメージを与えられてはいない様子だ。


 とはいえ、着実にダメージを与えることができているようで、これを繰り返せばこの第1フェーズは難なくクリアすることはできるだろう。


 僕も支援スキルの効果が切れる前に再度スキルを発動する。その際、態度の悪いプレイヤーに流されて別行動を選んだプレイヤーも対象に入ってしまったが、まぁ今は勝つことが最優先だ。


 ただ順調に進めていけたのも、つかの間なのであった。

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