第108話 支える力
結果、ウルカの元には僕らを含めて30人近くのプレイヤーが残ることになった。このプレイヤーたちはウルカを船頭にして戦うことを認めていることになる。
「うーん、やっぱり私、出しゃばるんじゃなかったかしら、先輩……」
「まぁ、みんながみんな、ベータのことやウルカのことを知るわけじゃないからね。仕方ないさ」
あまりの拒絶に結構気落ちしている様子のウルカに対し、その頭を優しく撫でるコトノハ。
「――ま、あっちは別に気にするこたぁねぇだろ、ウルカの嬢ちゃん? 俺達は俺達の、アイツらはアイツらのやりたいようにやるってことだろ? だったら話は早いよな!」
そんな中、店売りではないと思われる防具を身に纏ったベータテスターであろうプレイヤーが数人こちらへと近づいてくる。その中の1人が声高々に話しかけてくる。
「あら、エクセルさん……だったかしら? 久しぶりね。初日の朝以来? それにリリッカも来てくれたのね……」
「ウルカちゃん! 今回も勝利目指して頑張りましょうね!」
最初に話しかけてきたのは巨大な斧を背中に担いだ顎髭の生えた筋骨隆々な男性であり、次に話しかけてきたのは背の低めの白い魔女帽子を被った女性であった。どうやらこの2人はベータテスターからのウルカの知り合いらしい。
「……あんたの話は聞いていた。あんたなら、背中を預けられるだろう」
「君、結構強いんでしょ? 頼りにしてるわね」
その後、特に知り合いではないであろうベータテスターたちから称賛の声を浴びせられるウルカ。どうやらウルカはここのベータテスターたちからは概ね好評を得ているようだ。まぁそれはそうか。
これでベータテスターたちからも反発されたらどうしようかと思っていたが、ここに残っている以上そんな事はまぁあるわけがないだろう。
「ま、アイツらが足を引っ張ってくるなら、そん時に対処すりゃいいだろ。それに、俺達は嬢ちゃんの指揮力を直に知ってるからな。アイツらや邪竜に目にもの見せてやろうぜ!」
ガハハと笑い飛ばすエクセルに周囲の空気が少し柔らかくなる。
「……ありがとう。少し気が楽になったわ。それじゃあ、手短にだけど作戦を説明するわ。……まず盾役になれるプレイヤーは手を上げてくれるかしら?」
気を取り直して、満面の笑みを浮かべるようになったウルカ。やはり、しょげてるよりは明るすぎるくらいがうちの姉にはちょうどいいな。
そしてウルカのその問いかけに、アイギスやガンツを始めとした、数名のプレイヤーが手を上げていく。中には魔術士のようなプレイヤーも居たのだが、どうやら防御魔術を主体とする【青魔術】の傾向アビリティを覚えているらしい。そんな魔術傾向もあるのか。
ウルカは早速その人数を把握し、一旦頭の中で何かを考えつつもすぐさま作戦の続きを話し出す。
「……そうね、取り敢えず最初は敵の攻撃の様子をみたいから、全員ある程度離れた状態で盾役の後ろに待機。この手の敵はおそらく開幕直後に
成る程、ある程度最初は様子見をする感じか。確かにどんな攻撃をしてくるか分からない状態で飛び出しても返り討ちにあうだけだろう。
おおよそのプレイヤーはその作戦に了承の意を示す。まぁ、無難な作戦なので当然だろう。
その間、盾役のプレイヤーは削られ続けることになるが、その際は僕が支援スキルを使って底上げしたり、ユアヒールを使えばいいだろう。
それならば先に僕の事を他のプレイヤーに知っておいて貰った方が色々面倒もなくていいかもしれない。そう思って、僕は手を上げて進言をしようとする。
「……リュート? 何かしら?」
「いや、僕が支援職だってことをこの場にいる人に一応伝えておこうかなと思って。僕は一応、後ろにさえ居れば全体に支援スキルを与えることが出来るんだ」
そう言うと、周囲のプレイヤーからは困惑の表情を浮かべられる。
まぁそれもそうか。支援職なんて、それこそ物好きなプレイヤーがやるような役職だから、突然そんなことを言われてもという感じだろう。実際、プレイヤーからの評判もそんなに良くないと聞く。
中には「セルフエンハが……」と呟いているプレイヤーも居たので、その場にいるプレイヤーに【後方支援】や【後方支援強化】の支援スキルのこと、【全体支援】でこの場全員に支援スキルをかけられること、そして詳細は伏せたがジョブのお陰で支援スキルが自己強化スキルをかき消さないということを説明する。
案の定、何も知らないプレイヤーからは目をパチクリされて驚かれてしまった。……いや、この反応はこの場にいる全員が同じ感じになっている気がする。
「支援スキルの効果が4.3倍で、自己強化スキルとも被らないのか……」
「しかも、半減するとはいえ全体にその効果が及ぶのね……セルフエンハと被らないで2.15倍アップならそれなりの上昇量よね……?」
「しかも、回復スキルも全体反映なの? やば……。流石はSSSSランクの召喚者ね……」
何やらゴニョゴニョ言ってるつぶやき声が聞こえてくるのだが、聞こえないふりをしよう。……いや、無理だなこれ。
「何というか、どうしてそうまで規格外の方向に進むのかしら、リュートくん……」
「まぁ、見たところ簡単に習得できるものではないようだからなぁ……」
アイギスがまたもや額に手を当て、ユートピアは顎に手を当てて悩みながら言葉を漏らす。確かに設定されていた条件は難しめではあったのだが、【スキルリンク】のお陰で結構簡単に達成できたというのは内緒にしておこう。
「とにかく、リュートは後衛で支援ってことね。任せたわよ」
「あぁ、任された」
取り敢えず、僕の立ち位置だけは早々に決まった。後はルヴィアなんだけど、取り敢えず前衛の方になったらしい。その後も他のプレイヤーの立ち位置は決まっていくこととなった。
そういえば、残った他のパーティーの人たちはルヴィアとアーサーを見ても特に驚いてなかったようだが、既に僕らの事は認知済みということはさっきの発言でも明らかだった。
僕自身としてはそんな他人に目立つようなところで戦闘とかしてた記憶はないんだが、やはり街を歩いていると目を引くのだろう。ルヴィアが。
その後、ミリィを始めとした多くの後衛のプレイヤーが僕の前に立っていく。
一応、彼らも僕の前に立たないと【後方支援】の効果が得られない。見た目としては僕が完全に他のプレイヤーから守られているように見えるな。
すると、少し離れたところから人を小馬鹿にしたような笑い声が聞こえてくる。
「アハハハハ! 何だよあれ! みんなに守られないと戦えないんでちゅかぁ?」
「ウケる~! 守られないと足手まといになるんなら参加しないほうが良かったんじゃな〜い?」
さっき、ウルカに対してあーだこーだ言ってきたプレイヤーたちの声だ。どうやら僕の姿を見て馬鹿にしてきたようだな。なんというか、数日前に僕の事をチーター呼ばわりしてきたプレイヤーと似たようなものを感じる。
もしかすると、ファーストプレイヤーってそういうプレイヤーばっかりだったりするのだろうか? いやまぁ、そんな事はないだろうけど……。
そんなちょっかいを出してきたプレイヤーに対し、前に立っていたミリィやメイヴィ、スミレ辺りから「誰を馬鹿にしてるんだ?」と言わんばかりの黒いオーラが立ち上がっているが、頼むから攻撃だけはしないでくれよ……?
確かに腹は立つだろうが、相手は一応このレイドバトルにおいては味方となる筈なので、この場での余計な揉め事は控えたい。
――という風に相手も思っていてくれてたのなら、こんな気苦労はしなくて済みそうなんだけど、そもそもそういうプレイヤーはこんな挑発なんてしてこないのである。あぁ、頭が痛い。
「……さて、外野の声は聞こえないふりをするとして、取り敢えず【全体支援】の効果範囲とかを確認しておこうかな」
僕はひとまず罵声を浴びせてきたプレイヤー達のことは一旦頭から消して、【スキルリンク】と【軍勢統率】とが統合して出来た【全体支援】によるスキル適用範囲がどの程度なのかを確かめることにした。
直接かけるのは……まぁ、ここは自分のドラゴンであるルヴィアでいいだろう。ちょうどジョブアビリティの効果も確認したいし。
「よし――『ガードアシスト』!」
僕がルヴィアに向けて杖を掲げてそう呟くと、支援スキルの効果が発動する。
まずルヴィアは【後方支援 レベル6】と【後方支援強化】による4.3倍、それから【ドラゴンサポート】の効果により1.4倍の効果が付与される為、おそらく6.02倍程の効果が与えられる筈だ。
次にパーティーメンバーは【全体支援】の効果で4.3倍の半分となる2.15倍程の効果が反映される。具体的な数値は分からないが話を聞く限りはそれに近い値になってそうだ。
そして周囲のプレイヤーにも確認したところ、【全体支援】の効果によってこちらも2.15倍程の効果が反映されていたようだ。
そして、側に居なかったプレイヤーに関しては特にスキル発動時に何かが変化したような様子は見られなかったらしく、普通にそのままの様子だった。何人かが別行動している知り合いに聞いてみたらしいが、やはり僕が見ていなかったプレイヤーに効果が反映されている様子は無かったようだ。
そうなると、【全体支援】の対象は僕が認識しているプレイヤーだけということになるのだろうか。
もし、全体を俯瞰できる場所で使えば全体にかけることも可能なのかもしれない。……尤も、あの様子だとそれは難しい話のようにも見えるが。
「確かにこれで私がかけていた『ガードエンハンス』の効果がかき消されないから、リュートくんの話は本当だったようね」
どうやら既に『ガードエンハンス』を発動していたアイギスが僕の『ガードアシスト』で効果がかき消されない事を確認すると、周囲からどよめきが起こる。
嘘ではなかったと確信できた事で、自己強化スキルを覚えているプレイヤーが次々使っていく。一応、スキルで消費するMP量の管理とかはちゃんとして欲しいんだが……。
「因みにアイギス、効果はどうなってる?」
アイギスに支援スキルと自己強化スキルの効果の同時反映がどうなっているのかを尋ねる。
もしかしたら、先に『ガードエンハンス』を使っていたから、『ガードエンハンス』での上昇後に倍率がかかっているのかもしれない。
しかしアイギスからの答えは、元のステータス値に支援スキルの倍率が乗った上で、自己強化スキルによるステータス値の加算が行われているというものだった。
やはり、そんなうまい話は無いようだ。
「それでも同時発動は結構強力だと思うけどね。それじゃあ、残りの支援スキルもどこまで同時にかかるか頼めるかしら?」
「あぁ、任せてくれ。『アタックアシスト』、『マジックアシスト』、『マインドアシスト』、『レジストアシスト』、『ダッシュアシスト』――それからオマケで『リリーブテンション』に『メンタルケア』だ」
ウルカに指示され、僕が連続で支援スキルを発動すると、ルヴィアに次いで周囲のプレイヤーが凄まじい勢いでピカピカ光り出す。
流石にその光景に僕を馬鹿にしていたプレイヤーも言葉を失っている。まぁ、普通はこんなにスキルを連発することは無いからな。
今は8つのスキルを使用してMPは200以上消費したが、30秒後には【魔力循環】で60ポイント程回復するので、全回復には2分もかからない事になる。なので、普通に邪竜が覚醒するまでには全回復する事になる。
あと、開始前に魔力核の保管杖にはちゃんとMPを溜めておいたので、それとは別に200ポイントほどのMPの余裕はある。ただし、これは使えばそれっきりとなり、戦闘中には溜めることは出来ないので、使い所に関しては慎重に考える必要がある。
幸いにもアイテムの持ち込み制限とかはないので、スキルをより連発したい場合はライトイエローマナポーションを使うだろうし、この溜めたMPは余程切羽詰まった状況にならないと使う機会は無いかもしれない。
因みにメンタルケアに関してはRESの効果値上昇も兼ねての発動となる。多少なりともRESの数値を上げることができれば、気絶の影響もそこまで多くはないだろう。
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