第102話 新しいレシピ探し

「せや。リュートはんは初級ポーションのレベルによる回復量制限って知っとるよな?」


「あぁ、知ってるよ」


 オキナのルームのキッチンで、エプロンを身に纏ったルヴィアに諸々の力仕事を手伝ってもらいながら各種ポーションや経験の竜玉の生産をしていると、ふと背後からオキナが話しかけてくる。


 生産に関しては幾分か簡略化した割にはそれなりに出来のいいものが作れている。装備によってそれなりに技量が上がっている証拠だろう。オキナには感謝だ。


 まぁ、アビリティレベルだったり、汎用調合キットの補正などもうまい具合に効いているのもあるのだろう。それは坑道で作った際にも感じている。


 その汎用調合キットの中身は、初級のものに追加して切断作業用のナイフとカッティングボード、そして薬草類や鉱石を擦りつぶりたり砕いたりするのに使う薬研が追加された形となる。


 生産アイテムの出来がいいと感じてはいたが、キットとしてはグレードが少しだけ上がった程度なので、もしかしたら誤差の範囲内かもしれないし、気持ちの問題かもしれない。


 尤も、表示上はどれも優秀止まりであり、具体的にどのくらいの品質なのかはもう少し【鑑定】のレベルが上がらないと分からないらしい。


「回復量制限があるのに初級ポーションばっかり作るのは勿体ないんちゃうかなと。いくら性能が落ちにくくても、中級ポーションの方が効果高いんやし」


 一応、僕の製法だと効果がそこまで落ちないので問題ないと思ったが、やはり中級ポーションが必要そうな感じか。中級ポーションは普通品で回復量が120ポイントらしい。


 既に周りのプレイヤーもHPやMPが200近くある場合も多いと聞くし、そうなるとやはり回復量が70の場合と120の場合だと、全快する為に必要な個数が増えてしまう訳だ。


 僕の場合も400もあるから回復が中々に面倒だ。まぁ、【魔力循環】の効果で回復自体は早いので今のところはそこまでアイテムを使う機会も無いのだが。


「流石に中級ポーションはなぁ……まず素材が手に入れられないっていうのが問題だな。そもそも、中級ポーション自体がまだセカンダの街のNPCショップでしか売られてないらしいし、素材もその付近にしか無さそうだ」


 中級ポーションのレシピそのものはベータテストで判明しているのだが、肝心の素材はこのファスタの街近辺では手に入れられない。


 そもそも先行していたプレイヤーがそれらの素材を見つけたという話も聞かないので、もしかしたらレシピや素材そのものが変わっている可能性もある。そうなると現状ではお手上げとなる。


「せやったら、レベル関係なく回復できるポーションがあればええよなぁ」


「レベル関係なく、か……」


 流石にそんな都合のいいアイテムは今の僕のレシピには存在しない。あったらすぐに作っていただろう。


 基本レシピそのものは、アビリティレベルが上がる際に新たに習得するのだが、それはそのレベルで製作可能なアイテムのごく一部に過ぎない。


 その他の製作可能なアイテムに関しては、他のプレイヤーやNPCからレシピを教えてもらって生産するか、自力で見つけ出すしかレシピの登録方法はない。


 他には魔導杖を作ったときに経験の竜玉を始めとした魔核を利用する一部のアイテムのレシピが登録されたように、特定のアイテムの生産で関連アイテムのレシピを覚えることもあるが、それは稀有な例となるらしい。


 要するに今の状態だと作りようがないということになる。さてどうしたものかと悩んでいると、ふとルヴィアが口を出してくる。


「それならば手当たり次第に試してみればよいのではないか? 主殿なら、自動で作れるスキルがあるのだろう?」


 そうルヴィアに言われてハッと気付く。オート生産に関しては登録されたレシピを作るパターンと、自分でアイテムを選択して組み合わせて作るというパターンが存在する。


 組み合わせでオート生産を行う場合、その生産キットで使用できるアイテム種や選択できるアイテム数が変わるものの、基本的に自由に組み合わせて生産することができる。


 ただし、生産できるアイテムは実際に作ってみないと分からないし、ほとんどの場合は組み合わせが間違っている為に『産業廃棄物』という名のゴミが生まれる。


 ただ、アイテムが生産できる組み合わせであれば、僕のDEXなら普通品程度なら作れるだろう。そこから改良する形でやればいいものが作れるかもしれない。


「ほーん。取り敢えず、時間もあらへんし、それで一通りやってみたらどやろか?」


「そうだな。それでレベル関係なく使えるポーションが出てくれば……」


 僕とオキナは互いに見つめ合うと頷きあう。これで組み合わせを探してみよう。仮にポーション系が出来なくても、意外と面白いアイテムが出来上がるかもしれない。


 そうして僕は汎用調合キットを使ってポーション類のレシピ探しを行うことにした。


 汎用調合キットでは素材を最大4つまで使え、使用できる素材の種類は植物系・モンスター系・水系・鉱石系の4種類となる。


 初級の時は3つまで、かつ扱える素材は鉱石を除いた3種類だった。


 植物系は薬草や魔力草や、キノコ系が当てはまる。他にも樹木などの素材も扱えるが、普通木材などは木材系として分類されるため対象外となる。


 モンスター系だとスライムの粘液や獣骨、モンスターの魔核などが当てはまる。この手は基本的にモンスターから得られる素材が該当するが、流石に毛皮とかは使えないようだ。


 水系は浄化水や魔力水などが当てはまる。魔力水は鉱山の麓やファスタの森の奥に湧いているようで、アイギスが幾らか汲んでいたものを昨日貰っていた。


 鉱石系は各種鉱石や原石などが当てはまる。鉱石から取り出した欠片や、それを加工したインゴットなどは金属カテゴリーとなるので使用不可となる。


 また、植物系やモンスター系の素材には食材に該当するものもあるが、今の調合キットでは植物系は問題なく使え、モンスター系だとスライムから得られる『スライムゼリー』以外は使用不可能ということになっていた。


「まずは手持ちの素材を確認しないとな」


 そう言って、僕はアイテムボックスの素材アイテムを確認していく。その中にはNPCの店やギルドショップなどで入手したものもあるが、大半は採集とかだな。


 そうして並べていくと意外と種類を持っているのだということに気付く。


 中にはいつの間に手に入れていたんだろうというレベルのものも幾つかあるが、おそらく昨日『鉱山の隠れ道』を探索している際に他のプレイヤーから貰ったりした素材だろう。


 エリアボス討伐後、ログアウト組や居残り組とで別れる際に、食事アイテムと経験の竜玉のお礼にとみんなからいろんな素材を貰ったりしたのだが、その時は一斉に渡されたので中身をちゃんと確認してなかったのだ。


 取り敢えず、種類別にまとめてみることにした。


 ――――――――――――――――――


○調合素材(植物)

・回復草 ・魔力草 ・活力草 ・減衰草

・鎮火草 ・猛火草 ・氷結草 ・解凍草

・沈黙樹の根 ・呪縛樹の蔦 ・甘露桃の種

・カラミ草 ・ニガミ草 ・サンミ草

・暁の花 ・幻惑の花 ・アンブローシアの花蜜

・ソルトリーフ ・ペッパーシード

・クスリ茸 ・ハシリ茸 ・モウドク茸

・マッカ茸 ・シビレ茸 ・ネムケ茸

・ケムリ茸 ・チカラ茸 ・カソク茸

・ウマミ茸 ・エンミ茸 ・アマカ茸


○水系

・井戸水 ・清流水 ・竜泉の水 ・魔力水

・毒沼の水 ・呪いの水


○鉱石系

・石 ・軽石 ・鉱石 ・原石 ・鉄鉱石

・銅鉱石 ・水晶原石 ・光晶こうしょう原石 ・闇晶あんしょう原石

・ヘルオダイト鉱石 ・ルビルム原石

・火炎石 ・水流石 ・旋風石 ・土震石

・土の精霊石 ・結晶石


○モンスター系

・スライムの粘液 ・モンスターの体液

・スライムゼリー

・ホーンラビットの角 ・獣骨(小・中・大)

・グレーウルフの爪 ・グレーウルフの牙

・ゴブリンの耳 ・モールの爪

・鳥の羽毛 ・ゴーレムの石片

・モンスターの魔核(小・中・大)

・ゴーレムコア(中・特大)


 ――――――――――――――――――


「えらいぎょうさん集めとるな」


 オキナの言う通り、本当に色々あるな。確認したら、ほぼ素材アイテムの枠の許容量ギリギリまであった。


 これでもまだ見つかってる素材の一部なのだから、全部集めるとなるとアイテムボックスが全然足りないな……。


「取り敢えずこれらで色々試してみるか」


 まずもって、回復系ではなさそうな毒劇物っぽいのは除いて試してみることにした。


 例えば初級ライフポーションで使う素材から一つずつ変えてみる感じだとどうなるのかを試してみる。


 結果として入れ替える形でまともな成功例は、薬草+ライフ茸+魔力水で『劣化版エナジーポーション』という黄色いポーションが完成したくらいだろう。これはどうやらHPとMPとSPを同時に回復するものらしい。


 ただ、元の名前から劣化版と付くようにそれぞれ20ずつしか回復しなかった。これは元のレシピ自体が少し違うと思われる為、小手先の改良では特に改善はしないだろう。


 少なくともこれは使い物にはならないので、今後新しい素材が見つかったときなどに似たレシピで試してみることにしよう。

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