第101話 生産装備

 その部屋の中には2つのトルソーが置いてあり、それぞれエプロンと、それにアンダースーツのような服が追加されたような衣装となっている。


 サイズと色が違うが、灰色のものが男物で、赤いものが女物だろうか?


「これが俺が作ったルヴィアちゃん向けの装備アイテムや」


「いや、普通にエプロンに見えるんだけど?」


「そりゃ、生産用の衣装やからな。物作りの時の衣装ゆーたら、エプロンが無難やろ」


 僕はてっきり戦闘に使えるような衣装を想像していたが、どうやら生産用の衣装を作り上げていたようだ。ルヴィアも流石にこの展開は想定していなかったようだ。


「……オキナ、このあと何があるのか知ってる?」


「知っとるで? 邪竜討伐の緊急依頼やろ?」


 テヘペロと悪びれる感じもなく、オキナは舌を出して目の横にピースサイン。


 とはいえ、一応オキナにはオキナなりの考えがあったらしい。


「いやな? ルヴィアちゃん、戦闘のときは結構激しく動き回るゆーとったし、多分今の格好の方がちょうどええと思うんや」


「まぁ、それはそうだろうな。戦闘の時に動きにくいものは嫌だぞ」


 オキナの指摘にルヴィアも同意する。まぁ、今の格好の方が動きやすいのは確かだろうな。


「せやろ? せやから、今回は一応、生産用の衣装にしたっちゅーわけや。ルヴィアちゃんも生産手伝ったってアイギスはんから聞いたで」


 成る程。結論から言うと、今の衣装が戦闘する上で最適の格好であるという考えのもと、新しい衣装が欲しそうなルヴィアのことを考えて、戦闘以外でも使える格好にしたというわけか。


 そしてルヴィアが生産を手伝った事もオキナには筒抜けだったようだ。まぁ、経験の竜玉を作るときにガッツリ手伝ってもらっていたから、見られていても仕方ないだろうな。


「お陰でうちのピヨドラも将来的に生産に手ェ貸してくれるかもしれへんって分かったからなー」


「いや、流石にヒヨコに生産は無理でしょ」


 ピヨドラを召喚するオキナ。ルームだと召喚コストもかからない上に、召喚可能時間も発生しないので、常時召喚のアビリティがなくても常時召喚することができるようだ。


 しかし、せめてコッコドラに進化すれば卵を作るみたいな形で生産の助けになるかもしれないのだが……って、そういえばこのピヨドラってメスなのだろうか?


「まぁそれはさておきや。取り敢えずルヴィアちゃんの方の『生産助手のエプロン』はDEXの数値を+100するよう装備補正を設定しとる。後はアビリティで【技能模倣】っちゅう面白い効果を付けれたから、付けといたで!」


「ん? 【技能模倣】……?」


 また初めて聞いた名前のアビリティが出てきたな。なんの効果だろうか?


 聞くと、ドラゴン専用のアビリティとなっているらしく、装備中に契約しているプレイヤーが持つ戦闘技能・生産技能・特殊技能のアビリティと同じ補正をドラゴンにも与えるというものとなっているようだ。


 基本的には【養蜂】や【養蚕】などといった生産活動のアビリティを持つドラゴンに、その生産活動に対して補正効果を持つ【農耕】や【裁縫】といったアビリティの効果を与える為に使うらしい。


 ベータテストで一部のプレイヤーが使っていたが、その時は生産活動のアビリティ持ちでなおかつこの【技能模倣】を持ったドラゴンが少なかったことからそこまで話題にならなかったらしい。


 このアビリティの効果は、戦闘技能も当てはまるので【炸裂魔術】の補正効果がルヴィアにも当てはまることになるか。あと【後方支援】も。


 ただ、『ドラゴンブレス』はドラゴン系のスキルだし、『ブラッドスケイル』も魔術スキルではなさそうなので【魔術】系の補正はかからないようだし、ルヴィアは支援・回復・補助スキルも覚えてないので【後方支援】の補正も意味はない。


 そもそも与えられるのは補正効果だけで、スキルやアーツは使えない。ほぼ生産技能のみ補正効果が与えられるという物になる。


 まぁ、ルヴィアが手伝ってくれる際に少し品質が下がっていたのが気になっていたところなので、それが上がれば嬉しい限りだ。


「まぁ、ドラゴンの装備は仕様上アクセサリーみたいな感じになっとる。その為にわざわざ【装飾】を習得したんやで。せやから戦闘でも十分使えるはずや」


 一応、戦闘で使えるというのは、ドラゴンの装備の場合はアクセサリーと同じで設定で表示するかどうかを切り替えれるというものとなっている為である。要するに生産の度にプレイヤーのように着替える必要がないという事になる。


 そしてルヴィアの場合は僕が設定で弄らなくても彼女の意志で表示を切り替えることが出来るようで、早速装備しては普段のドレス姿とエプロン姿とを切り替えて遊んでいた。


 エプロンを着た際のルヴィアの格好は半袖の黒のアンダースーツに黒いスパッツを着ており、その上からエプロンドレスを着ている感じになっている。


 そのエプロンドレスは肩紐で吊り下げられたスカートみたいな形になっているのだが、前だけ長めとなっており、後ろはショートスカートのような丈になっていてそこからスパッツが見える形になっている。


 今回はオキナの好みが表にしっかり出てきた感じだな。まぁ、いやらしくないだけマシなデザインだろう。


 装備補正に関しても、DEXが上がれば攻撃の命中率やクリティカル発生率が上がるので、そこまで悪い効果ではないだろう。


「……それで、そっちの男物の方は?」


「そっちはリュートはんの装備やな。今の装備は戦闘向けやから、どうせ生産するんやったらそっち方面に補正効果を偏らせたやつがあってもええやろ? っちゅうことで、俺の装備とほぼ同じ効果でデザインはルヴィアちゃんのエプロンに合わせて作っといたわ」


 まぁ片手間程度にやけどな、と告げるオキナだったが、流石に片手間というには出来が良すぎる。


 というか僕の方も装備を作ってたのか。


「取り敢えず、手にとって性能確かめてみぃ」


 オキナにそう促されるので僕はもう一つの装備を手にとって確認する。


 ――――――――――――――――――


 天暁の工作エプロン ☆3


 分類:防具(胴・腰・脚部位)

 装備補正:MP+60、DEX+120、【生産補正 レベル3】

 追加効果:フルセット効果【天暁の加護】

 装備耐久値:270

 製作者:オキナ


 ――――――――――――――――――


 それは胴と腰と脚まである防具となっており、こっちは半袖の黒いトップスとデニム風のズボン、そして一番的な前掛け風のデザインとなった灰色のエプロンがセットになったような服装となっている。


 これでDEXが上がるのは勿論、なんとMPまで上昇しており、更には【生産補正】のアビリティまで付いている。


 このアビリティは、文字通り生産に関連する様々な行動に補正を与える効果を持っており、これがあるだけで生産成功率や品質などが上昇すると言われている。


 もし、生産をメインとするのならこのアビリティは必須と言われているレベルになるのだが、僕の場合は戦闘系のアビリティをメインに習得していたので、流石にこのアビリティまでは習得出来ていなかった。


「凄いな、ほんとに生産特化だ。しかも、わざわざ天暁シリーズにしたのか」


 名前には僕の他の装備と同じ『天暁』の文字があり、更には他の部位と合わせることでフルセット効果も発動するようになっている。


「まぁ、ものの試しや。複合防具でもフルセット効果が付けられるかどうか確かめるために使わせてもろたわ」


 その効果の付与の分、素材を多く使ってしまったらしいが気にしてないようだ。あくまで趣味の範囲でのカスタムということらしい。オキナらしいな。


 早速装備させてもらったが、確かにフルセット効果は問題なく発動しているようだ。オキナにその旨を伝えるとホッと胸を撫で下ろしていた。


「ありがとうな。ルヴィアのとこの装備のお代は?」


「それならさっきの経験の竜玉でチャラやチャラ。あんないいもん貰って金取るわけにはいかんやろ」


 またもや安請け合いで装備制作を請け負ってて大丈夫かと心配になったが、一応他のプレイヤーからはしっかり金を取っているので問題ないのだとか。


 流石に気が引けるので、残しておいた経験の竜玉も渡すことにした。ルヴィアに使う予定の分だったが、ここは渡しておくべきだろう。まだ材料はあるし、作ろうと思えばすぐにでも作れるからな。


「せや。せっかくやし、ここで幾つか生産してったらどうや? 俺もリュートはんの生産が気になるし、ここなら利用料も取られへんで?」


「いや、そこも取っていいところだぞオキナ……」


 まぁ、本人が使っていいと言うのだからここはお言葉に甘えることにしよう。一応、別の部屋にキッチンがあるらしいのでそこを使わせてもらうことにしよう。


 因みに2人とも【料理】は持ってないので全く使用していないらしい。勿体ないなぁ……。

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