第53話 改良を重ねる
「それじゃあ、先に刻んだやつを試してみてから、それからルヴィアにもすり潰すのを試してもらうことにしようか」
そう僕が言うと、パァァとルヴィアの表情が明るくなる。見てるだけなのはつまらなかったんだな……。
「うむ! やるぞ!」
取り敢えず、ルヴィアが楽しみにしているようなので、早く刻んでみた方を作ってみるか。
と言ってもナイフ単体は持っていない。
なので、簡易調理キットを取り出し、そこにあったナイフを刻む事に使くことした。運営的には、こういう風に使われるのは想定しているんだろうか?
まぁ本来なら普通にナイフを用意して使うべきなんだろうな。薬草ならまだしも、他のものを切ったあとに料理にはあまり使いたくないところだ。
僕は薬草とクスリ茸を細かく刻んでいく。ある程度、切れれば問題はないだろう。
その後、先程と同じようにすり潰していくが目に見えて液体が出てくるスピードが早い。まぁ、刻んでいるから当然か。心無しか、出てきている液体の色も濃い気がする。
そこから僕が液体を水に入れて撹拌していく。例によって、さっきと同じ感じだな。
元の色はさっきより綺麗めな感じはする。まぁ、変色の過程は変わらないのだけど。
そして、またもやピカリと光って初級ライフポーションが生成される。
「さてさて、今度の出来はどうかな?」
再びアイテムを掴んで鑑定ルーペで情報を確認する。
――――――――――――――――――
初級ライフポーション(良品) ☆1
分類:回復アイテム
効果:HPを50ポイント回復(レベル10以上で回復量減少)
品質:やや良
製作者:リュート
普通に製作されたライフポーション。成分が十分抽出されている為、適切な回復量を得た。
――――――――――――――――――
おぉっ、さっきより少し良くなったぞ。
今回のものは回復量が50に上がっていた。どうやら刻むだけで特典やギルドショップ売りのものと同程度まで上がるらしい。これならもう一手間ほど加えたら、更に上がるんじゃないのか?
そうすれば、レベル制限になったあとも普通程度には使えるかもしれない。
「どうだったかの? 主殿?」
「うん、さっきより効果が上がったね。これは手の加え甲斐があるかも」
「そうか! では、次は妾も手伝うぞ!」
パァァと表情が明るくなるルヴィア。まるで自分のことのように嬉しそうだな。まぁ、契約者の成功を喜んでくれることはこちらとしても嬉しい限りだ。
取り敢えず、すり潰す作業が気になって仕方なさそうにしていたので、僕は刻んだ薬草が入った乳鉢をルヴィアに渡す。やり方は一応見ていただろうが、ちゃんと説明しておく。
まぁ、最初は張り切りすぎて中身を飛び散らせていたが、それもご愛嬌というものだ。次から気をつけてくれれば問題ないだろう。
そしてルヴィアに手伝ってもらってから作った初級ライフポーションだったが、一応ちゃんと作ることができた。
工程そのものは刻んだものと変わらないためか、回復量も変わらず50となっている。ただし、品質の方は普通となっていた。
とはいえ、どちらも良品とついていて、なおかつ効果は変わらなかったので、ルヴィアに作業工程の一部を手伝ってもらっても生産自体は可能という事がわかった。
つまり、生産活動では肝心の部分――ここでは最後の魔力注入だろう――以外なら生産技能を持たない相手に手伝ってもらっても大丈夫、ということになるのだろうか。まぁ、その点は調合以外でも試してみる必要はあるだろう。
その後、僕は薬草が無くなるまで初級ライフポーションを作った。途中で試しに他の手を加えた時に何度か失敗はしたものの、最終的に出来上がったものは次のようなものになった。
――――――――――――――――――
初級ライフポーション(精巧品)☆1
分類:回復アイテム
効果:HPを80ポイント回復(レベル10以上で回復量減少)
品質:優秀
製作者:リュート
かなり丁寧に作られた初心者向けのライフポーション。成分をしっかり抽出し、無駄なものも取り除くことで回復量が普通より多くなった。
――――――――――――――――――
回復量は80まで引き上げることに成功した。品質も良を越えて優秀となり、アイテムの名前にも精巧品と付くようになった。
どうやら調合で作れるアイテムに関する詳細な名前は今のところだと粗悪品や普通品、良品に精巧品などに分かれるらしい。
しかし、まさか優秀な品質にするのに布で濾すのが重要だとは思わなかった。途中でオキナに連絡して端切れを貰いに行って正解だったな。まぁ、オキナは「えっ、また来たん? 流石に早すぎひん?」と言っていたが。
その後、初級マナポーションも素材がなくなるまで作り続けた。マナポーションの方は魔力草が赤いためか、明るめの赤い色のポーションとなった。
こっちはさっきの経験もあって無事に生産でき、最初からMPが80回復するものを作ることに成功した。こちらも品質は優秀で、精巧品とついている。これでしばらくはMPの方も安心だな。
因みに初級スタミナポーションは明るめの青色のポーションとなっている。なぜこの色なのかは、作れていないので不明だ。
「ふぅ、ようやくレベルアップか……」
結果としてその間に【調合】のアビリティレベルは3まで上がり、僕のレベルもついに2になった。ようやくレベル2だ。普通のプレイヤーなら開始数時間で到達したというのに。
しかし、やはり生産のほうがルヴィアに取られない分、経験値効率は高いようだな。
実はログインする前に調べたところ、技能の習得数やジョブの傾向によって、各種活動で得られるプレイヤーレベルの経験値量の傾向が変わる仕様であることが新たに話題になっていた。
要するに、戦闘技能をより多く習得していれば戦闘で得られる経験値が多くなり、生産技能をより多く習得していれば生産で得られる経験値が多くなるという形だ。
傾向が決まると、経験値量が多くなる活動以外の活動を行った場合の経験値量は減ってしまう仕様になるらしい。特定の活動でレベルを上げやすくするなら、それ以外で上がりにくくするのはまぁ至極真っ当な調整だと思う。
つまり、戦闘技能が1つに対して生産技能を3つも習得している僕は生産活動の方で経験値を獲得しやすい状態になっていたらしい。
となると、ルヴィアの件が無くてもどのみち戦闘で経験値を得るのは難しかったということになるようだ。
まぁ、そこまで極端に変わるわけではないし、あと1つ戦闘技能を覚えればまだ戦闘の方にも傾向が移るらしいが……わざわざその為に使えるかわからない戦闘技能を覚えるのもどうなのだろうと思ったりはする。
効率も大事だが、やはりやりたいことをやってこそのこういうゲームなんだろうとは思ったりする。まぁ、この手のゲームを他にやったことなんてないんだけど。
「まぁそれはさておき、【調合】も新しいアーツとスキルを覚えたな」
今回、アビリティレベルも上がったことで、新たな基礎レシピを幾つか習得し、また【調合】の新たなアーツ『撹拌強化』とスキル『抽出』を習得した。
前者は撹拌の行動の際に疲労軽減と時間短縮の効果を与え、後者は自動で抽出までの動作をしてくれるという効果だ。ただし、『抽出』のスキルを使った場合、僕が工夫して抽出したものよりは幾段か効果が劣るようだ。まぁ、それは仕方ないだろう。
因みに端切れを貰ったときにオキナから聞いたのだが、生産技能アビリティはレベルアップで覚えられるスキルやアーツに関しては、奇数レベルで1つから2つ程度を覚えるらしい。だから今回、レベル3で2つ覚えたということになる。
レベルが上がると作れるアイテムのランクなどが上がったり、単純にその生産技能で作るアイテムの品質や精度が上がったりするため、レベルを上げればそれだけ良いものができるということらしい。
そう聞くと、しっかり生産技能のレベルも上げてやらないといけないと思ってしまうな。
さて、まだ時間はあるから次の技能の生産に移ろう。
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