第52話 調合を試す
「ふむ、それで主殿はまず何から作るのかの?」
「一応、【調合】を試してみようかと思うよ。その為に薬草とかも残しておいたからね」
そして僕は机の上に初級調合キットとその調合に使う素材を取り出していく。
調合キットは幾つかの乳鉢と乳棒、そしてガラス製のコップ――目盛りがないのでビーカーではなさそうだ――と撹拌用の銀の匙などで構成されている。基本的には薬の元となる素材をすり潰し、成分を抽出し、それを魔力を込めながら混ぜ合わせることで簡単なものの場合は調合完了となるようだ。
オート生産の場合、すり潰すところから全て自動でやってくれるが、その場合はアビリティレベルが低いと効果が大きく落ちてしまうらしい。
料理のオート生産でバフ効果が付かなかったように、調合だとそのアイテムの効果が落ちてしまうというデメリットが存在する。
なので、アビリティレベルが上がるまでは全部自分の手でやったほうがいいだろう。ある程度アビリティレベルが上がってくれればスキルを使っても問題は無いわけだし。
因みに生産技能で覚えるスキルには生産自体を行う『生産スキル』と自身やアイテムに効果を与える『効果スキル』などがあるらしい。
その生産スキルには更に、完成まで全てを行うものと、手順の一部を自動で行うもの2種類が存在するらしいが、最初に覚えた技能名と同じ名前のスキルは前者となる。だからオート生産なのだ。
後者のスキルはレベルが上がってから覚える事になる。つまりそのレベルになればスキルを使ってその工程を飛ばしても問題ないという扱いになるらしい。
まぁ、料理みたいに終わりのないものの場合、どうなるのかはよく分からないのだが。
「取り敢えず、まずは初級ライフポーションを作ってみよう」
「ん? 先程作っておったマナポーションではないのか?」
「あれ、オート生産だから普通に作れたけど、あの中じゃ一番難易度が高かったらしいからね。セルフ生産だと失敗するかもしれないから、まずは簡単なのから作って、アビリティのレベル上げだね」
「成る程のう。まぁ、妾はここで見させてもらうぞ」
そう言って部屋の隅で僕の生産活動を見つめるルヴィア。そうやって見つめられると少し気になってしまうが、まぁ仕方ないか。
「……取り敢えず、初級ライフポーションのレシピを参照っと」
初級ライフポーションは薬草とクスリ茸、そして浄化水の3つから生産可能となる。ここで薬草ではなく魔力草を使うとマナポーション、クスリ茸ではなくハシリ茸を使うとスタミナポーションを作ることができる。
今回、ハシリ茸は買えなかったのでライフポーションかマナポーションのどちらかを作ることとなる。浄化水はサービスで部屋の水道から取り出せるようになっており、それを使うことになる。
「まず、薬草とクスリ茸を乳鉢ですり潰す……か。これって先に刻んだりしたほうがいいのかな?」
レシピはかなり大まかな感じにしか書かれていないため、細かなところをどのようにするのかはその生産者に一任されている。勿論、刻んだりしなくても問題はないだろうが、刻んだほうが成分が抽出しやすそうだ。
とはいえ今は取り敢えずセルフ生産の挑戦なので余計なことはしないほうが良さそうだ。どうせこのあと何回も作ることになるわけだし、その時に試してみればいいだろう。
僕は薬草とクスリ茸をそれぞれ乳鉢に入れると、すり潰し始める。どのくらいかはよく分からないが、液が漏れ出すくらいまですり潰せればおそらく問題はないだろう。
「…………うん、取り敢えずこんなところかな」
ある程度すり潰し終わったので、次の工程に移る。と言っても、後は浄化水の入ったコップにすり潰して出てきた液体を入れて、魔力を込めながら撹拌するだけだ。
どのようにやるのかは最初分からなかったが、液体を入れたコップに銀の匙を入れたときに、何となくだが力が流れ込んでいくのを感じた。おそらく、このまま混ぜていけばいいのだろう。
それからしばらく、ぐるぐると銀の匙を使って撹拌していくが、やがてコップの中身が変な茶色っぽい緑色から濃い目の緑色へと変色していく。
そして、ある程度混ぜた段階でコップの中身がピカリと光ったと思うと、コップが空になっており、その側に専用の容器に入った初級ライフポーションがポツンと置いてあった。中身は少し明るめの緑色になっている。
その様子に僕もだが、隅にいたルヴィアも驚いているようだった。
「えっ、これで作れた……?」
まさか容器も自動的に作られるとは思わなかったが、よくよく考えると容器などは売ってなかったのでそのままだったら困るところだった。
料理のときの皿といい、この手の必要なものに関しては自動的に出てくる辺りはかなり親切な仕様だと思う。
オマケに一旦生産が完了すると道具の汚れはキレイになっていた。洗ったりする手間もないのはありがたいな。
「さて、出来はどうかな?」
僕は出来上がった初級ライフポーションを手に取る。早速借りた『鑑定ルーペ』でその中身を確かめることにしよう。
因みにこの鑑定ルーペを使うと、無くても見れるアイテム名と効果、そして制作者の項目以外に、アイテムの詳細な名前と品質、そしてそのアイテムの詳細コメントが表示されるようになる。
表面上同じ名前のアイテムでも効果が違う場合があり、その場合は詳細な名前で判別可能となっている。
スタックされるアイテムの場合、戦闘中でもメニューから使用する場合、その効果を確認してから使用可能になるが、その際に分かりやすくするという効果がある。
――――――――――――――――――
初級ライフポーション(粗悪品) ☆1
分類:回復アイテム
効果:HPを30ポイント回復(レベル10以上で回復量減少)
品質:極低
製作者:リュート
適当な作業で作られたライフポーション。成分があまり抽出されていない。
――――――――――――――――――
「うーん、やっぱり性能は悪いか」
それによると性能はHPが30回復となっており、チュートリアルで手に入れたものより低いものとなっていた。品質も悪く、名前にも粗悪品とついていた。
おそらく作り方が悪かったのだろう。どうやら成分があまり抽出されていないらしい。
というか、効果に書いてあるが初級ポーションってレベル10で効果下がってしまうのか。まぁ、今のところ作れるのがこれだけだからなぁ……。
まぁ、効果が下がっても通常レベルに使える程度に性能が上がるよう、手を加えていくしかないだろう。
「ふむ。中々大変そうだの。どうやればいいのか目星はついておるのか?」
「そうだねぇ……。取り敢えず、抽出前に刻んだり、先に水を入れておいたり、撹拌時の温度を上げてみるとか、色々あるだろうけど……まぁ、出来ることをやってみて確かめるだけだよ」
「ふむ。後で妾にも何かしらやらせて欲しいぞ」
「いや、ルヴィアは生産技能持ってないでしょ。それに料理と違って魔力の注入が必要だから」
MPが少ないルヴィアではおそらく最初の一回で魔力欠乏になってしまうだろう。
「むむむ……それもそうであるな。しかし、すり潰すくらいならやっても構わんのではないのか?」
「えっ、どうなんだろう? まぁ、それくらいなら手伝ってもらってもいいのかな……?」
技能がなくてもすり潰すくらいなら誰でもできるし、試してみるのもアリかもしれない。もし、それでルヴィアも手伝えるのなら効率的には良さそうではある。
まぁ、彼女が飽きなければの話にはなるけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます