第54話 加工を試す
「加工では何を作れるのかの?」
調合キットを片付け、加工キットを取り出している際にルヴィアが質問を投げかけてくる。
確かに一言で加工と言っても、何を指しているのかよく分からないだろう。
「うーん、一応試験のときの項目を見る限り、現状だと木工品がメインみたいだね」
確か木のナイフや木の杖などの木製武器が作れた筈だ。後はブーメランや木の皿といったところか。
武器に関しては、かなり硬い木材を芯にしないとすぐに壊れてしまうだろう。そしてそういうものは得てして加工が難しいと相場が決まっている。
取り敢えず、木材を幾つか並べてみて何を作るか考えることにした。
木材は『ナプタ堅木』と『ヒューガ軟木』、そして『普通材木』の3種類が売っていた。その中で値段が安いのは普通材木となり、堅木と軟木はそれなりに高い。なので多く買ったのは普通材木の方になる。
普通材木は見た感じはリアルの世界でホームセンターなどでよく売られているDIY用の材木によく似ている。とても軽く、加工もしやすそうだ。
対して、堅木は触った感じはしっとりとしており、軽く叩いただけでもかなり硬い事が分かる。これなら、武器などに利用できればかなり強度の高いものが作れるだろう。尤も、僕の筋力で加工できればの話になるが。
そして軟木は触った感じはさらっとしており、軽く叩くとカンカンと高い音を出す。細い板だと軽く曲げることもできそうだ。しなやかさを必要とするものに使う事になるだろうが、扱いに注意しないとすぐに破損してしまいそうだ。
これらの素材はまさに適材適所といえるだろう。
取り敢えず、まず最初は練習ということで普通材木を使って加工を試してみる。無難なのは『木のナイフ』辺りだろうか。
「取り敢えず、ナイフから作ってみようか」
加工キットの中身はナイフ、ノミ、金槌、ヤスリ、小さなノコギリ、そして固定するための台座となっている。何というか、ホントにDIYに使う道具みたいな感じの中身だ。
僕は取り敢えず手頃な大きさの普通材木を選び、ある程度の大きさまでノミと金槌で削ることにした。一応固定はしているが怪我だけはしないように気をつけた。
ある程度削ると、次はナイフを使って木を削いでいく。ナイフでナイフを作っていくのも何やら不思議な気もするが、まぁそんなものだろう。
「うーん、これで合ってるのかな?」
生産技能があるので、何となく作り方みたいなものはイメージできているのだが、正直合っているのかどうかは分からない。まぁ、ある程度形が作れていれば問題はないだろうと思う。
そしてある程度削り終えて形ができたところで、最後はヤスリをかけていく。
途中に疑問に思った割にはしっかりナイフの形になっていたので、これはいけるのではないかと思ったが、最終的に出来上がったのは『出来損ないの木のナイフ』というアイテムだった。
最早、詳細な名前を見なくても最低品質なのが一目瞭然だ。
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出来損ないの木のナイフ(粗悪品) ☆1
分類:武器(物理斬撃)
カテゴリー:剣・短剣・ナイフ
装備補正:ATK+1
装備耐久値:30
品質:極低
製作者:リュート
非常に出来の悪い木のナイフ。ペーパーカッターとしても使い道がない程の質。
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完成時、調合の時とは違ってボワンと煙が上がったことで失敗したことを悟ったが、案の定だった。
一応、装備アイテム扱いではあるもののその装備補正はATK+1という貧弱ぶりである。冒険者ギルドのギルドショップで見かけたものはまだATK+20だったのでその差が歴然として見える。
それにしても説明文にえらく貶されたものである。流石にペーパーナイフくらいには使えるだろう。……いや、ガタついて無理か。
「うむ、惜しかったの」
「まぁ、流石にこればっかりは慣れないといけないのかな」
あとは材木の選択も評価に影響があるのかもしれないが、まだ普通材木でいいだろう。この様子だと、堅木なんかを使えば武器にすらならないかもしれない。
取り敢えず、こればっかりは慣れるまでひたすら作るしかない。幸いにも普通材木は安くて所持制限近くまで買えたから、しばらくは作り続けられる。
結果として、僕はひたすら木のナイフを作り続け、気付けば3時間が経過していた。さっきの調合でだいたい1時間使っていたから、レンタル時間的には残り2時間もない形になる。
我ながらよくここまで集中してやれたものだ。
まぁそれだけ作り続けたお陰か、木のナイフに関しては一応ギルドショップにあったものと同じくらいの性能のものは作れるようにはなった。
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木のナイフ(良品) ☆1
分類:武器(物理斬撃)
カテゴリー:剣・短剣・ナイフ
装備補正:ATK+20
装備耐久値:80
品質:普通
製作者:リュート
普通材木を用いて作った木のナイフ。多少脆いが武器としては普通に使える。
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装備耐久値も同じであった。ということはギルドショップにあったものは、普通材木で作られた武器だったのだろうか?
まぁ、あそこにあった武器がそもそも生産技能を使って作られていたものなのかなんて、誰にも分からないのだけど。
これだけ繰り返し作ったお陰か、【加工】のアビリティレベルも【調合】ほど上がりがいいわけではないものの、同じレベル3まで上げることができ、また僕のレベルも3に上げることができた。うん、いい調子だ。
因みに【加工】がレベル3まで上がったことで、スキル『ストレングスアップ』と『型作り』が開放された。
前者は
後者は、型を作成する時に使用するスキルとなっており、木工の場合はある程度の形状まで木材を加工してくれる。これだけで木工の場合、ある程度の作業が省略できる。まぁ、そこから削ったりする作業はしっかり残ってるので気は抜けない。
取り敢えず木のナイフはほどほどにして、次に僕は木の杖と木の槍を作ることにした。使うのは普通材木と堅木である。木材の種類の違いで武器の性能がどう変わるのか確かめることにした。
ついでにランスとミリィの武器作りである。まぁ、もしかしたらランスが習得した『鍛治』で良さげな物を作るかもしれないが、その時は薪に――ではなく普通に売却すればいいだろう。
まずは『型作り』のスキルである程度の形まで削っていく。あっという間に出来上がるのでかなりの時間短縮になる。まぁ、その分経験値は入りづらくなるのだが。
その後、更に武器の形になるようナイフやノミで削っていく。この際に削りすぎないようにするのがポイントだ。不可逆だから、その時点で失敗確定となる。
普通材木の方は慣れたからかスイスイ削っていけるのだが、堅木の方は全然刃が通らない。やはり筋力不足のようだ。
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