第55話 想定外の生産品
「……やっぱり堅木は、普通材木と違って削るのに力がいるよな。よし、『ストレングスアップ』」
僕はスキルを発動し、一時的にSTRの数値を強化する。これによってさっきまで苦労していた堅木の方もスイスイ削ることができた。うん、これはいい。他の生産のときにも使えそうなスキルだな。
その後、仕上げの研磨を施していく。ここはちゃんと番目の違うヤスリを使うことでしっかり磨き上げていく。特に刃の方はしっかり磨かないと武器として成立しない。
そして必死に磨くこと、合わせて30分。
無事に普通材木と堅木を使った木の長槍と木の杖が完成した。鑑定ルーペでそれぞれの性能を確認しよう。
「まず、普通材木の方は……うん、ギルドショップで見たとおりの性能だな」
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木の長槍(良品) ☆1
分類:武器(物理斬撃)
カテゴリー:剣・槍・長槍・棒
装備補正:ATK+25
装備耐久値:80
品質:普通
製作者:リュート
普通材木を用いて作った木の長槍。多少脆いが武器としては普通に使える。
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木の杖(良品) ☆1
分類:武器(物理打撃・魔導具)
カテゴリー:杖・棍棒・発動体
装備補正:ATK+15、INT+10
装備耐久値:80
品質:普通
製作者:リュート
普通材木を用いて作った木の杖。多少脆いが武器としては普通に使える。
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普通材木の方は木の長槍がATK+40、木の杖がATK+15にINT+10となっている。どちらも装備耐久値は80となっている。
装備耐久値だが、ギルドショップで見た鉄の武器はここが100だったのでそれより低いことには変わりないだろう。
品質は良くも悪くもなく普通。結果として、先程までの木のナイフと変わらないようだ。
「そして、堅木の方だけど……うわっ、全然違うな!」
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堅木の長槍(良品) ☆1
分類:武器(物理斬撃)
カテゴリー:剣・槍・長槍・棒
装備補正:ATK+40
装備耐久値:120
品質:やや良
製作者:リュート
ナプタ堅木を用いて作った木の長槍。申し分ない強度で、武器としては十分に使えるレベル。
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堅木の杖(良品) ☆1
分類:武器(物理打撃・魔導具)
カテゴリー:杖・棍棒・発動体
装備補正:ATK+25、INT+15
装備耐久値:120
品質:やや良
製作者:リュート
ナプタ堅木を用いて作った木の杖。申し分ない強度で、武器としては十分に使えるレベル。
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堅木を使った事で名前が変化し、それぞれ堅木の長槍、堅木の杖となった。その装備補正だが、堅木の長槍はATK+40、堅木の杖がATK+25とINT+15となっている。
杖のINTの数値の上がり方が少ないのは、おそらく普通材木と堅木の違いが物理方面にしか影響を持たない為だと思われる。この堅木の杖だと、【杖術】向けにも【魔術】向けにも中途半端な感じの性能になっている。
きっと魔力を含んだ材木みたいな素材があって、それを使えば更にINTを引き上げることも可能なのだろう。まぁ、あればの話だが。
因みにギルドショップにおいてあった鉄の武器は、鉄の長槍がATK+50、鉄の杖がATK+30とINT+20となっており、武器耐久値はさっきも言ったとおり100となっていた。
流石に装備補正は鉄の武器よりもやや劣るという感じだったが、なんとこれらの堅木武器の武器耐久値は鉄の武器を超える120となっていた。
「いや、何で鉄の武器より木の武器の方が耐久値高くなってるんだよ!」
「ヌハハ! それはつまり、あそこにおいてあった武器より主殿が作ったものの方が質が良かったということよ! まぁ、鑑定や観察眼を持たぬ妾が見ても、あそこのものはそこまで出来のいいものとは思えんかったからな」
ルヴィアが僕の武器を見つめながらそう呟く。成る程なぁ……。確かにこっちは力が必要だからと丁寧に作ったからか、品質の方も『やや良』と普通材木のものより高くなっていた。もしくは木の材質に合ったものを作ったから品質が上がったのか?
そもそもそんな良質の武器なんて、ギルドショップに置いてあるわけがない。初心者武器をくれたゴーダンも、いい武器は外で探すか自分で作れって言ってたし。
何はともあれ、これならランスやミリィに渡す武器としても問題はないだろう。
本当なら刀身を石や鉱石から切り出して石の槍とかにしたかったのだが、流石に初級キットでは石までは加工できないらしい。
それにもう少しアビリティレベルが上がって加工精度が上がらないと、これ以上の性能のものを良品として作るのは難しいだろう。
後は性能とは関係ないが、デザインとかも色々手を加える事も可能だ。色彩なんかは専用の着色キットなどがあれば製作者なら後からでも変えられるようだし、彫刻刀とかがあれば模様なんかも掘れたりするらしい。まぁ、ナイフでも出来ないことはないがあまり綺麗にはできなさそうだ。
そもそもの形なんかも、ある程度の技量があれば自己流にアレンジを加える事だって可能らしい。最低限そのアイテムとしての形を成していれば、馬鹿みたいにでかい杖なんかも作成自体はできる。まぁそれで性能がどうなるのかは不明だが。
それこそ、【服飾】なんかは自己流のデザインを元にアイテムを作る代表例みたいなものだ。尤も、オキナ曰く【服飾】は【加工】とはまた違う仕組みで生産をしているらしいのだが。
しかし、杖の方はもうちょっとINTの方を強化できればミリィに合っていると思ったのだが、どうにかならないものだろうか?
「……ん? そういえば、魔核を使うっていう手もあったな」
セリスが買取の際に魔核は色々な魔導具の核になるって言っていたのをふと思い出す。それならば、魔核を杖に組み込めば、木の杖でもINTが上がるかもしれない。
名前に『魔』って付いてるくらいだから、魔力が上がるだろう。……ん? そうなるとMPが上がることになるのか? まぁいいや。
ちょうど、ルヴィアの強化に使おうと思っていたグレーウルフの魔核があったし、試しに作ってみよう。そもそもドラゴンの強化に使うにしても使い方が分からないし。
杖を作るところは同じだが、そこに魔核を組み込めるだけの窪みを形成した。また、その窪みを付ける先の方は星のような形のデザインにしてみた。少しだけ、上手くいった気がするな。
また、元々の杖のサイズもミリィが取り回しやすいように少しだけ短くし、ナイフを使って少しだけ模様も入れてみることにした。
そして、そこに魔核を組み込めば完成だと思って、グレーウルフの魔核を嵌めてみたのだが……。
「うーん、どうしてこうなった」
その魔核を取り付けた瞬間に作っていた木の杖が眩く光り輝き、次の瞬間には机の上に禍々しい黒と灰色に染まってしまった、木の杖になる筈だったものが置かれていた。
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分類:武器(物理打撃・魔導具)
カテゴリー:杖・棍棒・発動体・魔導器
装備補正:MP+30、ATK+15、INT+55
追加効果:属性魔術強化+10%
装備耐久値:95
品質:低
装備制限:プレイヤーレベル10以上、【魔術】アビリティレベル5以上
製作者:リュート
グレーウルフの魔核をコアとして作られた魔導杖。魔導師の魔力と知力を引き上げ、属性魔術の力と指揮能力を上げる。無理やり製作した為、出来はそこまで良くはない。
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どうやら無事に生産自体は成功したみたいだが、その武器の名前は『灰狼の魔導杖・序』となっている。形状は流石に僕がデザインしたときのままだが、まさか武器そのものが変化するとは思わなかった。色も付いているし。星の形にしたところまで黒いから何だか不気味だ。
しかし、劣化品と付いているがその性能は破格となっている。
「……うーん、MP+30にINT+55って流石にこの序盤で手に入ってはいけない武器なのでは?」
ギルドショップの鉄の杖の装備補正はATK+30とINT+20だったのに対し、この武器はMP+30にATK+15、そしてINT+55と3つのステータス値の項目で高い補正効果を持っている。
ATKは流石に半分程度となっているものの、INTに至っては倍以上となっている。
更にステータス値の補正効果だけでなく追加効果で属性魔術強化+10%とついていた。
追加効果とはステータス値やアビリティとは別に、追加で与える効果となる。
この場合、単純に属性魔術を使う際の威力を1.1倍にするというもので、【黒魔術】で覚えるようになる攻撃傾向の魔術スキルは『ファイヤーボール』に『アイシクルランス』と属性魔術となっているので、まさにミリィにピッタリとなる効果だろう。
それにしても、これは本来は現時点のレベルで作れるものではなかったのだろう。アイテムのランクは☆5と表示されている。
現在普通にレシピで作れるようになっているのは☆2までのものなので、それよりも遥か上のランクとなる。
当然そんなものをしっかり作ることが出来るわけもなく、劣化品とついている通り、かなり粗末な出来となったようだ。
装備耐久値はさっきの堅木の杖よりも低くなり95となっていた。
おそらく装備補正や追加効果、そして装備耐久値に関しては、本来のランク的にもっと高い値になっていてもおかしくないだろう。ただ、品質が悪いので下がっているようだ。尤も、それでもまだ実用的なレベルではあるのだが。
「十中八九、主殿のLUKが影響したのであろうな。本来なら主殿のレベルでは成功するはずのないランクのアイテムだぞ」
「だよなぁ……。まぁ、これはミリィに渡す武器だし、強ければそれに越したことはないだろうさ。……まぁ、本人が装備できればの話だけど」
おそらくミリィ本人からはその性能なら自分で使ってくれと言われるだろうが、僕の場合は属性魔術は使わないし、そもそも攻撃は滅多にしないから宝の持ち腐れになる。
それにミリィには悪いが、僕が使うのならもうちょっと質のいいものを使いたい。
しかしオキナが言っていた通り、装備のランクが上がるとしっかり装備制限が発生するようだ。まぁ、ちゃんとレベリングをしていればすぐに使えるようになりそう範囲なのが不幸中の幸いといえるだろう。
その杖の性能をルヴィアと確認しているうちにちょうど時間になり、僕らはレンタルルームを後にすることになった。
結局、料理は試すことができなかったな。まぁ、調合と加工が楽しかったからいいのだけど。
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