第56話 ローゼンの雑貨屋
その後、生産ルームを後にした僕たちは生産者ギルドの生産品の方のギルドショップにて、性能の低めな生産品を買取してもらう。
流石にギルドショップで購入した素材分よりは高くはならなかったが、それなりにお金は取り戻せた。
何やら金がなさそうな感じに聞こえたかもしれないが、幾つか依頼をこなしていたために元からそこまで懐が寂しいという訳では無い。まぁ、オキナの防具を買ったのでそれなりに減りはしているのだけど。
どうせ使わずにアイテムボックスの肥やしになるよりは、売ってしまったほうがマシだという判断である。スタックも有限なんだし。
因みに性能が高めの初級ライフポーションや初級マナポーションについては、それらの中ではまぁまぁ高くは売れそうだった。こちらについては実際に使うので売ったり納品したりはしなかったのだが、もし納品してたらこれで生産者ギルドの評価の方は上がったのだろうか?
夜時間が明けたためか、ログインしたときよりはプレイヤーの数は多い。リアルだと21時過ぎだからちょうど晩御飯を食べ終わったりしてからプレイしようというプレイヤーが多いのだろう。僕はログイン前に既に食べてきているので安心だ。
ウルカについては、生産していた時にリアル時間で15分くらい遅れるかもという連絡があったので、おそらく1時間は来ないことになる。なので、その間は少しだけ暇になってしまった。
外に出るにしても1時間だと行ってすぐ帰ってくることになるので、この場合は街の中を見て回るしかないだろう。このゲーム、NPCの店は夜時間は休業しているという仕様になっており、夜が明ければ一斉に開店していく。
なのでしばらくはこの付近の店を見て回るのも悪くないだろう。前に散策した時は南門付近しか見てないからちょうどいい。
因みにこのファスタの街、街の北と南で店の種類、というよりもその配分が変わるようだ。
南側は冒険者ギルドがあるためか武具や防具を取り扱う店、回復アイテム等を取り扱う店がほとんどとなっている。そのうちに幾らか消費アイテム系の生産品を取り扱う店がある感じだろう。
ただ、回復アイテム等は冒険者ギルドのギルドショップ同様にすこし割高になっている。後、店ではないが結構民家が多いのも南側となる。
逆に北側は生産者ギルドの近くであるために生産品を取り扱う店が多い。回復アイテムなどはこちらの方が少しだけ安かったりする。
なお、武具などの店も少なからずあるようだが、南側よりは数は少ない印象だ。やはり冒険者ギルドの近くの方がその手の装備アイテムは売れるのだろう。
因みに北側は南側よりも空き店舗が多い印象だが、それはプレイヤーが購入あるいは借りることで店舗として扱うことができる空き家となっているらしい。
空き家自体は南側にも存在しており、プレイヤーハウスとして使えることから、NPCとのイベント次第ではあるものの誰でも入手可能となっている。ただし、それを店舗として使うには商人ギルドの登録が必要となる。
プレイヤーハウスはプレイヤーの拠点となる場所であり、アイテムボックスに入りきれないアイテムや素材を収納できたり、自前の生産ルームや戦闘訓練施設、睡眠を取れるベッドや諸々の疲労を回復できるお風呂などを設置できたりする施設となる。
ずっと最前線に居るのなら不要かもしれないが、このゲームの世界をのんびり生活するとなると、やはり憧れるものはある。
まぁ、購入するにも借りるにも、全てはNPCとのイベント、もしくは商人ギルドの斡旋次第なのだが。
そして、生産者ギルドの周辺の店を見ていると、見覚えのある名前が掲げられた店を見つけた。どうやらここはローゼンの店のようだ。この数日のうちに無事に開店していたらしい。
開店したら挨拶に行こうと思っていたので、ちょうどいい機会だ。
「ルヴィア、この前の行商人の店が出来てるよ。ウルカたちもまだ来なさそうだし、挨拶しに行こう」
「うむ、構わぬぞ!」
そして僕らは早朝から開店しているローゼンの店へと足を運ぶ。ルヴィアは少し嬉しそうだ。
店主は僕の姿を見ると、装備が違うために一瞬迷ったようだが隣のルヴィアを見て思い出したようで、「あぁ!」と声を上げていた。
「お久しぶりです! 先日はありがとうございました! お陰様で無事にこのように店を出すことができましたよ!」
「それは何よりです。ここは何を扱う店なんですか?」
「ここは基本的に何でも取り扱う雑貨屋ですな。基本は日用雑貨などを販売していくのですが、ここは来訪者の街なので来訪者の方にも購入していただける物も多数取り扱っておりますよ」
かつてはその日用雑貨をリーシャ村を始めとする村落を周ることで販売していたらしく、その延長線上にあるので雑貨類が多い印象だったが、奥を見れば布製の防具品なども幾つか取り扱っているようだ。
その時、ローゼンの娘が店の方に顔を出すと、ルヴィアをみつけてパタパタと駆け寄ってくる。そして2人で何やら話をしだしたかと思うと、防具品のコーナーへと向かう。何やら服を見ているようだ。装備品じゃない普通の服とかもあるそうだが、そういうのって着れたりするのだろうか。
まぁ2人のことはそっとしておくとして、僕は雑貨類や回復アイテムを置いているコーナーを見ていく。
雑貨類は特にステータス値に効果を与えたり、特殊な効果があるわけではなく、単純にこのアイテムが使えるようになるというだけだ。デフォルトではなく自分の好みの柄のマグカップを使えるようになる為、こだわる人はこだわるポイントではないかと思う。
「そういえば先日の盗賊、ちゃんと裁かれたようですよ。いやはや、リュートさんたちが居なければ荷馬車と金品を奪われて路頭に迷っていたところでしたよ」
ふと雑貨類を物色していた際にローゼンが話しかけてくる。この前の盗賊の話であった。どうやらちゃんと裁かれたらしい。
「そうなんですね。盗賊はどうなったんです?」
「一応、付近の鉱山で30年の強制労働の刑になったようです。まぁ、人攫いなどをやってなかったのでまだ優しい方の刑ですな」
さ、30年でまだ優しい方なのか……。因みに人攫いなどの人身売買や殺人の場合はかなり厳しくなるらしく、より刑期が長くなったり、過酷な場所での労働になったりするらしい。恐ろしいな。
なお、基本的に死罪ということは無いらしい。この世界では手段は非常に限られるものの蘇生することが可能だからだ。とはいえ、貴重な労働力として使い潰す辺り情け容赦ないとは思う。
ローゼンとの話が終わると、娘との話が終わったのか、ルヴィアに引き連れられる形で防具品のコーナーを見ることになる。
そこでふと幾つかの防具品を見てみたが、やはりどれもいまいちぱっとしない。装備補正としては無難なレベルのものばかりとなっており、大体がVIT+10とその程度になっている。装備耐久値も50程度とそれなりに低い。
まぁ、オキナの装備を目の当たりにすればたとえここのものでなくても同じような感想になっただろう。
「……主殿、これなんてどうかの?」
そう言ってルヴィアが見せてきたのは一枚の外套のようなものだ。どうやらローゼンの娘に聞いて、防具を探していたらしい。
――――――――――――――――――
隠匿の外套 ☆2
分類:アクセサリー(外套)
装備補正:【隠匿 レベル3】
装備耐久値:120
製作者:ナギ
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一応『隠匿の外套 ☆2』という名前となっており、アクセサリー扱いでステータス値に対する補正はないものの、装備アビリティとして【隠匿 レベル3】というアビリティを持っていた。
【隠匿】とは外套を纏った状態や身を潜めるような動作をした際に、プレイヤーやモンスターから見つかりにくくなるというものだ。ただ、レベル3という事からも分かるように、そこまで効果が劇的に高いというわけではない。それでも現時点では十分高いのだが。
この装備に付いている装備補正としてのアビリティを強化するには、生産職が覚える『装備強化』のジョブスキルを使うか、特定のNPCショップで強化を頼むかで、アビリティレベルを上げてもらう必要があるのだが、いずれにせよ専用の素材が必要となるらしい。
この外套だが、単純に色合いや質感が今着ている天暁の革鎧によく似ており、これなら一緒に纏っても特に浮くこともなさそうだ。
装備耐久値は120と、オキナの防具に比べたら低めだが、あれはオキナの腕がおかしいだけであって、おそらくこのランクならそれなりのものなのだと思う。
因みにローゼン曰く、これはゲーム内で昨日にとある来訪者が卸してくれた装備らしい。確かに製作者が『ナギ』というプレイヤーになっている。
これを見たことで、僕はオキナ以外にもちゃんと服飾をメインにするプレイヤーがいるのだという事をようやく実感する。
「おぉ、いいなこれ。値段は……うん、他のに比べたらかなり高めだけど、僕なら余裕で買えるな」
他の装備がだいたい1000ドラドもしない中、その外套は6000ドラドと少し高めだ。
アクセサリーとはいえ、装備補正としてアビリティが付いているのだから当然だろう。プレイヤーメイドでもあるわけだし。
取り敢えず、僕はそれをローゼンに渡してから購入し、早速装備してみた。アクセサリー系は設定で表示するかどうかの設定があるのだが、この外套のようにアビリティ効果が紐付いている場合は強制的に表示されることになる。
「どうだろう? 似合ってるかな?」
「うむ、バッチリだぞ! これなら問題あるまいて」
「えぇえぇ、お似合いですよ!」
ローゼンやルヴィアからはお墨付きを貰えた。まぁ、ルヴィアにとっては似合うだろうと思って選んだのだから当然だろう。
その後、しばらくこの店の中を見て回り、陶器のマグカップや皿を幾つかを買うことにした。この手のアイテムがあれば、僕が生産した料理アイテムもこれで出たりするから、見栄えのためにも必要だ。
他にも肉に振りかけるタイプのスパイスなんかもあったので、購入しておこうと思う。
「ホッホッホッ、ようやく見つかりましたぞ」
外套の購入後、何かを思い出したように店の奥に籠もったと思ったローゼンだったが、僕が購入予定のものの会計を奥さんにお願いしようとしていた時に、店の奥からニコニコ笑顔を浮かべながら歩いてきた。何やら小さな箱を持ってきたがなんだろうか?
「なんぞ、それは?」
「こちらは『招福の御守』というもので、あの日のお礼にリュートさんにお渡ししようと思っていたものなのです。是非とも受け取っていただければと」
そう言って箱の中からローゼンが取り出したのは、黄色に光る結晶で作られたブローチのようなものであった。どうやらこれがこの世界で言うお守りのようなものらしい。
ローゼン曰く、これを使えば福を呼び込むというらしく、どうやら運が良くなる効果を持ったアビリティ【招福】を付けられるアクセサリーのようだ。また、LUK+30の効果もついている。
今までLUKを上げる事ができるアイテムは見つかっていない筈なので、これはかなり珍しい装備なのではないだろうか?
よく見れば☆5とあるので、ミリィに渡す予定の魔導杖を除けば一番高いランクのアイテムになる。
因みに他の3人に渡すのであろうブローチは色が違うので、おそらく効果が違うことになる。何故、ローゼンはわざわざこれを僕に選んだのだろうか?
……ただの偶然? それともステータスか何かを知っている?
「いや、流石にここまでは……」
僕らは既にローゼンからあの日、お礼は貰っていた。確かに後日お礼はするという話ではあったが、これだと流石に貰いすぎになってしまうだろう。なんせランク5のアイテムなんて、店頭には置かれていない代物だ。
しかし、ローゼンは頑なに渡すというスタンスを譲ろうとしなかった為、結果として僕は根負けしてそれを受け取ることになった。まぁ、この服ならブローチは目立たないし問題はないだろう。
「……ありがとうございます。大切にします」
そう僕がお礼を言うと、ローゼンも嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
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