第57話 ウルカと合流
そのままローゼンの店で時間を潰した僕らは、ウルカが到着したのかどうかをフレンドの項目で確認してみたものの、やはりまだログインしている様子ではなかった。
とはいえ、さっきまでの買い物で既に約束していた1時間は経っているので、もうそろそろログインしてくるだろう。
数分のズレがあってもおかしくはない。ただその場合、こちらではかなりのズレになってしまうが、仕様なので仕方ないだろう。
取り敢えずこの街のログインスポットは聖竜神殿の近くなので、その近くに居ればいいのだろうが、さてどうするか。
「ただ待ってるのもアレだから、もう少し近くの店を見て回ろうか、ルヴィア?」
「うむ! 構わぬぞ!」
結果、僕らはウルカのログインを待つ間、今度は聖竜神殿の近くにあったNPCのショップを見て回ることにした。
そのNPCのショップだが、聖竜神殿の周辺は北とも南とも違う様子となっており、主に空腹値を回復するための料理アイテムを販売している露店や食堂が多い印象となっている。
勿論、その中に回復アイテムを売る商店や、防具やアクセサリーなどの装備品や日用品などの雑貨等を取り扱っているショップが何軒かある感じとなる。
そして時々、入ったはいいものの来訪者には売るものはないと言われて何も買えない店も何軒かあった。
それらの店の品揃えを全部見て回ったわけではないが、消費アイテムを置いているショップについては店によって取り扱っているアイテムが少しずつ違うようで、そして値段が違った。これは北とも南とも違う特徴だった。
特定のアイテムは他の店より安いが、とあるアイテムは高めになっているといった感じで、店によって一長一短となっているようだ。
料理アイテムに関しては、単純に提供している品目が違うので完全に棲み分けができているようだ。リアルの料理を元にしているため、ほとんどが馴染みのある料理となっていて安心する。
なお、料理アイテムは注文する前に、その料理でどのようなバフ効果が得られるのかを確認できるようになっており、これによって目当ての効果が得られるメニューを選んで注文することが可能となっている。
金に余裕があれば、こういうところで空腹値回復ついでにバフ目当てで食事するというのも、悪くはないだろうな。
その際、ルヴィアにまた腹が減ったと言われたので、途中に見かけたビーフシチューのようなものを売っている店でそれを注文して食べた。これに関してはバフ効果は無かったものの、その分値段がかなり安い。空腹値回復にちょうどいいだろうな。
因みにこのビーフシチューのようなものはめちゃくちゃ美味かった。果たして僕はセルフ生産でこれと同じような味を出せるのだろうか、と疑問に思うくらいには美味かった。これは後で【料理】のレベリングをしないといけないな。
まぁ、取り敢えずルヴィアが満足しているようで良かった。安かったので、ルヴィア向けに10食分注文しておいた。ルヴィアが飽きたら僕が食べるつもりだ。
そうして聖竜神殿付近の店を見て回っていると、不意にメールを受信したことを知らせる通知音が鳴り響く。
「おっと、姉さん――ウルカからのメールかな?」
流石にゲーム内なら名前呼びでも問題ないだろう。まぁ、本人が姉と呼べと言うのならそうするが。
そのメールには『お待たせ。龍神の泉の前で待ってるわ』と書かれていた。これは例の騒動後に使った回復スポットとなる。ちょうど聖竜神殿の目と鼻の先なので、早速向かうことにしよう。
なお、ウルカは当然ながら既に初期装備から変更しているようで、白い金属鎧を身に纏っているとのこと。それを目印にして欲しいようだ。あと、他のプレイヤーも2人ほど一緒に居るらしい。こちらも目立つ恰好なので、すぐ分かるだろうとのこと。
こっちの場合は外見については何も言ってないが、噂のルヴィアが居るから外套を纏っていても分かるだろう。…… きっと。
そして泉に到着したが、そこにはちょうど白い金属鎧の着たプレイヤーを中心に、3人の女性プレイヤーが並んで待っているのが確認できた。……確かにあの格好は全員目立つな。
先程説明した白い金属鎧の女性プレイヤーは、ルヴィア程ではないが赤い髪をハーフツインのような形で留めている。
もう1人は漫画に出てきそうな忍者によく似た衣装を身に纏った女性プレイヤー。髪は衣装と同じ薄紫色で短めのショートヘアーとなっている。
そして最後の1人はデニムのオーバーオールのような衣装を身に纏った軽装の女性プレイヤー。金髪をサイドポニーの形で纏めていた。なお、彼女の肩には小さな黄色いトカゲみたいなドラゴンが乗っかっていた。
そのうち、白い金属鎧の女性プレイヤーが僕の姿を確認すると手を振って呼び寄せてくる。良かった、気付かれた。
「あ! おーい、リュート! こっちこっち!」
やはり、彼女らがウルカのパーティーで間違いなさそうだ。取り敢えず彼女らの方にルヴィアと共に歩いていく。
「うわー! ホントに人型ドラゴンと契約してるんだー! すごー!」
「流石はウルカ殿の弟殿でござるな!」
金髪のオーバーオールの女性プレイヤーが物凄く高いテンションでルヴィアを見た反応を示すと、ウンウンと忍者姿の女性プレイヤーが頷いていた。……ござる?
「あはは。紹介するね。こっちのテンション高い鉱夫っ娘がシルクで、こっちのテンション高い忍者っ娘がスミレだよ」
「ウチはシルクだよー! そんで、こっちは相棒のニョロ! よろしくねー!」
「しゅー」
「拙者はスミレでござる! よろしく頼むでござる! にんにん!」
どちらもかなりテンションが高いし、キャラが濃い。これは色々と押し負けてしまいそうだ。
「あ、あぁ、よろしくね。僕はリュート、そしてこっちが……」
「うむ、妾が【龍閃姫】ルヴィアである」
僕とルヴィアが淡々と挨拶をしたあと、ウルカのパーティーと一通り話をしていく。主にジョブとか使う武器辺りの話が中心となる。
「ウチはねー、家の近くで化石とか掘れたからー、穴掘ったりするのが好きでねー、それで『採掘師』を選んだんだよー」
やたら間延びした口調で喋るシルクだが、彼女が就いている『採掘師』というジョブは、主に採掘を行う際に様々な補正を与えるジョブとなっているが、一応槌を扱う際にも各種補正がかかる仕様となっており、戦闘も一通りこなすことができるらしい。
基本は採集向けの特殊職だが、戦闘職並みに戦闘可能なジョブという一風変わったジョブとなっている。まぁ、鍛治師なんかも戦闘可能なので、こういう鉱石関連のジョブは力強いイメージがある。
なお、採掘師だから鉱夫みたいな動きやすい格好をしているのかと思えば、これは単純に本人が普段から好きな格好に似ているものが、たまたま売っていたからだという。だから防具としての性能はそこまでないらしい。
「拙者は忍者に憧れており、それで忍者を目指すために『斥候』を選んだのでござる!」
そしてスミレが就いている『斥候』だが、こっちは純粋な戦闘職となっているが、戦闘外でも敵の動きを察知したり罠を見つけたりすることができる特殊なアビリティやスキル・アーツを習得したりする。こちらはパーティーに1人居ると、かなり便利なジョブとなっており、ベータの頃から人気が高かったようだ。
因みに『忍者』というジョブについては、ベータテストの時点で既に斥候系の派生として、クラス3ジョブに存在だけは確認されている。
ベータテストの時は、クラス2の途中までしか期間的に育成することができなかったようで、一応ジョブ案内所でそこから派生可能なクラス3ジョブを確認することだけが可能だったらしい。その際に斥候のクラスアップジョブから派生可能なジョブとして、その忍者の名前があったという話のようだ。
スミレは最低限、その情報だけを入手して斥候を選んだようだったが、思いの外戦闘スタイル的には悪くない形だったらしい。
なお、彼女はまず形から入るタイプのようで、衣装はシルクのものと同じ店で購入したらしい。
……その店は、ひょっとしてコスプレショップみたいなところではないのだろうかと疑問に思ったものの、流石に口にはしなかった。
「……えっと、2人はベータテスターなの?」
「あはは、まさかぁ。もう1人、一緒にプレイしてた人がベータテスターで、この子達は途中から一緒に行動してたファーストプレイヤーよ」
どうやら彼女らは僕と同じで、本サービスから触り始めたプレイヤーだったようだ。
なお、ベータテストからプレイしているプレイヤーをベータテスターと呼ぶように、本サービスから始めたプレイヤーは一時出荷と絡めてファーストプレイヤーと呼ぶらしい。となると二次出荷勢はセカンドプレイヤーと呼ぶ感じだろうか?
他のゲームでは複垢で作ったプレイヤーキャラをセカンドキャラみたいな感じで呼ぶらしいが、このゲームは脳波等によるステータス値決めの仕様的に複垢は作れないようになっているので、その呼び方でも問題はなさそうだ。
しかし、初心者がいきなり北門に進出か……。イーリアには初心者にはオススメできないとハッキリ言われたが、他の受付の人はそう言わなかったのだろうか?
「私も北門は玄人向けって聞いてたから、まさか初心者があんなところまで進んで来てたなんて正直驚いてるわ。ただ、ほぼ無傷だったのは斥候のスミレの力ってところかしら」
どうやら北門から相当先に進んだあたりでシルクとスミレに出会ったようで、ウルカもまさかそんなところでファーストプレイヤーと出会うとは思ってなかったらしい。
2人とも、リアルの夜にゲームを開始して、そのまま何も気にすることなく北門から外に出ていたらしい。
レベルも低い上に逃走失敗してかなりピンチに陥っていたらしいのだが、そこをウルカたちが救出してから一緒に行動するようになったらしい。
通常、他のパーティーの戦闘に干渉することは出来ないのだが、向こうがあからさまにピンチに陥っているとAIが判断すると、救援コマンドが自動で出現し、それを選択することで戦闘に介入することができる。
その際は、介入してきた側のパーティーにも経験値やドロップが与えられることになる。
よほど危ないとAIが判断しない限り、コマンドは表示されないので、狩りの途中で他のパーティーが邪魔してきたなどのトラブルは、比較的起こりづらい仕様になっている。まぁ、それでも起こるときは起こるのだろうけど。
因みにシルクとスミレは特に知り合いというわけではなく、たまたま一緒に北門に並んでたから一緒に行こうという流れになったようだ。
2人とも今年の春から高校生になるらしい。ということは3つ程下ということになるのか。
「それで、その本来の知り合いは?」
「急に用事が出来たから、後から追いかけるって直接連絡が来たわ」
「ふーん、そうなんだ。……ん? 直接?」
「あぁ。その人先輩なのよ、うちの大学の」
どうやらもう1人、一緒に行動していたのはウルカのリアルでの先輩という事らしい。成る程、それなら直接連絡できるだろうな。
しかし、たまたまその先輩もベータテスターだったなんて偶然もあるものなんだな。
「まぁ、途中で採集とかしてたら村の辺りで追いつくんじゃないかしら」
「そ、そうなんだ……」
どれくらい遅れてくるのかは知らないが、待つよりは先に進んだほうがマシという事なのだろう。
本当に村の辺りで追いつけるといいな……?
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