第82話 北門の先へ

 その後、途中生産者ギルドに立ち寄りはしたものの、僕は始めて北門の方へと足を運ぶ。まぁ、NPCの店の散策なりで近くまでは行ったけど。


 そこは別の街へと繋がる街道がある南門とは別の意味で人の流れが多い。


 この先にはまず『北ファスタの草原』と呼ばれるとても草原と呼ぶには草木が少なすぎるエリアが広がっており、更に南と違って街道があるわけではなく山へと続く険しい山道が伸びるだけとなっている。


 その山道の先には、険しく切り立った岩山があり、それは『北の鉱山』と呼ばれている。


 その鉱山は昔から様々な鉱石が採掘されていたが、未だに多種多様な鉱石や原石が眠っているらしく、現地の人々はその山を登って掘り進めているらしい。


 その為、この北門には基本的に鉱夫のような人たちが多く移動している形となり、山道から荷馬車に大量の鉱石の山を積んだ作業員たちが街の中へと入っていく。


 現状は来訪者であろう冒険者たちの姿の方が多い形にはなっている。


 どうやら来訪者の街と呼ばれているファスタだが、以前は『鉱山の町』と呼ばれていたようだ。その為に、街の東側には街の外壁から飛び出すように拡張された場所があり、そこに鉱石の製錬所が置かれているらしい。幾つかの採集をメインにしていたプレイヤーが鉱夫のNPCと仲良くなって話を聞くことで明らかとなった事であった。


 とはいえ、その製鉄所のある場所は未だにプレイヤーが近づくことが出来ないよう、立ち入り制限が施されている。まだ入れるようになったプレイヤーは居ないはずだ。


 何にせよ、あの高レベルモンスターがいるであろう鉱山を登っていくのだから、この街の鉱夫というのはかなりの実力者なのだろう。


 因みに現在は鉱山の麓より上の場所で崩落が発生しているらしく、その復旧作業が行われているために麓よりも先へと進むことは出来なくなっている。南門の街道の封鎖などもあったが、おそらくはプレイヤーの行動制限のためのイベントなのだろうと思う。


 北門に辿り着いた僕らは、南門と同じように門の下でクラスカードを門番に見せるが、僕のものを見せると、何やらため息をつかれる。


 その門番は南門と同じように騎士の格好をしていたが、顔はかなり濃い目の髭で覆われていた。


「……またレベルが低めの冒険者か。まぁ、まだレベル7だから他よりマシだろうが……。ここは、南の方よりも敵が強いから、気をつけなさいよ」


「あ……はい、分かりました」


 どうやら僕らの心配をしてくれていたらしい。


 ここ数日は、邪竜討伐に参加するためにレベリングをするプレイヤーが増えたようで、その結果としてかなりレベルの低いプレイヤーが通って行くらしく、門番としては気が気ではないのだろう。


 因みにこのメッセージ、どうやら門を通って外に出たはいいが、中に入る時に手続きをしなかった場合に出てくるものらしい。


 つまり、本来なら死に戻りしてからまた外に出る際にかけられる言葉らしい。


 とはいえ、僕の場合は死に戻りではなく単純にログインスポットからの再会なので死に戻りではない。だからこそ、言い方は柔らかいものになっているようだ。


 これが死に戻りしていたら、結構口煩く言われる事になるらしい。経験者であるスズ先輩が笑いながらそう答えていた。


「それにしても殺風景なところだの」


「確かにね。これならウルカたちが飽きて南門の方に行きたくなったっていうのも分かるかも」


「アハハ。これでも結構見どころはあるんだぞ?」


「よく言う。お前はどんな光景でも綺麗だのなんだの言っているじゃないか」


 北門から抜けた先の『北ファスタの草原』の風景を見て、三者三様の意見が繰り広げられるが、今のところは殺風景派が多数のようである。


 まだこの辺りはまだ一応草原扱いなので普通に緑があるものの、その先の山道に至っては岩と地面ばかりとなっている。鉱山周辺は地質のためにあまり草木が生えないようだ。


「さて、それじゃあ早いところ先に進もう。『棄てられ坑道』はここからしばらく歩くんですよね、スズ先輩?」


「あぁ。ここからしばらく山道を進みながら途中で東北の方向に進めばいい。古い道案内の看板があるから、それを道しるべにしていけば辿り着けるぞ」


 ただし、その間は普通にモンスターが出現するので気をつける必要があるが。


 この北門のエリアにはさっき冒険者ギルドの依頼で確認したロックゴーレムやサンドバード、ランドモールが多く出現する。


 特に多く出現するのがロックゴーレムとなるのだが、ロックゴーレムは岩で形成されたゴーレムであり、このゲームでは初となる人型のモンスターとなる。まぁ、人型と言うには少しずんぐりむっくりしているのだが。


 これはかつて人の手で作られたゴーレムが野生化したことで、繁殖したモンスターのようだ。人が作ったゴーレムと違って、凶暴かつ自分の意志で襲いかかってくる。


 その動きは鈍足で、かなりゆるやかとなっているものの、当たればかなりのダメージを与えてくるパワータイプのモンスターとなる。その上、VITが高いのでこちらの物理系の攻撃は効きにくい。


 なので、有効手段は魔術スキルを始めとするスキル系の攻撃となる。


 他のサンドバードやランドモールに関しては、単純に土属性の鳥型モンスターとモグラ型モンスターとなる。それぞれ空を飛んだり、地面を潜ったりする特徴があるのだが、いずれも攻撃を仕掛けてくるタイミングでカウンターを決めるというのが、簡単な戦い方らしい。


 因みにロックゴーレム、サンドバード、ランドモールに関しては、いずれも土属性なので風属性の攻撃が有効となる。


 また、防具を風属性の傾向のもので固めると、自身の属性が風属性になる仕様があるらしく、そうすると土属性の攻撃を受けた際のダメージが半減されるという効果があるらしい。


 尤も、偶に火属性のファイヤーバードも出てくるので、その場合はダメージが倍になってしまうのだが。


 何にせよ、今の僕の装備は特に属性があるものではないので関係のない話ではある。


 

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