第81話 ユニーク装備

 因みにスズ先輩は金欠の割には、かなり豪華な装備を身に着けているのだが、実はこれらはとあるゲームイベントをクリアしたことで手に入れたアイテムらしい。


「北門から少し離れた場所に小さな洞窟があってな。そこの奥にいた、頭が複数あるヘビを倒したらなんか貰えたんだ」


「……俺がいたとはいえ、単身でダンジョンに突入するのは流石に無謀だと思ったがな。まさかオロチを倒してしまうとは。あれでもドラゴンなのだがな……」


 どうやらスズ先輩、自然発生していたダンジョンを単身で攻略していたらしい。そのダンジョンは先輩が攻略すると消滅してしまったらしいが。


 ダンジョンというものはこの手のゲームの世界観ではお決まりの迷宮である。中が複雑に入り組んでおり、モンスターが大量に出現する。


 その多くが国などで管理されているらしいのだが、その他にも自然発生することがあるらしい。その手のダンジョンはゲームイベントによるものが殆どだ。


 ベータテストの際には、それらのダンジョンを攻略するのもゲームの醍醐味の一つだったらしい。


 また、そういう自然発生のダンジョンを放置してしまうと、そこから迷宮氾濫スタンピードというモンスターの大量発生が起きてしまうらしく、その際はかなり面倒な事になってしまっていたらしい。


 スズ先輩が挑んだダンジョンがどのような難易度のものだったのかは定かではないものの、アーサーが口にしたオロチというドラゴンがボスである時点で相当やばいのではないかと推測できる。


 そして、その攻略報酬として現在身に着けている『覇竜の大剣』と『勇気の鎧』という装備を手に入れたようで、その豪華さから少なくとも序盤だと単身では挑めないような難易度ではないだろうことは理解できた。


 因みにこれらの装備、アイテムのランクは星表示ではなく『ユニーク』と記載されていた。


 ――――――――――――――――――


『覇竜の大剣 ユニーク

 成長レベル:2(プレイヤーレベル10到達)

 装備補正:STR+50、ATK+50

 追加効果:装備時にSTRの値を通常攻撃時のダメージ参照に加算する。

 装備耐久値:不壊

 所有者:スズ』


『勇気の鎧(全身装備) ユニーク

 成長レベル:2(プレイヤーレベル10到達)

 装備補正:STR+200、AGI+100

 装備耐久値:不壊

 所有者:スズ


〈フルセット効果〉

【経験値上昇+50%】……戦闘における各種経験値の獲得量が50%増加する。この効果はいかなる効果においても無効化されない』


 ――――――――――――――――――


 ユニークランクの装備――通称『ユニーク装備』はゲーム中で1人しか入手できない特別な攻略報酬の装備となっており、ベータテストの時はそれなりに見つかっていたようだが、それも後半あたりのことらしい。


 既に本サービスでも何人か手に入れているようだが、僕の場合はこのスズ先輩のものが初見となる。


 このユニーク装備の特徴だが、まずもって『成長』にある。


 本来、装備の強化に関しては、店売りのものも、生産品も、そしてドロップ品であっても、生産職のもつジョブスキルである『装備強化』で強化していく必要があるのだが、このユニーク装備はプレイヤーのレベルに応じて自動で強化されるという特徴を持っている。


 その強化具合はレベルで表記されるようで、現在はスズ先輩のレベルがレベル10であることから成長レベルは2となっている。


 また、装備補正とは別に『不壊特性』という効果を持っており、どれだけ扱っても壊れることはないらしい。


 ただし、その中でも装備耐久値が設定されているものといないものとが存在するらしく、装備耐久値が設定されているものは、その数値が切れると一時的に使用不可になるらしい。大元の数が少ないのではっきりとはわからないが、その場合は時間経過などで復活するらしい。


 ベータの頃にはレベルによって成長するのではなく、破壊されることで成長するタイプのユニーク装備もあったらしい。


 因みにスズ先輩の『覇竜の大剣』にも『勇気の鎧』にも装備耐久値は設定されていないようなので、どんなに雑に扱っても壊れることがない装備となる。羨ましい。


 因みにユニーク装備には『所有制限』というものがあり、プレイヤー1人につき武器と防具をそれぞれ1セットずつのみ持つことが可能となっており、なおかつその所有権を持つプレイヤーのみが装備可能となっている。


 2個目以降はその入手条件を満たしていても、入手不可となっている。ただし、そのユニーク装備の所有権を放棄してから手放せば、また新たなユニーク装備をは得られるものの、手放したユニーク装備は消滅してしまう。


 そもそもユニーク装備はそう簡単に手に入るものではなく、基本的に一度攻略すると消滅するタイプのダンジョンを特定の縛り条件でクリアした際に手に入ることがある、というレベルの代物なので、手放したとしたらもう手に入らないものだと思ってもいいだろう。


 先輩の場合、その自然発生ダンジョンのソロ攻略がその縛り条件だったのだろう。もしかしたらタイムも関わっているのかもしれない。


 なお、ユニーク装備だからといって必ずしも強いというわけではないらしく、手に入れたとしても実用的かどうかは不明だという。


 せっかく苦労して手に入れたのに使えない性能だったら、普通に泣きそうではある。


 まぁ、何にせよユニーク装備に関しては攻略を目的としているプレイヤーなら誰もが欲しがるような代物であることは間違いないだろう。


 僕も武器の方は欲しいところだ。流石にいつまでも初心者の杖を持ったままだと格好がつかないし、【加工】を使って自分で作れると言ってもやはりたかが知れているからね。


「ま、お陰で私はメキメキとレベルアップを果たしたわけだけどな!」


「まぁ、確かにフルセット効果で戦闘での獲得経験値上昇+50%なんて、レベルを上げたいプレイヤーからしたら破格の性能ですからね……」


 スズ先輩の持つ『勇気の鎧』は最初から全身鎧として存在する全身防具となっており、装備すると戦闘での経験値上昇+50%……つまり、獲得経験値が1.5倍になるというフルセット効果を発動していた。


 基本的に全身防具は単体の防具とは違い、それ一つで全身の装備欄を埋めるタイプの防具となる。なので、僕の天暁装備のように同シリーズを全身揃えて発動するフルセット効果が、それ一つで常時発動する形となる。


 しかし、これなら確かにドラゴンであるアーサーを連れ歩いている先輩がメキメキレベルアップを果たしたというのも理解できる。……理解はできるが、やはりズルい気もする。


 その代わり、装備自体がステータス値に与える装備補正の方は、レアな割には控えめとなっている。


 防具で上がるステータス値の値は、STR+200、AGI+100となっており、現状ではランスたちがオキナに作ってもらったものと同じで、合計で300しか上がらず、補正値としては僕の防具よりも若干低い感じだ。


 ただし、これはあくまでレベル10時点での成長具合であり、次に上がるレベル20の時点では余裕で抜かされている可能性は大いにある。


 まぁ、その頃には僕もランスたちもこの装備を強化してもらっているか、新しい装備を使っていることだろう。そう期待したい。


 また、武器である『覇竜の大剣』はSTR+50、ATK+50と火力としては50しか上がらない武器となっているが、装備補正ではない追加効果として『装備時にSTRの値を通常攻撃時のダメージ参照に加算する』という効果を持っているので、単純に通常攻撃での火力が凄いことになっている。


 これでまだ2段階目らしいから驚きだ。まぁ、2段階目で上がったのはSTRの数値だけだったらしいが。


 現時点では、スキルやアーツに対してSTRの値は加算されないものの、先輩のジョブは剣士なので、クラス2で剣士から派生する『大剣使い』になれば、確かジョブアビリティでスキルやアーツにもSTRの値が加算されるようになるはずだ。


 そうなるともうスズ先輩を誰も止められなくなってしまいそうだ。


「しかし、頭部とか何も身に付けてないから別の装備を付けようと思ったけど、装備出来ないんだな」


「あー、全身防具の場合、仮に空きがあるように見えても、装備できない仕様ですからね」


 全身防具のように最初からセット扱いの防具は、仮に防具を付けていないように見える部位があっても、装備欄的にはそこまで装備していることになるので、別の装備が付けられない。


 とはいえ、性能的には十分なのでこれ以上装備をつける必要はないだろう。もし外観が気になるのであれば、NPCが売っているアクセサリーにも髪飾りやカチューシャなどがあるので、それを装備するといいとスズ先輩には伝えておいた。


 そして、そんな話をしながら冒険者ギルドに辿り着いた僕らは、取り敢えず北門以降のエリアに出現する『ロックゴーレムの討伐』と『サンドバードの討伐』、『ランドモールの討伐』を受注して、北門へと向かうことにした。


 因みにその際に僕は先日、ウルカに報告を頼んでいた依頼の依頼料を受け取ったのだが、その金額を見てスズ先輩が金的な意味で依頼に対してやる気を見せていたことは、本人の名誉的に見なかったことにしようと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る