第67話 棲森の奥へ
「ルヴィア!! 後ろだ!」
「えぇい! 鬱陶しい! 『ブラッドクロー』!!」
ルヴィアが目の前に大量に現れたゴブリンに対して、血で形成された爪で切りつけていく。その攻撃を受けたゴブリンは次から次へと消滅していった。
「全く……きりが無いな」
森の中に突入した僕らは、僕を中心にしてその周囲をルヴィアやウルカたちが取り囲む形で進んでいたが、その途中で大量のゴブリンに遭遇するととなった。
この森の中ではどうやら常時敵が出現する状態となっており、この森の中そのものがイベント戦闘でのバトルフィールドのような扱いになっているようだ。
なので、前後左右どこからでもゴブリンが現れ、そして戦闘の途中でもゴブリンが出現するようになり、結果として現在は1人で多数のゴブリンを撃破しなくてはならない状態に陥っていた。
現在は僕以外の全員がゴブリンと対峙している形となっている。幸い、レベル自体は低めのようで、シルクやスミレでも難なく倒せるくらいの強さだ。
僕はこのポジションだと、このエリア限定ではあるが全員の後方にいるという扱いになるようで、適時『リリーブテンション』や『アタックアシスト』、『ヒール』を発動させる支援スタイルとなっている。『アタックアシスト』や『ヒール』は【後方支援】の補正のお陰で、【スキルリンク】によって半減しても効果が高いままだ。
なお、ルヴィアに使う『ドラゴンエンハンス』に関しては常時召喚されているニョロと、時間経過ごとに召喚しているセンディアにのみ【スキルリンク】で半減した効果が反映されている。プレイヤーには効果が無い。
ただ、現状ではスキルを使うのがルヴィアくらいなものなので全体だと『ドラゴンエンハンス・ディフェンス』程度しか効果がないのが残念ではある。
「――『ソニックスラスト』、『クロススラッシュ』!!」
コトノハが凄まじい勢いで前進すると、その勢いのままに2つの片手剣でゴブリンを切りつけていく。
『ソニックスラスト』は剣士系統のジョブで習得するジョブアーツであり、力強く踏み込むことで、直進的ではあるもののかなりの速度で進むことができるというアーツである。これを使えば間合いを一気に詰めることができるため、近接系の剣士でも広範囲で戦うことができる。
そして『クロススラッシュ』は【剣術】など斬撃系の戦闘技能で覚えるアーツで、武器を用いて一回の攻撃動作で2連撃を行えるという効果を持つ『ダブルスラッシュ』によく似たアーツだが、『ダブルスラッシュ』が二の形に斬りつけるのに対し、こちらは十字に斬りつけるというものとなる。
コトノハのように片手剣を2本使うプレイヤーだと、2連撃を与えるアーツはそれぞれの剣で一撃ずつ与えるらしいのだが、その場合は『クロススラッシュ』の方が使いやすいらしい。僕にはよく分からないが、そういうものなのだろう。
なお、武器に関しては仕様として両手持ち、もしくは片手にそれぞれ一つずつ持つことができる。盾は腕に固定しているものは武器に含まれないが、ウルカの持つ盾のように手に持つタイプのものは武器として判定される。なので、ウルカは片手剣と盾を同時に装備して戦うスタイルとなっている。
シルクの槌は両手持ち、スミレの持つナイフは片手持ちで、もう片手は投擲等で使うために特に武器は持たないスタイルでいるようだ。
因みに僕の持つ杖は片手でも持てるくらいの重さだが、一応両手持ちの武器としての判定となっている。アイテムを使用する際は、片手で持って使用するが、その際は杖を使った攻撃や防御などは取れない仕様となっている。
さて、コトノハの様子に戻るが、『ソニックスラスト』を利用して、凄まじい勢いのままに次々とゴブリンを斬り捨てていく。
かなりアーツを多用しているスタイルだがSPが枯渇する様子は見えない。そう考えるとやはり【健脚】ではなく、消費SPそのものを減らすタイプのアビリティを習得しているのだろう。
「くらいなさい! 『トライスラッシュ』!!」
一方でウルカは、センディアに跨って迫りくるゴブリンを斬り伏せていく。センディアの召喚を維持するため、召喚時間が切れる前に再度『召喚』を発動する。これにより、召喚状態はそのままに召喚時間を引き伸ばすことが可能となっている。
その代わり定期的にMPを消費する為、僕が適時『魔力供与』を使ってMPを与えている。だから、今回はルヴィアには肉弾戦で戦ってもらっているというわけだ。流石に2人に『魔力供与』するだけの余裕はない。
現時点で【魔力供与】のアビリティレベルは、ルヴィア相手に使い続けている為にレベル5まで上がっており、減衰率は消費量の30%となっている。要するにMPを100消費して70ポイント与えることができるという感じだ。
まだ無駄があるものの、前線で戦っているウルカが回復のために隙を晒せば、そこをゴブリンに突かれる可能性もあるので、こういう形で回復させている。まぁ、その時はセンディアがどうにかしてくれる気もしなくないが。
幸い、僕の場合は皆に守られている形になるので適時マナポーションを使うことができるので、こっちのMPに関しては問題ないだろう。
また、自然回復自体も毎秒6ポイント程度もあるので、下手すると回復アイテムを使わなくてもいつの間にかスキル使用可能な程度まで回復していたりする。
「いっくよー! 『ハンマーローリング』!」
一方、シルクはアーツを使用すると、そのままハンマーを振り回すように回転し始め、周囲のゴブリンを叩き飛ばしていく。結構その速度は速めだ。
シルクに関しては、グレーウルフやホーンラビット相手だと避けられがちだった槌による攻撃も、ゴブリン相手だと比較的当てられるようにはなっていた。向こうがそんなに速くないというのが決め手になっているようだ。
【槌術】の範囲攻撃である『ハンマーローリング』は、ある程度の範囲にいる相手に対して攻撃が可能となっている。ただし使用後は目が回る可能性があるので、三半規管が弱い人にはオススメできないらしい。
シルクの場合、特に目を回すこともなく綺麗にポーズを決めていた。
「――『ネックスラッシュ』!」
スミレは片手に持ったナイフを逆手に持って、ゴブリンに向かって接近すると、スッと気配を消して敵の首に向かって斬りつける。これにより、最小の動作で敵を確実に倒していく。
『ネックスラッシュ』は記憶が正しければ【暗殺術】で使用可能となるアーツだった筈だ。気配を殺してから敵の首を正確に斬りつけることで、一定確率で敵を『即死』させる攻撃となる。
【暗殺術】自体は敵を不意打ち等で倒し続ければ習得可能となっているらしく、おそらくは北門以降のエリアで戦っているうちに習得可能となっていたのだろう。
因みに【暗殺術】に関しては、その殲滅力の高さからベータテストにおける最強アビリティの一角として、開始前の情報サイトで評価されていたアビリティとなる。
その気配を消すために【隠匿】などのアビリティが必要ではあるものの、彼女が言う忍者には確かによく似合うスキルだとは思う。
「よし、ある程度片付いたか……」
僕は初級マナポーションを口にしながら、周囲の様子を確認する。さっきまで大量に出現していたゴブリンは彼女らの活躍により、その数を大きく減らしている。
今は各自受け持っている1体や2体くらいしか残っていない。これならばそろそろ先に進めるだろう。
「よし。ここらで回復しよう。『ヒール』!」
僕が杖を上に掲げてそのスキルを発動すると、一番ダメージが酷かったシルクを中心に全員のHPが回復する。スキルリンクの影響でドラゴン以外はその効果が%減っているが、問題はないだろう。
そして、ゴブリンラッシュは終わりを迎え、ドロップアイテムが表示されていく。相変わらずプレイヤーレベルに関する経験値は少ないな。
〈【魔術】がレベル2になりました。それに伴い、新しいアーツ『精神統一』を覚えました〉
〈【魔力供与】がレベル6になりました〉
〈習得条件を満たしたので習得可能アビリティに【支援回復術】が追加されました〉
今回は結構『ヒール』と『魔力供与』を多用したことで【魔術】と【魔力供与】のレベルが上がった。
【魔術】で新たに獲得した『精神統一』のアーツは杖を構えたポーズを取ることでその構えを取る時間に応じてINTとMINを一定時間上昇させる効果がある。硬直時間が気になるものの、スキルを使わずにステータスを上げる事が出来るのでMPの節約になる。
最後に【支援回復術】が習得可能となったとのアナウンスが流れる。何だろう、このアビリティ?
メニューから習得可能アビリティを確認すると、確かに【支援回復術】が習得可能になっていた。習得した時点のログを確認すると、どうやら【支援回復術】は『回復系スキルを一回の戦闘でパーティーメンバーに向けて50回以上使用すること』が習得条件となっているらしい。
そんなに使った記憶は無かったのだが、どうやら【スキルリンク】の効果で全体に反映された『ヒール』がルヴィアを含めたパーティーメンバーそれぞれに使っている判定になっているらしく、おそらくだが1回で5回分の加算が行われているようだ。
何やらシステムの抜け道を使ったような気もしなくないが、【スキルリンク】以外にもスキルをコピーするアビリティが他にも存在する時点でこの仕様なら、おそらく問題はないだろうと思われる。
因みに【支援回復術】は僕が最初に覚えたかった【支援術】に【回復術】が組み合わさったようなアビリティ――というわけではなく、単純に自分以外を対象とした回復スキルを覚える戦闘技能アビリティとなる。
まぁ折角習得できるようになったのだから、早速習得してみる。セットする際に控えに移したのは【調合】となる。
習得の際に覚えたのは『ユアヒール』と『ユアキュアー』の2つの回復系スキルである。
その効果は『ユアヒール』が他者に対してHPを80回復、『ユアキュアー』が他者の状態異常を全回復という感じだ。
通常の『ヒール』なら回復量は50であり、『キュアー』は習得していないが確か状態異常を1つ回復するという効果だったので、どちらも他者のみという制限はあれど強力な効果となっていた。
ユアヒールはMP消費量は『ヒール』と同程度、
これで僕の持っていたアビリティポイントは無くなったが、後悔はない。
それから、しばらく進んではゴブリンと戦いという流れを繰り返しながら先へと進んでいく。流石に小一時間も経過するとウルカたちにも疲労の色が見えてきた。
「さて、だいぶ進んだけどまだ祠の場所にはたどり着かないかしら?」
「安心してウルカ。入口はもう目の前にあるよ」
そう言って僕が村長から預かった魔導具を掌に乗せると、そこから光がまっすぐ目の前の森の奥に続く入口へと続いていく。
どうならこの先でエリア切り替えになるようで、向こう側がどうなっているのかは分からない。
「この先にホブゴブリンが待ち構えているのか……さぁ、気を引き締めていこう!」
コトノハの掛け声に対し、流石にいつもの元気がないのか返事がなく、変わりにシルクとスミレが右手を力弱く突き上げていた。
本当に大丈夫だろうか……?
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