第66話 特殊クエスト
僕らが改めてメイヴィを救出するために『邪鬼の棲森』へと向かおうとすると、村の外に繋がる門の付近に数名の村人が集まっていた。その中には先程、コトノハが助けた村人の姿もあった。
その中で指揮をしている年老いた男性が、こちらに気付く。僕らはそんな村人たちの元へと駆け寄っていった。
そして近くまで来たことで年老いた男性が僕らのもとに近づいてきて、深々とお辞儀をする。どうやらお礼のようだ。
「これは来訪者の方々。先程は村人を救っていただき、感謝いたします。実は先程から森の様子がおかしいため、今居る村人が外に出ないよう門を閉じる所だったのです」
先程、コトノハが助けた村人のことのお礼を告げてくれた。それはコトノハがやったことなので、僕らは特に関係ないのだが、既にパーティーメンバーになっているので全員が対象になってしまったのだろう。
どうやら異常事態が起きていることは流石の村人たちも気づいたようで、今からこの村は閉鎖されることとなるらしい。このまま門を閉ざせば、森の様子が落ち着くまで外には出られなくなるとのことだった。
一応、僕らの場合はログイン時に、最後に居た場所ではなく最終到達ログインスポットからのログインも選択できるため、無理やり外に出ることは可能だが、普通にタイムロスになる。
「……僕らは森の異変を止めにいきます」
そして、村人たちにユートピアから伝えられた事実を伝える。どの道、僕らがダメだったときに何らかの行動をしてもらうには村人にも知っておいてもらう必要がある。
すると、村の長らしき年老いた男性は「邪竜復活の儀式か……!」と小言で呟いていた。
「やはり、邪竜が森に?」
「儂が幼い頃に当時の長から聞いた話だがな。祠は通常隠されておるのだが、そこに向かう向かう為に必要な鍵は儂が持っておる。使ってくれ」
そう言って、おそらく形見離さず持ち歩いていたであろうペンダントから一つの宝石を取り出す。どうやらこれは魔力を込めることで直線的な光が放たれる魔導具となっているようで、この光が『邪鬼の棲森』にある祠までのルートを指し示しているようだ。
そして村人の1人が自分の家から古びた森の地図を持ってくる。どうやら昔使われていた地図のようだ。こちらには当然ながら祠についての情報は記載されていない。
「こんな古い地図で悪いが、参考にしてくれ」
「ありがとうございます!」
未知の場所を探索する上で古くても地図があるかどうかでルート作りには非常に役立つ。僕が代表して受け取った事で僕のマップに新たに『邪鬼の棲森に関する地形データ(仮)』が追加されることになった。(仮)なのは古いデータだからだろう。実際に進めば更新されるので問題はないだろう。
今回、村人たちにとって連れ去られた村人というのは家族そのものだ。なので、僕らに是非とも救ってほしいと頼み込んでくる。無論、頼まれなくても救助するつもりだった。
――ピロリン。
その時、何らかの通知を示すアラートが鳴り響き、ルヴィア以外の全員がメニューを開いた。どうやらパーティー全体に知らせる類のもののようだ。
――――――――――――――――――
〈INFO〉
・村人からのお願いを聞いたことで、特殊クエスト『村人を救い出せ』が発生しました。このクエストは失敗までの時間制限があります。
――――――――――――――――――
どうやら、この村人たちのお願いが特殊なクエストを発生させるという形で現れたようだ。そのクエストの内容はこのようになっている。
――――――――――――――――――
・特殊クエスト『村人を救い出せ』
邪鬼の棲森で起きようとしているゴブリンによる邪竜降臨の儀式を阻止し、村人を救い出せ。期限は『緋月の七、23時59分』までとなる。
達成条件:ホブゴブリンの討伐と村人の救出
失敗条件:味方の全滅、指定時間経過
――――――――――――――――――
どうやらホブゴブリンの討伐と、村人の救出の両方を達成させないといけないらしい。
時間はだいたい14時過ぎなので、まだ10時間近くあるものの、僕のログイン時間を考慮するともう9時間もない形になる。
それ以前に夜時間になると苦戦を強いられる事になるだろうから、そう考えると5時間も無いことになる。これは敵の勢力次第ではかなり急がないといけない。
因みに『緋月の七』というのは今日の日付の事だ。この世界、西洋風の世界観なのに何故か月日は和風な感じで表現されている。とはいえ、メニューではゲーム開始から何日目の何時としか表示されないので、こういうNPC関連の事でしか表示されたり、語られたりはしないようだ。
因みに普通の依頼は、残り時間しか表示されないようになっている。
しかし、普通のクエストと違って失敗条件や時間制限があるなんて、まるでゲームイベントそのものだな。
おそらくはその手のイベントの為に組み込まれたクエストなのだろう。なら、絶対に達成しないと。
「儂らはこれ以上何もできませんが、皆さんの無事を祈っております……」
「どうか連れ去られた友を……家族を救ってください……」
村人たちに頼まれ、僕らは無言で頷く。たとえゲームの中でも絶対なんてものはないので、この場で確約ができないのが何とももどかしい。
そして僕らはそのまま村を後にし、村の門は僕らが出ていった後に大きな音を立てながら閉鎖された。
「……さて、急ぐとしましょうか」
ウルカがそう呟くのと同時に、僕らは暗雲立ち込める空を見つめ、森の方へと向かって走っていく。
次第に周囲の森の様相が変化して日が届かないような木々の立ち並ぶ森の入口へと到着した。
この先が、『邪鬼の棲森』となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます