第61話 連携プレイ

「行くよー、ニョロ! 『ハードスタンプ』!」


「シュラァァ!!」


 巨大なハンマーを掲げたシルクが、巨大のトカゲといった姿になったニョロと共に、グレーウルフへと殴りかかる。


 どうやら、ニョロは『イエローサラマンダー』という土属性のAランクドラゴンだったようだ。これは本当に巨大なトカゲという姿のドラゴンであり、通常時が本来の大きさなのだが、今はニョロ自身が持つ『巨大化』というスキルの効果で大きくなっている。


 シルクが使った『ハードスタンプ』は【槌術】のアーツの一つで、勢いよく振りかぶることで強力な叩きつけ攻撃を放つというものだ。場所によっては地面を抉ることもある。なお、抉れた地面は戦闘後に元に戻る。


 しかし、流石にその攻撃は大振りだった為にグレーウルフには避けられてしまう。


 だが、地面に激突したことによる衝撃によって、地面から抉れた石礫がグレーウルフを襲い、多少なりともダメージを与えることが出来たようだ。


 また、ニョロも追撃として口から石礫を吹き出すことでグレーウルフへと攻撃していた。


 そして、グレーウルフが避けた先にはスミレがひっそりと構えていた。僕の外套と同じ【隠匿】のアビリティを持っているようで、戦闘中に気配を消すのは得意なようだ。


「――そこでござる! 『スナイプスロー』!」


 スミレが手に持ったクナイ――ではなく僕が作った木のナイフを道中に投擲アイテムとして再度加工した試作の木の投げナイフを3本、背を向けていたグレーウルフに向けて投げつける。


 木製なので壊れやすいが、そもそも投擲に使うアイテムは投げた時点で消費するものなのでさほど関係はない。刀身もより鋭く尖らせたので、刺さりの点ではグレーウルフ程度なら問題ないだろう。忍者らしくクナイを所望していたスミレに渡しておいたのだ。


 因みに『スナイプスロー』は【投擲】の特定レベルで覚えるアーツの一つであり、投擲可能なアイテムを正確に投げつける事ができるというものだ。初期アーツの『投擲』と比べると威力は上がらないものの、命中率が上がり、更に敵の急所に当たりやすいという仕様になっている。


「キャウン!?」


 投げナイフが全て当たった事で、グレーウルフのヘイトがスミレへと向かう。そして勢いよくスミレの方へと飛びかかる。


「なんと!?」


 ある程度のAGIはあるスミレだが、グレーウルフの気迫に焦ってしまい逃げ遅れてしまう。


「任せなさい! 『カバームーブ』!」


 そこに咄嗟に盾を構えたウルカが、センディアに乗ったまま回り込む。『カバームーブ』は【盾術】などで覚えるアーツで、一定距離にいるプレイヤーを庇う形で瞬時に移動することができるというものだ。ウルカの場合はジョブアーツらしいが。


 そしてウルカはグレーウルフの攻撃を食い止めると、そのまま盾で跳ね飛ばし、片手剣でグレーウルフの腹を切り裂く。ついでにセンディアが尻尾で地面へと叩きつける。


 こうしてダメージを負ったグレーウルフは彼女らがいる場所から逃げ出そうとする。


「今よ! リュート、ルヴィア!」


 ウルカが叫ぶと、グレーウルフが逃げ出した先にルヴィアが立ちはだかる。その側に僕は立っている。


「行くぞ、『魔力供与』!」


「任せよ! 滅龍吐息――『ドラゴンブレス』ッ!」


 僕が杖を翳してルヴィアにMPを与えると、ルヴィアは思い切り息を吸い込む。そして、グレーウルフがそのルヴィアの行動の意味を知って別方向に逃げ出そうとした瞬間に、ルヴィアの口から凄まじい炎が吹き出していく。


 その炎に飲まれた瞬間、グレーウルフのHPは無くなったのか、形が崩れると塵となって消滅した。


 戦闘終了後、僕らはドロップアイテムを獲得する。グレーウルフの魔核の他に経験の竜玉・小を初めて手に入れた。


〈ジョブ『ブラッドサポーター』がレベル4になりました。それに伴いジョブアビリティ【ドラゴンサポーター】がレベル3になりました。新しいスキル『ドラゴンエンハンス・アタック』を覚えました〉


〈【後方支援】がレベル4になりました。それに伴い、新しいスキル『ダッシュアシスト』を覚えました〉


 相変わらず戦闘ではプレイヤーのレベルに入る経験値は少ないものの、ジョブと【後方支援】は昨日ぶりのレベルアップとなった。


 ジョブの方はようやく新しいジョブスキルを覚えた。やはりジョブの場合、ベータ版と同じでレベル4以降の偶数レベルで新規スキルやアーツを覚えるようだ。


 『ダッシュアシスト』はAGIに対するステータス上昇の効果を持つ支援スキルだ。しかし、一向に防御系のステータスに対するアシスト系スキルを覚えないが、もしかして【後方支援】はそれらを覚えないのか?


 まぁ、確かに『リリーブテンション』や『メンタルケア』を覚えた時点でスキルの数が足りないわけだが。


「お疲れ様。リュートの『リリーブテンション』、話に聞くよりも凄いわね。あそこまで動けるだなんて思わなかったわ」


「お気に召してもらえたようで何よりだよ」


 それまでの戦闘はホーンラビットがほとんどで僕が支援するまでもない(というか支援させてもらえなかった)相手だったので、今回グレーウルフ戦ということでようやく使わせてもらった形となる。


「凄いよー! めちゃ動けたしー! 最後は外しちゃったけど! あと『アタックアシスト』とかも良かったー!」


「拙者もこの木の投げナイフがとても良かったので、次はクナイの形で作ってほしいでござる! あと、刃に染み込ませる毒薬なんかもあると嬉しいでござる」


 シルクとスミレからも僕のサポートに関しての感想を貰う。クナイについてはその形が投げナイフとして判定されるかが難点となるだろうが、後で試してみるかな。毒薬に関しては、まだ作れないので残念ながら今は諦めてもらうしかない。


「しかし、シルク殿が最初の『ハードスタンプ』一撃でグレーウルフを叩き潰してしまったときは流石に驚いたでござるな」


 今回も例のごとくグレーウルフは群れで現れたわけだが、そのうちの1匹はシルクが開始直後に放った『ハードスタンプ』によって一撃で叩き潰されてしまった。


 それのせいでグレーウルフはシルクをいの一番に警戒するようになり、結果としてスミレへの警戒が薄れてしまったという事になる。


 まぁ、発動させたシルクが一番驚いていたのは言うまでもないか。


「まぁ、『ハードスタンプ』のダメージはSTRとの掛け合わけになるし、リュートが使った『アタックアシスト』の効果も相まって火力は相当なものになってたでしょうね。それにしてもさっきのは凄かったけど」


「えへへー! なんか褒められたー!」


 確かに元が高いのに更に引き上げてしまったからな。最後のも、当たっていれば凄まじい威力となっただろう。


 もしかしたら『リリーブテンション』で緊張状態が解されたことで、無意識の潜在能力を発揮できたなんて可能性もある。


「取り敢えず、これで村の方は無事に辿り着けそうだね」


「そうね。それにしても、まさか村の入り口の目と鼻の先でグレーウルフに出くわすなんて。……普通ありえないわよ?」


「うむ。何やら変な気配もするのでな、気を抜くなよ主殿?」


 僕らの眼前にあったのは木製の小さな門だ。開きっぱなしになって久しいのだろう。だいぶ傷んだ状態である。


 ファスタの街よろしく、市街地エリアの近くはそこまでモンスターは出現しないものだと思っていたが、ここはそうでもないのだろうか。いや、それならアイギスが1人で護衛しながらファスタに向かおうなんてしないだろう。


 本来はここまでモンスターが出てくるわけではないのかもしれない。ルヴィアも何やら変な気配がすると向こうの森の方を見ていたのも気になるところだ。……ホントに厄介なイベントとか発生しないことを祈る限りだが。


 まぁ、取り敢えず無事に目的地であるリーシャ村には到着することができた。残念ながらその間にウルカの先輩は現れることはなかった。

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