第62話 リーシャ村

 ゲーム内時間で13時を過ぎたあたりで、僕らはようやくリーシャ村へと到着することができた。なお、リーシャ村には特に門番などの干渉もなくそのまま入ることができた。


 門を基点として外周を木製の壁で囲んでおり、それによりモンスターなどが攻め込んでこないようにしているようだ。


 こんな壁で耐えられるのかと疑問に思ったが、見た感じだと破壊不可オブジェクトとなっている様子なので問題ないのだろう。そこはゲーム的な扱いになっているようだ。


 中の方は普通に綺麗な木造の家屋が何軒か繋がって長屋のような形をしており、ちょうど僕らが入ってきた場所と真反対の方向にも門が存在していた。


 その門と門を繋げた一直線の道から少し外れた場所に大きな家があり、おそらくはこの村の村長あたりが住む家、もしくは集会場のようなものだろうと推測する。


「それにしても人が少ないわね……」


「確かに、村の中心に来たけど誰とも会わなかったな」


 ここまで数分で歩ける距離ではあったものの、その間に村人に出会うことが無かった。村の様子を見てくるというイーリアのお願いを考えると、確かに異様な状況のような気がする。


 すると、民家の中からおそらく先にこの街に辿り着いていたであろうプレイヤーたちが数人外に出てくる。全部で4人のようだ。


 そのプレイヤーの1人である、黒い革鎧を身に纏った黒髪の男性プレイヤーが僕らの存在に気付いたのか、手を上げながらこちらに近づいてくる。鉄の槍を背負っており、槍使いであろうことが分かる。


「やぁ、君たちも噂を聞いてこの村に来たのかい?」


 気さくな性格なのだろうか、気兼ねなく僕らに話しかけてくる。にこやかな笑顔だが、その目元には皺が少し見える。顔つきとしては僕らよりもそれなりに上の歳であろうと思われる。


  アニメーション補正で皺を消してないということはアイデンティティみたいに捉えてるのかもしれない。


「「噂?」」


 そのプレイヤーが口にした噂という部分に引っかかったのか、シルクとスミレが同時に口を開く。


 それを聞いて、男性プレイヤーは「あれ? やっぱり違ったのか」と喋る。後ろから着いてきていた他のプレイヤーたちからはため息が出ていた。


「だからぁ、ここは次の街までの中間地点だから、噂なんて知らないプレイヤーも多いって言ったじゃん」


「リーダー、さっきから会う人全員に聞いていってますよねー。まぁ人なんてほとんど居ないんですけど」


「……もう少し、考えて話すべきだな」


 1つ目と2つ目の台詞をそれぞれ別の女性プレイヤーが喋り、最後の台詞を彼とは違う男性プレイヤーが喋る。全員もれなく初期装備ではないようだ。まぁ、今更当然か。


 1人目の女性は初期装備の色違いのような革鎧を纏っており、その両手に手甲のようなものを装備している。武器は短剣だろうか? おそらくは20代くらいだろう。濃い紫色の髪を短く揃えており、いかにも快活な印象を与えていた。


 2人目の女性は胸当てを着けた簡単な革鎧を身に纏っており、矢筒と弓を背負っていることから弓使いなのだろうと察する。背が高めで大人っぽい印象を受ける。インナーカラーが緑な黒髪を肩まで届くストレートヘアーにしている、少しだけ間延びした口調の女性だった。


 そしてもう1人の男性はアイギスの纏っていた鎧を一回り大きくしたような黒い鎧を全身に纏っていて、身の丈程度の大きさの盾を背負っている。顔まで隠れているので、年齢も髪型も何も分からないのだが、かろうじて声で男性であることは分かった。また、口数が少ないことから寡黙な性格なのだろうと察することもできた。


「すまない。ついつい情報を集めたくなってしまってな。私はユートピアって言うんだ。よろしく」


 そう言って黒髪の男性プレイヤー、ユートピアは僕らにそれぞれ握手をしていく。そしてルヴィアに向かって手を差し伸べたときに、ルヴィアの手が真っ赤な鱗に包まれていることに気付いて、「えっ、もしかして君が噂の!?」と叫んでいた。


 いや、気づいてなかったのか。


 噂に噂を重ねたことが何やらおかしかったのか、ユートピアのパーティーメンバーたちはクスクスと笑い出していた。


「いやー、リーダーがごめんなぁ? 私はナインスっていうんだ。よろしくなっ!」


「ウフフ、私はメイヴィです! よろしくね」


「……俺はガンツだ。よろしく頼む」


 他のメンバーもまた自ら紹介していく。全員、ベータテスターではないファーストプレイヤーのようだ。


 どうやら彼らは以前から別のネットゲームで知り合いだったらしく、そのゲームのサービス終了の際にドラクルに移行しようとしたメンバーのうち、運良く一時出荷を買えたメンバーが一緒に組んでいるのだとか。


 因みにここには、とある噂を聞いたことで調査に向かったという事になるらしい。


「それで、その噂っていうのは何なのかしら?」


「あぁ、私が聞いたのは『邪竜』の噂だな」


 ウルカが問いかけたことでようやく噂の事を語るユートピア。


 どうやらこの村には昔から邪竜を封じ込んだという伝承が残っており、その封じられた祠がこの村の近くにある『邪鬼じゃき棲森すむもり』にあるのだという噂だ。


 伝承なのか噂なのかはっきりしてほしいところだが、その伝承を言い伝えて来たものが少なくなってきたことから噂へと変わっていったらしい。


 そこに村人が少なくなってきたという話も相まって、奇妙に思って調査していたようだ。


「因みに噂を知っていたのはこの村から出稼ぎにファスタに来ていた村人でね、彼から村の様子を見てきてほしいという依頼を受けて、都合がついたからようやくこの村に来たんだが……」


「それにしたって人少なすぎるだろ? だから手詰まりでなぁ。一応、ユートピアが調べた話じゃ盗賊が居たから少ないって話みたいだったらしいけどな。まぁ、そいつらと捕まったらしいが」


 ユートピアの説明の後にナインスが周囲の家々を見て呟く。どうやら人が消えているのは盗賊の仕業だと思っているようだ。


 その盗賊だが、おそらく僕が出会ったあの盗賊のことだと思う。他に盗賊がいたという話は聞いたことがない。まぁ、直近で他に捕まっていたら話は違うが、聞いた時間的に僕らが遭遇した盗賊で間違いなさそうだ。


 しかし、それにしては不可解な点がある。


「……いや、その盗賊は盗みしかしてないから、人が居なくなっているのは関係ない筈だよ」


「何故そう言えるんだ?」


 ガンツが聞き返してきたので、その盗賊を引き渡したのが自分であること、そして彼らが盗みをメインとして人攫いは行わない盗賊だったことを説明する。それはローダンから聞いた刑期や刑の種類からも明らかだった。


「そう考えると、人が少なくなってるのは盗賊が原因ではないのか? となると別に要因があるってことなのか? ……うーむ、よく分からないな」


 ユートピアは僕の情報に頭を悩ませるが、最終的にはよく分からないという形で終わったようだ。


 その後、彼らはこの村の近くにある『邪鬼の棲森』について調べに向かうようだった。


 僕らも森のことは確かに気にはなっていたものの、まだ村の様子を実際に見て回った訳ではないので僕らが向かうのも時期尚早だろう。


 それにウルカの先輩がもうすぐ村に到着するという連絡が来た為にあまり動くこともできず、今回は彼らのことを見送ることにした。


 一応、ユートピアたちとは見送る前にフレンド登録をしたので、何かあれば連絡してくれるだろう。


 まぁ、何もないことが一番なのだが……。

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