第60話 ウルカの実力

「ムッ! 右方に敵影! 数は3つ……ホーンラビットでござる!」


 森を抜けて村に続く喉かな道を歩いていくと、最前列で周囲を警戒していたスミレが、右側から接近している敵の存在を警告する。


 流石は斥候、ジョブアビリティの【観察眼】で周囲の様子はバッチリ認識しているようだ。


 その掛け声を聞いて、僕らは武器を構える。僕の場合は本当に形だけなのだが。


 しかし、ウルカは僕らに対して武器を下げるように支持をする。何をするつもりだろう?


「ここは私の実力をリュートとルヴィアに見てもらうから、1人で行かせて頂戴!」


「うん! いいよー!」


「お任せするでござる!」


 僕はウルカのジョブが分からなかったので、少しだけ不安になったものの、シルクとスミレが全く心配する気配もなく同意したので、取り敢えず問題ないと答える。


 まぁレベルも高いし問題ない……のかな? うん、やっぱり心配だ。いざという時は支援スキルを使えるよう構えておこう。


「ありがとう! ……じゃあ行くわよ。『召喚』――センディア!」


 ウルカは最初からドラゴンを召喚して戦う戦闘スタイルのようで、腰に付けた片手剣を引き抜くのと同時に自身の契約ドラゴンであるセンディアを召喚する。おぉ、いきなりドラゴンを召喚するのか。


 その姿はまさに西洋のドラゴンというような姿をしており、全身が白銀に染まっていながら各所に青のラインが流れている。大きさはウルカを乗せて飛べるくらいには巨大であった。


「ほう。シルバーレイズドラゴンであるか」


「……知ってるのか、ルヴィア?」


「うむ。確か、SSランクの中ではかなり上位の力を持つドラゴンであったはずだ」


 SSSSランクのドラゴンからのお墨付きを貰えたシルバーレイズドラゴンか。これは頼もしい限りだな。


「行くわよ、『ゲットオン』!」


「グオオオオン!!」


 ウルカがとあるアーツの名前を叫んだと思うと、そのまま吠え叫んだセンディアの上にウルカが跨る。その瞬間、ウルカ全身に仄かに白い光が宿った。


「センディア、直進!」


「グオオオオ!!」


 そのままホーンラビットに向かって凄まじい勢いで突き進んでいく。ホーンラビットはノーマルラビットと違って、その額に鋭い角が存在している。そして角なしと比べると更にAGIが高くなっている。


 しかし、ウルカを乗せたセンディアはホーンラビットが動こうとする間も与えずに、彼らの目の前へと到達する。あまりの速さにホーンラビットは呆気にとられていた。


 そしてセンディアが勢いよく尻尾を振るうと、ホーンラビットを空中へと跳ね飛ばしていく。


「くらいなさい! 『トライスラッシュ』!!」


 ウルカはセンディアから飛び上がると、片手剣を掲げてそのまま敵を斬りつけていく。それぞれ1体を1回ずつ斬りつけた後、地面に着地する。


 そしてホーンラビットは空中で塵となって消滅していき、戦闘が終了した。


 しかし、ホーンラビットはグレーウルフと比べると全然脅威度は低いのだが、それでもたった1人で3匹をほぼ同時に倒してしまうのは流石であると言わざるを得ない。


 ルヴィアもその連携とウルカの実力に感嘆しきっているようだ。


「ま、このくらいの相手ならやっぱり余裕ね。……さて、どうだったかしら? SSSSランクのドラゴンから見て、私達の連携っぷりは?」


「うむ、流石であるとしか言えぬな。ドラゴンの力を完全に我が物としている」


 ルヴィアは良いものを見たと言わんばかりににこやかな笑みでウルカたちの連携を褒めている。


「やー! やっぱ、ウルカっちとセンちゃんの連携すごー!」


「確かに、惚れ惚れする戦いぶりでござった!」


 すっかり褒めしきりのルヴィアに、同じく褒めて上げまくるシルクとスミレ。


 対して僕の方は、そんなウルカに対してちょっとだけ不満を抱いていた。


「『ゲットオン』を使えるってことは、ウルカのジョブは竜騎士だったんだな。黙ってるから言いにくいジョブかと思って心配してたのに……心配して損したよ」


「アハハ。ごめんってば。言わなくても分かるかなって思ったんだけど」


「僕はベータテスターじゃないし、初めて竜騎士らしい戦闘を見たからね」


 何も知らないのに分かってたまるかという話である。


 ……さて、彼女が就いているジョブは『竜騎士』というジョブとなる。


 ドラゴンをメインとしているゲームの中では珍しく『竜』の名を冠するジョブとなっている。他には最初に出会ったダブリスが就いていた『竜神官』があるのだが、現状ではNPC専用のジョブみたいな扱いだ。


 確か、竜騎士に関してはベータテストの際に1人だけ就くことができた幻のジョブだと言われていた筈だ。まぁ、その1人というのが例のSSランクドラゴンを召喚したプレイヤーという事なのだが。


 ウルカに詳細を問い詰めれば、案の定これもエクストラジョブであったことが判明した。


 どうやらSSランク以上のドラゴンと契約している状態で、自身のステータス値がそれぞれの項目ごとに特定の値を上回っている場合にのみ就くことができるという、かなり厳しい条件のジョブとなっているようだ。


 そんな条件である為に性能の方はかなり高いようで、特に『ゲットオン』のジョブアーツを使用してドラゴンへの騎乗状態になると、自身の全ステータスが更に大幅上昇かつドラゴンの攻撃が強化されるという、クラス1のジョブとは思えない破格の性能を有している。


 その代わり、戦闘でドラゴンを呼び出さなかった場合に自身のステータスが減少するという仕様が存在し、またドラゴンを呼び出してもそのドラゴンは戦闘で経験値を得られなくなる上、今後違う系統のジョブに変更するまでは他のドラゴンとの契約を結ぶことができなくなるようだ。


 ドラゴンを呼び出さなければ戦力があまり出ないという仕様のため、基本的には毎回ドラゴンを召喚する必要があり、ある意味では魔法職以上にMPの管理が重要になってくる。


 一応、ジョブアビリティにて召喚コストの軽減がされているらしいが、それでもある程度のMPは必要となるだろう。


 また、ドラゴンに経験値が入らないというのは、ドラゴンを呼び出しても全ての経験値がプレイヤーに行くということなので、自身のレベリングという点ではある意味メリットでもある。


 ただし、今はそれで問題ないかもしれないが、敵の強さが上がれば今度はドラゴンの育成も重要になってくるため、戦闘で経験値が得られないのはいずれネックになってくるかもしれない。


 特にSSランクドラゴンとなると、ルヴィア程ではないがレベルアップにはそれなりに経験値は必要となる為、経験値アイテムを使うとしてもかなりの量が必要となるだろう。


 そして、ウルカはジョブを変えない限りセンディア以外のドラゴンを見つけても契約を結ぶことはできないし、召喚石も使用できないため、ずっとセンディア一本で行くしかない。


 センディアが無属性のシルバーレイズドラゴンだったから良かったものの、これが特定の属性持ちなら、弱点をつかれてあっという間に敗北するなんてこともあり得た話だ。


「でも後悔はしてないわ。この子も強いからね。ただ、もっと強くするために安くドラゴンの経験値アイテムを入手する方法を見つけないといけないのが目下の課題ってところね」


 そうウルカが呟くと、センディアは「キューン」と悲しそうな声を上げながら送還されていった。あぁ、時間切れか。


 一応、ジョブの特性で戦闘終了後も送還しない限りは戻らないらしい。


 現状はジョブ補正とSSランクドラゴンの元の強さから問題なく戦えているが、さっきも触れた通り今後は厳しい場面も増えてくることだろう。


 そうなると早急なレベリングが要されるところであるが、ドラゴンの経験値アイテムはある程度の強さを持つモンスターのレアドロップ扱いとなっていて入手数は少ない。ウルカたちでも数個しか手に入れられてないようだ。


 また、NPCのショップでも販売していることもあるが、そこで購入するとなるとかなり割高となってしまう。経験値が100程度手に入る『経験の竜玉・極小』というアイテムですら、店によってばらつきはあるものの基本的に2000ドラドもする。


 それをホイホイと買い込んで与えていては、流石のウルカでもすぐに破産してしまうだろう。


「……まぁ、その点はどうにかなるとは思うよ」


 そう言うと、僕はウルカに自分の図鑑メニューにあるレシピの項目を表示して見せる。


 そこには各種生産技能で作れるレシピが記載され、一度作ったものやアビリティレベルの上昇などで作れるようになったものが記載されるようになる。


 そのレシピだが、たまにそのレベルでは生産できないランクのものを生産してしまった際に、その関連として幾つか新しいレシピが公開されることがある。


 僕は例の『灰狼の魔導杖・序』を完成させたとき、同時に幾つかのレシピを習得した。それは、僕の習得済み生産技能で魔核を利用する生産アイテムのレシピの一部であった。


「……えっ、これって経験の竜玉……? もしかして、作れるの!?」


「そう、色々あってね」


 経験の竜玉は【調合】の方で作れるようになった。他の技能でも作れるのだろうが、今のところ僕の覚えているものの中ではこれだけだ。


 因みに他に作れるようになったという情報は聞いてないので、おそらくトリガーのようなものがあるのだろうと思う。僕の場合は、それが例の魔導杖だったということなのだろう。


 その製作に必要な素材は、魔力草と獣骨、モンスターの魔核に結晶石となる。この中で現在持ち合わせていないのは結晶石だけだな。


 結晶石はモンスター素材とその他の素材との触媒になるらしい。


 モンスターの魔核は、グレーウルフ以外にもゴブリンやホーンラビットなどを倒しても手に入るが入手難度は割と高めだ。また、同じ種類のモンスターからでも得られる魔核の質や大きさはその強さやレベルによって異なるようだ。


 その為、魔核の種類やその質などで経験の竜玉の大きさ――つまり、使用時に得られる経験値量が決まるようだ。


 このレシピは魔核を使うものではあるが、例の『灰狼の魔導杖・序』と違ってそのランクは☆2と低めであり、今の僕ならちゃんと手順を踏まえた上で、石や骨を砕くのをルヴィアにお願いさえすれば、それなりのものは作れるとは思う。


 ただ、初級調合キットでは使える素材が3つまでとなっているので、後で汎用調合キットを購入する必要があるだろう。


「僕は結晶石は持ち合わせてないから、それを渡してくれれば残りの材料はこっちで用意して作成するよ。僕もルヴィアのレベルは上げたいしね。ただ、魔核は少ないから出してもらえると助かるかな?」


「成る程ね。結晶石なら、北門の先の方でシルクがかなりの量を採掘できているから、十分にあるわ。……魔核はどれでもいいのかしら?」


「多分。指定はないからどれでも問題はなさそうだけど、強いモンスターのものであればそれだけ得られる経験値が高くなるらしいよ。まぁ、その分生産難易度は上がるみたいだから、使えてもホーンラビットとかその辺りかな」


 基本的に扱う素材のランクが高くなればそれだけ難易度は上がる。


 暁の花の時に、僕が暗視ポーションの必要レベルの高さから素材のランクが高いのだと推測していたが、本来はその逆が正しい。暗視ポーションは暁の花などの素材のランクが高いから、製作に必要なアビリティレベルが高いのである。


「ふーん……。じゃあ、取り敢えず私達のパーティーの分まで含めて、作成をお願いするわ。今、素材を渡しても大丈夫かしら?」


「問題ないよ。ただ、キットを新調しなきゃいけないから少し時間は必要だけど」


「構わないわ」


 その後、ウルカから一通りの素材を受け取る。結晶石とモンスターの魔核を多めに貰った形だ。


 一応、ウルカとしては出来上がったものの一部を貰うという形にするらしい。全てではないのは一応ルヴィアのレベル上げの事も考慮しての事らしい。助かる。


「取り敢えず、出来上がったら教えてちょうだい。……それと出来たらポーション系もあるのなら幾つか売ってくれると助かるわ。ちょうど切らせてしまったのよね」


「それは構わないけど、僕は商人ギルドに入ってないけど金銭のやり取りってありなの?」


「あら、個人間で取引する分には問題ないわよ。トレード機能を使うだけだしね。これが、街中で露店や商店を構えて商売をするのであれば、商人ギルドに登録する必要があるって聞いたわ」


「成る程、場所による感じなのか。それじゃあ幾つか渡しておくよ」


 そして僕は初級ポーションを各種渡したのだが、そのポーションの効果を見てウルカが二度見する。


 その後、「嘘でしょ……なんでこんな……」と何やらブツブツ呟いていたのだが、何かあったのだろうか? まぁ、あまり独り言に首を突っ込むわけにもいかないだろうし、今回はスルーすることにした。

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