第2話 ドラクル
どうやらこのゲームは従竜育成RPGというジャンルを自称しているようで、ドラゴンをパートナーとしてそのドラゴンに命令を与えて敵を倒すほかに、自分自身もRPGのキャラクターのように様々な武器や能力を使って戦うことができるらしい。
ドラゴンを育成して強くしたり、フィールド上や特定のゲームイベントで出逢うドラゴンと契約して仲間にしたりするなど、育成や収集の要素もありつつ、世界を冒険するというRPG要素も強いようだ。
また、一部の強力なドラゴンやモンスターは広大なフィールドエリアを逃げ回ったりするため、それらを追いかけながら攻撃し、討伐したり捕獲したりするハンティングアクションとしての要素もあるらしい。
あまりゲームに詳しくない僕でも何やら聞いたことのある要素ばかりなので、言い方は悪いがまさに有名なゲームの要素を寄せ集めにしたような作品なのだろう。
「それをフルダイブVRで実現したわけなんだけど、なんと五感を再現しているのだよ!」
「えっ、五感を? それは凄いな……」
フルダイブVRは触覚を再現できたというとこでもかなり話題になったのだが、五感のうちの嗅覚や味覚は人によって感じ方が異なる上にその調整がかなり難しいということから、中々導入するメーカーは現れなかった。
前にどこかのメーカーが味覚を再現したプログラムを発売したというニュースを見たが、その時は現実と全然味が違うという不評が殺到して、すぐに販売停止となった。
そして、このゲームではさっきも触れたベータテストの段階で導入されており、潤花が体験した限りでは現実のそれと遜色ないレベルの再現度だったらしい。
話を聞く限りだと、このゲームの前評判の大半はこの五感の完全再現によるものが大きいようで、案の定ベータテスト前後では評価が大きく変わったらしい。
「まぁ、私は最初から凄そうだと思っていたけどね!」
何故かドヤる潤花。そういうのは別に聞いていないのだが。
「後はこの手のフルダイブVRでは初めての『時間加速システム』を導入してるんですって」
「時間加速? 確か、それって前に別のゲームで導入しようとして見送りになったってニュースで見た気がするけど……」
時間加速はその通り、ゲーム内での経過時間を加速させて現実世界よりも早く時間を進めるようにすることで、より短いログイン時間で長時間VR世界にログインすることができるという技術となる。意識データを読み取ってプレイするフルダイブVRだからこそ可能なシステムとなる。
理論的にはフルダイブVRが実用化された時点で既に可能だったので、以前導入しようとしたメーカーが居たのだが、その時は精神が加速した時間の中でどのような影響を受けるのかはっきりと分かってなかったので、国や研究機関から待ったをかけられていたらしい。
「今回はベータテストでも安全性が確認できたからオッケーなんですって。たしか、現実世界の15分でゲーム内では1時間経過してたから……だいたい1回のログインでゲーム内で24時間遊べる計算になるわね」
潤花の説明によれば、 ベータテストでも既に時間加速が導入されており、それ故にたった一週間しかなかったベータテストでもかなり遊ぶことができたらしい。
フルダイブVRマシンは健康面への影響を考慮して、どのメーカーのマシンでも最大8時間までしか一度にログインすることができない。このゲームでは更に時間加速の影響も考慮して、一度の最大ログイン時間は6時間程度になっているようだが、それでちょうど丸一日分は遊べるよう調整しているようだ。
その分、ゲーム内の時間経過は現実よりも早くなっているので、ログインできるタイミングが限られている時に制限時間等があるものは行う場合は気をつける必要があるだろう。
しかし、色々話を聞いていて僕も多少は興味を持ってきたので、潤花から携帯端末を借りてそのページに記載されている情報を見ていく。
Dragonic《ドラゴニック》
パッケージと言っているが実際はシリアルコードとなっており、物理ディスクなどがあるわけではない。このゲームは人気故に混雑を避けるため、一定期間は人数を制限してサービスすることになっているようで、そのために限られた数のパッケージのみを生産しているという話だった。
そのパッケージだが、一次出荷分は抽選販売になっており、インストールや初期設定の都合から既に発売済みとなっている。
また、二次出荷分は抽選無しでゴールデンウィーク前の4月下旬に発売される予定となっているが、直販サイトでは当然のごとく予約完売となっていた。
「ねぇ、これ普通に完売ってなってるけど……」
「フッフッフ……その点は抜かりないわ!」
そう言うとどこに隠し持っていたのか、二本のパッケージを見せつけてくる。
どうやらベータテストの参加者は抽選に申し込む必要もなく一次出荷分パッケージの優先購入権が与えられているらしく、潤花も当然ながらそれで予約していたようだ。
しかし、いざ発売日となると何故か別の小包でもう一本、パッケージが送られてきたということらしい。
慌てて問い合わせたところ、どうやらベータテストに欠かさず参加して、なおかつ最後にしっかりアンケートに答えたプレイヤーの中から抽選で数人に、協力の御礼として一次出荷分のパッケージが送られるという企画が実施されていたようで、潤花は見事それに当選した形となる。
ベータテスターは優先で購入できるのだから、購入前に当落を知らせれば良かったのにと思うが、向こうは知り合いや家族と一緒にプレイしてもらうという名目で送ったつもりなのだそうだ。
結果として、潤花は一本分のパッケージが宙に浮いた状態となったらしい。だから珍しく僕をゲームに誘ったという訳だ。
さっきも触れたが、授業に使うという名目で僕も個人用のフルダイブVRマシンは持っている。僕の場合は本当に授業や通信講座でしか使わなかったし、受験のあれこれもあったせいで最後に使ったのはそれこそ半年くらい前になる。
「琉斗、受験でずっと勉強頑張ってたし、ちゃんと息抜きしなきゃいけないからって思って、ね?」
「そうか……ありがとう、姉さん」
「ま、まぁ! 私のパッケージ代の半分は払ってもらうけどね!」
その点は問題ないだろう。元からタダで貰うつもりは無かったわけだし。
取り敢えず、僕は潤花からパッケージを貰うと、早速シリアルコードを登録してダウンロードを開始した。この手のゲームはフルダイブVRマシンのメーカーを問わない共通プラットフォームだからどの端末でもできるというのがウリだ。
結構容量が大きいのでダウンロードし終わるまでまだ半日はかかるだろう。それからインストールして設定しないといけないが、サービス開始までまだ数日あるし、その間で十分間に合うだろう。
それから色々事前情報がネットに公開されていることを知った僕は、寮に戻った潤花とオンライン通話を使って、ゲームが始まる日までその情報を集めて回ることにし、サービス開始日までどんな感じでゲームをプレイするのかの方針を話し合ったりしたのだった。
そういえば、潤花とこんな風に共通の話題で話し合ったのっていつぶりだったっけ……。
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