第3話 サービス開始日

 4月1日――それは『Dragonicドラゴニック Crusadeクルセイド Onlineオンライン』、通称『ドラクル』のサービス開始日である。


 事前に集めていた情報を元に設定を済ませていた僕は自分の部屋でゲーム開始の時間を待っていた。


 因みに潤花の方はというと、ベータテスト参加者の特典としてアーリースタート――ようするに普通のプレイヤーよりも1時間先にログインしてゲームを開始することができる権利が与えられていた為、一足先にゲーム世界に入り込んでいる筈だ。


 最初は一緒にプレイしようと言って誘ってくれたが、アーリースタートの事もあって、結局はベータテストで一緒にプレイしていた人としばらく共に行動する予定のようだ。いつごろ合流するかは向こう次第だろう。


 因みに予めボディーデータや意識データのスキャンを済ませておくと、ゲーム内アバターの制作やステータス値の割り振りが簡単になるため、既に設定を行った際に取り込み済みだった。


 今回、ゲームを始めるにあたって定額課金――エクステンドサービスと呼ばれるものに加入するかどうかを潤花と相談したが、潤花の判断では『絶対加入したほうがいい。むしろしないとヤバい』という感じのものだったようだ。


 このドラクルだが、潤花から説明を受けてた際にも聞いたが、一回のログインにつき6時間までしかプレイすることができない。それは、安全性の観点からどのプレイヤーも一律でそうと決められている。


 対して一日あたりの合計ログイン時間はエクステンドサービスに加入していない、いわゆるフリープレイヤーの場合だと、最大6時間までとなっている。つまり、一回フルでログインするとその日はもうプレイすることができない事になる。因みに日付を跨いだ場合は、前日の分として扱われるので次の日もプレイ可能だ。


 エクステンドサービスに加入すればその合計ログイン時間の上限は撤廃されるようで、他にもアイテムボックスのアイテム所持枠が少しだけ拡張したり、各種経験値が通常より10%アップ、アイテム買取金額が10%アップなどといったボーナスを受けることができるようだ。


 料金も1980円と高めである――といってもこの手のオンラインゲームでは基本プレイ料としてこのくらいの金額は普通に導入されているらしく、むしろ安い方らしいので、開始前の時点で既に加入すると宣言している人は多いようだ。まぁ時間を気にせずプレイしたい人ならまず加入するだろう。


 ただ、現時点でログイン時間制限に関しては、このサービスに加入していなくても無制限になっているらしい。一応、二次出荷分のプレイヤーが参入するまでの期間限定のお試し企画となっているようだ。


 僕の場合も大学が始まれば、休みとかでなければそれこそ6時間くらいしかログインすることができないかもしれないが、この手のゲームはサーバー維持費が凄くかかるらしいので、この定額課金はその維持費として使われるのだろう。


 そうなると、取り敢えずはゲームとして気に入れば応援するという形で加入すればいいのではないかと思う。


 潤花は当然ながら既に加入申請をしているので、その他のサービスの恩恵も受けていることだろう。その恩恵がどれ程のものかを後で聞いてみて、それも加入するかどうかの検討材料にさせてもらうことにしよう。


「さてと……そろそろ時間になるか」


 今回、一次出荷分のパッケージは全部で1万本が出荷された事になっており、単純ではあるがその本数と同じ人数がプレイヤーとしてログインすることになる。


 そこに僕みたいなキャンペーンでパッケージを手に入れたことで参入するプレイヤーが数人程度居るのだろうが、まぁそれなら誤差の範囲内だろう。


 勿論、その全員が今日1日でログインするわけではないだろうが、それでもかなりの人数がプレイすることになる。


 普通、この手のMMOゲームはサーバー毎にプレイヤーを分けて、人数を制限して行うものだろうが、このゲームにおいては複数のサーバーを効率よく連結させて情報を処理させているとか何とかで、現時点でも最大10万人は同時にログインすることができるらしい。


 詳しい原理は素人である僕にはよく分からないものの、とにかく1万人程度では処理が重くなることはないらしい。それでも1万人が全員同じ拠点に一斉に集まったら、それはそれで密度などが大変なので、混雑した場合はプレイヤーの透過処理や、一時的な別サーバー隔離処理が行われるようらしいが。


 まぁ、目に見えて分かるようなものではないので、行われていても僕は気付かないだろうとは思う。


「よし、グローブとチョーカーはセット完了……っと。あとはこのゴーグルを装着すれば……準備完了っと」


 僕は操作用のグローブと、精神データの読み込みとバイタルチェック用のチョーカーを装着し、最後に睡眠状態への導入と意識データの脳波シンクロを行うためのヘッドマウントディスプレイ搭載のゴーグルを装着する。


 これらは全て部屋の隅に置いている小型の端末に繋がっており、その小型の端末が僕が持つフルダイブVRマシンの本体だ。


 チョーカーやグローブに関しては今回のゲームに必要だったので急遽購入したのだが、このゲームが発売するからなのか、結構多くの会社から出ていて何を選べばいいのかよく分からなかったので、潤花のオススメのものを注文した。なんにせよサービス開始日に発送が間に合って本当に良かった。


 その後、チョーカーに付けられた端末を起動するスイッチを押すと、ゴーグル内に映像が映り込む。この映像が睡眠状態へと誘い、そのままゲーム世界へと意識データを転送させるのだ。


 そして僕はベッドに横になり、モニターに表示されているゲームアイコンをグローブで選択し、ゲームを起動する。


「……ログインっと」


 すると体がふわりと浮かぶような感覚が来たと思うと、僕の意識は深い水の中へと沈んでいく。……あんまり慣れないなこの感覚。

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