第4話 世界の案内人
僕の意識はそう長く沈むことはなく、見知らぬ近未来的な光景が広がる広間のような場所に漂っていた。
まだ肉体が存在しないのか、ふわふわと浮かんでいるような感覚がある。
『ようこそ、
ふと前の方から女性のような声が響いたかと思うと、そこには絢爛豪華な衣装の神々しい女性が立っていた。
『私は案内人の一人、女神アリエスです』
人間離れしたレベルの綺麗な面立ちの女神がにこやかに笑うと、彼女の横に豪華な飾りの鏡が現れ、そこに現実世界の僕によく似た姿の人物が写る。
どうやら予めスキャンしていた僕のスキャンデータを元に設定していたアバターの姿だ。
体格自体は大きく変えることは出来ないが、顔はアニメチックに矯正されており、その容姿を見て現実の僕を連想することはできても結びつけることはできないだろう。
一応、容姿に関しては顔は更に目・鼻・耳・口の形や大きさを弄ることができ、シワやほくろ、傷にメイクなどを追加することができる。髪に関しては髪色と髪型、体に関しては肌の色を弄ることができる。それ以外は基本的に変更不可だ。
それらは弄りだすとキリがないし、明確な目標がないとどうしていいのか分からなくなる。
だから僕の場合は髪の色を黒に近い青にしてから、プリセットで用意されていた髪型にあった後ろ結びのロングヘアーが普通にかっこよかったのでそれを選んだ。前髪は目にかからない程度の長さにしている。これもプリセットとなる。
元が近所の床屋で整えてもらった地味めなスポーツ刈りなので、これだけでも全く違う人物に見えるものなのだ。
潤花の場合、この手のキャラメイクはかなり悩んでいたらしい。事前設定のキャラメイクで何時間も唸っていると話していたな。
『事前設定でプレイヤー名:リュートのキャラクター容姿の設定が確認できました。この名称並びに容姿でゲームを開始しますか?』
女神がそう問いかけてきたので、僕は肯定の意を声に出すのではなく思考する。そもそも声を出そうにも精神データだけなので出しようがない。
なおプレイヤー名は本名をもじってそのまま付けた。このゲームは基本的に同じ名前は使えないが、事前設定の段階では被っていなかったのでそのまま登録できた。
『それでは同化を開始します』
女神がそう告げた瞬間、鏡の中からそのアバターが現れ、その中に僕の意識が入り込む。
次の瞬間には僕はしっかりと四肢の感触を体感していた。体が動かせるので自分のアバターとなるボディを見回す。細かい装飾まで良くできている。
「おぉ……かなり機敏に動けるのか」
しっかりと感覚があるので手足を動かしたり、手を握ったり開いたりして、思考と動作に遅延がないことを確認する。
マシンから大本のサーバーまでの間にラグがあると、この簡単な動作ですら遅延が生じることがあるらしく、僕が使ってた通信講座の物は向こう側のマシンがアレだったのか、それはもうもの凄くもっさりとした動作だったのだが、これは全くラグを感じさせない……というよりも現実よりもかなり機敏に動けるのではないかというレベルで動くことができた。これには少し感動だ。
尤も、この世界でドラゴンやモンスターと対面して戦うのだから、現実以上に身体を動かせなくてはどうしようもないというのもある。
僕としてはあまりそういう風に自分が戦っているイメージがいまいち浮かばないんだけどね……。
『次にあなたのステータス値を選定します。事前設定において精神データを観測しました。このデータを元に最適なステータス値を算出します』
女神がそう告げると、目の前に半透明な板のようなものが出現し、そこに何やら文字が刻まれていく。まだ数値は表示されていない。
潤花が面白いと言っていたのが、この精神データを利用した最適なステータス値の算出らしい。
基本的にこの手のゲームではステータス値は均等になるものなのだが、このゲームでは精神データを分析することでその人の深層心理で最適となるステータス値の傾向をAIが分析してくれるらしい。
そこには体格も影響しているらしく、現実世界で筋骨隆々の大男は自分は力持ちだと認識していることから筋力のステータス値が高くなる傾向にあるらしい。まぁ、僕の場合は平均的な体格だから特に影響はないと思う。
この仕様は初心者などステータス値の割り振りに不慣れなプレイヤーに対して、面倒な項目を代わりに決めておこうという考えがあったらしい。当然、この手のゲームに慣れているプレイヤーからは勝手に決めるなという批難があったらしいが。
そういった声に対して、本サービスからは個人の精神データを元にしたステータス値以外に、運営側が既定値として設定したステータス値が幾つか用意されており、それぞれ特定のジョブにつく際に必要となるステータス値を元に割り振られているらしい。
それらは『剣士』や『魔術士』など基本的なジョブで活動する際に必要最低限な数値を割り振られている為、既にやりたいジョブが決まっているようなプレイヤーにはうってつけだろう。
とはいえ結果として基本的な数値はプレイヤーで設定できないというのは変わらないので、相変わらずその点に関しては批難されており、それが要因で本サービスはプレイしないベータテスターも何人か居たらしい。まぁ、これを売りにしようとしている節も見受けられるので、頑ななのも仕方ないか。
僕としては、いわゆる初心者であることには違いないので自分で選ばなくていいのはありがたいと思う。まぁ自由に選びたいという声も分からなくはないけども。
そして、プリセットではなく精神データを元にしたものを選択することにした。だって、精神データを参照したほうが色々と面白そうだから。
そんなステータス値には『
多少説明が長くなってしまうだろうが、まぁ聞いておこう。まぁ、この手のゲームをよくやっているプレイヤーならば聴き飛ばしてしまっても、特に問題はないだろう。気になったらそのときに調べればいいし。
その説明はだいたい以下のような感じだった。
まず、最初の3種類だがこれらはゲージ式のステータス値となる。
『HP』は体力を示しており、このゲージが無くなると『瀕死状態』になり、一定時間の間に蘇生されないと死亡扱いとなり、最後に到達したリスポーン地点へと死に戻る。
当然ながら、HPは回復効果のスキルやアーツ、回復アイテムを使ったり、特定の施設やスポットを利用しない限りは回復しないので注意が必要となる。
『MP』は魔力を示しており、主にスキルを使用する際に必要となる。ドラゴンの召喚にも必要なので、割と重要なステータスとなる。一応、一定速度で割合回復する。たしか、秒あたり0.2%だった筈だ。
スキルに関しては、魔術スキルを始めとして多種多様存在するため、あれもこれもと使うとなると結構足りないなんてことはあるので、多いことに越したことはない。
因みにこちらは0になってしまうと『魔力欠乏状態』という特殊な状態異常になってしまい、倒れ込んでしばらく何も行動できなくなってしまうらしいので、戦闘中は切らさないように気をつけたいところだ。
『SP』は気力を示しており、主に走ったりする際やアーツを使用する際に必要となる。こちらはMPと比べて回復する速度は秒あたり1%と早めなので、アーツを瞬間的に連続で使うようなプレイスタイルのプレイヤーでない限り、そこまで上げる必要はないだろうと思う。
走る際にも必要とはいうが、その際に消費したSPは走るのをやめたタイミングで回復し始め、しかもその回復速度も通常回復よりもかなり早いスピードなので、最低限あれば問題ないとは思う。
こちらは0になってしまうと『息切れ状態』という特殊な状態異常になり、SPが完全に回復するまで移動が制限されてしまうようだ。その間、SPに関係ないスキルやアイテムの使用は可能らしい。
残りは能力系のステータス値だ。戦闘中やその他の効果の際には基本的にこれらの数値を参照することになるようだ。
『STR』は筋力を示しており、主に装備や所持できるアイテムの制限として扱われている。要するに装備やアイテムに設定されている装備制限や所持制限の値が、この数値よりも大きいと装備することも所持することもできない。
戦闘には直接関与しないが、装備制限に関わるのでこの数値のせいで性能の低い装備しか使えないなんてこともあるだろうから、気をつけたいところだ。
『ATK』は攻撃を示しており、文字通り攻撃を与える際のダメージ量に関与するステータスだ。ただしあくまで物理攻撃に対してであり、魔術などのスキルを用いた攻撃にはあまり関与しない。
『VIT』は耐久を示しており、物理攻撃に対して防御する際のダメージ量に関わってくるステータスだ。
『INT』は知力を示しており、魔術などのスキルを用いた攻撃で与えるダメージ量に関わってくるステータスだ。
『MIN』は精神を示しており、魔術などのスキルを用いた攻撃を受ける際のダメージ量に関わってくるステータスだ。
基本的に『ATK』と『VIT』、『INT』と『MIN』が互いに攻防で対になっていると思うと分かりやすいのではないかと思う。
『RES』は抵抗を示しており、状態異常などに対してどれだけかかりにくいか、またかかったとしても解除しやすいかを表している。
とはいえ、状態異常にしてくる敵がどれだけいるのか分からないのでそこまで気にする必要は今のところは無いかもしれない。
『AGI』は俊敏を示しており、どれだけ速く動くことができるのかを表している。これが高いと単純に移動速度も上がるため、広い範囲を行動する場合は時間短縮のためにある程度のAGIはあった方が良さそうだ。
『DEX』は技量を示しており、主に命中精度を上げて当てやすくなったり、生産活動の際により品質のいいアイテムを作ることができたりする。ようするにこのステータスが高いとより器用になるということだ。
最後に『LUK』は運を示している。この数値は高ければ高いほど運がいいといわれ、確率で発生するクリティカルヒットが出やすかったり、レアドロップが出やすかったりするらしいが、このステータス値は多少差があってもそこまで目に見えた影響がでない事から、そこまで重要視されることはないようだ。因みにベータのときはこの項目はなかったらしい。
以上がそれぞれのステータス値の役割である。
因みにここで算出される初期ステータスは合計して1000になるように調整されているらしい。ベータテストでは合計値が1100だったので100少なくなっている。
『――算出完了しました。ご確認ください』
そして僕のステータス値が表示される。通常は表示されないが、そのステータスが何を意味しているか分かりやすいよう意味が追加されていた。
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